石油精製プロセスと製油所における蒸留・脱硫・分解の工程

石油精製プロセスと製油所における蒸留・脱硫・分解の工程

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石油精製プロセスと製油所の工程

石油精製の主要工程
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蒸留工程

常圧蒸留装置と減圧蒸留装置で原油を各留分に分離する一次処理

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脱硫・分解工程

水素化脱硫装置で硫黄分を除去し、接触分解で重質油を軽質化

🔧
改質工程

接触改質装置でガソリンのオクタン価を向上させる二次処理

石油精製プロセスにおける常圧蒸留と減圧蒸留の仕組み

 

製油所では、まず原油を常圧蒸留装置(トッパー)で処理します。この装置では原油を加熱炉で350℃以上に加熱し、沸点の違いを利用してLPガス、ナフサ、灯油、軽油、重油などの留分に粗分けします。常圧蒸留装置は高さが50メートルにもなる大型の蒸留塔で、遠くからでも特徴的な姿が目立つ製油所のシンボル的設備です。
参考)http://www.paj.gr.jp/statis/faq/67

常圧蒸留で分離できない高沸点成分は、常圧残油として塔底に残ります。この常圧残油には潤滑油原料や接触分解原料などの有用な高沸点留分が含まれていますが、常圧下でさらに高温にすると熱分解が起こってしまいます。そのため、蒸留塔内の圧力を水銀柱で10~60mmという真空状態まで減圧し、熱分解を起こさない温度域で高沸点留分を分離する減圧蒸留装置が使用されます。
参考)https://oilgas-info.jogmec.go.jp/termlist/1000521/1000639.html

ENEOS石油便覧では製油所精製工程の詳細な解説と各留分の沸点範囲データが掲載されています

留分 沸点範囲 主な用途
LPガス -42℃~-1℃ 家庭用燃料、化学原料
ガソリン 35℃~180℃ 自動車燃料
灯油 170℃~250℃ 暖房用燃料
軽油 240℃~350℃ ディーゼル燃料
残油 350℃以上 重油、潤滑油原料

減圧蒸留装置から得られる減圧軽油は、水素化脱硫処理の対象となり、重質油の分解原料としても重要な役割を果たします。
参考)https://www.eneos.co.jp/company/rd/technical_review/pdf/vol54_no02_04.pdf

石油精製プロセスの水素化脱硫による硫黄分除去技術

脱硫工程は、石油製品の環境性能を向上させる重要なプロセスです。水素化脱硫装置では、各留分から硫黄分を取り除くことで、燃焼時に発生する硫黄酸化物(SOx)を低減させます。日本では2005年よりガソリンと軽油についてサルファーフリー(硫黄分10ppm以下)の製品供給が実現されています。​
水素化脱硫装置の中核となる反応器では、触媒の作用により石油留分中の硫黄化合物と水素が反応し、硫黄分が硫化水素として分離されます。使用される触媒は、アルミナ担体にモリブデン、コバルト、ニッケルを保持させたペレット状の構造で、反応器内に充填されています。
参考)http://matsumurahp.server-shared.com/pdf/EEE-taisaku-2bu-nenryouhukayokusei-2.1.2-sekiyu-2108.pdf

反応器の運転条件は、通常の脱硫では圧力2~3MPa、温度320~380℃程度ですが、特に厳しく硫黄分を除去する深度脱硫では4~6MPaの高圧条件が採用されています。反応器を通過した生成物は高圧高温分離槽で水素と分離され、水素は循環使用されます。その後、ストリッパーで硫化水素を含むガスを酸性ガスとして分離し、脱硫された留分が得られます。​
触媒工業協会のサイトでは水素化脱硫触媒の詳細な仕組みと環境保全への貢献が解説されています
水素化脱硫反応では脱硫だけでなく、脱窒素反応や分解反応も同時に進行するため、硫黄以外の不純物も炭化水素から分離されます。重油脱硫では、ニッケルとモリブデンをアルミナ担体上に高分散させた触媒が使用され、高温高圧下で硫黄は硫化水素、窒素はアンモニアとして除去されます。また、バナジウムやニッケルなどの重金属は触媒上に堆積させることで重質油から分離できます。
参考)https://cmaj.jp/aboutcatalysts/gasoline/

石油精製プロセスの接触分解と接触改質による製品高度化

分解工程では、蒸留工程で得られた炭素数の多い重油を原料として、より軽質で低分子な製品に変換します。これにより重油留分がガソリンの基材などに作り替えられ、製油所全体の製品バランスが最適化されます。流動接触分解装置(FCC)は代表的な分解装置で、ゼオライト触媒を使用して重質油を分解します。
参考)https://www.fortunebusinessinsights.com/jp/%E6%A5%AD%E7%95%8C-%E3%83%AC%E3%83%9D%E3%83%BC%E3%83%88/%E8%A3%BD%E6%B2%B9%E6%89%80%E8%A7%A6%E5%AA%92%E5%B8%82%E5%A0%B4-101090

ゼオライトは水分子を内部に閉じ込めた水和アルミノケイ酸塩鉱物で、高耐圧性、高耐熱性、高融点を有するため、製油所のFCC触媒プロセスに広く使用されています。製油所で生産されるゼオライトの大部分は、ガソリン、ディーゼル、石油由来製品の生産に使用され、これらの製品需要の増加が触媒市場の成長を後押ししています。​
接触改質工程は、ナフサ留分を自動車用ガソリンとして使えるようにオクタン価を高めるプロセスです。原油の蒸留で得られた重質ナフサ留分は、パラフィンやシクロアルカンが主成分でオクタン価が40~50程度と低いため、そのままではガソリン燃料として不十分です。
参考)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%8E%A5%E8%A7%A6%E6%94%B9%E8%B3%AA

接触改質装置では、まずナフサを水素化脱硫処理して触媒毒となる硫黄、窒素、金属などの不純物を除去します。使用される触媒は、焼成ゼオライトを担体とした白金やレニウムの貴金属触媒に塩素を添加したもので、水素存在下500℃程度で反応が行われます。反応では、貴金属により直鎖アルカンが脱水素されてアルケンに変化し、触媒からプロトンが供与されることでカルボカチオンが生成します。このカルボカチオンが水素原子やアルキル基の転位、環化を起こし、分岐の多いアルカンや芳香族炭化水素が生成されます。​
📊 接触改質による変化

  • 直鎖パラフィン → 分岐パラフィン(オクタン価向上)
  • シクロアルカン → 芳香族炭化水素(オクタン価大幅向上)
  • オクタン価40~50 → オクタン価90以上に改善

金属触媒には白金やパラジウムなどの貴金属、希土類元素、モリブデン、タングステン、ジルコニウムなどの遷移金属が含まれ、これらは水素化処理とFCC触媒精製プロセスで使用されます。​

石油精製プロセスにおける製油所設備の配置と処理能力

製油所の用地は、原油処理能力1バレル/日あたり6~16㎡が必要とされています。北海道製油所では13基もの精製装置があり、主に中東から大型タンカーで運ばれた原油が各精製装置を経由して石油製品となります。原油が常圧蒸留装置で処理される量は1日14万バレルで、石油製品になるまでには1日かかります。
参考)https://www.idemitsu.com/jp/business/factory/hokkaido/process/index.html

製油所の精製能力は、1製油所あたり常圧蒸留装置で毎分ドラム缶70本相当の原油を350℃にまで加熱する規模となっています。各設備の処理量(通油量)が非常に大きいため、既存技術では熱源を電化することが困難で、製油所では高温・高圧下での蒸留・分解・脱硫が連続的に行われています。
参考)https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/shigen_nenryo/carbon_management/ccs_wg/pdf/002_08_00.pdf

💡 意外な事実:製油所の常圧蒸留装置(トッパー)は、直径が通常10メートル以上、高さは50メートルにもなる巨大な設備で、1年間に札幌ドーム約5.5杯分の原油を精製する能力があります。
参考)https://doda.jp/DodaFront/View/CompanyJobs/j_id__00001088904/-oc__06L/

出光興産の北海道製油所サイトでは13基の精製装置を経由する石油製品製造フローが詳しく紹介されています
製油所では工業用水が冷却用水やボイラー給水等に使用され、電力も大量に消費されます。製油所内で発生したガスは主に各装置の燃料として利用され、水素化精製装置等で発生した硫化水素は硫黄回収装置で硫黄に転化して回収されます。
参考)https://www.eneos.co.jp/binran/part01/chapter02/section02.html

不動産従事者として製油所の設備を理解する際、各装置の配置と相互の関係性が重要です。常圧蒸留装置を中心に、減圧蒸留装置、複数の脱硫装置、分解装置、改質装置が有機的に連携し、原油タンクから製品タンクまでの一連のフローを構成しています。
参考)https://www.eneos.co.jp/binran/part01/chapter02/section03.html

石油精製プロセスと製油所の環境・安全管理体制

製油所では国民生活・経済活動に不可欠なガソリン・灯油・軽油などの石油製品を生産・安定供給する責務を担っています。そのため、環境保全と安全操業への取り組みが極めて重要です。製油所の大気汚染防止対策として、燃料等の燃焼により発生するSOx(硫黄酸化物)、NOx(窒素酸化物)、ばいじんなどに厳しい排出基準が設定されています。
参考)https://www.eneos.co.jp/company/about/branch/chiba/eco/

加熱炉には低NOxバーナーや最新技術の超低NOxバーナーが採用され、煙突から排出される燃焼排ガスには排煙脱硝装置、排煙脱硫装置、電気集じん機が設置されて排出削減が図られています。光化学オキシダント原因物質の一つとされている炭化水素については、タンクローリーやタンク車の出荷設備に炭化水素回収設備を設置し、排出抑制が行われています。​
製油所の排水処理も重要な環境対策です。排水は石油精製装置から排出されるプロセス廃水、冷却水、タンク底部の水分、雨水などに区分して処理されます。プロセス廃水は汚染度合により、排水処理装置で有害物質や油分を除去する系統と、油水分離装置で油分やスラッジを除去する系統に分けられます。その後、活性汚泥処理装置やサンドフィルター、活性炭などにより排水中の汚濁物質が除去されます。​
🏗️ 製油所の建築物の特徴

  • 試験室は石油製品の試験・分析を行う施設として、漏洩ガス対策のため給気設備により常に内圧が確保されている

    参考)https://www.cosmoeng.co.jp/projectcase/post-7.html

  • 南海トラフ巨大地震や首都直下地震に対して耐震性能を確保した設計が求められる​
  • 石油精製分野で蓄積したノウハウをもとに各種建築物の設計・施工が行われている​

安全操業への取り組みとして、製油所では装置群から発生する漏洩ガスへの対策が徹底されています。試験室などの施設では、漏洩ガスが流入しないよう給気設備により内圧が確保された状態が維持されています。また、大規模災害時にも石油製品のバックアップ供給力を確保し、事業継続が可能となるよう、高い耐震性能を持つ施設設計が採用されています。​
ENEOS千葉製油所の環境対策設備紹介ページでは最新の排煙処理設備と排水処理設備の詳細が掲載されています
製油所における安全管理体制は、高温・高圧という過酷な運転条件の中で、連続的な操業を維持するために不可欠です。石油精製オペレーターは、各装置の運転状態を常時監視し、異常が発生した場合には迅速に対応する専門技術を持つ必要があります。製油所全体として、プロセスの安全性、環境への配慮、製品品質の確保という三つの要素をバランス良く維持することが求められています。
参考)https://shigoto.mhlw.go.jp/User/Occupation/Detail/299