

タバコを吸っている建築業の方は、非喫煙・非ばく露の人より肺がん発症リスクが約50倍になります。
石綿肺(せきめんはい)とは、アスベスト(石綿)の粉じんを長期間にわたって吸い込むことで、肺の組織が少しずつ線維化(硬くなること)していく病気です。医学的にはじん肺の一種に分類されており、アスベストが原因の肺線維症を特に「石綿肺」と呼んで区別しています。
肺が線維化するとどうなるか、イメージしてみてください。ふわふわした風船がだんだん硬い板のようになっていく状態です。息を吸っても肺が十分に膨らまなくなり、酸素を取り込む力が落ちてしまいます。
症状は段階的に現れます。初期の段階では、坂道や階段を上ったときの軽い息切れや、慢性的な咳・痰といった変化が中心です。この時点では「歳のせいかな」「風邪が長引いているだけかな」と見過ごしてしまう方が非常に多いです。
症状が進行すると、安静時でも息切れを感じるようになります。さらに胸の痛み、指先がバチのような形に変形する「ばち指」という特徴的な身体変化が現れることもあります。ばち指は爪の根元がぷっくりと丸く膨らんだような見た目になるもので、慢性的な酸素不足のサインです。
末期になると重度の呼吸困難が続き、肺性心(肺の異常が原因で起こる心不全)を合併するケースも報告されています。根本的な治療法はなく、症状の緩和が治療の中心です。これが原則です。
MSDマニュアル家庭版:石綿肺の症状・診断・治療について(医学的な根拠を確認したい方向け)
建築業に従事する方にとって、石綿肺でもっとも怖いのは潜伏期間の長さです。厚生労働省のQ&Aでは、石綿肺はアスベストの粉じんを職業上10年以上吸入した労働者に発症しやすく、潜伏期間は15〜20年とされています。
15〜20年という年数を具体的に考えてみましょう。20代で建設業を始めた方が現場でアスベストに触れ続けた場合、症状が出るのは最短でも35歳、平均的には40代に入ってからということになります。そのころには「アスベストとは無縁の現場に移っていた」という方も多く、過去の仕事との関連が見えにくくなります。
建築業の中でもとくに注意が必要なのが解体工事です。1975年以前に建てられた建物や、2006年の使用禁止以前に竣工した建物にはアスベスト含有建材が多く残っており、解体の際に粉じんが飛散しやすくなります。板金工・電気工事士・大工・左官業など幅広い職種で高いリスクがあることが知られています。
さらに見逃せない点があります。それは、石綿肺の症状はアスベストへのばく露をやめた後も徐々に進行するという事実です。現場を離れたからといって安心はできません。これは非常に厳しいところですね。すでに肺に沈着した繊維が炎症を起こし続けるため、ばく露が終わっても病気は進み続けます。
厚生労働省:アスベスト(石綿)に関するQ&A(潜伏期間や発症リスクの公式情報)
建築業で働く方の多くは、初期症状を「加齢のせい」や「現場の疲れ」と判断してしまいがちです。実際、石綿肺の初期症状は以下のようなもので、日常的によく見かける体の変化と区別がつきにくいです。
ここで知っておいてほしいのが、喫煙との複合リスクです。アスベストにばく露しただけでは肺がんのリスクは非ばく露・非喫煙者の5倍ですが、喫煙者のみでは10倍、そしてアスベストばく露と喫煙を両方もつ場合、肺がんの発症リスクは約50倍にまで跳ね上がるというデータがあります(茨城県・環境省・複数の疫学調査に基づく)。
これは使えそうな情報です。タバコを吸っている建築業従事者の方は、石綿肺だけでなく肺がんの予防という観点からも、禁煙がきわめて重要な意味を持ちます。
なお、石綿肺の症状が「息切れ」と似ているためか、喫煙者は「COPD(慢性閉塞性肺疾患)」と誤診されるケースもあります。過去にアスベストを扱う現場で働いていた経歴があるなら、医師にその旨を必ず伝えることが条件です。問診票に「アスベストに触れた可能性がある職歴」を記載する習慣をつけましょう。
アスベスト健康被害サポート:石綿肺・肺がん・中皮腫など関連疾患の症状と潜伏期間一覧
石綿肺が疑われる場合、医療機関ではまずアスベストへのばく露歴の聴取が行われます。これが診断の出発点になります。次に、胸部X線検査や高分解能CT検査(HRCT)で肺の線維化の程度を画像で確認します。高分解能CTのほうがより精密な情報が得られるため、専門医では積極的に使われることが多いです。
また、肺機能検査で呼吸機能の低下がどの程度進んでいるかを測定し、「じん肺管理区分」という基準に基づいて病状のレベルが判定されます。管理区分は1〜4まであり、数字が大きいほど重症です。管理区分4になると著しい肺機能の低下が認められ、労働基準監督署に申請することで労災認定を受けることができます。
治療については、現時点で石綿肺を完全に治す方法はありません。これが原則です。治療は「症状を緩和する」ことが中心となり、具体的には以下の方法が用いられます。
定期的な健康診断を受けることが、早期発見において非常に大切です。石綿肺は初期ではX線に映りにくい場合があり、CT検査のほうが早期発見に有効とされています。過去にアスベストを扱う現場で10年以上働いた経歴がある方は、産業医や労災病院への相談を検討してください。
環境再生保全機構:石綿関連疾患の種類・症状・潜伏期間の詳細ページ
石綿肺と診断された建築業従事者には、複数の補償制度が用意されています。知らないと受け取れるはずの給付金を逃してしまうことになります。痛いですね。
まず代表的な制度が「建設アスベスト給付金制度」です。これは国が設けた制度で、建設業務に従事しアスベストにばく露した労働者(一人親方・事業主を含む)が石綿関連疾患にかかった場合に給付されます。給付金額は疾病の種類や重症度によって異なり、おおむね550万〜1,300万円の給付が受けられます。
具体的には次のとおりです。
労災保険の給付と建設アスベスト給付金は別制度であり、状況に応じて両方の申請が可能です。申請には「じん肺管理区分の決定通知書」「職歴を示す資料」「医師の診断書」などが必要になります。給付金の請求期限は、診断日または管理区分決定日から20年以内とされているため、期限に注意すれば問題ありません。
また、労災に該当しない場合でも「石綿健康被害救済制度」(環境再生保全機構が運営)を利用できることがあります。建設現場周辺に住んでいた方や家族が被害を受けたケースでも適用される可能性があります。
申請が複雑に感じる場合は、建設アスベスト訴訟の専門弁護士や、最寄りの労働基準監督署に相談するのが確実な一歩です。
建設アスベスト訴訟全国弁護団:補償・救済手続きの流れと相談窓口
厚生労働省:建設アスベスト給付金制度の概要(申請先・対象疾患・給付額)
石綿肺は発症してしまうと根本治療がなく、症状の緩和しかできません。だからこそ、予防と早期発見が何よりも大切です。これが基本です。
現在の建設現場では、アスベストの新規使用は2006年に全面禁止されています。ただし、2006年以前に竣工した建物にはアスベスト含有建材が多く残っています。具体的には、天井の吹付け材、スレート屋根材、断熱・保温材、床材、外壁材などが対象です。解体・改修工事を行う前には、専門業者によるアスベスト事前調査が法律上義務づけられています(大気汚染防止法・労働安全衛生法)。
現場でできる具体的な予防策は次のとおりです。
「マスクさえしていれば大丈夫」という思い込みは禁物です。P3規格に満たないマスクや、マスクを正しく装着できていない状態では十分な防護になりません。JIS規格T8159などの防じん機能を持つマスクの正しい装着法を確認するのが確実です。
なお、過去にアスベストを扱う現場で働いていた方でも、すでに退職・転職している場合は定期健診でフォローされないケースがあります。気になる症状(長引く咳・運動時の息切れ)がある場合は、アスベスト疾患センターが設置されている労災病院での受診を検討してください。アスベスト疾患センターは全国各地にあり、専門的な検査が受けられます。
厚生労働省:石綿にばく露する業務に従事していた労働者への健康管理制度と相談窓口