クレーン等安全規則 移動式クレーンの安全対策と作業計画の要点

クレーン等安全規則 移動式クレーンの安全対策と作業計画の要点

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クレーン等安全規則 移動式クレーンの安全運転と管理

移動式クレーン安全規則の要点
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作業計画の策定

作業方法、転倒防止措置、労働者の配置と指揮系統を事前に定め、関係者に周知徹底する義務があります

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定格荷重の厳守

定格荷重を超える荷重をかけることは法令で禁止されており、運転者と玉掛け作業者が常時確認できる表示が必要です

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定期検査の実施

1ヶ月以内ごとの月次検査、1年以内ごとの年次検査、作業開始前の点検が義務付けられ、記録を3年間保存する必要があります

移動式クレーンの定格荷重と過負荷制限の規定

クレーン等安全規則第69条では、事業者は移動式クレーンにその定格荷重を超える荷重をかけて使用してはならないと明確に規定されています。定格荷重とは、移動式クレーンが安全に吊り上げることができる最大重量を指し、この制限は過負荷防止装置が作動する基準となります。
参考)https://www.jaish.gr.jp/anzen/hor/hombun/hor1-2/hor1-2-18-3-0.htm

定格荷重は、吊り荷だけでなくフックや治具の重量も含めた全ての重量を含む総荷重で計算する必要があります。移動式クレーンの能力は、車体と吊り荷の距離、ジブ(腕部)の傾斜角度などの要素によって変動するため、作業状況に応じた適切な荷重管理が不可欠です。
参考)移動式クレーンに関わる規定 現場作業編1

過負荷状態で使用すると、荷物の落下、ワイヤーロープの切断、ジブの破損などの重大事故につながる危険性があります。そのため、クレーン等安全規則第70条の2では、運転者及び玉掛けをする者が定格荷重を常時知ることができるよう、表示その他の措置を講じなければならないと定められています。​
クレーン等安全規則の全文(安全衛生情報センター)
定格荷重制限や傾斜角制限など、移動式クレーンの使用に関する法令の詳細が確認できます。

 

移動式クレーン作業における転倒防止とアウトリガーの使用基準

クレーン等安全規則第66条の2は、移動式クレーンを用いて作業を行う際に、転倒等による労働者の危険を防止するため、事業者が事前に定めるべき事項を規定しています。具体的には、作業に係る場所の広さ、地形及び地質の状態、運搬しようとする荷の重量、使用する移動式クレーンの種類及び能力等を考慮して、作業方法、転倒防止方法、労働者の配置及び指揮系統を定める必要があります。​
地盤が軟弱な場所や埋設物が損壊するおそれのある場所では、移動式クレーンの使用が禁止されていますが、転倒防止のため必要な広さ及び強度を有する鉄板等を敷設した場合は使用可能です。この鉄板敷設は、アウトリガーの沈下を防ぎ、クレーンの安定性を確保する重要な措置となります。​
アウトリガーは、吊り作業を行う際の安定装置として、車体の左右に張り出して踏ん張り力を増加させる役割を持ちます。クレーン等安全規則第70条の5では、アウトリガーを有する移動式クレーンを用いて作業を行う際は、アウトリガーを最大限に張り出さなければならないと定めています。ただし、最大限に張り出すことができない場合でも、移動式クレーンに掛ける荷重がアウトリガーの張り出し幅に応じた定格荷重を下回ることが確実に見込まれるときは、例外的に認められます。
参考)クレーンのアウトリガーとは?役割や種類、X型・H型の違いを解…

アウトリガーを鉄板等の上に設置する場合は、移動式クレーンが転倒するおそれのない位置に設置することが義務付けられています。この適切な設置により、荷重が分散され、車両の傾きを抑制し、全体的な安定性が向上します。​
移動式クレーンの現場作業規定の詳細解説
アウトリガーの張り出し方法や地盤対策など、現場での実務的な安全対策が詳しく説明されています。

 

移動式クレーンの運転資格と就業制限の要件

クレーン等安全規則第68条では、つり上げ荷重5トン以上の移動式クレーンの運転業務については、移動式クレーン運転士免許を受けた者でなければ就かせてはならないと規定しています。ただし、つり上げ荷重が1トン以上5トン未満の小型移動式クレーンの運転業務については、小型移動式クレーン運転技能講習を修了した者を当該業務に就かせることができます。
参考)労働安全衛生規則(移動式クレーン付きの積載車について、化学物…

移動式クレーン運転士免許を取得するためには、全国8カ所に設置されている安全衛生技術センターで実施される学科試験および実技試験に合格する必要があります。実技試験については、各都道府県労働局長登録教習機関において「移動式クレーン運転実技教習」を受講し、修了試験に合格すれば免除されます。
参考)移動式クレーン免許とは?取得の流れや費用、学科・実技試験の内…

小型移動式クレーン運転技能講習の費用は25,000円から50,000円前後で、通常20時間(学科13時間、実技7時間)の受講が必要です。受講資格は18歳以上で、都道府県労働局長登録教習機関に申し込むことができます。​
つり上げ荷重が1トン未満の移動式クレーンの運転業務については、特別の教育を実施する必要があります。この特別教育では、移動式クレーンに関する知識、原動機及び電気に関する知識、力学に関する知識、関係法令、移動式クレーンの運転、運転のための合図について教育を行います。​
クレーン運転の資格取得は、建築資材などの重量物を扱う際の安全確保のために不可欠であり、玉掛け作業に関する十分な知識も求められます。移動式クレーンの運転ミスや玉掛け作業の不備は、死亡事故につながる重大なリスクがあるため、適切な講習受講と資格取得が現場の安全を守る基盤となります。
参考)移動式クレーンの運転って、天井クレーンの資格ではダメなの?様…

移動式クレーンの定期自主検査と点検の義務

クレーン等安全規則第76条では、事業者は移動式クレーンを設置した後、1年以内ごとに1回、定期に自主検査を行わなければならないと定めています。この年次検査では、荷重試験を実施する必要があり、移動式クレーンに定格荷重に相当する荷重の荷をつって、つり上げ、旋回、走行等の作動を定格速度により行います。
参考)移動式クレーンの自主点検

クレーン等安全規則第77条では、1月以内ごとに1回、定期に月次検査を行う義務が定められています。月次検査の対象項目は、巻過防止装置その他の安全装置、過負荷警報装置その他の警報装置、ブレーキ及びクラッチの異常の有無、ワイヤロープ及びつりチェーンの損傷の有無、フック、グラブバケット等のつり具の損傷の有無、配線、配電盤及びコントローラーの異常の有無となっています。​
クレーン等安全規則第78条では、移動式クレーンを用いて作業を行う際、その日の作業を開始する前に作業開始前点検を行わなければならないと規定しています。点検項目は、巻過防止装置、過負荷警報装置その他の警報装置、ブレーキ、クラッチ及びコントローラーの機能についてです。​
これらの自主検査及び点検の結果は記録し、3年間保存することが義務付けられています。検査や点検で異常を認めた場合は、直ちに補修しなければなりません。​
つり上げ荷重が3t以上の移動式クレーンは、性能検査を受ける必要があり、移動式クレーン検査証の有効期間は原則2年です。性能検査では、荷重試験が必ず実施され、移動式クレーンの吊り上げ能力が規定未満の場合は使用できません。一方、つり上げ荷重が3t未満の移動式クレーンは、自主検査のみで性能検査は不要です。​
移動式クレーンの自主点検の実務解説
年次点検、月次点検、作業開始前点検の具体的な実施方法と記録保存の要件が詳しく説明されています。

 

移動式クレーン作業計画における建築現場特有の安全配慮事項

建築現場において移動式クレーンを使用する際、事前の現地調査と作業計画の作成が法令で義務付けられています。現地調査では、移動式クレーン配置予定場所の地盤状態、架空電線の位置、作業範囲、吊り荷の最大重量などを詳細に確認する必要があります。​
架空電線への接触による感電事故を防止するため、労働安全衛生規則第349条では、充電電路に近接する場所で移動式クレーン作業を行う場合の措置を定めています。具体的な措置として、充電電路の移設、感電防止のための囲いの設置、絶縁用防護具の装着、これらが困難な場合は監視人の配置が挙げられます。​
電圧別の安全離隔距離は、高圧(6.6KV以下)で電力会社推奨2.0m、特別高圧(22KV以下)で3.0m、66KVで4.0m、154KVで5.0mとなっており、作業時にはこの離隔距離を確保する必要があります。離隔距離確保の対策として、離隔限界位置にロープを張り、監視者がクレーンのジブがロープに近づかないようチェックする方法が有効です。​
建築現場では、鉄骨造の建物の場合、鉄骨柱が吊り荷の最大重量となることが多く、鉄筋コンクリート造に比べて楊重計画が重要なポイントとなります。吊り荷の楊重先の高さ設定、定格総荷重の確認、風や操作による荷ぶれを考慮した安全率の設定(定格総荷重の80%など)が作業計画の重要な要素です。
参考)【安全管理】クレーンの選定とクレーン作業計画について解説! …

クレーン作業計画書には、基本情報、作業期間、作業内容や条件、クレーンの能力、配置や選任、作業中止の基準などを記載し、作業開始前に作業者へ周知することがクレーン則で定められています。この周知徹底により、関係労働者全員が作業内容を理解し、安全な作業遂行が可能となります。​
労働安全衛生規則第662条の8では、3t以上の移動式クレーン作業を下請け等の関係請負人に注文する場合、作業の内容、作業に係る指示の系統及び立入禁止区域について必要な連絡及び調整を行わなければならないと規定しています。複数の事業者が関わる建築現場では、この連絡調整が事故防止の鍵となります。​
クレーン作業計画書の作成方法と安全管理
建築現場でのクレーン選定方法、配置図の作成、定格総荷重表の見方など、実務的な計画作成手順が解説されています。