

ねじ締結で言う「軸力」は、ボルト軸部に作用する引張力であり、締付け作業によって生じる力としてJISでも定義されています。
JIS B 1083:2008 ねじの締付け通則(用語:軸力、締付けトルク、トルク係数)
現場でよく使う近似は「締付トルクと軸力の関係式」で、トルク係数k(K)、呼び径d、軸力Fを用い、T=k d Fの形で扱います。
KTC:締付トルクと軸力の関係式(T=k d F)
ただし、この式は「トルク→軸力が一意に決まる」ことを保証するものではなく、トルク係数が一定という前提が崩れると、結果の軸力も揺れます。JISでも、トルク法は線形関係を利用する一方で摩擦特性が支配的で、ばらつきが大きく変わると説明されています。
JIS B 1083:2008(6.2.1 トルク法の特性)
ここで重要なのは、締付けトルクは「回すための入力」で、軸力は「ボルトが伸びて蓄える力(締結力の源)」だという区別です。工具の表示はトルクでも、構造性能(すべり・ゆるみ・疲労)を決めるのは基本的に軸力側です。ねじ締結の基礎解説でも、軸力が締結の要であり、異常がゆるみにつながると整理されています。
YHT:締結の基礎(軸力は締結の要)
またJISでは「締付け力(clamp force)」を、ボルト軸部の軸力(引張力)または被締結部材の圧縮力として扱い、状況により呼び分けることを明確にしています。設計・施工・検査で言葉が混ざるとトラブルになりやすいため、図面・要領書では「ボルト軸力」「締付け力(締結力)」のどちらを指すかを明確にしましょう。
JIS B 1083:2008(3.5~3.7 用語定義)
トルク係数(K)は、締付けトルクと締付け力の関係を表す比例定数としてJISで定義されています。
JIS B 1083:2008(3.17 トルク係数)
しかし現場の感覚としては、Kは「材料定数」ではなく「現場条件の写像」です。座面の状態、ねじ面の摩擦係数、潤滑、表面処理、締付け速度、ワッシャの有無などが混ざってKとして見えてきます。ボルト関連の解説では、与えたトルクの大半がねじ面・座面の摩擦で消費され、軸力への変換は一部だと説明されています。
ボルトエンジニア:トルクの多くは摩擦に消費される
JISも同趣旨で、トルク法は「締付けトルクの90%前後がねじ面および座面の摩擦によって消費される」ため、初期締付け力のばらつきは摩擦特性の管理で大きく変化すると明記しています。
JIS B 1083:2008(6.2.1 トルク法の特性)
つまり、トルクレンチを高精度にしても、摩擦条件の管理が雑だと軸力の再現性は上がりません。ここを理解せずに「規定トルクで締めたからOK」としてしまうと、ゆるみ・座面陥没・破断の原因を温存したままになります。
KTC:トルク法は一般的だが軸力ばらつきがデメリット
摩擦の影響を減らす実務ポイントは、次のように「Kの変動要因を潰す」方向になります。根拠の骨格はJISが示す“摩擦特性が支配的”という構造です。
JIS B 1083:2008(6.2.1)
JISでは、締付け管理方法として「トルク法」「回転角法」「トルクこう配法」を整理し、締付け指標(トルク、回転角、こう配)で初期締付け力を管理する考え方を示しています。
JIS B 1083:2008(3.13~3.16、6章)
また、JISの表では締付け係数Q(初期締付け力のばらつきの目安)が方法ごとに異なる参考値として示され、トルク法は1.4~3と幅が大きいことが読み取れます。
JIS B 1083:2008(表2 代表的なねじ締付け管理方法)
つまり、軸力トルクを“狙って当てたい”場面ほど、トルク法以外の検討余地が出てきます。KTCの解説でも、トルク法は簡便だが軸力ばらつきがデメリットであり、回転角法・トルクこう配法はばらつきを抑えられる一方で注意点があると説明されています。
KTC:3つの管理方法(トルク法・回転角法・トルクこう配法)
各方法の“使いどころ”を、建築・設備の締結作業に寄せて整理すると以下です(前提はJISの定義と特性)。
JIS B 1083:2008(6.2~6.4 特性)
さらにJISでは、回転角法におけるスナグトルクや、塑性域締付け時の注意(再使用性・延性など)も具体的に触れています。施工要領書に落とすなら「どの領域(弾性域/塑性域)で締めるのか」「再使用を許容するのか」を明文化するのが安全です。
JIS B 1083:2008(6.3.1 回転角法の特性)
トルクレンチの基本は、レンチ長さLと加える力FでトルクTが決まるという力学で、トルク=力×長さとして説明されています。
KTC:トルクの原理(力×長さ=トルク)
一方で「規定トルク値」は、作業者が守るべき入力条件であって、狙いの軸力そのものではありません。KTCの説明でも、締めすぎは塑性域・破断リスク、締め不足はゆるみにつながるため、指定範囲のトルク管理が重要とされています。
KTC:締めすぎ/締め不足のリスク、規定トルクの重要性
ただし、JISの立場はもう一段踏み込んでいて、トルク法の成立条件(摩擦特性の管理)と、トルクレンチの誤差も含めたばらつき管理の考え方が書かれています。たとえばJISでは、トルク法で目標締付けトルクを決める際に、トルクばらつき(工具誤差など)も考慮する趣旨の記述があります。
JIS B 1083:2008(6.2.2.1 目標締付けトルクの決め方)
現場での測定・検査に落とすなら、次を「最低ライン」として揃えると、軸力トルクの事故率が下がります(“トルクだけ”で完結させないのが狙い)。
JIS B 1083:2008(6.1 一般事項、6.2.1)
参考:トルクと軸力の関係を測定原理として説明し、摩擦がばらつき要因になる点をまとめたメーカー解説(計測の観点が欲しい場合に有用)。
締め付けトルクと軸力の関係|測定原理(摩擦で軸力がばらつく)
検索上位の解説は「潤滑するとばらつきが減る」「摩擦が支配する」までで止まりがちですが、現場事故の難しさは“潤滑が効きすぎる”方向にも振れる点です。JISが言う通り、トルク法ではトルクの大半が摩擦で消費されるため、摩擦条件が変わると軸力が大きく動きます。
JIS B 1083:2008(6.2.1 摩擦で大半が消費)
つまり、同じ規定トルクで締めても、潤滑が強すぎたり、座面が“ぬめる”状態になると、摩擦に奪われる分が減って軸力側に回り、結果として「過大軸力→降伏域接近→破断/ねじ山損傷」のリスクが上がります。塑性域に入るとボルトは元に戻らず再利用できない、という危険性は一般解説でも触れられています。
KTC:塑性域まで締めると再利用できない/危険
潤滑による“過大軸力”が起きやすい典型パターンは次です。これは単なる注意喚起ではなく、現場手順に落とし込めます(塗布の標準化がカギ)。
JIS B 1083:2008(摩擦特性の管理が重要という前提)
対策は「潤滑する/しない」ではなく、「潤滑を工程として管理する」に尽きます。たとえば、塗布対象(ねじ部だけ/座面も)、塗布量の目安(例:1本あたり何mg、あるいは刷毛の往復回数)、締付けまでの待ち時間、余剰油の拭き取りを標準化すると、トルク係数Kの暴れが抑えられます。トルク係数の概念や摩擦係数との関係は、JISの定義と付属書(計算例)を参照すると、チーム内で言語化しやすいです。
JIS B 1083:2008(3.17、附属書A:摩擦係数とトルク係数の計算例)
最後に、軸力トルクを本気で合わせたい現場ほど「一度だけでも軸力計測を挟む」価値があります。トルク法の限界は摩擦にあるため、初回立上げでKの実測レンジを掴むだけでも、規定トルクの根拠が“勘”から“管理値”に変わります。
締め付けトルクと軸力の関係|測定原理(摩擦とばらつき)

ACDelco 1/2" (12.7mm) デジタルトルクアダプター 測定範囲34-340Nm 高精度 ブザー&LED警告灯内蔵 ISO6789 校正証明書付属 自動車エンジン修理 トルク値校正(日本語取扱説明書付属)ARM602-4A