
建築基準法施行令第46条第1項は、「構造耐力上主要な部分である壁、柱及び横架材を木造とした建築物にあっては、すべての方向の水平力に対して安全であるように、各階の張り間方向及びけた行方向に、国土交通大臣が定めた構造方法に従って、構造耐力上必要な軸組を釣合いよく配置しなければならない」と規定している。
この規定は壁量計算の根拠となる重要な条文で、木造建築物において必要壁量と存在壁量の関係を確認する作業の基礎を形成している。具体的には、地震力および風圧力に対する必要な壁の量(必要壁量)を、耐力壁等の量(存在壁量)が上回っていることを階ごと、方向ごとに確認する作業である。
壁量計算の判定基準は次の通り:
この壁量計算の概念は、1923年の関東大震災以後、田辺平學による『耐震建築問答』での研究が基礎となっており、田辺や久田俊彦の行った実験が現在の建築基準法施行令第46条に定められる壁量計算の基となっている。
第46条第2項は、第1項の規定を適用しない場合を定めた除外規定である。「前項の規定は、次の各号のいずれかに該当する木造の建築物又は建築物の構造部分については、適用しない」として、特定の条件下では壁量計算を省略できることを規定している。
第2項第1号の主な要件:
この第2項の適用は、一般的な木造住宅では必要ないが、門型フレームや方杖フレームなどの耐力壁認定を取っていない(取れない)構造要素を使用する場合に重要となる。これらフレーム系は壁倍率を有していないため、令第46条の壁量計算が行えず、第2項の適用として構造計算を行う必要がある。
実務における注意点:
第46条第4項は、「前三項に定めるもののほか、第一項の構造方法は、国土交通大臣が定める」として、具体的な構造方法を告示に委ねている。この国土交通大臣が定めた構造方法が「建設省告示第1100号」に詳細に規定されている。
告示1100号の主な内容:
この告示では、耐力壁の強さを壁倍率という数値で表現している。例えば、一般的な筋かい45×90、片筋かいの壁倍率は2.0倍として定められている。許容応力度設計でも慣例的に壁倍率を使用するが、実際の計算では壁倍率1倍=せん断耐力1.96kN/mに換算して検討している。
壁倍率が与えられていない耐力要素:
これらの要素は告示1100号では仕様規定されない耐力要素となるため、第2項ルートでの構造計算が必要となる。
令和7年(2025年)施行の改正により、省エネ化等による建築物の重量化に対応するため、建築基準法施行令第46条の必要な壁量に関する規定が大幅に見直された。
新たに導入された3つの確認方法:
方法①:個々の建築物の荷重実態による精緻検証
方法②:現行規定と同様の簡易確認
方法③:構造計算による安全性確認
ZEH水準等建築物の必要壁量基準(案):
建築物の種類 | 平屋 | 2階建1階 | 2階建2階 | 3階建1階 | 3階建2階 | 3階建3階 |
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第43条(一)(三) | 15 | 33 | 21 | 50 | 39 | 24 |
第43条(二) | 11 | 29 | 15 | 46 | 34 | 18 |
ZEH水準等(案) | 25 | 53 | 31 | 81 | 62 | 36 |
この改正により、従来の基準に比べて大幅に必要壁量が増加し、省エネ性能の高い重量化建築物に対応した構造安全性の確保が図られることとなった。
建築基準法施行令第46条の運用において、設計者は建築物の特性や使用する構造要素に応じて、適切な設計ルートを選択する必要がある。特に四号特例の見直し(令和7年4月1日施行)により、「2階建て以上または延べ面積200㎡超」の木造建築物等は新2号建築物として全ての地域で建築確認・検査が必要となり、構造設計の重要性がさらに高まっている。
設計ルート選択の判断基準:
第1項ルート(壁量計算)を選択する場合:
第2項ルート(構造計算)を選択する場合:
近年のカーボンニュートラルへの取り組みや**ZEH(Net Zero Energy House)**の普及により、断熱材の厚み増加や設備の充実化が建築物の重量化を招いている。これに対応するため、令和7年施行の改正では、従来の一律基準から建築物の実態に応じた柔軟な対応が可能となった。
今後の設計実務への影響:
設計者は、建築物の性能要求と構造安全性のバランスを取りながら、最適な設計手法を選択する技術力がこれまで以上に求められる時代を迎えている。建築基準法施行令第46条は、木造建築の構造安全性を確保する基本的な枠組みとして、今後も建築実務の中核を担っていくことは間違いない。