推進工法の種類一覧と施工技術の基礎知識

推進工法の種類一覧と施工技術の基礎知識

記事内に広告を含む場合があります。

推進工法の種類と特徴

推進工法の基本情報
🔍
工法の定義

推進工法とは、地面を掘り起こさずに管を埋設する非開削工法の一種で、推進管の先端に掘進機を取り付け、地中を掘削しながら油圧ジャッキで推し進める技術です。

📊
主な分類

大中口径管推進工法、小口径管推進工法、鋼製さや管方式、改築推進工法の4つに大きく分類され、それぞれ適用管径や土質条件によって選定されます。

🛠️
適用範囲

下水道整備、送電線の地中化、光ファイバー網の整備、ガス・上水道などのライフライン用管渠構築など、様々なインフラ整備に活用されています。

推進工法は、地面を掘り起こさずに管を埋設する非開削工法の一種です。この工法では、推進管(主に鉄筋コンクリート管)の先端に掘進機を取り付け、地中を掘削しながら後方の油圧ジャッキで文字通り推し進めて管を埋設します。開削工法と異なり、地表面を大きく掘り返す必要がないため、交通量の多い道路下や河川横断部などでの施工に適しています。

 

日本における推進工法の歴史は古く、1948年(昭和23年)に兵庫県尼崎市内のJR軌道下にさや管を推進設置したのが始まりとされています。以来70年以上にわたり、技術改良と新工法の開発が続けられてきました。現在では、大口径管から小口径管まで、また軟弱地盤から砂礫・岩盤層までの広範囲に対応できる多様な推進技術が確立されています。

 

推進工法の分類体系と選定基準

推進工法は大きく以下の4つに分類されます。

  1. 大中口径管推進工法(呼び径800mm以上)
  2. 小口径管推進工法(呼び径700mm以下)
  3. 鋼製管推進工法(鋼製さや管方式と取付管推進工法)
  4. 改築推進工法(既設管の機能回復)

これらの工法は、施工条件(管径、延長、土質、地下水位など)によって選定されます。適切な工法選定のためには、以下の要素を考慮する必要があります。

  • 管径サイズ:必要な内空断面から適切な管径を決定
  • 土質条件:粘性土、砂質土、砂礫、岩盤など
  • 地下水位:高水圧下での施工の可否
  • 施工延長:推進可能な距離
  • 周辺環境:既設埋設物や建物への影響

工法選定を誤ると、掘進不能や管の破損、地表面沈下などのトラブルを引き起こす可能性があるため、事前の地質調査と適切な工法選定が非常に重要です。

 

大中口径管推進工法の種類と特徴

大中口径管推進工法は、呼び径800mm以上の管を推進する工法で、人が管内に入って作業することができます。切羽(掘削面)の状態により、開放型と密閉型に大別されます。

 

1. 開放型推進工法(刃口式推進工法)
推進管の先端に刃口を装着し、開放された切羽を人力や重機で掘削し、トロバケットなどで掘削土砂を搬出する工法です。

 

  • 適用土質:砂質シルト・ローム、土丹、粘土など切羽が自立する地盤
  • 特徴:構造がシンプルで施工費が比較的安価
  • 制約条件:地下水位が高い場合や砂質地盤では適用困難

2. 密閉型推進工法
切羽の安定を保持するための機能を備えた工法で、さらに以下の3種類に分類されます。
a) 泥水式推進工法

  • 掘進機のカッタチャンバ内に泥水を満たし、その圧力で切羽を安定させる
  • 掘削土砂は泥水とともに坑外の泥水処理機に送られ分離処理される
  • 砂質土や砂礫地盤に適している
  • 代表的な工法:アルティミット工法(泥水方式)など

b) 土圧式推進工法

  • 掘削土砂をカッタチャンバ内に充満させ、その圧力で切羽を安定させる
  • 粘性土から砂質土まで幅広い土質に対応可能
  • 代表的な工法:アルティミット工法(土圧方式)など

c) 泥濃式推進工法

  • 掘削土砂に高濃度泥水を注入して流動化させ、その圧力で切羽を安定させる
  • 排土バルブの開閉により間欠的に排土
  • 礫混じり土や玉石混じり土にも対応可能

大中口径管推進工法の標準施工延長は、元押しのみで50〜80m程度、中押しジャッキを使用することで100m以上の施工も可能です。泥濃式では600mまでの長距離施工実績もあります。

 

小口径管推進工法の種類と適用範囲

小口径管推進工法は、呼び径700mm以下の管を推進する工法で、人が管内に入って作業することができません。そのため、遠隔操作による施工が基本となります。使用する推進管の種類により、以下の3方式に分類されます。

 

1. 高耐荷力方式
推進用鉄筋コンクリート管やレジンコンクリート管など、高い耐荷力を持つ管を使用する方式です。掘削・排土方式によって以下のように分類されます。

  • 圧入方式:先導体の切削ヘッドで土を切削し、管内に取り込む方式
  • オーガ方式:オーガスクリューで掘削土砂を排出する方式
  • 泥水方式:泥水の圧力で切羽を安定させ、泥水と共に土砂を排出する方式
  • 泥土圧方式:土砂の圧力で切羽を安定させる方式

代表的な工法には、DRM工法、スピーダー工法、エースモール工法などがあります。

 

2. 低耐荷力方式
塩化ビニル管など、比較的耐荷力の低い管を使用する方式です。高耐荷力方式と同様に、圧入方式、オーガ方式、泥水方式、泥土圧方式に分類されます。

 

3. 鋼製さや管方式
鋼管をさや管として推進し、その中に本管を挿入する方式です。以下の方式があります。

  • 圧入方式:先導体で掘削しながら鋼管を圧入する
  • オーガ方式:オーガで掘削しながら鋼管を推進する
  • ボーリング方式:一重または二重のボーリングロッドを用いる方式
  • 泥水方式:泥水を用いて掘削する方式

小口径管推進工法の標準施工延長は、高耐荷力方式で45〜140m程度、低耐荷力方式で35〜80m程度、鋼製さや管方式で10〜50m程度となっています。

 

改築推進工法と特殊推進工法の活用法

1. 改築推進工法
改築推進工法は、沈下や蛇行により本来の機能を果たせなくなった既設管を新設管に入れ替え、機能を回復させる工法です。主に以下の方式があります。

  • 静的・衝撃破砕推進工法:既設管を破砕しながら新管を推進(施工延長50〜200m)
  • 切削破砕推進工法:既設管を切削しながら新管を推進(施工延長50〜150m)
  • 引抜推進工法:既設管を引き抜きながら新管を設置(施工延長30〜50m)

代表的な工法としては、SPR工法(自走式・元押し式)、アルファライナー工法、パルテム工法などがあります。

 

2. 特殊推進工法
標準的な推進工法では対応が難しい特殊条件下での施工に用いられる工法です。

  • 函渠推進工法:矩形断面の函渠(ボックスカルバート)を推進する工法
  • デスリップ・カーテン工法:推進管の周囲に滑材を注入し、摩擦抵抗を低減する工法
  • 曲線推進工法:平面的に曲線を描きながら推進する工法
  • 急勾配推進工法:急な勾配で推進する工法

これらの特殊推進工法は、都市部の複雑な地下空間や特殊な地形条件での施工に活用されています。

 

推進工法の施工事例と最新技術動向

推進工法は、下水道整備だけでなく、様々なインフラ整備に活用されています。近年の施工事例と技術動向を見てみましょう。

 

1. 代表的な施工事例

  • 長距離推進施工:泥水式推進工法による500m超の長距離施工
  • 大深度推進施工:地下30m以深での大口径推進管施工
  • 複合地盤対応:砂層から岩盤まで変化する複合地盤での施工
  • 狭隘地での施工:都市部の狭い作業スペースでの小口径推進工法の活用

2. 最新技術動向
推進工法の技術は日々進化しており、以下のような最新技術が開発・実用化されています。

  • ICT・IoT技術の活用:掘進機の位置情報や掘削データのリアルタイムモニタリング
  • AI制御システム:地盤条件に応じた最適な掘進パラメータの自動調整
  • 環境負荷低減技術:泥水処理の効率化や排土量の削減
  • 長距離化技術:中押し装置の高性能化や推進力伝達効率の向上

特に注目すべき技術として、「スマート推進工法」があります。これは、掘進機に各種センサーを搭載し、地盤情報をリアルタイムで取得・分析することで、最適な掘進制御を行う技術です。この技術により、熟練技術者の経験に頼らない高精度な施工が可能になっています。

 

また、環境面では、泥水処理システムの高度化や、掘削土の再利用技術の開発が進んでいます。これにより、建設副産物の削減や資源の有効活用が図られています。

 

推進工法の選定と施工計画のポイント

推進工法を成功させるためには、適切な工法選定と綿密な施工計画が不可欠です。ここでは、実務者が押さえておくべきポイントを解説します。

 

1. 工法選定のポイント
工法選定にあたっては、以下の要素を総合的に検討する必要があります。

  • 地盤条件の正確な把握:ボーリング調査やサウンディング試験による地層構成の確認
  • 地下水位と水圧の評価:被圧水の有無や水圧の大きさを考慮
  • 周辺環境への影響評価:地表面沈下や周辺構造物への影響を予測
  • 経済性の検討:イニシャルコストだけでなく、リスク対応も含めたトータルコスト

以下の表は、土質条件別の推奨工法の一例です。

土質条件 推奨される工法 注意点
粘性土(N値5以下) 土圧式、泥水式 切羽の安定確保が重要
砂質土 泥水式 地下水位が高い場合は特に注意
砂礫・玉石 泥濃式、特殊泥水式 カッターの摩耗対策が必要
軟岩・中硬岩 岩盤対応型推進工法 推進力の増大に対応した設備が必要

2. 施工計画のポイント
施工計画では、以下の項目について詳細な検討が必要です。

  • 立坑計画:発進立坑と到達立坑の位置・規模・構造
  • 推進力の検討:管の周面摩擦力と先端抵抗力を考慮した必要推進力の算定
  • 裏込め注入計画:地表面沈下防止のための適切な注入材料と注入方法
  • 掘削土砂処理計画:発生土の性状に応じた適切な処理・処分方法
  • 計測管理計画:推進管の線形・高さ管理のための計測方法

特に重要なのは、リスク管理計画です。推進工事では予期せぬ障害物や地盤変化に遭遇する可能性があります。そのため、以下のようなリスク対応策を事前に検討しておくことが重要です。

  • 推進抵抗増大時の対応策(滑材注入の強化、中押し装置の追加など)
  • 湧水発生時の対応策(止水注入、排水設備の増強など)
  • 障害物遭遇時の対応策(障害物の種類に応じた除去方法)
  • 線形逸脱時の修正方法(方向修正装置の活用方法)

これらの計画を綿密に立てることで、トラブル発生時にも迅速かつ適切な対応が可能となります。

 

3. 日進量と工期の検討
推進工法の標準日進量は、工法や土質条件によって大きく異なります。公益社団法人日本推進技術協会発刊の「推進工法用設計積算要領」には、標準的な日進量が示されています。

 

一般的に、以下の要素が日進量に影響します。

  • 管径(大きいほど日進量は減少)
  • 土質条件(硬質地盤ほど日進量は減少)
  • 工法(密閉型は開放型より一般的に日進量が多い)
  • 施工延長(長距離になるほど日進量は減少傾向)

工期設定にあたっては、これらの要素に加え、立坑構築期間や準備・撤去期間も考慮する必要があります。また、不測の事態に備えた余裕期間も確保しておくことが重要です。

 

以上のポイントを押さえることで、適切な推進工法の選定と施工計画の立案が可能となり、安全かつ効率的な推進工事を実現することができます。

 

推進工法は、都市インフラ整備に欠かせない技術として今後も進化を続けるでしょう。特に、ICT技術の活用による施工の高度化や、環境負荷低減技術の開発が進むことで、より安全で効率的、そして環境に優しい推進工法が実現していくと期待されます。

 

日本下水道管路管理業協会:推進工法の詳細技術資料
株式会社ジオックス:推進工法の基礎知識と最新技術情報