
捨てコンクリート地業とは、基礎工事に先立って行われる工程で、砕石地業の上に厚さ5〜10cm程度の無筋コンクリートを打設する作業です。名称に「捨て」という言葉が含まれていますが、決して不要なものではなく、基礎工事の精度と品質を確保するために非常に重要な役割を担っています。
捨てコンクリート地業は、基礎の強度に直接影響するものではありませんが、基礎工事の作業性や精度を向上させるために欠かせない工程です。特に高品質な建築物を施工する際には、この工程を省略せずに確実に実施することが推奨されています。
砕石地業を行った後の地盤は凹凸があり、そのままでは正確な基礎工事が難しくなります。捨てコンクリートを打設することで、平滑な作業面を確保し、後工程の精度を高めることができるのです。
捨てコンクリート地業には、主に以下の3つの重要な目的があります。
これらの目的は建物の品質に直結するものであり、捨てコンクリート地業の重要性を示しています。特に高さの基準は、スラブの納まりや地中梁の天端位置に影響するため、精度が求められます。
捨てコンクリート地業の施工は、以下の手順で行われます。それぞれの工程で注意すべきポイントも合わせて解説します。
1. 根切り作業
根切りとは、建物の基礎を作るために地面を掘削する作業です。基礎の形状に合わせて掘削を行います。この段階で掘削深さの精度が重要となります。
2. 砕石地業
根切り後の土は空気を多く含んでおり柔らかい状態です。そこに砕石を敷き詰め、転圧機(ランマー)で突き固めます。砕石地業には以下の役割があります。
3. 防湿シートの敷設
砕石地業の上に防湿シート(ポリエチレンシートなど)を敷きます。これは地中からの湿気の上昇を防ぐためです。地域や現場の状況によっては省略される場合もあります。
4. 捨てコンクリートの打設
防湿シートの上に捨てコンクリートを打設します。一般的には以下の点に注意して施工します。
捨てコンクリートの打設後は、コンクリートが十分に硬化してから次の工程に進むことが重要です。硬化が不十分な状態で作業を進めると、捨てコンクリートの表面が損傷し、本来の目的を果たせなくなる恐れがあります。
捨てコンクリート地業に使用するコンクリートは、基礎本体のコンクリートとは異なる配合が一般的です。強度よりも作業性を重視した配合となっています。
捨てコンクリートの一般的な配合特性:
項目 | 特徴 |
---|---|
設計基準強度 | 18N/mm²程度(基礎本体より低め) |
スランプ | 18cm程度(流動性を確保) |
最大骨材寸法 | 20〜25mm |
セメント量 | 基礎コンクリートより少なめ |
捨てコンクリートは強度部材ではないため、基礎コンクリートほどの強度は必要ありません。しかし、以下の品質管理は重要です:
捨てコンクリートの品質が後工程の精度に大きく影響するため、「捨て」という名称に惑わされず、適切な品質管理を行うことが重要です。
捨てコンクリート地業は直接的に建物の強度に寄与するものではありませんが、間接的に建物の品質に大きな影響を与えます。その影響について詳しく見ていきましょう。
1. 基礎の精度向上
捨てコンクリート地業により、基礎の位置や高さの精度が向上します。これにより、建物全体の精度が確保され、以下のような効果があります:
2. 基礎の品質向上
捨てコンクリート地業により、基礎コンクリートの品質も向上します:
3. 工期と施工品質のバランス
捨てコンクリート地業は工期を若干延ばすことになりますが、その分の品質向上効果は大きいと言えます:
建築主にとっては目に見えない部分ですが、捨てコンクリート地業の有無や品質は、完成後の建物の品質に確実に影響します。特に高品質な建築物を目指す場合には、この工程を省略せずに適切に施工することが重要です。
捨てコンクリート地業は、すべての建築工事で必ず実施されるわけではありません。状況によっては省略されたり、代替工法が採用されたりする場合もあります。ここでは、その判断基準や代替工法について考察します。
捨てコンクリート地業を省略できる可能性がある条件:
しかし、捨てコンクリート地業を省略する場合には、以下のようなリスクや代替措置を考慮する必要があります:
省略時のリスク:
代替工法の例:
捨てコンクリート地業の省略は、建物の品質リスクと施工コスト・工期のバランスを考慮して判断すべきです。特に重要な建築物や高品質を求められる建築物では、省略せずに適切に施工することが推奨されます。
施工会社によっては、捨てコンクリート地業を標準仕様としているところと、オプション工事としているところがあります。建築主は、この工程の重要性を理解した上で、施工の有無を判断することが大切です。
実際の建築現場での捨てコンクリート地業の施工事例と、その効果的な活用法について紹介します。様々な建築物での実践例から、捨てコンクリート地業の重要性と効果を具体的に見ていきましょう。
戸建て住宅での施工事例:
ある耐震等級3を取得した戸建て住宅では、捨てコンクリート地業を全面に施工することで、複雑な基礎形状でも正確な墨出しが可能となりました。特に地中梁が多い設計でしたが、捨てコンクリート上で正確な位置出しができたため、基礎の精度が向上し、上部構造の精度にも好影響を与えました。
集合住宅での施工事例:
5階建ての集合住宅では、捨てコンクリート地業の厚さを通常より厚く(10cm)設定し、レベル測量を入念に行いました。これにより、広い基礎面積でも高さの精度が確保され、1階床の水平精度が向上しました。結果として、内装工事の効率向上にもつながりました。
効果的な活用法:
捨てコンクリート上の墨出しは、次の工程で消えないように保護することが重要です。透明なテープで保護したり、写真記録を残したりする工夫が効果的です。
捨てコンクリート上に高さの基準となるポイントを複数設け、レベル測量の基準点として活用します。これにより、基礎工事全体の高さ管理が容易になります。
捨てコンクリート上に型枠を設置する際、型枠の支持方法を工夫することで、型枠の精度向上と作業効率の向上が図れます。例えば、型枠固定用の金具を使用する方法などが効果的です。
捨てコンクリート打設後、墨出し完了時、型枠設置時などの各段階で写真記録を残すことで、工事の品質管理や後の検証に役立てることができます。
捨てコンクリート地業は、単に平らな面を作るだけでなく、基礎工事全体の精度向上と品質確保のための「基準」を提供する重要な工程です。その特性を理解し、効果的に活用することで、建物全体の品質向上につなげることができます。
特に注目すべき点として、捨てコンクリート地業の精度が高いほど、後工程の作業効率が向上し、結果的にコストパフォーマンスも向上するという事実があります。短期的なコスト削減のために省略するのではなく、建物の長期的な品質と施工効率の両面から、その価値を評価することが重要です。