構造特性係数と建築物の耐震性能における役割と計算方法

構造特性係数と建築物の耐震性能における役割と計算方法

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構造特性係数と建築物の耐震設計

構造特性係数の基本
📊
数値範囲

RC造では0.3~0.55、S造では0.25~0.5以上の値をとります

🏢
影響要素

建物の靭性、減衰性、架構形式によって決まります

⚖️
設計への影響

値が小さいほど必要保有水平耐力を低減できます

構造特性係数の基本概念と意味

構造特性係数(Ds値)は、建築物の構造計算において必要保有水平耐力を算出する際に使用される重要な係数です。この係数は、建築物が地震時に示す弾塑性挙動、特に減衰性や靭性などのエネルギー吸収能力を数値化したものです。

 

構造特性係数の基本的な考え方は、建物の変形能力(靭性)が高いほど地震エネルギーを効率的に吸収できるため、必要とされる耐力を低減できるというものです。つまり、靭性に富む構造ほど構造特性係数は小さくなります。

 

例えば、鉄筋コンクリート造RC造)の場合、構造特性係数は0.3~0.55の範囲の値をとり、鉄骨造(S造)では0.25~0.5以上の値となります。この数値が小さいほど、建物の靭性が高く、地震エネルギーを効率的に吸収できることを意味します。

 

構造特性係数は次の式で必要保有水平耐力の算定に使用されます。
(必要保有水平耐力Qun)=(構造特性係数Ds)×(形状係数Fes)×(C0=1.0の大地震時の地震層せん断力Qud)
この式からわかるように、構造特性係数が小さければ必要保有水平耐力も小さくなり、経済的な設計が可能になります。

 

構造特性係数と靭性の関係性

構造特性係数と靭性(変形能力)の関係は、建築物の耐震設計において核心的な部分です。靭性とは、建物が降伏後も抵抗力を急激に失うことなく、塑性域でも変形し続ける能力のことを指します。

 

靭性が高い建物は、地震エネルギーを「力」だけでなく「変形」によっても吸収できます。物理学的に言えば、「力」×「変形」=仕事=エネルギーという関係があるため、変形能力が高ければ、より少ない力でも同じエネルギーを吸収できるのです。

 

例えば、純ラーメン構造は一般的に靭性が高く、構造特性係数を小さく設定できます。一方、耐力壁や筋かいが多い構造は、脆性的な破壊を起こしやすいため、構造特性係数は大きくなります。

 

具体的には、RC造のラーメン構造(耐力壁の水平力分担率βuが小さい場合)では構造特性係数を0.3程度まで小さくできますが、壁式構造(βuが大きい場合)では0.55以上の値となることがあります。

 

この関係を理解することで、設計者は建物の構造形式を選定する際に、必要耐力と経済性のバランスを考慮した判断ができるようになります。

 

構造特性係数の計算方法と部材種別判定

構造特性係数の計算は、建物の崩壊形を分析し、部材の破壊形式や応力状態から判定します。特に重要なのは、部材群としての種別判定です。

 

鉄筋コンクリート造の場合、以下の手順で構造特性係数を算出します。

  1. 各部材(柱、梁、耐力壁)の破壊形式を分析し、部材種別(FA、FB、FC、FD)を判定します。
    • FA:靭性が高い曲げ降伏型の部材
    • FB:中程度の靭性を持つ部材
    • FC:靭性が低い部材
    • FD:脆性的な破壊をする部材
  2. 部材群としての種別を判定します。
    • 種別FAの部材の耐力の和をFA~FCの部材の耐力の和で除した値をγAとします
    • 種別FCの部材の耐力の和をFA~FCの部材の耐力の和で除した値をγCとします
    • γA≧0.5 かつ γC≦0.2 の場合 → 部材群としての種別はA
    • γC<0.5の場合 → 部材群としての種別はB
    • γC≧0.5の場合 → 部材群としての種別はC
    • 種別FDの部材を取り除いた場合に局部崩壊が生じる場合は種別D
  3. 耐力壁の水平力分担率βuを計算します。
    • βu = 耐力壁の水平耐力の和 ÷ 保有水平耐力
  4. 部材群の種別とβuの値から、構造特性係数Dsを表から求めます。

例えば、RC造の場合、部材群の種別がAで、βu≦0.3の場合、Ds=0.3となります。部材群の種別がDに近づくほど、またβuが大きくなるほど、構造特性係数は大きくなります。

 

構造特性係数が建築物の必要保有水平耐力に与える影響

構造特性係数は、建築物の必要保有水平耐力の算定に直接影響を与える重要な要素です。必要保有水平耐力とは、建物が大地震時に倒壊しないために必要な水平抵抗力のことで、次の式で表されます。
(必要保有水平耐力Qun)=(構造特性係数Ds)×(形状係数Fes)×(C0=1.0の大地震時の地震層せん断力Qud)
この式から明らかなように、構造特性係数が小さければ必要保有水平耐力も小さくなります。つまり、靭性の高い建物は、同じ地震力に対して必要とされる耐力が少なくて済むのです。

 

例えば、同じ建物でも、構造特性係数が0.3の場合と0.5の場合では、必要保有水平耐力に約1.67倍の差が生じます。これは建物の構造コストに直接影響するため、設計上非常に重要な要素となります。

 

また、耐力壁や筋かいを多く配置すると保有水平耐力は増加しますが、同時に耐力壁の水平力分担率βuも増加するため、構造特性係数も大きくなり、結果として必要保有水平耐力も増加することがあります。このバランスを考慮した設計が求められます。

 

さらに、剛性率が0.6を下回る場合や偏心率が0.15を上回る場合には、形状係数Fesによる割増しが必要となり、必要保有水平耐力はさらに増加します。このように、構造特性係数は建物の耐震性能と経済性のバランスを決定する重要な要素なのです。

 

構造特性係数の最適化による耐震設計の効率化

構造特性係数の最適化は、建築物の耐震性能を確保しながらコストを抑える上で重要な戦略です。最適化のポイントは以下のとおりです。

  1. 靭性の高い部材の採用

    曲げ降伏型の部材(種別FA)の割合を増やすことで、部材群としての種別を向上させ、構造特性係数を小さくできます。具体的には、柱や梁の配筋詳細に注意を払い、せん断補強筋を適切に配置することが重要です。

     

  2. 耐力壁の適切な配置

    耐力壁は水平力に対して効果的ですが、多すぎると水平力分担率βuが増加し、構造特性係数が大きくなります。耐力壁と靭性のあるラーメン構造のバランスを考慮した配置が理想的です。

     

  3. 剛性分布の均一化

    偏心率や剛性率を適正範囲内に収めることで、形状係数Fesによる必要保有水平耐力の割増しを避けられます。平面的にも立面的にも均等な剛性分布を目指しましょう。

     

  4. 材料強度の適切な選定

    高強度材料の使用は部材断面を小さくできますが、靭性が低下する場合があります。強度と靭性のバランスを考慮した材料選定が重要です。

     

  5. 先進的な制振・免震技術の活用

    制振装置や免震装置を導入することで、建物全体の減衰性を高め、必要保有水平耐力を低減できる場合があります。

     

これらの最適化戦略を総合的に検討することで、建築物の耐震性能を確保しながら、構造コストを抑えた効率的な設計が可能になります。特に、初期設計段階から構造特性係数を意識した計画を立てることが、後々の設計変更を減らし、スムーズな設計プロセスにつながります。

 

実際の設計では、構造解析ソフトを活用して様々なケースをシミュレーションし、最適な構造形式と部材配置を見つけることが効果的です。また、過去の地震被害事例から学び、理論だけでなく実際の建物挙動も考慮した設計を心がけることが重要です。

 

RC建築物の構造計算入門 - 構造特性係数の詳細な解説が掲載されています