

三菱ふそうキャンターのメーターに表示される「ENG SYS」赤色警告灯は、エンジン制御システムに重大な異常が発生していることを示す最も危険度の高い警告です。橙色の警告灯とは異なり、赤色警告灯が点灯した場合はエンジン出力が制限されている状態を意味します。この警告灯を無視して走行を続けると、走行中に突然エンジンが停止する可能性があり、交通事故につながる重大なリスクを伴います。
特に4P10型エンジンを搭載したブルーテックキャンターでは、この赤色警告灯の点灯頻度が他の車種と比較して高く、整備業界では「トラブルの多いエンジン」として広く認識されています。走行中にギヤの切り替わりのタイミングでチェックランプが点灯し、エンジンストールが発生するケースも報告されており、荷物の積載量が多い時や負荷が大きい時に症状が頻発する傾向があります。
エンジン停止後に再始動するとチェックランプが一時的に消えることもありますが、これは根本的な問題が解決したわけではなく、故障コードは車両のコンピュータに記録されています。安全な場所に停車してスタータースイッチをLOCK→ONにして表示が消えるか確認し、消えない場合は速やかに専門の整備工場に連絡する必要があります。
ENG SYS赤色警告灯が点灯する最も一般的な原因は、燃料供給系統の不具合です。特にサプライポンプ(燃料供給ポンプ)の故障が多く報告されており、実際の修理事例では、走行中にギヤの切り替わりのタイミングでチェックランプが点灯し、エンジンが停止する症状が確認されています。
故障診断機で読み取られる代表的な故障コードには、33F1F4、34F1E0、37F1F4、DBF0FFなどがあり、これらはコモンレール圧力異常やプレッシャーセンサーの不具合を示しています。ある修理事例では、最初にコモンレールとプレッシャーセンサーを交換しましたが症状が完全には改善せず、最終的にサプライポンプの交換によって問題が解決しました。
| 故障部位 | 症状 | 修理費用の目安 |
|---|---|---|
| サプライポンプ | レール圧不安定、吹け上がり不良 | 約33万円(部品代+工賃) |
| コモンレール | 燃料圧力低下、エンジン始動不良 | 約15~25万円 |
| プレッシャーセンサー | 圧力検出異常 | 約3~5万円 |
| フューエルポンプリレー | 始動不能(セルは回る) | 約5千円~1万円 |
サプライポンプは分解修理が不可能な部品のため、本体ごとの交換が必要になります。交換作業は約3時間かかり、エンジンの左前部に取り付けられているため、合いマークを正確に合わせないと再度チェックランプが点灯する可能性があります。交換後は必ずエア抜き作業を実施し、テスト走行でデータモニターの実測値を確認することが重要です。
意外な故障原因として、フューエルポンプリレーの不良も報告されています。この場合、セルは回るがエンジンが始動せず、エンジンチェックランプは点灯しないという特徴的な症状を示します。リレーをコンコンと指で叩くとエンジンが始動することもあり、比較的安価な部品交換で解決できるケースもあります。
ENG SYS赤色警告灯が走行中に点灯した場合、まず冷静に安全な場所への移動を最優先に考える必要があります。エンジン出力が制限されているため、加速性能が低下していますが、完全にエンジンが停止するまでは走行可能です。ハザードランプを点灯させ、後続車に異常を知らせながら、路肩や駐車場など安全な場所に速やかに移動してください。
安全な場所に停車したら、以下の手順で応急対処を行います。
警告灯が消灯しない場合や、再始動後すぐに再点灯する場合は、自走での移動は避けるべきです。専門の整備工場やディーラーに連絡し、レッカー車での搬送を依頼してください。無理に走行を続けると、エンジン内部の損傷が拡大し、修理費用がさらに高額になるリスクがあります。
また、警告灯が点灯した時点で、車両のコンピュータには故障コードが記録されています。自己判断でバッテリーを外して故障コードを消去する行為は、診断を困難にし、別のトラブルを引き起こす可能性があるため絶対に避けてください。必ず専門のスキャンツール(診断機)を使用して故障コードを確認し、適切な修理を行うことが重要です。
不動産従事者の方で業務用車両としてキャンターを使用している場合、突然の故障による業務停止を避けるため、JAFなどのロードサービスへの加入も検討する価値があります。特に遠方での作業が多い場合、24時間対応のサポート体制があると安心です。
三菱ふそうキャンターの4P10型ディーゼルエンジンは、排出ガス規制対応のために高度な電子制御システムを搭載していますが、それゆえに複雑な故障が発生しやすいという特徴があります。整備業界では「4P10はトラブル多め」として認識されており、アドブルー(尿素水)系統とエンジン系統のチェックランプ点灯頻度が特に高いことが報告されています。
4P10エンジン特有のトラブルには以下のようなパターンがあります。
🔹 燃料系統の複合的故障
サプライポンプ単体の故障だけでなく、コモンレール、プレッシャーセンサー、インジェクター、フューエルフィルターなど複数の部品が連鎖的に影響を及ぼすケースが多い
🔹 コネクタ部の接触不良
低圧側燃料ポンプのコネクタ端子が焼けて接触不良を起こし、始動不能になる事例が複数報告されており、この車種特有のトラブルと考えられている
🔹 アドブルー系統との同時故障
ENG SYS警告灯とアドブルー警告灯が同時に点灯するケースがあり、NOxセンサーやSCR(選択触媒還元)システムの異常が絡む複雑な故障になりやすい
🔹 負荷時の症状悪化
荷物の積載量が多い時やシフトチェンジ時など、エンジンに負荷がかかる状況で症状が頻発する傾向があり、通常走行では問題が出ないため診断が難しい
特に注意すべきは、アドブルー系統の警告を放置した場合の影響です。アドブルー警告灯(橙色)が点灯したまま300km以上走行すると、一定の距離を経過した時点で強制的にエンジンが始動できなくなる保護機能が作動します。この状態になると、アドブルーを補充しただけでは解決せず、専門の診断機でリセット処理を行わなければエンジンを始動できません。
ウォーターポンプの故障が同時に発生するケースもあり、ある修理事例ではサプライポンプとウォーターポンプの複合的要因により走行不能になった車両が報告されています。オーバーヒートの兆候がある場合は、ウォーターポンプのキャビテーション(空洞現象)による不良も疑う必要があります。
定期点検を怠ると防げる故障も防げず、必要な時に車が使えないばかりか、安全に運行できず事故の要因となる場合もあります。フロントガラスの左上にある丸いステッカーに記載された点検期日を守ることが、高額な修理費用を避ける最善の方法です。
三菱ふそうキャンターのENG SYS赤色警告灯トラブルを未然に防ぐためには、日常的な点検と適切なメンテナンスサイクルの維持が不可欠です。特に4P10エンジンはトラブルが多い傾向があるため、予防保全の考え方が重要になります。
定期的な燃料系統メンテナンスが最も効果的な予防策です。フューエルフィルターは定期的に交換し、燃料タンク内の水分除去を怠らないようにしてください。WATER SEPR(燃料フィルター警告灯)が橙色で点灯した場合は、燃料フィルター内に水が増加しているサインです。そのまま放置するとサプライポンプやインジェクターの故障につながり、高額な修理が必要になります。
燃料フィルターの水抜き作業は、ドレーンプラグを緩めて溜まった水を排出し、燃料が出てきたら合いマークが合う位置まで締め付けます(締付けトルク1.5N.m)。水抜き後は燃料系統にエアが混入するため、スタータースイッチを30秒間ON位置にしてエア抜きを行う必要があります。4P10エンジンには電気式燃料ポンプが装備されているため、この方法で自動的にエア抜きが可能です。
エンジンオイルの管理も重要なポイントです。ENG OIL(橙色)とENG SYS(橙色)が交互に表示される場合は、エンジンオイル劣化の警告です。DPF(ディーゼル微粒子フィルター)再生時に燃料の一部がエンジンオイルに混入するため、長期間オイル交換をしないと燃料混入量が上限を超えてしまいます。オイル交換時には必ずエンジンコントロールユニット(ECU)のリセット処理を行い、オイル劣化の履歴をクリアしてください。
| 点検項目 | 推奨頻度 | 費用目安 |
|---|---|---|
| フューエルフィルター交換 | 20,000~30,000km毎 | 約8,500円(部品代6,000円+工賃2,500円) |
| エンジンオイル交換 | 10,000~15,000km毎 | 約15,000~25,000円 |
| 燃料フィルター水抜き | 3ヶ月毎または異常時 | 約2,000~3,000円 |
| コンピュータ診断 | 異常時または年1回 | 約3,000~8,000円 |
アドブルー関連のトラブルを防ぐため、尿素水の品質と補充タイミングにも注意が必要です。純正のアドブルーを使用し、アドブルータンクが空になる前に補充してください。粗悪な尿素水を使用すると、NOxセンサーやSCR触媒の故障原因となり、10万円以上の高額修理になる可能性があります。
不動産業務で頻繁に使用する商用車両の場合、走行距離が多くなるため、メーカー推奨の点検サイクルよりも短い間隔でのメンテナンスが望ましいです。特に積載量が多い使用方法では、燃料系統への負荷が大きくなり、サプライポンプなどの消耗が早まります。
異常を感じたら早期に専門工場で診断を受けることが、結果的に修理費用の節約につながります。スキャンツール(診断機)による定期的なコンピュータチェックで、故障コードの記録がないか確認することも有効な予防策です。G-SCAN ZやMST-nanoなどのOBD検査対応スキャンツールを使用すれば、潜在的な異常を早期発見できます。
キャンターのサプライポンプ交換作業の詳細手順と費用内訳
三菱ふそうキャンターの赤色ENG SYS警告灯は、エンジンシステムの深刻な異常を示す重要なサインです。特に4P10エンジンではサプライポンプやコモンレールなどの燃料系統トラブルが多く、放置すると走行中のエンジン停止という危険な状況を招きます。警告灯が点灯した際は速やかに安全な場所に停車し、専門の整備工場で診断を受けてください。日頃から定期点検を実施し、燃料フィルターやエンジンオイルの適切な管理を行うことで、高額な修理費用を避けることができます。不動産業務で使用する商用車両として、予防保全の考え方を取り入れた維持管理が業務継続の鍵となります。