
サニタリ配管の規格選定において、まず理解すべきは各規格の基本的な特徴です。日本国内で流通している主要な規格は以下の通りです。
JIS G3459(配管用ステンレス鋼鋼管)
IDF/ISO規格
3A規格(米国サニタリー規格)
DIN規格(ドイツ規格協会規格)
これらの規格の中で、日本国内では改正されたJIS G3447:2015が現在の主流となっています。また、IDF/ISO規格も実用性の高さから広く使用されており、継手の種類も豊富です。
規格選定の際の注意点として、同じ外径でも内径や肉厚が異なるケースがあります。例えば、外径139.8mmを5S呼びとするメーカーもあれば、5.5S呼びとするメーカーもあり、業界内での統一が完全ではありません。
サニタリ配管規格選定において最も重要な検討項目が寸法の違いです。JIS規格とISO規格では、同じ呼び径でも実際の寸法が異なる場合があります。
寸法比較の具体例
呼び | JIS G3447外径(mm) | JIS G3447内径(mm) | ISO外径(mm) | ISO内径(mm) |
---|---|---|---|---|
1S相当 | 25.4 | 23.0 | 25.4 | 23.2 |
2S相当 | 50.8 | 47.8 | 51.0 | 48.0 |
3S相当 | 76.3 | 72.3 | 76.1 | 72.1 |
この寸法差は、継手選定時に重要な影響を与えます。特に、異なる規格の配管を接続する際は、内部に段差が生じる可能性があり、これは衛生面で致命的な問題となります。
肉厚の違いによる影響
JIS G3447では比較的薄肉設計となっており、軽量化と分解作業の容易性を重視しています。一方、JIS G3459(ガス管サイズ)は肉厚が大きく、高圧用途に適しています。
この肉厚の違いは、使用圧力や流体の種類によって選択基準となります。食品工業では軽量性を重視してJIS G3447を、医薬品工業では耐圧性を重視してJIS G3459を選択するケースが多く見られます。
内径サイズの対応範囲
各規格で対応している内径サイズ範囲も大きく異なります。IDFの最小1S規格では内径23mmですが、ISOの最小6A規格では内径8.1mmと、小径配管での選択肢に差があります。大径配管においても、最大値が規格により異なるため、設計段階での規格選定が重要です。
サニタリ配管システムにおいて、継手の選択は配管本体と同等かそれ以上に重要です。継手部分は分解・洗浄の頻度が高く、衛生管理の要となる部分だからです。
ヘルール継手の特徴
ヘルール継手は、サニタリ配管で最も一般的に使用される継手です。
ヘルール継手の選定では、配管規格との適合性が最優先となります。JIS G3447用とJIS G3459用では、同じ外径でも微細な寸法差があるため、専用設計の継手を使用する必要があります。
サニタリーネジ継手の用途
ヘルール継手と並んで使用されるのがサニタリーネジ継手です。
ネジ継手選定時の注意点として、ネジピッチの違いがあります。メートルネジとインチネジが混在している場合があり、規格書の確認が必須です。
継手材質の選定基準
継手材質は配管材質と同等以上の耐食性が求められます。
特に、電解研磨処理された継手では、表層のクロムリッチ層により従来比約10倍の不動態層が形成され、金属溶出を大幅に抑制できます。これは医薬品製造や半導体製造において重要な要件となります。
規格間互換性の確認方法
異なる規格の継手を使用する場合、以下の点を確認する必要があります。
実際の現場では、200Aなどの大口径や8A、10A、15Aの小口径では専用クランプが必要となるケースもあり、事前の詳細確認が重要です。
サニタリ配管の性能を左右する重要な要素の一つが表面処理です。表面処理の品質は、洗浄性、耐食性、そして最終的な製品品質に直接影響を与えます。
バフ研磨の特徴と限界
バフ研磨は物理的研磨による従来的な表面処理方法です。
しかし、バフ研磨には重要な問題点があります。
これらの問題は、食品や医薬品製造において品質トラブルや安全性問題に直結する可能性があります。
電解研磨の優位性
電解研磨は電気化学的な表面処理方法で、サニタリ配管では標準的な処理となっています。
電解研磨の化学的効果として、ステンレス表面のFeとNiを溶解し、表層にクロムリッチな層を形成します。これにより耐食性が大幅に向上し、金属イオンの溶出も抑制されます。
高度な表面処理技術
最新の表面処理技術では、電解研磨後に熱処理を組み合わせることで、さらに高い性能を実現しています。
この処理は特に医薬品製造や半導体製造において、厳格な品質基準をクリアするために不可欠となっています。
表面粗度の管理基準
サニタリ配管の表面粗度は、用途により異なる基準が設定されています。
これらの基準値は、洗浄効果と製品品質の両立を図るために設定されており、定期的な測定による品質管理が重要です。
サニタリ配管システムの総保有コスト(TCO)を最適化するためには、初期投資だけでなく運用・保守コストを含めた総合的な評価が必要です。各規格により異なるコスト構造を理解することで、最適な選択が可能となります。
初期投資コストの比較
各規格の材料コストには明確な差があります。
継手コストについても同様の傾向があり、特にヘルール継手では規格により2-3倍の価格差が生じる場合があります。ただし、継手の品質や精度も価格に比例する傾向があるため、単純な価格比較だけでは適切な判断ができません。
運用コストの詳細分析
運用段階でのコスト差は、主に以下の要因により発生します。
軽量設計のJIS G3447は分解・組立作業が容易で、作業時間を30-40%短縮できます。これは年間保守作業において大きなコスト削減効果をもたらします。
保守性による長期コスト
各規格の保守性は、設計思想の違いにより大きく異なります。
高保守性規格(JIS G3447、IDF/ISO)
高耐久性規格(JIS G3459、DIN)
用途に応じた適切な選択により、15-20年の運用期間で総コストに2倍以上の差が生じる場合があります。
将来性とアップグレード性
規格選定において見落とされがちなのが、将来のシステム拡張やアップグレード性です。
特に、Industry 4.0やIoT化の進展により、センサー内蔵型継手や遠隔監視システムとの連携が重要になっています。この観点では、国際規格であるIDF/ISOやDIN規格が有利となる場合があります。
最適化のための選定フローチャート
実際の規格選定では、以下の優先順位で検討することを推奨します。
これらの要素を総合的に評価することで、単なる価格競争ではない、真の意味でのコスト最適化が実現できます。特に、運用開始後のランニングコストは初期投資を上回る場合が多いため、TCOベースでの比較検討が重要です。