

ピロティ部分の床面積算定については、昭和61年4月30日建設省住指発第115号「床面積の算定方法について」により、明確な基準が示されています。この通達では、「十分に外気に開放され、かつ、屋内的用途に供しない部分は、床面積に算入しない」と定められており、建築確認申請時の判断基準となっています。
参考)https://www.city.osaka.lg.jp/toshikeikaku/cmsfiles/contents/0000021/21604/20170323sankou1.pdf
ピロティが床面積に算入されないための条件は2つあります。第一に「十分に外気に開放されている」こととは、ピロティ部分がその接する道路または空地と一体の空間を形成し、かつ、常時人の通行が可能な状態にあることを指します。具体的には、ピロティ部分の周長の相当部分が壁のような風雨を防ぎ得る構造で区画されている場合は、床面積に算入する扱いとなります。第二に「屋内的用途に供しない」ことが必要で、この判断が車路の取扱いに大きく影響します。
参考)http://www.pref.kanagawa.jp/documents/24926/390829.pdf
神奈川県や大阪市などの自治体では、ピロティの開放性を判断する際に、幅4メートル以上の公共的空地に接し、開口部の長さが周長の2分の1以上であることを基準としています。このような数値基準を設けることで、設計者が明確に判断できる仕組みが整備されています。
屋内的用途とは、「居住、執務、作業、集会、娯楽、物品の陳列、保管又は格納等の用途」を指します。したがって、ピロティを自動車車庫、自転車置場、倉庫等として利用する場合には、屋内的用途に供するものとして、当該部分は床面積に算入することになります。
参考)https://www.city.ginowan.lg.jp/material/files/group/39/yukamennseki.pdf
重要なのは、駐車部分と一体となったピロティ内の車路部分も床面積に算入する扱いとなる点です。大阪市建築基準法取扱い要領や神奈川県建築基準法取扱基準では、自動車車庫として利用可能な場合、その車庫と一体となった車路部分についても屋内的用途に供する部分として床面積に算入することが明記されています。
参考)http://toyama.o.oo7.jp/k_yukamen_main.htm
ただし、ピロティ内の一部を屋内的用途で供する場合でも、ピロティ全体を床面積に算入するのではなく、屋内的用途に供する当該部分のみを床面積に算入します。このため、車庫部分と完全に分離された通行専用の車路については、「寄りつき」として判断され、床面積に算入されない可能性もあります。
自動車車庫部分については、容積率算定において特別な緩和措置が設けられています。建築基準法施行令第2条第1項4号では、自動車車庫その他の専ら自動車または自転車の停留または駐車のための施設の用途に供する部分の床面積は、建築物の各階の床面積の合計の5分の1を限度として、容積率算定上の延べ面積に算入しないと定められています。
参考)https://d-line.tokyo/column/16669/
この緩和措置の適用に特別な条件は必要なく、用途が自動車車庫であれば自動的に緩和されます。重要なのは、自動車車庫に通ずる車路も容積率緩和の対象となる点です。また、カーポートのような簡易的な構造であっても、構造・形式に関係なく、用途が車庫であれば容積率緩和の対象となります。
参考)https://www.sumai-fun.com/%E8%BB%8A%E5%BA%AB%EF%BC%88%E3%82%AB%E3%83%BC%E3%83%9D%E3%83%BC%E3%83%88%EF%BC%89%E3%81%AF%E5%AE%B9%E7%A9%8D%E7%8E%87%E3%81%8C%E7%B7%A9%E5%92%8C%E3%81%95%E3%82%8C%E3%82%8B%EF%BC%9F/
容積率緩和の計算例を示すと、全体延床面積が120平方メートル、車庫の床面積が20平方メートルの場合、緩和上限は120÷5=24平方メートルとなり、車庫の床面積20平方メートルは全て容積率算定床面積から除かれることになります。ただし、全体延床面積の5分の1を超える自動車車庫の床面積については、超えた部分が通常の床面積と同様に容積率に算入されます。
参考)https://miraie-f.co.jp/contents/8456
ピロティ内に車路を設ける場合、床面積算定と容積率緩和の両面から注意が必要です。まず、床面積の算定では、駐車部分と一体となった車路は屋内的用途として床面積に算入されますが、容積率の計算では自動車車庫に通ずる車路として5分の1の緩和対象となる可能性があります。
設計時には、消防法における床面積の取扱いも考慮する必要があります。消防法では、車路は床面積に算入するのが原則ですが、上部に屋根等が無く床面積が発生しない外部進入路(ランプ、スロープ)は算入しない扱いとなります。また、上階または下階に通じる傾斜路、ランプ、カーリフト等は算入しない自治体もあります。
参考)https://www.city.kagoshima.lg.jp/shobo/yobou/documents/1-4yukamensekitoriatukai.pdf
令和5年3月13日の国土交通省事務連絡「ピロティに係る建築基準法上の床面積の取り扱いについて」では、「ピロティが屋内的用途に供するか否かについては、想定される使用状況など、個々の計画内容に応じて適切に判断すること」とされています。このため、確認申請時には特定行政庁と事前協議を行い、明確な判断を得ることが重要です。
参考)https://kansa.bvjc.com/column/2024/240408.html
ピロティ車路の設計では、建築基準法上の算定だけでなく、実際の維持管理と収益性も考慮すべきです。駐車場を設計する際には、地面に勾配をつけておくことが重要で、一般的に1.5~2パーセント程度が良いとされています。勾配がないと水はけが悪くなり、水たまりができて利用者の乗り降りがしにくくなります。ただし、5パーセント以上の急勾配は安全上の観点から推奨されません。
参考)https://note.tacthome.co.jp/n/nee2bf2493b19
排水計画は雨天時の安全性を左右する重要な要素です。効果的な排水計画により、水たまりを防ぎ、スリップ事故のリスクを抑えることができます。路面材料には滑り止め加工または透水性舗装を選択し、排水溝は車両動線を避けた適切な位置に配置することが望ましいです。
参考)https://rehome-navi.com/articles/3297
商業ビルや賃貸マンションでは、ピロティ部分の車路が床面積に算入されるか否かで、容積率の有効活用に大きな差が生じます。例えば、敷地面積600平方メートル、容積率800パーセントの商業地域において、ビル3,000平方メートル、立体駐車場および車路700平方メートルの場合、総延べ面積は3,700平方メートルとなりますが、容積率緩和により実質的な建築可能面積を拡大できる可能性があります。
参考)https://www.iuk.co.jp/parking/cad/data/PDF/10.pdf
建築物全体の延べ面積が1,200平方メートルの場合、その5分の1である240平方メートルまでが容積率不算入の対象となります。車庫面積が240平方メートル以上であれば、床面積の合計は最大1,200平方メートルまで取ることができ、すべてを立体駐車場とするならば約80台収容可能となります。このように、ピロティ車路の適切な設計と算定により、建築物の収益性を最大化することが可能です。
国土交通省の床面積算定方法については以下の資料が参考になります。ピロティと車路の詳細な判断基準が記載されています。
国土交通省「床面積の算定方法について」(昭和61年住指発第115号)
大阪市の建築基準法取扱い要領には、ピロティ内の車路部分の具体的な算定事例が掲載されており、実務上の参考となります。
大阪市建築基準法取扱い要領
神奈川県の建築基準法取扱基準では、外気開放の判定基準について図解入りで解説されています。