

クラック充填樹脂を「なんとなくエポキシ」で括ると、同じ注入でも結果が割れます。建築のひび割れ補修で参照されやすいのがJIS A 6024で、モルタル・タイル・コンクリート等のひび割れ補修に用いる注入エポキシ樹脂や、欠損部の充塡補修に用いる材料を対象にしています。
現場判断で重要なのは「挙動の有無」です。外壁改修の標準工法の解説でも、挙動しないひび割れに使う注入剤はJIS A 6024の硬質形(低粘度形・中粘度形)とし、挙動するひび割れに使う注入剤はJIS A 6024の軟質形(低粘度形・中粘度形)とする、という整理が明示されています。
粘度選定は“入りやすさ”だけでなく“止めやすさ(漏れにくさ)”ともトレードオフです。実務の目安として、ひび割れ幅0.5mm未満は低粘度形、0.5mm以上は中粘度形を用いるという説明があり、幅の情報を工法選定に組み込むのが安全です。
低圧注入工法は、専用器具を使ってひび割れ内部にエポキシ樹脂等を「0.4MPa以下の低圧、かつ低速」で注入する補修方法として整理されています。
同様に、注入工法はゴムの復元力やスプリング等を使う治具で、0.4MPa以下の低圧・低速注入を行う、という説明もあり、現場では“圧を掛け過ぎない設計思想”が共通しています。
ここでのポイントは「圧が低い=簡単」ではないことです。低圧・低速は、ひび割れ内の空隙へ樹脂が追随しやすい一方、シール不良があるとその分だけ“静かに漏れ続ける”ため、漏れ監視とシール品質が成否を決めます。
施工管理の観点では、工程として「改修範囲確認→清掃→マーキング→シール→養生→計量・混練→注入→注入量測定→養生→仕上げ→清掃→自主検査」という流れが示されており、特に注入量測定を毎クラックで行い報告・協議する運用が推奨されています。
“入ったかどうか”を感覚で終わらせず、注入量を数字で残すのが、補修の再現性を上げる最短ルートです。
注入の前段で、結果を左右するのが「注入孔位置のマーキング」と「ひび割れのシール」です。外壁改修の標準手順では、注入孔間隔は特記がなければ200~300mm間隔とし、チョーク等で明示するとされています。
また、エアロプレート等の器具をシール材で固定し、ひび割れをシール材で「幅30mm、厚さ2mm程度」に塗布して確実にシールする、と具体寸法まで触れられています。
この数値が示唆するのは、シールは“線”ではなく“面”で止める設計だという点で、微細な凹凸・ピンホール・レイタンスが残ると漏れ経路になります。
さらに見落としがちなのが、裏面側への漏れリスクです。裏面に注入材が漏れるおそれがある場合、監督員と協議して裏面に仮止めシールをする、または流出しない粘度の注入材料を使用する、という運用が明記されています。
片面だけ見て「漏れてないからOK」と判断すると、裏で流出して空打ちになり、硬化後に打診・散水で初めて“効いていない”ことが露見します。
クラック補修では「注入」だけが正解ではありません。幅や状況によっては、Uカット(Vカット)シール材充填工法のように、ひび割れ部をU字・V字にカットして充填する考え方が一般的に紹介されています。
実務的な選別目安として、0.3mm未満はシール工法、0.3mm以上はUカット工法で補修を行う場合が多い、ただし0.5mmを基準にする例もある、という整理があり、判断基準が現場で揺れうる点自体が重要な情報です。
参考)ひび割れ(クラック)補修 Uカットシール材充填工法
つまり、幅だけで機械的に決めるのではなく、「動き」「漏水」「下地の脆弱」「仕上げ条件(塗装・打放し・タイル)」を含めて工法を選ぶ必要があります。
Uカット側のメリットは、ひび割れを“溝として再設計”できることです。ひび割れが再発しても、シーリング材が動きに追随して内部までのクラック進展を抑える、という説明があり、挙動が絡む現場では合理的な選択になり得ます。
一方で、騒音・粉塵・手間(費用)が増えやすい点も指摘されており、居住中・稼働中施設では工程計画の段階で織り込むべきです。
検索上位の解説は工法の全体像が中心になりがちですが、現場で事故が起きやすいのは「材料を正しく使った“つもり”」の領域です。標準手順でも、主剤と硬化剤を規定量に計量し、均一になるまで充分混練し、可使時間内に使い切る量を計量する、と釘を刺しています。
この“当たり前”が難しいのは、温度と段取りで可使時間が体感的に変わるからです。混練量が多い・容器が深い・直射日光下・夏場の熱い躯体近く、といった条件が重なると、樹脂が予想より早く粘り始め、低圧でも流動性が落ちて「手応えはあるのに奥まで行っていない」状態を作ります。
逆に冬場や低温時は、流動性は保っても硬化が遅れ、養生不足や振動でシールが割れてリークしやすくなります。標準手順が「硬化するまで衝撃や振動を与えないように養生」と繰り返し強調するのは、注入樹脂の硬化が“施工完了”の定義になるからです。
現場で実装しやすい対策は、次の3点です(どれも大げさな追加コストなしで効きます)。
施工の巧拙は、最終的に「樹脂がどこまで連続して充填されたか」に集約します。0.4MPa以下の低圧・低速という枠の中で、混練・シール・養生・記録を揃えるのが、クラック充填樹脂を“材料”ではなく“品質”として扱うコツです。
参考)https://www.hrr.mlit.go.jp/takada/wp-content/uploads/2024/02/f051d77713b0cd7d629a9e6ccacc71f1.pdf
有用:自動式低圧注入の標準手順(清掃・マーキング・シール厚み・注入孔間隔・JIS A 6024の使い分け・注入量測定)
https://www.cemedine.co.jp/engineering/renovation/concrete-wall_automatic-grouting/index.html
有用:低圧注入工法の定義(0.4MPa以下・低速)と注入量管理の考え方(発注者側資料)
https://www.hrr.mlit.go.jp/takada/wp-content/uploads/2024/02/f051d77713b0cd7d629a9e6ccacc71f1.pdf