
推進工法は、地面を掘り起こさずに管を埋設する非開削工法の一種です。この工法では、推進管(主に鉄筋コンクリート管)の先端に掘進機を取り付け、地中を掘削しながら後方の油圧ジャッキで文字通り推し進めて管を埋設します。開削工法と異なり、地表面を大きく掘り返す必要がないため、交通量の多い道路下や河川横断部などでの施工に適しています。
日本における推進工法の歴史は古く、1948年(昭和23年)に兵庫県尼崎市内のJR軌道下にさや管を推進設置したのが始まりとされています。以来70年以上にわたり、技術改良と新工法の開発が続けられてきました。現在では、大口径管から小口径管まで、また軟弱地盤から砂礫・岩盤層までの広範囲に対応できる多様な推進技術が確立されています。
推進工法は大きく以下の4つに分類されます。
これらの工法は、施工条件(管径、延長、土質、地下水位など)によって選定されます。適切な工法選定のためには、以下の要素を考慮する必要があります。
工法選定を誤ると、掘進不能や管の破損、地表面沈下などのトラブルを引き起こす可能性があるため、事前の地質調査と適切な工法選定が非常に重要です。
大中口径管推進工法は、呼び径800mm以上の管を推進する工法で、人が管内に入って作業することができます。切羽(掘削面)の状態により、開放型と密閉型に大別されます。
1. 開放型推進工法(刃口式推進工法)
推進管の先端に刃口を装着し、開放された切羽を人力や重機で掘削し、トロバケットなどで掘削土砂を搬出する工法です。
2. 密閉型推進工法
切羽の安定を保持するための機能を備えた工法で、さらに以下の3種類に分類されます。
a) 泥水式推進工法
b) 土圧式推進工法
c) 泥濃式推進工法
大中口径管推進工法の標準施工延長は、元押しのみで50〜80m程度、中押しジャッキを使用することで100m以上の施工も可能です。泥濃式では600mまでの長距離施工実績もあります。
小口径管推進工法は、呼び径700mm以下の管を推進する工法で、人が管内に入って作業することができません。そのため、遠隔操作による施工が基本となります。使用する推進管の種類により、以下の3方式に分類されます。
1. 高耐荷力方式
推進用鉄筋コンクリート管やレジンコンクリート管など、高い耐荷力を持つ管を使用する方式です。掘削・排土方式によって以下のように分類されます。
代表的な工法には、DRM工法、スピーダー工法、エースモール工法などがあります。
2. 低耐荷力方式
塩化ビニル管など、比較的耐荷力の低い管を使用する方式です。高耐荷力方式と同様に、圧入方式、オーガ方式、泥水方式、泥土圧方式に分類されます。
3. 鋼製さや管方式
鋼管をさや管として推進し、その中に本管を挿入する方式です。以下の方式があります。
小口径管推進工法の標準施工延長は、高耐荷力方式で45〜140m程度、低耐荷力方式で35〜80m程度、鋼製さや管方式で10〜50m程度となっています。
1. 改築推進工法
改築推進工法は、沈下や蛇行により本来の機能を果たせなくなった既設管を新設管に入れ替え、機能を回復させる工法です。主に以下の方式があります。
代表的な工法としては、SPR工法(自走式・元押し式)、アルファライナー工法、パルテム工法などがあります。
2. 特殊推進工法
標準的な推進工法では対応が難しい特殊条件下での施工に用いられる工法です。
これらの特殊推進工法は、都市部の複雑な地下空間や特殊な地形条件での施工に活用されています。
推進工法は、下水道整備だけでなく、様々なインフラ整備に活用されています。近年の施工事例と技術動向を見てみましょう。
1. 代表的な施工事例
2. 最新技術動向
推進工法の技術は日々進化しており、以下のような最新技術が開発・実用化されています。
特に注目すべき技術として、「スマート推進工法」があります。これは、掘進機に各種センサーを搭載し、地盤情報をリアルタイムで取得・分析することで、最適な掘進制御を行う技術です。この技術により、熟練技術者の経験に頼らない高精度な施工が可能になっています。
また、環境面では、泥水処理システムの高度化や、掘削土の再利用技術の開発が進んでいます。これにより、建設副産物の削減や資源の有効活用が図られています。
推進工法を成功させるためには、適切な工法選定と綿密な施工計画が不可欠です。ここでは、実務者が押さえておくべきポイントを解説します。
1. 工法選定のポイント
工法選定にあたっては、以下の要素を総合的に検討する必要があります。
以下の表は、土質条件別の推奨工法の一例です。
土質条件 | 推奨される工法 | 注意点 |
---|---|---|
粘性土(N値5以下) | 土圧式、泥水式 | 切羽の安定確保が重要 |
砂質土 | 泥水式 | 地下水位が高い場合は特に注意 |
砂礫・玉石 | 泥濃式、特殊泥水式 | カッターの摩耗対策が必要 |
軟岩・中硬岩 | 岩盤対応型推進工法 | 推進力の増大に対応した設備が必要 |
2. 施工計画のポイント
施工計画では、以下の項目について詳細な検討が必要です。
特に重要なのは、リスク管理計画です。推進工事では予期せぬ障害物や地盤変化に遭遇する可能性があります。そのため、以下のようなリスク対応策を事前に検討しておくことが重要です。
これらの計画を綿密に立てることで、トラブル発生時にも迅速かつ適切な対応が可能となります。
3. 日進量と工期の検討
推進工法の標準日進量は、工法や土質条件によって大きく異なります。公益社団法人日本推進技術協会発刊の「推進工法用設計積算要領」には、標準的な日進量が示されています。
一般的に、以下の要素が日進量に影響します。
工期設定にあたっては、これらの要素に加え、立坑構築期間や準備・撤去期間も考慮する必要があります。また、不測の事態に備えた余裕期間も確保しておくことが重要です。
以上のポイントを押さえることで、適切な推進工法の選定と施工計画の立案が可能となり、安全かつ効率的な推進工事を実現することができます。
推進工法は、都市インフラ整備に欠かせない技術として今後も進化を続けるでしょう。特に、ICT技術の活用による施工の高度化や、環境負荷低減技術の開発が進むことで、より安全で効率的、そして環境に優しい推進工法が実現していくと期待されます。