

jis公差表を読む最初の入口は「図示サイズ(nominal size)」です。これは旧来の「基準寸法」とほぼ同義で、図面に書かれた理論上の寸法を指します(例:90、φ30など)。JIS B 0401-1では、図示サイズを起点に「許容限界サイズ(上限・下限)」を定め、実測値(当てはめサイズ)がその範囲に入ることを求めます。
次に押さえるのが「基本サイズ公差等級(IT)」です。ITは “International Tolerance” を意味し、IT7のようにIT+数字で等級を表します。等級番号が小さいほど狭い公差(高精度)になり、同じIT7でも図示サイズの区分によって公差幅(µm)が変化します。JIS B 0401-1の表では、たとえば図示サイズが80mmを超え120mm以下の範囲でIT7は35µm、というようにサイズ域ごとに基本公差値が定義されています。
ここで現場が混乱しやすいのは、「H7」の“7”はIT7と同じ等級番号だが、H7自体は“公差クラス(tolerance class)”であり、IT(公差幅)と“基礎となる許容差(fundamental deviation)”の組合せになっている点です。つまり、数字は「幅」を決め、文字は「位置」を決める、と分けて覚えると読み間違いが減ります。
参考:JISの用語定義やIT等級・公差クラス(文字+数字)の考え方
JIS B 0401-1(サイズ公差のISOコード方式)の用語・読み方
jis公差表で「文字が位置を決める」と言ったとおり、公差クラスの文字は“基礎となる許容差(fundamental deviation)”を表します。これは「図示サイズから最も近い許容限界サイズを定義するサイズ差」で、要するに“公差帯(サイズ許容区間)を、基準線(図示サイズ)に対してどこへ置くか”を決めるパラメータです。JIS B 0401-1では、この基礎となる許容差を、穴は大文字(A…ZC)、軸は小文字(a…zc)で区別すると明記されています。
また、許容差の記号も穴と軸で使い分けます。穴(内側サイズ形体)では上の許容差がES、下の許容差がEI、軸(外側サイズ形体)では上がes、下がeiです。これらは「上限・下限寸法そのもの」ではなく、“図示サイズからのズレ量”です。上限寸法=図示サイズ+(上の許容差)、下限寸法=図示サイズ+(下の許容差)という関係になります。
さらに重要なのが「H」と「h」です。穴基準方式でよく使う“H”は下の許容差(EI)が0になる基準穴を意味し、軸基準方式でよく使う“h”は上の許容差(es)が0になる基準軸を意味します。JIS B 0401-1でも、穴基準はEI=0の穴、軸基準はes=0の軸として原理が示されています。
現場で「jis公差表」と言うと、実際には“穴と軸のはめあい(fit)”を決めるために見ているケースが多いはずです。はめあいは、同じ図示サイズを持つ穴と軸の組合せで成立し、すきま(clearance)・しめしろ(interference)・中間ばめ(transition fit)の3分類が基本になります。JIS B 0401-1では、すきまは「穴−軸」の差(軸が小さい)で正、しめしろは「穴−軸」が負(軸が大きい)として定義されています。
はめあいを読むときの実務のコツは、「穴側の最小(LLS)と軸側の最大(ULS)」の差で最小すきま、「穴側の最大と軸側の最小」の差で最大すきま、という順に“端同士”を当てることです。頭の中で公差帯の上下を想像しても良いですが、数値に落とすなら、まず穴の上限・下限寸法、次に軸の上限・下限寸法を確定させるのが安全です。
たとえば、はめあい指示は「52 H7/g6」のように書き、共通の図示サイズ52に対して穴H7・軸g6を組み合わせる形です(“穴/軸”表記)。JIS B 0401-1にも、はめあいの指示例として「52 H7/g6」や簡略表記が示されています。加工側の視点では、穴基準方式(H穴固定で軸を変える)はリーマやゲージの重複を避けやすく一般的、と規格本文でも経済性の理由が述べられています。
参考:はめあい方式(穴基準・軸基準)やすきま/しめしろ/中間ばめの定義
JIS B 0401-1(はめあいの用語と原理)
jis公差表に基づく「H7」「g6」のような指示が図面の全てに付くとは限りません。そこで効いてくるのが「普通公差(general tolerances)」です。JIS B 0405は“個々に公差の指示がない長さ寸法および角度寸法”に対して、等級(f/m/c/v)ごとの許容差を与え、図面指示を簡単にする意図がある、とされています。
たとえばNBK(鍋屋バイテック会社)が公開しているJIS B 0405の抜粋では、面取り部分を除く長さ寸法に対して、基準寸法の区分ごとに「f(精級)」「m(中級)」「c(粗級)」「v(極粗級)」の許容差が表で示されています。例として、6を超え30以下の範囲で、fは±0.1、mは±0.2、cは±0.5、vは±1(単位mm)というように、同じ寸法でも等級で結果が大きく変わります。
建築・設備・製作図まわりでも、部材加工指示や治具の寸法に「普通公差」相当のルールが混ざることは珍しくありません。jis公差表(はめあい)だけ見て「この穴はH7だろう」と推定で進めると、図面の一般注記の普通公差が優先され、検査でアウトになるケースが起こり得ます。まず“その寸法に個別公差が付いているか”を確認し、付いていなければ普通公差の等級と寸法域で決める、という順番が事故を減らします。
参考:普通公差(長さ寸法・角度寸法など)の具体表(JIS B 0405/JIS B 0419の抜粋)
NBK:普通公差(JIS B 0405/JIS B 0419)抜粋表
検索上位の解説記事では「H7/g6の読み方」や「すきま・しまり・中間」までで終わることが多い一方、現場で静かに効いてくるのが「包絡の条件」です。JIS B 0401-1では、旧規格の運用として“ISO公差クラスで公差指定した直径は、包絡の条件が自動的に有効だった”経緯に触れつつ、JIS B 0420-1では標準が二点間寸法へ変更されたため、同じ要求(テーラーの原理に近い解釈)を図面で成立させたいなら、包絡の条件のような指定条件を付さなければならない、と説明されています。
この差は、単に「寸法が範囲に入っている」だけでは不十分になる可能性がある、ということです。たとえば穴や軸が局部的には寸法内でも、形状がうねっていたり、最大実体状態での“理想形状の包絡”を満たさなければ組付けで引っ掛かる、といったトラブルにつながります。JIS B 0401-1の附属書では、包絡の条件がある場合の穴・軸の解釈(最大内接円筒・最小外接円筒など)に触れており、単なる「±」管理と違う世界があることを示しています。
建築従事者の文脈でも、金物、アンカー、機械設備の据付部材、現場加工治具など「通るはずが通らない」問題は、寸法公差よりも“形状・姿勢・位置”が原因のことが少なくありません。jis公差表の数値だけで安心せず、必要なら包絡の条件や幾何公差(直角度・平面度など)もセットで考える、という視点は上司チェックでも刺さりやすい差別化ポイントになります。
参考:包絡の条件に触れた規格本文(旧来の考え方との違い、図面で同じ要求を出す方法)
JIS B 0401-1:附属書A(包絡の条件の扱い)
段取り替え(段替え)は、次に流す製品や作業内容に合わせて、加工機・治具・装置の設定を変更する作業で、「機種切り替え」とも呼ばれます。特に重要なのは、段取り替えが「機械の設定変更」だけで終わらず、基準の調整や部品・部材の切り換え、さらに作業前の確認・教育・清掃まで含む“広い概念”として説明されている点です。現場では「切替そのもの」だけを段取り替えだと思いがちですが、実務上は“次工程が安全に良品を出せる状態に整えるまで”がセットになっていると理解したほうが、事故・手戻り・不良の説明が通ります。
建築従事者の目線で置き換えると、例えば「同じフロアで資材搬入→墨出し→ボード貼りに切替える」場面で、道具・材料の置き場、作業動線、養生、作業者の役割分担をまとめて変えるのが“段取り替え”に近い感覚です(厳密には製造用語ですが、現場の切替作業という点で共通します)。段取り替えが雑だと、次の作業が始まってから「あの部材がない」「電源が取れない」「治具(当て木)が違う」などの小さな停止が連鎖し、結果として工程が崩れます。
参考)段取り替え
ここで押さえるべき用語の使い分けは次の通りです。
・段取り替え:切替に必要な作業全体(準備・調整・確認まで含む)。
・機種切り替え:ライン上で作る製品(機種)が変わることを強調した言い方。
・段取り替え時間:段取り替えに要する時間で、ライン停止を伴うと生産性に直結します。
段取り替えは、装置を止めて行う「内段取り」と、装置を止めずに行う「外段取り」に分けられます。分類のコツは、「設備を停止しないとできないか?」で判断することです。例えば治具交換や芯出しのように停止必須なら内段取り、次の材料準備や工具準備のように稼働中でもできるなら外段取り、という整理になります。
この分け方のメリットは、改善の方向性が具体化する点です。外段取りを増やし内段取りを減らせば、停止時間を短縮でき、結果として段取り替え時間の圧縮につながります。段取り替えはライン停止を伴うため、一般に「短いほど望ましい」とされ、段取り改革・改善はJIT(ジャストインタイム)実現の決め手にもなる、と解説されています。
建築の現場では、設備停止=「作業班全体が手待ちになる」「他職が待たされる」状態に近く、内段取りを減らす発想はそのまま使えます。例えば「次工程で使う副資材の段取り(外段取り)を先に完了」させ、切替の瞬間には“手順変更の確認と危険ポイント共有だけ”に圧縮できれば、実質的に内段取りの短縮になります。なお、短縮だけを追うと安全確認が抜けやすいので、後述の安全セクションのやり方(TBMやKY)とセットで運用するのが前提です。
参考)https://www.jpa.gr.jp/sustainability/safety/pdf/lecture_201603.pdf
段取り替えは、同じ作業を繰り返す定常作業と違い、状況が変わる「非定常作業」になりやすい領域です。中央労働災害防止協会の資料では、自動生産設備における非定常作業の一つとして「切替・移行時作業」が挙げられ、その具体例に「設備立ち上げ、段取り替え、ロボット等の教示」などが含まれています。つまり段取り替えは“変化が前提の作業”として、事故リスクが上がる側に分類されやすい、という整理です。
さらに同資料では、非定常作業の開始前にTBM(ツールボックスミーティング)等で、作業基準書に基づく作業内容、指揮命令系統、連絡・合図方法、注意事項、KY(危険予知)、変化が発生した際の連絡・処置方法、手順変更時の対応方法を周知徹底することが示されています。建築現場の段取り替え(たとえば足場の盛替え、仮設の移設、作業動線変更、重機の入替えなど)も同様に「合図」「立入範囲」「役割分担」が曖昧になった瞬間が危険なので、“切替の瞬間に何を共有するか”を固定化するのが有効です。
実務で使えるチェック例を、段取り替え前の“短い確認”としてまとめます。
✅ 段取り替え前チェック(例)
・作業範囲:立入禁止エリアと通路の変更はあるか。
・合図:クレーン・重機・玉掛けの合図者は誰か、無線チャンネルは統一できているか。
・停止/遮断:停止が必要な機器(電源・エア・油圧等)は誰がどこで止め、復帰手順は誰が持つか。
・手順変更:変更点を一言で説明できるか(「前と違う」を放置しない)。
・KY:危険が増えるポイントを3つに絞って共有できているか。
段取り替えを急ぐ局面ほど、「ルールを守れない・守りにくい」状況が生まれると指摘されており、そこを管理者が現地で問いかけながら洗い出すことが重要、とも説明されています。言い換えると、段取り替えは“作業者の注意力”に寄せすぎると破綻しやすいので、問いかけと共有の仕組み(TBM、KY、指揮系統)でカバーするのが安全側の考え方です。
段取り替えの説明で意外と見落とされるのが、「作業者への作業内容確認や教育・清掃も含まれる」という点です。段取り替えが“設定を変える行為”に見えるのに、なぜ教育や清掃が入るのかというと、切替直後はミスや不具合が起きやすく、初動の品質・安全が不安定になるからです(不安定さを抑えるのが、確認・教育・清掃=標準化の一部になります)。実際に、段取り替えには基準の調整・変更、部品や部材の切り換えに加えて、作業前の確認・教育・清掃も含むと明記されています。
建築現場の言葉にすると、段取り替えは「段取り(準備)+切替(変更)+初動(立上げ)」の3つを一つの作業として扱うほうがトラブルが減ります。例えば、型枠→配筋→コンクリ打設のように職種が切り替わるタイミングでは、清掃(残材・釘・結束線の除去)と周知(立入や手順)を省くと、災害や品質不良の“芽”が残ります。ここでの清掃は見た目の問題ではなく、危険源と不具合要因を物理的に取り除く工程として位置づけるのがポイントです。
標準化の実装としては、次のような形が現実的です。
・段取り替えチェックリスト(紙でもアプリでも可)を作業前に1回だけ使う。
・変更点がある場合は、作業計画の変更として“その都度承認”する考え方を採る(非定常作業の管理の発想)。
・教育は長時間の座学ではなく、当日の変更点を3分で共有し、指差し呼称や合図の統一を優先する。
段取り替えは、部署や職種で「指している範囲」がズレやすい言葉です。製造の定義では、段取り替えは設定変更だけではなく、作業前確認・教育・清掃まで含むと説明されますが、現場によっては「治具交換だけ」「材料替えだけ」など“狭い意味”で使われがちです。ここにズレがあると、会話が成立しているように見えて、実際には必要な作業が抜け落ちます。
ズレを潰すための運用は難しいことではなく、言い回しを統一するのが効果的です。例えば「段取り替え完了=次の工程が安全に始められる状態」と定義してしまい、完了条件に「確認」「清掃」「合図統一」を入れておくと、短縮圧力がかかったときでも“やるべき最低ライン”が残ります。段取り替えが非定常作業として扱われ、TBMやKYで周知徹底することが推奨されている点からも、言葉の定義を現場で固定する価値は高いです。
現場に定着しやすいミニルール例(独自提案)を置いておきます。
📌 段取り替えの合言葉(例)
・「段取り替え=切替+確認+清掃」
・「段取り替え完了=良品(安全)スタート可能」
・「段取り替え中は“変化点”扱い:止めて、呼んで、待つ」
このうち「変化点では作業を中断し、危険予知を実施した後で再開する」といった考え方は、非定常作業の教育ポイントとして示されています。
参考:段取り替えの定義(内段取り・外段取り、教育・清掃まで含む範囲)が整理されている
段取り替え
参考:段取り替えを含む「非定常作業」の安全(TBM、KY、切替・移行時作業の注意点)が詳しい
https://www.jpa.gr.jp/sustainability/safety/pdf/lecture_201603.pdf