

固有振動数は、建築物が1秒間に振動する回数を表す指標で、構造物の剛性(ばね定数)と質量によって決まります。基本的な計算式は f=2π1mK で表され、ここで f は固有振動数[Hz]、K はばね剛性[N/m]、m は質量[kg]です。この式から、構造物の剛性が高いほど、または質量が小さいほど固有振動数は大きくなることが分かります。
参考)https://books-memorandum.com/frequency/
建築構造物では、片持ち梁の固有振動数を求める際に f=2π1mh33EI という公式が用いられます。この式において、E はヤング係数、I は断面二次モーメント、h は梁の長さを表します。断面二次モーメントは、矩形断面では I=12bh3、円形断面では I=64πd4 で計算されます。
参考)http://kentiku-kouzou.jp/kouzoukeisan-katamotikoyusindousu.html
実務では、建物全体の固有振動数を求める際に固有値解析という手法が使われます。固有値解析は、建物の「全体像」と振動特性を把握するための重要な解析手法で、設計の初期段階で建物がどの周期でどのように揺れるかを明らかにします。この解析では、質量マトリクスと剛性マトリクスを用いた固有方程式 (K−ω2M)U=0 を解くことで、固有角振動数と固有ベクトルを求めます。
参考)https://resp-kke.azurewebsites.net/2019/12/16/%E3%80%90%E6%96%B0%E4%BA%BA%E6%89%8B%E8%A8%98%E3%80%91/
固有振動数と固有周期は密接に関連しており、固有周期 T は固有振動数 f の逆数として T=f1 で表されます。固有周期は「揺れが1往復するのにかかる時間」を意味し、単位は秒[s]です。建築物では固有周期を用いて地震時の応答を評価することが一般的で、周期が長い建物ほど柔らかく、ゆっくりと揺れます。
参考)http://kentiku-kouzou.jp/taishin-koyusindousu.html
建築基準法では、建物の設計用一次固有周期を T=h(0.02+0.01α) という簡易式で計算できます。ここで h は建築物の高さ[m]、α は木造または鉄骨造である階の高さの合計の、h に対する比です。例えば、高さ9.0mの鉄筋コンクリート造建築物では α=0 となり、T=9.0×0.02=0.18 秒と計算されます。
参考)http://kentiku-kouzou.jp/taishin-koyusyuki.html
鉄筋コンクリート造などの堅い建築物は固有周期が短く(小さく)なり、木造や鉄骨造などの柔らかい建築物は固有周期が長く(大きく)なります。高さ9.0mで全て木造の建築物では α=1.00 となり、T=9.0×(0.02+0.01×1.00)=0.27 秒となります。この簡易式は振動解析が不要な一般的な建築物に適用され、より精密な評価が必要な場合は固有値解析を用いた計算が推奨されます。
参考)https://www.yurutto-kenchikulife.com/natural-period-of-structure/
建築物の固有振動数を実測する方法として、常時微動測定が広く用いられています。常時微動測定とは、建物が常に(常時)人間が感じない程度の小さな振動(微動)をしている状態をセンサーで計測する手法です。この測定から建物の振動性状を示す固有振動数を求めることができ、新築の2階建て木造住宅の平均的な固有振動数は6.0Hz程度とされています。
参考)https://www.forest.ac.jp/academy-archives/morinos-archi41/
常時微動測定では、建物の各階にセンサーを設置し、自然環境や周辺交通による微小な振動を記録します。測定データをフーリエ変換などの信号処理技術で解析することにより、周波数応答関数のピーク位置から固有振動数を特定できます。また、ピーク形状から減衰比を算出し、各測定点での応答の振幅比と位相差から振動モード形を導出することも可能です。
参考)https://www.tmcsystem.co.jp/column/fa/hammering-test
実測による固有振動数の把握は、設計値との比較や建物の経年変化の追跡に有効です。例えば、東西方向で11.0Hz程度、南北方向で6.9Hz程度の固有振動数を持つ建物は、最近の一般2階建て住宅の5.5~6.5Hz程度と比べて高い剛性を有すると評価できます。建築年と固有振動数には相関性があり、新しい建物ほど固有振動数が高く(揺れが小さい)傾向があることも実測から明らかになっています。
参考)http://www.sharaku.nuac.nagoya-u.ac.jp/data/pdf/articles/M04.Yamasaki0.pdf
実務での固有振動数の算出には、構造物のばね定数と質量の正確な評価が不可欠です。例えば、長さ4mの片持ち梁に先端荷重50kNが作用する場合を考えます。まず梁の剛性(ばね定数)を k=L33EI で算定します。ヤング係数 E=206 kN/mm2、断面二次モーメント I=1.0×108 mm4、長さ L=4000 mm とすると、k=400033×206000×1.0×108=968.75 N/mm となります。
参考)https://jp.misumi-ec.com/tech-info/categories/machine_design/md05/c1275.html
次に質量を求めます。荷重 P=50 kN なので、質量は m=1050×1000=5000 kg です(重力加速度を10m/s²として計算)。固有振動数は f=2π1mk=2π15000968750=2.22 Hz と算出されます。この計算から、固有振動数はばね定数が大きいほど、または質量が小さいほど高くなることが確認できます。
参考)https://techsol.jp/rigidity-improvement-design/
床スラブの固有振動数を求める場合、4辺が固定支持されたときの1次固有振動数を計算し、それを0.8倍した値を用いるのが一般的です。スラブの諸元(スパン長さ、厚さ、材料定数など)を入力することで居住性能を簡易評価でき、鉄骨造の床スラブでは実測値と計算値がほぼ等しい固有振動数が得られることが確認されています。実務では、振動数が15Hz以上であれば居住性の観点から良好とされます。
参考)https://www.kozosoft.co.jp/seihin/power/pdf/slab2_syousai.pdf
地震時に建物が大きな被害を受ける原因の一つが共振現象です。共振とは、地震の揺れの周期と建物の固有周期(固有振動数の逆数)が一致することにより、建物の揺れが増幅される現象を指します。身近な例では、ブランコをタイミングよく押すとどんどん揺れが大きくなる現象も共振の一種です。
参考)https://www.seishin-system.com/columns/resonance_phenomenon.html
建築物の固有振動数は、物体の質量(重さ)が大きいほど小さく、剛性(硬さ)が高いほど大きくなります。低層で剛性が高い建築物は固有振動数が大きいため、短い周期の振動が多い直下型地震で大きな被害を受けやすい特性があります。一方、高層で剛性が低い建築物は固有振動数が小さいため、長い周期の地震動(減衰しにくく長距離まで届く、大規模な地震に多い)で被害を受けやすくなります。
参考)https://www.mizuho-re.co.jp/knowledge/dictionary/wordlist/print/?n=3960
戸建住宅は一般的に固有周期が短く、短周期の揺れで共振が起こりやすい傾向があります。建物の固有周期は「高さ」「固さ(耐震性)」「重さ(荷重)」などによって決まるため、設計段階でこれらの要素を適切に調整することが重要です。免震建物では、固有周期を4秒程度以上として地震の一般的な振動数より小さくすることで、地震による揺れを小さくし、共振を防ぐ仕組みが採用されています。
参考)https://www.mec-h.com/words/detail?n=3844
固有値解析は、建築設計の実務において建物の振動特性を詳細に評価するための不可欠な手法です。この解析では、建物の固有振動数だけでなく、固有モード(建物がどのように振動するか)も明らかにできます。固有モードは、建物の質点がどの方向にどれだけ変形するかを示す図で表現され、地震時の建物の挙動を視覚的に理解するのに役立ちます。
参考)https://d-monoweb.com/blog/what-eigenvalue-analysis/
有効質量という指標を用いることで、ある固有モードが建物全体の振動に与える影響度を評価できます。建物総質量のうち、質量の大きな質点が大きく振動するほど有効質量が大きくなり、有効質量比(有効質量/総質量)が1に近ければ建物の主要な振動モードであると判断されます。一般的に1次振動モードが建物全体の揺れを支配することが多く、設計では1次モードに着目した検討が重視されます。
参考)http://kentiku-kouzou.jp/taishin-1zisindoumodo.html
固有値解析の結果は、地震力の分布計算や共振の危険性評価に活用されます。特に不整形建物や高層建築では、簡易式では正確な評価が困難なため、固有値解析による詳細な振動特性の把握が必須となります。解析業務では、初期段階で建物の「全体像」とモデルの妥当性を確認するために固有値解析を実施し、問題となる固有モードを分析することで必要な補強対策の検討も行います。
参考)http://kentiku-kouzou.jp/taishin-koyuutikaiseki.html
建築構造物の固有振動を測定・評価する際には、いくつかの実務上の留意点があります。まず、設計時に算出した固有振動数と実測値には差異が生じる場合があり、地盤と建物の動的相互作用、隣接建物間の相互作用などが影響します。実測による固有振動数の追跡は、建物の経年変化や隣接工事の影響を把握するために有効な手段です。
床スラブの振動性能評価では、梁とスラブの諸元を入力して加振力を選択するだけで居住性能を簡易評価できるシステムが実用化されています。鉄骨造の床スラブでは、小梁の本数や配置により固有振動数が変化するため、適切な評価式を選択することで実測値とほぼ等しい固有振動数を得られます。床振動の検定では、固有振動数が15Hz以上であることが一つの目安とされています。
参考)https://www.obayashi.co.jp/technology/shoho/077/2013_077_44.pdf
ハンマリング試験という手法も、構造物の強度推定に活用されています。構造物を叩いて測定した固有振動数から、構造物の硬さ(剛性)と重さ(質量)の関係を分析し、弱い部分や傷んでいる箇所を特定できます。固有振動数の変化は構造物の剛性変化を示唆し、振動モード形の変化は局所的な損傷の可能性を示すため、建物の健全性評価における重要な指標となります。
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