層間変形角 基準と建築物の耐震性能について

層間変形角 基準と建築物の耐震性能について

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層間変形角と基準値について

層間変形角の基本知識
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定義

層間変形角とは、地震時に建物の各階がどの程度変形するかを評価する指標で、上下階の水平変位差を階高で割った値

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重要性

建物の安全性や損傷度を評価する際に使用され、外装材の脱落防止や設備配管の保護にも関わる

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基準値

一般的には1/200以内が原則だが、建物用途や外装材によって1/120まで緩和される場合もある

層間変形角は、建築物の耐震設計において非常に重要な指標です。これは、地震時に建物の各階がどの程度変形するかを評価するための角度を指し、建物の安全性や損傷度を評価する際に使用されます。具体的には、上階と下階の水平変位差を階高で割った値として計算されます。

 

層間変形角の計算式は以下の通りです:
層間変形角 = δ / h
ここで、

  • δ:層間変位(上下階の水平変位差)
  • h:階高(各階の高さ)

この値は通常、分数(例:1/200)またはラジアン(rad)で表されます。値が小さいほど建物の変形が少なく、安全性が高いことを意味します。

 

層間変形角の基準値と建築基準法の規定

建築基準法施行令第82条の2では、建築物の地上部分について、一次設計用地震力(中地震:震度5程度)によって各階に生じる水平方向の層間変位を計算し、層間変形角の大きさは原則として1/200以内であることが求められています。

 

建物の用途や規模に応じた一般的な基準値は以下の通りです:

用途 許容層間変形角
住宅・一般建築物 1/200~1/300
高層建築物 1/300~1/500
特殊建築物 1/100~1/200

これらの基準は、建物の用途や規模に応じて異なります。高層建築物では構造がより精密であるため、より厳しい基準が適用されることが一般的です。

 

層間変形角の緩和条件と外壁材の選定

原則として層間変形角は1/200以内ですが、帳壁(ALCパネルなどのカーテンウォール)、内・外装材、設備等に著しい損傷が生じるおそれのないことが確認された場合には、1/120まで緩和できます。

 

例えば、以下のような場合に緩和が認められます:

  • 金属板、ボード類等の材料で仕上げられている場合:1/120まで緩和可能
  • ALCパネルを縦壁ロッキング工法や横壁アンカー工法で使用する場合:1/100までの変形追従性能が確認されているため、1/120まで緩和可能
  • 鉄骨造で外壁にALC版や押出成形セメント版を使用し、仕上げがタイル/石貼りでない場合:1/150まで緩和可能
  • 金属板サイディングを用いる場合:1/120まで緩和可能

外壁材の選定は、建物の層間変形角の基準値に大きく影響します。特に外装工事に携わる方々は、使用する材料の変形追従性能を理解しておくことが重要です。

 

層間変形角の計算方法と階高の考え方

層間変位(δ)の計算方法については、平成19年国土交通省告示第594号第3において規定されています。地震力が作用する場合における各階の上下の床版と壁または柱が接する部分の水平方向の変位の差として計算します。

 

層間変位は、許容応力度計算における地震力の作用時の応力を算定した状態における変形をもとに求めます。規定上は全ての鉛直部材について、層間変形角を確認することとされていますが、以下のような場合では、代表的な部材や構面について計算を行い、規定への適合を確認すれば良いとされています:

  • 最も条件の厳しい部材が明確である場合
  • 階で同一の層間変形角の制限値を採用できる場合

階高(h)の取り方については、原則として、層間変形角を計算する鉛直部材の当該階の床版上面位置から上階の床版上面位置までの鉛直距離を用います。ただし、以下のような場合には、床版上面位置の代わりに梁の上面位置を用います:

  • 逆ばりなどによりはり上面と床版上面とが一致しない場合
  • 吹き抜けにより床版がない場合

層間変形角と外壁塗装の関係性

外壁塗装業に従事する方々にとって、層間変形角の基準を理解することは非常に重要です。なぜなら、建物の変形特性は外壁の仕上げ材の選定や施工方法に直接影響するからです。

 

地震時に建物が変形すると、外壁に亀裂や剥離が生じる可能性があります。特に、硬質な仕上げ材(タイルや石材など)を使用している場合、層間変形角が大きいと損傷リスクが高まります。

 

外壁塗装工事を行う際には、以下の点に注意が必要です:

  1. 建物の構造種別(RC造、鉄骨造など)と層間変形角の基準値を確認する
  2. 使用する塗料や仕上げ材の柔軟性や追従性を考慮する
  3. 目地やエキスパンションジョイントの適切な設計と施工を行う
  4. 地震による変形を考慮した下地処理や補修方法を選択する

特に、クラック補修を行う際には、建物の変形特性を考慮した弾性のある材料を選定することが重要です。硬質な補修材を使用すると、地震時の変形に追従できず、再びクラックが発生する可能性が高まります。

 

層間変形角の1/200基準が設けられた理由と歴史的背景

層間変形角の基準値1/200が設けられた背景には、過去の地震被害の教訓があります。1985年に施行された新耐震設計法が、現在の建物での構造計算のベースとなっていますが、この基準が設けられた主な理由は以下の通りです:

  1. 建物躯体の損傷抑制:中地震(震度5程度)で建物躯体に過度な損傷を与えないため
  2. 外装材やサッシの脱落防止:高層建築物での外装材の脱落は人命に関わる大惨事につながるため
  3. 設備配管の保護:給排水設備などの配管が破損すると建物の継続的な使用が困難になるため
  4. エキスパンションジョイントの適正なクリアランス確保:建物間の衝突防止のため

1/200という数値の具体的な根拠としては、例えば階高4mの建物で考えると、層間変形角1/200の場合、水平変位量は2cmとなります。この程度の変形量であれば、内外装に目立つ被害は少なく、カーテンウォールの脱落や設備関係の配管系統の故障にも繋がらないと判断されています。

 

歴史的には、1978年の宮城県沖地震や1995年の阪神・淡路大震災の経験から、建物の変形と被害の関係が詳細に研究され、現在の基準値が定められました。

 

層間変形角と外壁メンテナンスの周期への影響

層間変形角の大きさは、建物の外壁メンテナンスの周期にも影響を与えます。層間変形角が大きい(変形しやすい)建物では、地震や風による振動の影響で外壁に微細なクラックが発生しやすく、結果として外壁塗装のメンテナンスサイクルが短くなる傾向があります。

 

外壁塗装業者として知っておくべきポイントは以下の通りです:

  1. 建物の構造特性の把握:鉄骨造のラーメン構造は、ブレース構造に比べて層間変形角が大きくなる傾向があります。このような建物では、外壁の劣化が早まる可能性があるため、定期的な点検が重要です。

     

  2. 外壁材の種類による影響
    • ALCパネル:変形追従性能が確認されていても、接合部や目地部分に応力が集中しやすいため、これらの部分の点検と補修が重要
    • サイディング:金属サイディングは変形に強いが、窯業系サイディングは変形に弱いため、建物の変形特性に合わせた施工とメンテナンスが必要
    • 塗り壁:柔軟性のある塗料の選定が重要で、硬質な塗料は避けるべき
  3. メンテナンス計画への反映
    • 層間変形角が大きい建物:5〜7年周期でのメンテナンス
    • 層間変形角が小さい建物:7〜10年周期でのメンテナンス
  4. 地震後の点検ポイント:震度5以上の地震が発生した場合、特に層間変形角が大きい建物では、以下の点を重点的に点検することが推奨されます:
    • 外壁材の接合部や目地部分
    • 開口部周りのクラック
    • 異なる材料の取り合い部分
    • 増築部分との接続部

これらの知識を持って外壁塗装工事に臨むことで、建物の構造特性に適したメンテナンス計画を提案し、長期的な建物保全に貢献することができます。

 

外壁塗装業者として、単に美観を整えるだけでなく、建物の構造特性を理解した上での適切な施工とアドバイスができれば、顧客からの信頼も高まるでしょう。

 

層間変形角の安全限界と損傷限界に関する詳細情報
層間変形角は建築物の耐震性能を評価する上で非常に重要な指標です。外壁塗装業に従事する方々も、この基準を理解することで、より適切な施工方法や材料選定ができるようになります。建物の構造特性に合わせた外壁メンテナンス計画を提案することで、顧客満足度の向上にもつながるでしょう。

 

また、近年の地震被害の教訓から、層間変形角の基準はより厳しくなる傾向にあります。特に高層建築物や重要度の高い建築物では、より小さな層間変形角が求められるようになっています。外壁塗装業者としても、これらの動向に注目し、最新の基準や技術に関する知識を常にアップデートしていくことが重要です。

 

建物は中地震(おおよそ震度5程度)で損傷しても、補修すれば継続的に使用可能であることが建築基準法で求められています。そのため、地震時の水平変形を抑える目的で層間変形角1/200[rad]が設定されているのです。外壁塗装業者としても、この基準を理解し、建物の耐震性能向上に貢献する施工を心がけましょう。