
ミルシート(鋼材検査証明書)は、建築業界における品質管理の根幹を成す重要な文書です。JIS規格に基づいて発行されるこの証明書は、使用する鋼材が設計上の要求値を満たしていることを証明する唯一の書類として位置づけられています。
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建築基準法においては、工事の受注者は設計図通りの資材を使用して強度を確保する義務があり、その裏付けとしてミルシートの提出が義務付けられています。特に海外規格品鋼材の場合でも、品質管理が適切に行われた規格品証明書(ミルシート)により、当該鋼材の適合性を証明する必要があります。
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鋼材メーカーは製造ロット単位で化学成分と機械的性質を検査し、JIS適合品として品質を保証する責任を負っています。このシステムにより、建築完了時においてはミルシートの提出が法的要求事項となり、構造物の安全性の裏付けとして機能しています。
JIS G 0415:2024「鋼及び鋼製品―検査文書」は、日本産業規格で規定された鋼材の出荷において、注文書の要求事項に従って注文者へ提出される検査文書について規定している基本規格です。この規格は2013年に発行されたISO 10474を基とし、技術的内容を変更して作成された日本産業規格であり、鋼材の品質証明における国際的な整合性も考慮されています。
参考)https://www.jisf.or.jp/business/standard/jis/documents/docs_kouzai_0300_JISG0415_20231220.pdf
検査文書の種類は、JIS G 0415の表1(検査文書の総括表)により詳細に分類されています。特に指定がない場合、記号2.3(受渡試験報告書)または記号3.1.B(検査証明書3.1.B)が使用されることが一般的です。検査文書のタイプ3.1.Bは、独立した検査部門による証明文書として位置づけられており、より厳格な品質保証を提供します。
参考)http://www.nagai-giken.com/snonfm10.html
製造業者は注文者の要求に応じて、JIS G 0415により試験の成績、製造方法、注文寸法、数量、製造の履歴が分かるものを記載した検査文書を提出しなければなりません。この規格により、ミルシートの記載内容と発行手順が標準化され、全国的な品質管理システムの統一が図られています。
参考)JIS G 0415:2024 鋼及び鋼製品―検査文書
ミルシートの化学成分欄には、一般的に5元素(C、Si、Mn、P、S)の割合が記載され、材質によってはCu、Ni、Cr、Mo、V、Nbなどの成分も含まれます。これらの化学成分は、JIS規格に定められた上限値と実測値が並べて記載され、実測値が規格の範囲内に収まることが品質保証の基本となります。
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たとえば、炭素鋼(S45Cなど)の場合、炭素(C)、ケイ素(Si)、マンガン(Mn)などの含有量がJIS規格に適合しているかが重要なチェックポイントとなります。成分表における「規格値」と「実測値(実績値)」の比較により、材料の化学的特性が設計要求を満たしていることが客観的に証明されます。
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化学成分の検査は、鋼材の品質が規格に適合していることを確認するために行われる検査手法を示し、製造過程での品質管理の厳密性を保証しています。この検査データにより、鋼材の製造元から最終使用先まで情報が明確になり、品質追跡のための重要な根拠となります。
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ミルシートの機械的性質欄には、引張強さ、降伏点(または耐力)、伸び、硬度などの重要な物理的特性が記載されます。これらの性質値がJIS規格に合致していることを示す情報は、構造設計における安全性確保の根幹となります。
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特に重要なのは引張強さ(N/mm²)の確認であり、例えばSS400の鋼材では400N/mm²以上、SM490では490N/mm²以上であることが規格で求められています。SM490の場合、降伏点は325N/mm²以上と規定されており、これらの値が規格より低いと設計に使用できないばかりか、構造物の安全性に重大な影響を与える可能性があります。
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機械的性質の検査では、引張試験によって材料の強度特性が実測され、各機械的性質の実測値がJIS規格内に収まっていれば合格となります。溶接構造用圧延鋼材であるSM490は、JIS G3106に規格化されており、溶接性が良好で強度が高い特徴を持っています。
参考)http://www.ishiharashouji.jp/pdf/QA-M021.pdf
ミルシートには製造番号(ロット番号)が記載され、これにより現物の鋼材との一致を確認することができます。この管理番号システムにより、特定の鋼材の歴史や品質が追跡可能となり、問題が発生した場合の迅速な対応が実現されます。
鋼材メーカーでは、鋼材についての問い合わせに備えて各鋼材に管理番号を付けて管理しており、受注番号には出荷された製品のロット番号や出荷年月日、注文者や需要家といったミルシート発行に必要な情報が含まれています。この仕組みにより、実際の製品と証明内容とを確実に紐付けることができます。
鋼材メーカーは発行したミルシートを適切に保管し、必要に応じて発注者からの問い合わせや再発行の依頼に対応する責任があります。納入後にミルシートが必要となった場合は、受注番号を伝えることでスムーズな発行が可能であり、分からない場合でも出荷年月日や注文者情報から調査することができます。
ミルシートは鋼材の品質を証明する特化した文書である一方、材料証明書はゴム・化学薬品・鋼材・木材など材料全般の品質を証明する幅広い書類として位置づけられています。つまり、鋼材の品質を証明するミルシートは、材料証明書の一種として理解することができます。
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検査成績書との違いについては、ミルシートが製品の材料・素材となる鋼材の品質を証明する役割を果たすのに対し、検査成績書は加工済みの製品の品質を証明する点が明確な相違点です。このように、品質管理における役割分担が明確に定められています。
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材料証明書は製造業者が自社製品に使用する材料の品質や規格を確認する証明書であり、取引先からのリクエストに基づいて業者が作成します。一方、ミルシートは鉄鋼メーカー(ミル)が発行する公的な品質保証書類であり、製品の化学構成、機械的性質、熱処理状態等が詳細に記載されています。
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