

基準値さえ満たせば品質は問題ないと思っていると、手戻り工事で数百万円の損失につながります。
マーシャル安定度試験(Marshall Stability Test)は、アスファルト混合物の強度と変形抵抗性を測定するために行われる品質管理試験です。舗装工事の現場では、設計した配合が実際の交通荷重に耐えられるかどうかを数値で確認するために欠かせない工程となっています。
試験の手順は、まず直径101.6mm・高さ63.5mm程度の円柱形供試体を作製し、60℃の水中に30〜40分間浸漬して温度を均一に整えます。その後、載荷速度50mm/分で圧縮荷重を加え、供試体が破壊するまでの最大荷重(安定度)と、その時点での変形量(フロー値)を記録します。試験はシンプルです。
ただし、供試体の作製精度が結果に直結するため、締固め回数や温度管理のわずかなズレが「合格」と「不合格」の境界を左右することがあります。特に現場では、骨材の乾燥不足や混合温度の低下が供試体品質に影響しやすく、「試験室では合格なのに現場では剥離が起きる」というケースが実際に報告されています。
試験結果は、安定度・フロー値・空隙率・飽和度の4指標で総合評価されます。1つの数値だけで合否を判断する考え方は誤りです。
マーシャル安定度試験の基準値は、一律ではなく道路の種別・交通量区分・使用する混合物の種類によって細かく設定されています。これが現場での混乱を生む原因の一つです。
日本道路協会が発行する「舗装設計施工指針」および「舗装試験法便覧」に基づく標準的な基準値の目安は以下のとおりです。
| 区分 | 安定度(kN) | フロー値(1/100cm) | 空隙率(%) | 飽和度(%) |
|---|---|---|---|---|
| 交通量大(大型車多) | 7.35以上 | 20〜40 | 3〜6 | 70〜85 |
| 交通量中程度 | 4.90以上 | 20〜40 | 3〜6 | 70〜85 |
| 交通量小(軽交通) | 3.43以上 | 20〜40 | 3〜6 | 70〜85 |
安定度の単位はkN(キロニュートン)です。かつてはkgfで表記されていたため、古い仕様書と新しい仕様書が混在している現場では単位換算ミスが起きやすく注意が必要です(1kgf≒0.0098kN)。
フロー値は「20〜40(1/100cm)」という範囲が基本です。20未満だと混合物が硬すぎて脆く、40を超えると軟らかすぎて轍掘れの原因になります。つまり上限も下限も外れると問題です。
空隙率3〜6%というのは、例えるならスポンジの目の粗さに相当します。空隙が多すぎると雨水が浸透して耐久性が下がり、少なすぎると夏場の高温でアスファルトが膨張した際に行き場がなくなりブリーディング(アスファルト分の滲み出し)が発生します。これは現場でよく見落とされる点です。
発注者が求める「契約上の基準値」と、メーカー配合設計書上の「目標値」は異なる場合があります。契約図書を必ず確認するのが原則です。
基準値を安定してクリアするためには、試験当日の操作だけでなく、配合設計の段階での精度が重要です。マーシャル試験は最終確認の場であって、そこで初めて調整しようとすると手遅れになることが多いです。
配合設計の核心は「最適アスファルト量(OAC:Optimum Asphalt Content)」の決定にあります。一般的に、アスファルト量を0.5%刻みで変化させながら複数の供試体を作製し、安定度・フロー値・空隙率・飽和度がすべて基準値を満たす範囲の中央値をOACとします。
骨材の粒度も見逃せません。粒度が設計値から外れると、空隙構造が変わり安定度が大きく変動します。特に細粒分(0.075mm通過分)の増加は、見かけの安定度を上げながら実際の耐久性を下げるという逆転現象を引き起こすことがあります。意外なポイントです。
また、締固め回数は試験条件として厳密に管理する必要があります。「舗装設計施工指針」では交通量区分に応じて両面各50回または75回の衝撃締固めが規定されており、この回数がずれると基準値との比較が無意味になります。締固め回数は絶対に守る必要があります。
現場で実際に使われる骨材のロットが変わると、同じ配合でも試験値が変動することがあります。石灰岩系と硬質砂岩系では同一配合でも安定度に10〜15%程度の差が出ることがあるため、骨材の産地・種類が変わった際には再試験を検討してください。
試験の手順を知っていても、現場判定で繰り返し失敗するケースがあります。その多くは「手順通りにやっている」という思い込みから生まれます。
最も多い失敗が「水浴温度の管理不足」です。供試体を60℃の水中に浸漬する工程で、水温が58℃や62℃にずれると、安定度の測定値が5〜10%変動することが確認されています。これは合否の境界にある混合物では致命的です。温度管理は基本です。
次に多いのが「載荷速度のズレ」です。規定の50mm/分に対して、装置の校正が不十分なまま使用を続けると実際には45〜55mm/分程度でばらつくことがあり、フロー値の再現性が著しく低下します。装置の定期校正は必須です。
供試体の高さ管理も見落とされがちです。標準の63.5mmに対して±3mm以内が許容範囲ですが、これを超えると安定度の補正係数を適用しなければなりません。補正係数を適用せずに提出した試験成績書は、発注者チェックで差し戻しになるケースがあります。痛いですね。
対策として、試験前のチェックリストを現場ごとに作成・運用することが効果的です。「水温・載荷速度・供試体高さ」の3点を試験開始前に必ず確認する習慣をつけることで、やり直し試験の発生率を大幅に減らせます。チェックリストの徹底が条件です。
また、試験結果が基準値ギリギリの場合は、1点の測定値だけで判断せず、同一混合物から3個以上の供試体を作製して平均値で評価することが推奨されています。「1個の数値が基準を超えていれば合格」という運用は、発注者によっては認められないことがあります。
ここで少し視点を変えます。マーシャル試験の基準値をすべてクリアしているにもかかわらず、施工後1〜2年で早期破損が起きた現場の事例が国内でも複数報告されています。これはなぜでしょうか?
理由の一つは、マーシャル試験が「静的荷重」に対する抵抗性を測定しているのに対し、実際の道路は「繰り返し動的荷重」にさらされているという本質的なギャップです。マーシャル試験はあくまで配合設計の確認ツールであり、疲労耐久性や低温ひび割れ抵抗性は別途の試験(ホイールトラッキング試験・低温曲げ試験など)で補完する必要があります。
もう一つの盲点が「施工時の温度管理と試験値の乖離」です。試験室で最適配合として設定した混合物でも、現場でのアスファルトフィニッシャーによる敷均し温度が135℃を下回ると締固め密度が不足し、完成後の空隙率が試験値より2〜3ポイント高くなることがあります。試験値と現場値は別物です。
この問題を防ぐために、現場コアサンプリングによる完成後の品質確認が重要です。舗装完成後にコアを採取して、実際の空隙率・密度をマーシャル試験値と照合することで、「試験室合格・現場不合格」の状況を早期に発見できます。発注者によっては完成検査でコア採取を義務付けているケースもあるため、契約書の確認が大切です。
さらに、近年では「改質アスファルト(ポリマー改質アスファルトⅡ型など)」を使用した混合物が増えており、従来のマーシャル試験基準値をそのまま適用することの妥当性が議論されています。改質アスファルトはフロー値が従来品より高くなる傾向があり、基準値の上限(40)を超えても実用上の問題がないケースがあります。この場合は発注者と事前に基準値の解釈について合意を取っておくことが、後々のトラブルを防ぐ鍵になります。
改質アスファルト使用時は、基準値の解釈を事前に確認するのが原則です。
参考資料として、日本道路協会が提供する舗装関連の技術基準・指針は以下のページで確認できます。配合設計の根拠資料として発注者への提出書類に活用できます。
日本道路協会 出版物一覧(舗装設計施工指針・舗装試験法便覧など)
また、国土交通省が公開している舗装工事共通仕様書・品質管理基準は、公共工事における試験頻度・合格基準の根拠として直接参照できる資料です。
マーシャル安定度試験は、基準値を「クリアするゴール」ではなく「品質確認の出発点」として位置づけることが、長期的に信頼される舗装工事につながります。数値の意味を理解して使うことが大切です。