
免震構造は、建物と地盤を切り離すことで地震の揺れを建物に直接伝えない仕組みです。基礎と建物の間に免震層を設置し、積層ゴムやダンパーなどの特殊な装置で地震エネルギーを吸収します。
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積層ゴムは薄いゴムシートと鋼板を何十層も重ねた構造で、建物の荷重を支えながら水平方向には柔らかく変形します。ゴム層総厚さの400%まで安定した水平変位が可能で、外径は600~1,600mmと支持荷重に応じた種類が豊富です。ダンパーは揺れのエネルギーを熱に変換して吸収し、地面が大きく揺れても建物はゆっくりと揺れるため、建物内部への衝撃を大幅に軽減できます。
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制震構造は、建物内部にダンパーなどの制震装置を設けて地震の揺れを吸収する構造です。地盤の揺れは建物に直接伝わりますが、ダンパーが揺れを熱エネルギーに転換して空気中に放出することで揺れを小さくします。
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制震ダンパーには主に3種類あります。油圧式ダンパーはシリンダー内のオイルの抵抗を利用し、震度1から震度7まで揺れの大小にかかわらず効果を発揮しますが、構造が複雑で価格が高価になる傾向があります。粘弾性型ダンパーはゴム・アクリル・シリコンなどの素材の伸縮性で揺れを吸収し、費用を抑えられますが温度の影響を受ける可能性があります。鋼材ダンパーは金属が曲がるときに発生する力で揺れを吸収し、費用を抑えられますが小さな地震には効果を発揮しづらい特性があります。
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免震と制震の最も大きな違いは、地震の揺れへの対処方法です。免震構造は建物と地盤を切り離すことで、地震の揺れを建物に直接伝えないようにします。地面が大きく揺れても建物自体はゆっくりと揺れるため、建物内部への衝撃を大幅に軽減できるのが特徴です。
一方、制震構造は建物に設置された装置で揺れのエネルギーを吸収して、揺れ幅を小さくします。建物の揺れは発生しますが、その揺れを効率的に抑えることで建物へのダメージを減らします。高層ビルやタワーマンションでは上階ほど揺れが大きくなる傾向がありますが、制震構造を採用することで上階における揺れの増幅を緩和できます。
免震は震度5辺りでようやく全員が実感できる程度の揺れに抑えられ、上層階でも下の階と同じ程度しか揺れません。これに対し、耐震構造や制震構造の建物は上階ほど揺れが大きくなるため、免震構造はよりマンションなどの高層建築に適した建築手法といえます。
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免震装置と制震装置は設置位置が大きく異なります。免震装置は建物の基礎と建物本体の間、つまり建物の最下部に設置されます。おもに地盤と建物の間の基礎部分に免震層を設けるため、耐震性をアップさせるための太い梁や柱を設ける必要がなく、室内の梁や柱が少なく大きな窓をつけることもできるので開放的な広い空間を確保できます。
制震装置は建物の骨組み部分、具体的には柱と梁の間などの建物内部に設置します。木造住宅の場合、壁内への設置が最も一般的な方法で、既存の壁を一部解体して柱と梁の間に制震ダンパーを設置します。設置箇所は建物の剛性が低い部分や地震時に大きな変形が予想される部分が効果的で、1階と2階の境界部分、大きな開口部がある壁の近く、建物の隅部などが重要な設置ポイントとなります。
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免震構造と制震構造ではメンテナンスの必要性が異なります。免震構造は定期的な点検やメンテナンスが必要で、免震装置の性能を維持するためにランニングコストがかかります。免震装置は建物の基礎部分に設置されるため、専門的な検査と管理が求められ、長期的な維持管理計画が重要になります。
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制震構造のメンテナンスは装置の種類によって異なります。油圧式ダンパーは100万回の作動試験をクリアするほどの高い耐久性を持ち、繰り返す余震にも強いものの、構造が複雑なため定期的な点検が必要です。一方、粘弾性型や鋼材ダンパーは比較的メンテナンスが簡単または不要な場合もあり、免震よりも導入コストとメンテナンスコストを抑えられる利点があります。
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建築事業者としては、顧客に対して初期費用だけでなく、長期的な維持管理費用も含めた総合的なコスト提案を行うことが重要です。免震は高性能ですが維持管理の負担も大きく、制震は比較的メンテナンスが容易で、建物の用途や予算に応じた適切な選択が求められます。
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免震構造の特徴とメンテナンスの詳細について、免震装置の長期的な維持管理方法を解説した参考情報
免震構造の導入コストは他の地震対策と比較して最も高額です。一般的に免震装置の導入費用は300~600万円程度かかり、耐震構造と比べて約1.1倍のコストが必要になります。これは免震装置を設置するために建物の下にスペースが必要であることや、専門的な設計・施工技術が求められるためです。
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免震構造は建物と地盤を切り離すための特殊な装置を基礎部分に設置する必要があり、積層ゴムやダンパーなどの高性能な部材のコストも含まれます。施工業者も限られているため、設置のハードルが高いことがデメリットです。戸建て住宅への導入は費用面での負担が大きく、主に高層マンションやオフィスビルなど、建物内部の安全性を最優先する場合に適しています。
参考)積層ゴム免震構法|ソリューション・技術|株式会社フジタ
制震構造は免震に比べて低コストで導入できるのが大きなメリットです。制震ダンパーの費用は種類によって異なり、粘弾性型ダンパーと鋼材ダンパーは費用を抑えられるのに対し、油圧式ダンパーは複雑な構造のため比較的高価になる傾向があります。
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一般住宅での制震ダンパーの採用が可能で、免震構造ほどコストがかからないため、戸建て住宅では耐震と組み合わせることで高い耐震性能とコストパフォーマンスを両立できます。2階建ての木造住宅の場合、各階に2~4基程度の制震ダンパーを設置することで建物全体の揺れを効果的に軽減できます。
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制震構造は新築時だけでなく、既存建物への後付けも可能です。後付け工事は新築時の設置と比べて制約が多いものの、適切に実施することで十分な効果を得られます。建物の構造を詳しく調査し、最適な設置位置と工法を検討する必要があります。
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耐震補強工事の費用は約150万円前後が目安です。一般財団法人日本建築防災協会の調査によれば、耐震改修を行なった人の約55%が200万円未満で工事を行なっており、そのうち100万~150万円の人が最も多いことから、この金額が平均相場といえます。
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耐震補強工事の内訳としては、耐震診断が20万~25万円、基礎の補修・補強が20万~30万円、壁の補強工事が150万~200万円(1ヶ所あたり5万~15万円)、屋根の軽量化が200万~300万円となっています。古い木造住宅は壁の少なさや配置のバランスの悪さが耐震性能の欠点になっていることが多く、内側壁からの壁補強を行うケースが85%を占めます。
地震対策のコストは「耐震構造<制震構造<免震構造」の順に高額になります。耐震構造は最も一般的で比較的低コストですが、地震のたびに建物がダメージを受けるため、大きな地震発生後にはメンテナンスが必要になる場合があります。
参考)https://www.u-lec.com/kojin/landusage/chintaikeiei-column/column97-structure
制震構造は免震よりもコストが安く、メンテナンスが簡単または不要なのが大きなメリットです。ダンパーなどの制震装置を設置する制震構造は、免震よりも導入コストを抑えられるため、一般住宅での採用が進んでいます。繰り返しの地震に対して効果を発揮し、建物の変形を抑えられるため、室内の家具転倒リスクも軽減できます。
免震構造は最も効果が高いといわれていますが、コストも最も高いのが現状です。新築住宅では高い耐震性能をもたせ、可能であれば制震ダンパーをプラスする方法が推奨されます。どの構造を採用するかは、賃貸経営への考え方、地盤や建物形状、予算など、総合的な判断が必要になります。
参考)耐震・制震・免震構造の費用を比較!メリット・デメリットは?|…
建築事業者として顧客に提案する際は、初期費用だけでなく長期的な維持管理費用も含めた総合的なコスト比較が重要です。免震構造は初期費用が高額で定期的なメンテナンスも必要ですが、建物の損傷や家具の倒壊を最小限にでき、新築時の建物が本来持っている耐震性能を長く維持できる利点があります。
参考)免震・制震・耐震の違いって?メリット・デメリットや組み合わせ…
制震構造は初期費用とメンテナンスコストを抑えられる一方、建物や構造体の耐久性を高める効果があります。制震ダンパーにより建物や基礎部分である構造体へ地震の揺れが伝わりにくくなるため、耐久性が高まります。
戸建て住宅の場合は「耐震+制震」の組み合わせが最もコストパフォーマンスに優れており、高層建築物では「免震」または「耐震+制震」の組み合わせが効果的です。建物の用途、規模、予算、敷地条件などを総合的に判断し、顧客に最適な地震対策を提案することが建築事業者の重要な役割といえます。
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耐震補強工事の費用相場と補助金活用について、工事内容別の詳細な価格情報を解説した参考情報
免震構造の最大のメリットは、建物の損傷や家具の倒壊を最小限にできることです。地盤と建物を分離できるため、地面が揺れてもその揺れがダイレクトに建物に伝わらず、大きな揺れが生じても建物への損傷を防げるだけでなく、建物内部の家具の転倒リスクを抑えることができます。
📌 免震構造の主なメリット
一方、免震構造のデメリットとしては、導入費用が高額であること、定期的なメンテナンスが必要なこと、施工業者が限られていることが挙げられます。また、縦揺れの抑制は期待できず、直下型地震には免震装置の性能が十分に発揮できない場合があります。免震構造に対応している業者が少なく、製品によっては縦揺れに弱いという特性も理解しておく必要があります。
参考)https://cleverlyhome.tokyo/column/20241120/
制震構造の大きなメリットは、免震よりもコストが安くメンテナンスが簡単または不要であることです。建物や構造体の耐久性が高まり、地震の揺れが伝わりにくくなるため、長期的な建物の保護に効果的です。
⚡ 制震構造の主なメリット
制震構造のデメリットとしては、免震構造ほどの揺れの軽減効果はないこと、小さな地震には効果を発揮しづらい種類のダンパーもあることが挙げられます。油圧式ダンパーは小さな揺れから大きな揺れまで対応できますが、構造が複雑で価格が高くなる傾向があり、鋼材ダンパーは小さな地震には効果が限定的です。
建物の用途や規模によって最適な地震対策は異なります。高層マンションやオフィスビルなど、建物内部の安全性を最優先する場合は免震構造が適しており、上層階でも揺れが少ないため居住者や利用者の安全性が高まります。
🏢 建物用途別の推奨構造
建物用途 | 推奨構造 | 理由 |
---|---|---|
戸建て住宅 | 耐震+制震 | コストパフォーマンスが高く、一般的な予算で実現可能 |
高層マンション | 免震 | 上階の揺れを効果的に抑え、家具転倒リスクを最小化 |
中低層ビル | 耐震+制震 | 導入コストを抑えつつ、繰り返しの地震に対応 |
病院・学校 | 免震または耐震+制震 | 建物機能の維持と利用者の安全確保を重視 |
戸建て住宅の場合は「耐震+制震」の組み合わせが最もコストパフォーマンスに優れています。制震ダンパーは地震のエネルギーを吸収し、建物の揺れを減衰させる効果があり、耐震構造と組み合わせることで地震による揺れを効果的に抑制し、建物の損傷を最小限に抑えることができます。
参考)結局「耐震・免震・制震」のどれがいいの?効果的な組み合わせの…
制震ダンパーを選定する際は、各メーカーが公表する性能試験の結果を参考にすることが重要です。耐震と違い制震については国の基準がないため、制震ダンパーの性能を単純に比較することは困難で、性能で選ぶポイントはエビデンスです。
参考)「制震ダンパー」の性能は?選ぶ際の比較ポイントを紹介
🔍 制震ダンパー選定のチェックポイント
各社のエビデンスだけを見ると数値の良い製品を選択したくなりますが、比較する際に重要なのは数値だけでなく「実験の条件」です。制震には耐震基準を示す建築基準法のような指針がないため、各社が行う実験も国が定めている基準や条件がありません。実験結果から性能を見極める際は、どのような設置状況で、どのくらいの加振を行っているのかなど、試験方法にも目を向ける必要があります。
建築事業者として施工現場で免震・制震を導入する際は、耐震診断と設置計画の立案が重要です。制震ダンパーを後付けする際は、建物の構造を詳しく調査し、最適な設置位置と工法を検討する必要があります。
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耐震診断では、建物の設計図面や現地調査の結果をもとに構造的な課題を洗い出し、どの程度の地震に耐えられるかを評価します。設置工事では、制震ダンパーを固定するための準備作業として、設置箇所の補強や金属製の部材を取り付ける作業が含まれます。
🛠️ 施工時の重要な確認事項
制震ダンパーの設置位置は建物の剛性が低い部分や地震時に大きな変形が予想される部分が効果的で、1階と2階の境界部分、大きな開口部がある壁の近く、建物の隅部などが重要な設置ポイントです。設置角度や位置が正確であることが求められ、わずかな誤差でも性能に影響を及ぼすため、熟練した技術者による施工が不可欠です。
耐震改修工事の施工マニュアルとして、基礎工事から耐力壁設置までの詳細な施工ポイントを解説した横浜市の公式資料