

建設現場や工事現場での作業は、大量の汗とホコリにまみれる過酷な環境です。特にヘルメットのあご紐部分や、防塵マスクが当たる口周りに、治らないニキビや吹き出物(毛嚢炎)に悩まされている方は多いのではないでしょうか。ここでカギとなるのが、酸性水が持つ強力な「殺菌」効果と、肌環境のコントロール機能です。
まず、人間の健康な肌はpH4.5~6.0程度の「弱酸性」に保たれています。このpH値の環境下では、肌の常在菌バランス(スキンフローラ)が保たれ、外部からの悪玉菌の増殖を防ぐ「酸のバリア(アシッドマントル)」が機能しています。しかし、大量の汗(アルカリ性に傾きやすい)をかいたり、現場の汚れが付着したまま放置すると、肌表面のpHバランスが崩れ、アルカリ性へと傾きます。アルカリ性の環境は、ニキビの原因となるアクネ菌や、化膿を引き起こす黄色ブドウ球菌が増殖しやすい絶好の温床となってしまうのです 。
参考)酸性とアルカリ性:お肌への影響│Multi-Water
酸性水を使用する最大のメリットは、この崩れたpHバランスを強制的に「弱酸性」に引き戻すことにあります。市販されている多くの酸性水や、整水器で作られる酸性水には、菌の細胞膜を破壊したり、その増殖を抑制したりする静菌作用・殺菌作用があります。
ただし、注意が必要なのは「強酸性水」と「弱酸性水」の使い分けです。
現場から帰宅した直後、ドロドロに汚れた状態や、ニキビが化膿して痛みを伴うような緊急時には、殺菌力の高い「強酸性水」でプレ洗顔を行うのが効果的です。一方で、日常的なケアや仕上げの洗顔には、肌への刺激が少ない「弱酸性水」を使用します。これにより、肌に必要な常在菌(美肌菌)まで死滅させることなく、悪玉菌だけを抑制することが可能になります。
参考リンク:日本トリム - 水のpH値とは何か|健康に与える影響はある?(弱酸性水が肌のpHバランスを整え、トラブル予防に役立つメカニズムについて解説されています)
建築従事者の中には、慢性的なアトピー性皮膚炎や、乾燥による激しい肌荒れに苦しんでいる方も少なくありません。特に冬場の乾燥した現場や、コンクリート打設時の湿度の変化は、アトピー肌にとって大敵です。酸性水がアトピー肌に対して有効とされる理由は、主に「収れん作用」と「黄色ブドウ球菌対策」の2点に集約されます。
「収れん(収斂)作用」とは、タンパク質を変性させて組織を引き締める作用のことを指します。アトピー肌や荒れた肌は、角質層の並びが乱れ、細胞間の隙間が開いてしまっています(バリア機能の低下)。この隙間から水分が蒸発し、逆にアレルゲンや刺激物質が侵入することで、終わりのない痒みが発生します。酸性水を肌になじませると、この収れん作用によって開いた角質細胞や毛穴がキュッと引き締まります。
また、アトピー性皮膚炎の悪化因子として、皮膚表面での「黄色ブドウ球菌の異常増殖」が深く関わっていることは医学的にも知られています。健康な人の皮膚での検出率は低いですが、アトピー患者の皮膚からは高確率で検出されます。この菌が出す毒素が炎症を悪化させるのです。
酸性水によるケアは、ステロイド薬のように炎症を無理やり抑え込むのではなく、原因となる菌を減らし、肌自体の防御壁(バリア)を修復する手助けをするという、根本的な「肌体力の底上げ」につながります。温泉療法において「酸性泉」が皮膚病に効くとされるのも同じ原理です。草津温泉などの強酸性の湯がアトピー治療に利用されるのは、この強力な殺菌力と角質剥離作用、そして収れん作用による皮膚再生の促進効果があるためです 。
参考リンク:みたまの湯 - 酸性の温泉とアルカリ性の温泉が肌に与える効果(酸性泉の殺菌力とアトピーなどの慢性皮膚病への効果について、温泉の観点から解説されています)
※ここは建設業界で働くあなたにこそ知ってほしい、独自の視点による最重要項目です。
一般的なスキンケア記事では語られませんが、建築現場における肌トラブルの最大の原因の一つは「アルカリ性物質による化学的刺激(化学熱傷)」です。
現場で日常的に扱う「セメント」や「コンクリート」「モルタル」は、水と反応すると強いアルカリ性(pH12~13)を示します。これは家庭用の強力な漂白剤やパイプクリーナーと同レベルの危険な数値です。これらの粉塵が汗(水分)と混ざると、肌の上で高濃度のアルカリ溶液となり、皮膚のタンパク質を徐々に溶かしていきます。これが「セメント皮膚炎(セメントかぶれ)」の正体です。
通常の石鹸も「弱アルカリ性」であることが多いため、現場から帰ってきて石鹸でゴシゴシ洗うだけでは、肌のpHを中性~弱酸性に戻すのに時間がかかりすぎます(健康な肌でもアルカリ中和能によってpHが戻るのに3時間以上かかると言われています)。この3時間の間に、肌のバリア破壊は進行し続けます。
ここで**「酸性水による中和」**という発想を取り入れます。
この「中和」というプロセスを入れるだけで、翌朝の肌の調子は劇的に変わります。慢性的な手荒れや、顔の赤みが引かない職人さんは、汚れが落ちていないのではなく、**「肌がアルカリ焼けし続けている」**可能性が高いのです。酸性水はこの「アルカリ焼け」を止めるための、現場用消火器のような役割を果たします。
参考リンク:Multi-Water - 酸性とアルカリ性:お肌への影響とは?(アルカリ性が肌のタンパク質を分解するメカニズムと、酸性水による中和・pH復元の重要性が詳述されています)
酸性水を導入するには、高価な整水器(電解水生成器)を買わなければならないと思っていませんか?もちろん、整水器で作る電気分解された酸性水は粒子が細かく効果も高いですが、まずは手軽に試せる「クエン酸」を使った自作方法をお勧めします。ドラッグストアで数百円で手に入る材料で、十分に効果的な酸性水(化粧水代わり)が作れます。
もっとも基本的なレシピは以下の通りです。ニキビケアや肌の引き締めを目的とした、洗顔後のリンス用として使用します。
| 材料 | 分量 | 備考 |
|---|---|---|
| 精製水(または水道水) | 100ml | 水道水には塩素が含まれますが、保存性は高まります。肌への優しさを優先するなら精製水推奨。 |
| クエン酸(食用または薬局方) | 1g~2g | 小さじ1/5~1/3程度。入れすぎると強酸性になり肌を溶かす「ピーリング剤」になってしまうので注意。 |
| グリセリン(保湿用) | 小さじ1/2 | 乾燥が気になる場合のみ添加。現場男子はベタつきを嫌うなら無しでもOK。 |
作成手順:
「水道水」自体はpH5.8~8.6の中性付近に調整されていますが、地域や季節によって塩素濃度などが異なります。クエン酸を混ぜる場合、水道水中のミネラル分(カルシウムなど)とクエン酸が反応して、キレート効果を発揮し、肌に残る金属イオンなどの汚れを除去しやすくする効果も期待できます 。
参考)クエン酸 300g
一方、クエン酸濃度を高くしすぎると(例:水100mlにクエン酸10gなど)、それは「ピーリング液」になります。これは古い角質を溶かす強力な作用があり、週に1回のスペシャルケアには良いですが、毎日の使用には刺激が強すぎ、逆に肌バリアを壊してしまいます 。最初は「舐めてみて、ほんのり酸っぱいレモン水」程度の薄さから始めるのが鉄則です。ピリピリとした刺激を感じたら、すぐに水で洗い流し、さらに薄めてください。
参考)https://www.p-antiaging.com/beautycolumn/sengan/1784/
参考リンク:シャボン玉石けん - クエン酸の使い方(掃除用だけでなく、クエン酸水の基本的な比率や取り扱い上の注意点が記載されています)
最後に、酸性水の効果を最大限に引き出すための、建築従事者向けの実践的洗顔ルーティンを紹介します。現場の汚れは「油分(皮脂・機械油)」と「粒子(砂埃・金属粉)」が混ざり合っており、非常に落ちにくいのが特徴です。だからといってゴシゴシこするのは厳禁です。
特に鼻の頭の黒ずみ(酸化した皮脂)が気になる場合は、週末に「クエン酸パック」を行います。
通常の洗顔後、少し濃いめに作ったクエン酸水(水100mlにクエン酸5g程度)をコットンに浸し、鼻に乗せて3分間放置します。その後、優しく拭き取り、すぐに通常の酸性水で整えます。これにより、固まった角栓が柔らかくなり、排出されやすくなります。ただし、やりすぎるとヒリヒリするので、肌の様子を見ながら行ってください 。
参考)化粧水の作り方をご紹介!基本の作り方とアレンジ、注意点も|北…
このルーティンを取り入れることで、現場の汚れを落としつつ、肌の防御壁を常に修復し続けることができます。高価な化粧水を買う前に、まずは水の性質(pH)を利用した科学的なスキンケアを試してみてください。あなたの肌は、もっと強くなれるはずです。
参考リンク:北海道科学大学 - 化粧水の作り方(精製水とクエン酸を使った基本的な化粧水のレシピと、AHAによるピーリング効果についての解説があります)