防腐剤と建築における木材保存処理の種類と効果

防腐剤と建築における木材保存処理の種類と効果

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防腐剤と建築における木材保存処理

木材防腐処理の重要性
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建物の寿命延長

適切な防腐処理により木造建築の寿命を25〜30年から大幅に延長できます

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シロアリ対策

防腐剤には防蟻効果もあり、シロアリによる被害を防止します

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経済的メリット

初期コストは増加しますが、建物の修繕費用削減と長寿命化で長期的に経済的です

防腐剤の種類と木材保存処理の歴史的変遷

木材の防腐処理は古くから行われてきましたが、その方法や使用される薬剤は時代とともに大きく変化してきました。かつては、クレオソート油やPCP(ペンタクロロフェノール)などの高い効果を持つ薬剤が使用されていましたが、環境や人体への悪影響が明らかになるにつれ、より安全な薬剤へと移行してきました。

 

現在の防腐剤は大きく分けて以下のタイプがあります。

  1. 農薬系(ネオニコチノイド系、ピレスロイド系)
    • 効果が高い反面、環境への影響が懸念される
    • 主に屋外での使用に適している
  2. 自然素材系(ホウ酸系)
    • 人体への安全性が高い
    • 非接地・非曝露の条件では半永久的に効果が持続
    • 水に溶けやすいため屋外使用には不向き
  3. 銅系水溶性薬剤(ACQ、タナリスCYなど)
    • 銅化合物と第四級アンモニウム塩などを配合
    • 環境負荷が少なく、安全性が高い
    • 屋外使用にも適している

建築基準法では、昭和25年の制定時から木材の防腐措置について規定されており、構造耐力上主要な部分の木材が煉瓦、コンクリート、モルタル、土などに接して腐朽しやすい状態にある場合には、防腐剤の塗布などの防腐措置を講じることが義務付けられています。

 

防腐剤の加圧注入処理と効果的な木材保存方法

木材への防腐剤の処理方法は複数ありますが、最も効果的なのが「加圧注入処理」です。この方法では、工場の密閉タンク内で約15kg/cm²の圧力をかけて薬剤を木材内部に深く浸透させます。

 

主な防腐処理方法の比較。

処理方法 効果 適用場所 耐用年数
加圧注入 非常に高い 土台、柱など重要構造部材 素材の約3倍
温冷浴法 中程度 窓枠、根太など 浸漬法の2〜6倍
浸漬法 低〜中 非重要部材 短期間
塗布法 低い 補修、現場処理 短期間

加圧注入処理の工程。

  1. インサイジング加工(木材表面に細かい切り込みを入れる)
  2. 木材の乾燥
  3. 密閉タンク内での減圧処理(木材内の空気を抜く)
  4. 薬液の注入
  5. 加圧処理(約15kg/cm²の圧力で薬剤を圧入)
  6. 後処理(余分な薬液の回収、乾燥など)

この処理により、薬剤が木材の深部まで均一に浸透し、長期間にわたって防腐・防蟻効果を発揮します。特に土台や柱などの構造上重要な部材には、この加圧注入処理が推奨されています。

 

防腐処理木材は日本農林規格(JAS)や日本工業規格(JIS)によって規格化されており、性能基準に合格したものにはJASマークやJISマークが付けられます。また、新しく開発された防腐・防蟻処理木材については、(財)日本住宅・木材技術センターが優良木質建材として認証したものにAQマークが付けられています。

 

防腐剤の安全性と環境への影響について

木材防腐剤の安全性は、過去数十年で大きく向上しています。かつては効果の高さから使用されていた有害な薬剤は現在では使用が制限され、人体や環境への影響が少ない薬剤が主流となっています。

 

現代の主要な防腐剤の安全性。
ACQ(銅・第四級アンモニウム化合物系)

  • 主成分:銅化合物と塩化ベンザルコニウム(殺菌消毒剤)
  • 毒・劇物取締法の対象外の普通物
  • 木材中で水に溶けない銅へと変化し、強く固着するため溶出が少ない
  • 魚毒性の判定もAランクで、動植物への害が少ない
  • VOC(揮発性有機化合物)や発がん性物質、環境ホルモンの発生源とならない

セルボーP(ホウ素・第四級アンモニウム化合物系)

  • 主成分:ホウ素化合物と第4級アンモニウム塩
  • 両成分とも防腐・防蟻効力を持ち、相乗効果で高い性能を発揮
  • 第4級アンモニウム塩は病院の消毒から衣服の柔軟剤まで幅広く使用される低毒性物質
  • シックハウス症候群の原因となるVOCや発がん性物質の発生源とならない

タナリスCY(銅系水溶性薬剤)

  • 主成分:無機の銅化合物と低毒性のシプロコナゾール
  • 有害な重金属を含まないため、木材を焼却しても灰に有害物質が残らない
  • 住宅用資材やウッドデッキ、ガーデニングなど幅広く使用可能

ホウ酸を用いた防腐防蟻剤の大きな特徴は、効果が長持ちすることです。主成分のホウ酸塩は安定した無機物のため分解されず、また鉱物由来のため蒸発揮発することもありません。非接地・非曝露の条件では、効果は半永久的に持続します。また、人体に対する安全性も高く、万が一日常摂取量を超える量を摂取しても、腎臓の機能により排出されます。

 

ただし、防腐剤選択の際には使用環境に合わせた適切な選択が重要です。例えば、ホウ酸系は水に溶けやすいため屋外使用には向かず、屋外では銅系薬剤が適しています。

 

建築における防腐剤処理木材の使用部位と経済性

木造建築において、防腐処理が特に重要な部位は、湿気や水分との接触が多い場所です。適切な防腐処理を施すことで、建物全体の耐久性が大幅に向上します。

 

防腐処理が特に重要な部位。

  1. 土台
    • 基礎との接触部分で湿気の影響を受けやすい
    • 防腐処理土台を使用することで建物の寿命を大幅に延長
  2. 柱の下部
    • 地面から1m以内の部分は特に腐朽リスクが高い
    • 防腐処理により構造の安定性を確保
  3. 外壁の軸組材
    • モルタル塗りなどの湿気を含む材料と接触
    • 防腐処理により壁体内の腐朽を防止
  4. 水回りの木部
    • キッチン、浴室、洗面所などの周辺部材
    • 水分による腐朽を防止
  5. 屋外デッキ材
    • 直接雨水にさらされる
    • 防腐処理により耐久性を確保

防腐処理木材の経済性については、初期コストは若干増加するものの、長期的には大きなメリットがあります。例えば、土台に防腐加工材を使用した場合、建築費用全体の約0.4%程度のコスト増で済みます。これに対して、防腐処理により素材の約3倍の耐用年数が期待できるため、長期的には非常に経済的です。

 

また、高価なヒノキ土台(約43,000円/m³)に比べ、スギやツガの土台(約21,000〜26,000円/m³)に防腐処理(約7,000円/m³)を施しても、総コストは低く抑えられながら同等以上の防腐効果が得られます。

 

防腐剤と建築基準法の関係性と施工上の注意点

建築基準法では、木造建築の安全性と耐久性を確保するために、防腐処理に関する規定が設けられています。特に重要なのは以下の条項です。

  • 建築基準法施工令第37条「構造部材の防腐措置」
  • 建築基準法施工令第49条「外壁内部の防腐措置」

これらの条項では、構造耐力上主要な部分に使用する木材が、煉瓦、コンクリート、モルタル、土などに接して腐朽しやすい状態にある場合には、防腐剤を塗布するか、これと同等以上の防腐措置を講じることが義務付けられています。

 

また、木造の外壁が鉄網モルタル塗りや張り石造など、軸組が腐りやすい構造である場合は、その部分の下地に防水紙を使用し、地面から1メートル以内にある柱、筋かい、土台には防腐剤を塗布することが求められています。

 

防腐処理を施工する際の注意点。

  1. 適切な薬剤選択
    • 使用環境(屋内/屋外、接地/非接地)に合わせた薬剤選択
    • JIS規格やAQ認証など品質が保証された薬剤の使用
  2. 適切な処理方法
    • 重要構造部材には加圧注入処理を推奨
    • 現場での塗布は補助的な処理として位置づけ
  3. 処理木材の取り扱い
    • 加工による切断面は追加の防腐処理が必要
    • 防腐処理木材の切りくずは適切に処分
  4. 施工環境への配慮
    • 水溶性薬剤を使用する場合は施工時の雨に注意
    • 薬剤の種類によっては乾燥期間の確保が必要
  5. 安全対策
    • 施工者の保護具着用(マスク、手袋など)
    • 周辺環境への飛散防止

近年の建築工法の変化、特に高気密・高断熱化や基礎断熱工法の採用により、木材の使用環境も変化しています。また、環境への配慮からVOC(揮発性有機化合物)の低減やレス・ノンケミカル志向も高まっています。これに対応して、ベイト工法の採用やベタ基礎、土間コンクリートなどによる床下環境の改善といった新たな防蟻対策も行われるようになっています。

 

防腐剤と木材の種類による相性と最適な選択方法

木材の種類によって防腐剤の浸透性や効果は大きく異なります。適切な防腐処理を行うためには、木材の特性を理解し、最適な防腐剤と処理方法を選択することが重要です。

 

木材の種類と防腐処理の関係。
心材と辺材の違い
一般に、ヒノキやヒバなどは耐久性の高い樹種として知られていますが、これは心材(幹の中心部分)についての特性です。辺材(心材の周りの部分)は、樹種に関わらずシロアリや腐朽に弱いことが実験で証明されています。例えば、無処理のヒノキ辺材は実験でシロアリによる著しい食害を受けましたが、ACQ処理したヒノキ辺材はほとんど食害を受けませんでした。

 

樹種による浸透性の違い

  • スギ:比較的防腐剤が浸透しやすく、処理効果が高い
  • ヒノキ:心材部分は防腐剤が浸透しにくいが、辺材は処理可能
  • 米ツガ:浸透性が良好で、防腐処理に適している
  • 広葉樹:一般に針葉樹より浸透性が低い傾向がある

防腐効果の比較
実験結果によると、マイトレックACQ処理材(スギ辺材)と無処理スギ辺材の腐朽試験では、以下のような質量減少率の違いが見られました。

供試菌 ACQ処理材 無処理材
オオウズラタケ 2.8% 61.7%
カワラタケ 2.9% 26.3%

この結果から、適切な防腐処理により腐朽リスクが大幅に低減されることがわかります。

 

最適な防腐剤と木材の選択方法。

  1. 使用環境の確認
    • 屋内か屋外か
    • 接地するかしないか
    • 水分との接触頻度
  2. 要求される耐用年数
    • 構造材(長期耐久性が必要)
    • 内装材(比較的短期でも可)
    • 外装材(耐候性も必要)
  3. 木材の種類と部位
    • 心材か辺材か
    • 針葉樹か広葉樹か
    • 構造材か造作材か
  4. 防腐剤の種類
    • 屋外用:ACQなどの銅系薬剤
    • 屋内用:ホウ酸系薬剤
    • 特殊用途:用途に応じた専用薬剤

例えば、屋外のウッドデッキには銅系薬剤で処理したスギやツガが適しており、屋内の構造材にはホウ酸系薬剤で処理した木材が適しています。また、土台には加圧注入処理した防腐材を使用することで、建物全体の耐久性を高めることができます。

 

適切な防腐処理木材を選択することで、木造建築の寿命を大幅に延ばし、メンテナンスコストを削減することができます。特に、日本の高温多湿な気候では、防腐・防蟻処理は木造建築の耐久性を確保するために不可欠な要素と言えるでしょう。