
物の安全性を確保するためには、適切な耐震設計が不可欠です。日本のような地震大国では、建築基準法に基づいた耐震設計が義務付けられており、その中心となるのが「一次設計用地震力」の考え方です。一次設計とは、比較的発生頻度の高い中小規模の地震(震度5強程度まで)に対して、建物に損傷が生じないようにするための設計手法です。
設計用地震力は、建物の重量や高さ、構造種別、地盤条件などを考慮して算出されます。この地震力を基に、建物の各部材に必要な強度を与えることで、地震に対する安全性を確保します。特に耐力壁のせん断設計においては、この一次設計用地震力が重要な役割を果たします。
設計では、建物の規模や重要度に応じて「耐震計算ルート」が選択されます。小規模な建物では比較的簡易な「ルート1」が適用されることが多く、高層建築物や特殊な構造を持つ建物では、より詳細な検討を行う「ルート2」や「ルート3」が適用されます。
設計用地震力を用いた設計は、「許容応力度設計法」と呼ばれる手法で行われます。これは、建物の各部材に作用する応力が、その部材の許容応力度(安全に耐えられる最大の応力)を超えないようにする設計方法です。
許容応力度設計法では、以下の手順で設計を進めます。
設計用地震力の標準せん断力係数(Co)は、一般的に0.2が用いられます。これは、建物重量の20%の水平力が地震時に作用すると想定していることを意味します。ただし、地域係数(Z)や振動特性係数(Rt)などにより補正されることがあります。
コンクリート造の耐震計算ルート1において、耐力壁の設計用せん断力は、一次設計用地震力により生じるせん断力の2倍の値を用います。これは、耐力壁が建物の耐震性能において重要な役割を果たすため、安全率を高く設定しているためです。
耐力壁の設計用せん断力の計算手順は以下の通りです。
ば、一次設計用地震力により耐力壁に100kNのせん断力が生じる場合、設計用せん断力は200kNとなります。この値に基づいて、耐力壁の厚さや配筋量を決定します。
壁の設計においては、せん断破壊を防ぐことが重要です。せん断破壊は脆性的な破壊形式であり、建物の崩壊につながる危険性があるため、十分な安全率を確保する必要があります。
物の振動特性は、その固有周期によって大きく影響されます。固有周期とは、建物が自由振動する際に1回の振動に要する時間のことで、建物の高さや剛性によって決まります。
設計用一次固有周期(T)は、以下の式で算出されます。
T = h(0.02 + 0.01α)
ここで、
固有周期は建物の構造種別によって大きく異なります。
り、同じ高さの建物でも、鉄骨造の方が鉄筋コンクリート造よりも固有周期が長くなります。これは、鉄骨造の方が柔軟な構造であるためです。
周期が地盤の固有周期と近い場合、共振現象が起こり、地震の揺れが増幅される可能性があります。そのため、建物の固有周期と地盤特性の関係を考慮した設計が重要です。
の種類は、建物に作用する地震力に大きな影響を与えます。日本の建築基準法では、地盤を第一種から第三種までに分類しています。
地盤種別と地盤の固有周期(Tc)の関係。
の固有周期が長いほど、地震時の揺れが増幅されやすくなります。そのため、軟弱地盤上の建物では、より大きな地震力を考慮した設計が必要です。
一次設計用地震力を算定する際には、地盤種別に応じた振動特性係数(Rt)を用いて補正を行います。Rtは建物の固有周期(T)と地盤の固有周期(Tc)の関係から求められます。
地盤上の建物では、地盤改良や基礎構造の工夫など、地盤条件に応じた対策が必要になることがあります。特に、液状化の可能性がある地域では、より慎重な検討が求められます。
設計が中小規模の地震に対する安全性を確保するのに対し、二次設計は極めて稀に発生する大規模地震(震度7程度)に対して、建物の倒壊・崩壊を防ぐことを目的としています。
設計では、一次設計の5倍程度の地震力(Co = 1.0)を想定し、建物の保有水平耐力や変形能力を検討します。ただし、比較的小規模な建物(耐震計算ルート1に該当する建物)では、二次設計までは要求されないことが一般的です。
実務上の注意点としては、以下が挙げられます。
士や構造設計者は、これらの点に注意しながら、建物の用途や規模、立地条件に応じた適切な耐震設計を行う必要があります。また、法令の改正や新たな知見に常に注意を払い、最新の技術基準に基づいた設計を心がけることが重要です。
設計用地震力の算定は、建物の安全性を確保するための基本であり、適切な耐震設計の出発点となります。地震大国日本において、建築物の耐震性能は人命を守るための最も重要な要素の一つです。
地震力の基礎と計算のポイントに関する詳細解説
、一次設計用地震力と耐力壁の設計用せん断力計算について解説しました。適切な耐震設計は、建物の安全性を確保するだけでなく、地震後の機能維持や修復コストの低減にも寄与します。建築に携わる専門家として、これらの知識を活かした質の高い設計を心がけましょう。