ステンレス鋼材規格完全ガイド建築業従事者必読のJIS ASTM基準

ステンレス鋼材規格完全ガイド建築業従事者必読のJIS ASTM基準

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ステンレス鋼材規格の基礎知識

ステンレス鋼材規格の重要ポイント
📋
JIS規格の理解

SUS304、SUS316など、日本工業規格による品質保証

🌐
国際規格への対応

ASTMやEN規格との互換性と使い分け

⚗️
化学成分の管理

Cr、Ni含有量による性能差の把握

ステンレス鋼材のJIS規格体系と分類方法

日本工業規格(JIS)において、ステンレス鋼材は「SUS(Steel Use Stainless)」という記号で表され、用途別に詳細な規格が定められています。主要なJIS規格を以下にまとめました:
形状別JIS規格一覧

  • JIS G 4303:ステンレス鋼棒
  • JIS G 4304:熱間圧延ステンレス鋼板および鋼帯
  • JIS G 4305:冷間圧延ステンレス鋼板および鋼帯
  • JIS G 4311:ステンレス鋼線
  • JIS G 4312:ステンレス鋼棒(溶接棒を含む)
  • JIS G 4321:建築構造用ステンレス鋼材

建築業では特にJIS G 4321が重要で、従来の0.2%耐力では不十分であったため、種々の実験結果から0.1%耐力を設定し、建築構造用として特別に規定されています。この規格により、建築物の安全性と信頼性が保証されているのです。
形鋼規格の実例
日本製鉄のステンレス形鋼では、以下のような標準断面寸法が規定されています:

サイズ(mm) 断面積(cm²) 単位質量(kg/m) 用途
100×100 21.59 17.1 軽構造建築
200×200 63.53 50.4 中規模建築
250×250 91.43 72.5 大規模建築

ステンレス鋼材の化学成分規格と性能基準

ステンレス鋼材の性能を決定する最重要要素は化学成分です。JIS規格では、各鋼種の化学成分が厳密に規定されています。
代表的鋼種の化学成分規格
SUS304の化学成分基準:

  • 炭素(C):0.08%以下
  • シリコン(Si):1.00%以下
  • マンガン(Mn):2.00%以下
  • リン(P):0.045%以下
  • 硫黄(S):0.030%以下
  • ニッケル(Ni):8.00~10.50%
  • クローム(Cr):18.00~20.00%

SUS316の化学成分基準:

  • 炭素(C):0.08%以下
  • ニッケル(Ni):10.00~14.00%
  • クローム(Cr):16.00~18.00%
  • モリブデン(Mo):2.00~3.00%

モリブデン(Mo)の添加により、SUS316はSUS304と比較して優れた耐食性を発揮します。これは建築業において、海岸近くや化学工場周辺での使用に大きな違いをもたらします。

 

機械的性質の規格値
SUS304の機械的性質:

  • 引張強さ:520MPa以上
  • 降伏点:205MPa以上
  • 伸び:40%以上

これらの数値は設計時の安全率計算や構造解析において欠かせない基準値となっています。

 

ステンレス鋼材のASTM規格と国際基準対応

アメリカ材料試験協会(ASTM)規格は、国際プロジェクトで必須の知識です。建築業でも海外案件や外資系企業との取引において、ASTM規格の理解が求められています。
主要ASTM規格の特徴
ASTM A240(ステンレス鋼帯・板材用):

  • グレード304:最も汎用性が高く、建築構造材として広く使用
  • グレード316L:低炭素版で溶接性に優れ、海洋環境対応
  • グレード310S:高温環境用で粒界腐食に強い

その他の重要ASTM規格:

  • ASTM A276:ステンレス鋼棒および形材
  • ASTM A312:シームレス・溶接ステンレス鋼パイプ
  • ASTM A554:溶接ステンレス鋼メカニカルチューブ

JISとASTMの対応関係

JIS規格 ASTM規格 用途の違い
SUS304 Grade 304 ほぼ同等の性能
SUS316 Grade 316 化学成分に微細差
SUS316L Grade 316L 低炭素で溶接性重視

国際プロジェクトでは、これらの対応関係を正確に理解することで、材料選定ミスによるコスト増を防ぐことができます。

 

ステンレス鋼材規格の形状別特性と選定基準

建築業では使用箇所に応じて適切な形状のステンレス鋼材を選定する必要があります。各形状には固有の規格と特性があります。

 

H形鋼の規格特性
黒岩ステンレス工業のH形鋼規格例:

寸法(H×B×t1×t2) 重量(kg/m) 製造方法 適用場面
100×100×6×8 17.1 圧延品 軽量骨組み
200×200×8×12 50.4 圧延品 中規模構造
350×350×12×19 135 溶接品(受注生産) 大型構造物

圧延品と溶接品の使い分け

  • 圧延品:品質が均一で強度が高い、標準サイズのみ
  • 溶接品:大型サイズに対応、受注生産でコストが高い

チャンネル材の特殊用途
モリ工業のチャンネル材規格では、熱間圧延品と溶接品の両方を提供しており、用途に応じた選択が可能です。特に溶接チャンネルは、標準サイズで対応できない特殊な断面形状に対応しています。
製造可能寸法の制約理解
JFEスチールの製造可能寸法表では、幅と厚さの関係で最大長さが決まることが示されています。設計段階でこれらの制約を理解しておくことで、無駄な材料ロスを防げます。

ステンレス鋼材規格適用時の実務上の注意点と品質管理

規格理解だけでなく、実際の建築現場での適用には独特のノウハウが必要です。品質管理の観点から重要なポイントを解説します。

 

規格証明書の読み方
ミルシート(材料証明書)には以下の情報が記載されています。

  • 化学成分の実測値(規格範囲内であることの確認)
  • 機械的性質の試験結果
  • 熱処理履歴
  • 製造ロット番号

これらの情報を正しく読み取ることで、材料の品質を事前に把握できます。

 

現場での品質確認方法
🔍 磁性テスト:オーステナイト系ステンレスは非磁性
⚗️ 硝酸テスト:鋼種判別用の簡易テスト
📏 寸法測定:公差範囲内であることの確認
意外と知られていない規格の落とし穴

  1. 表面仕上げの影響:同じ鋼種でも表面仕上げによって耐食性が変わる
  2. 溶接による性能変化:HAZ(熱影響部)での炭化物析出リスク
  3. 温度係数の考慮:熱膨張係数が炭素鋼の約1.5倍
  4. 磁性の変化:加工硬化により非磁性材が磁性を帯びる場合がある

規格外品への対応
標準規格で対応できない特殊用途には。

  • 特注品の製作依頼(最小ロット制限あり)
  • 複数規格品の組み合わせ使用
  • 代替材料の性能比較検討

建築現場における技術者の健康と安全を確保するため、ステンレス粉塵の吸入防止やアレルギー反応への配慮も重要な実務知識です。

 

これらの知識を総合的に活用することで、ステンレス鋼材規格を適切に理解し、建築プロジェクトの品質向上とコスト最適化を実現できます。規格は単なる数値の羅列ではなく、安全で耐久性の高い建築物を作るための重要なガイドラインなのです。