対面通行高速道路と工事規制の安全対策

対面通行高速道路と工事規制の安全対策

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対面通行高速道路

対面通行高速道路の主要ポイント
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暫定2車線区間の現状

全国の高速道路の約36%にあたる約3400kmが暫定2車線。中央分離帯がなく対面通行で運用されている特殊な構造

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安全対策の重要性

対向車線への飛び出し事故により、過去10年間で119人が死亡。ワイヤーロープ設置により死亡事故ゼロを達成

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工事規制の特徴

リニューアル工事では終日対面通行規制を実施。床版取替など大規模工事で数ヶ月間継続する場合がある

対面通行高速道路の暫定2車線区間とは

高速道路の暫定2車線区間とは、本来4車線以上で計画された道路のうち、片側1車線ずつの合計2車線のみを暫定的に供用している区間を指します。国土交通省の資料によると、平成28年12月時点で全国の高速道路の36%にあたる約4112kmがこの形態で運用されており、このような道路形態が高速道路全体の3割以上を占めるのは世界的にも珍しい状況です。
参考)https://www.webcartop.jp/2021/04/682767/

これらの区間は「対面通行区間」「非分離車線区間」とも呼ばれ、中央分離帯で上下線が明確に区切られていないため、樹脂製のポールや縁石ブロックで簡易的に車線を区切っただけの構造となっています。会計検査院の調査では、暫定2車線道路約2424kmのうち7割に当たる約1752kmがこうした簡易な対面通行構造であることが判明しました。
参考)https://jaf.or.jp/common/kuruma-qa/category-drive/subcategory-safety/faq099

対面通行区間の制限速度は原則70km/h以下に設定されていますが、上下線を走る車両の相対速度は140km/hに達するため、客観的に見ても危険性が高い構造だと言えます。交通量が少ない地方部や、早期開通を優先させるために採用されるケースが多く、将来的に4車線化する計画がある区間でも当面は暫定2車線のまま運用されています。
参考)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9A%AB%E5%AE%9A2%E8%BB%8A%E7%B7%9A

対面通行高速道路における正面衝突事故の実態

暫定2車線の対面通行区間では、対向車線への飛び出しによる正面衝突事故が深刻な問題となっています。会計検査院の調査によると、2005年から2014年までの10年間に、対面通行区間で走行中の車両が対向車線へはみ出した事故は2208件発生し、このうち人身事故は677件で119人が死亡、1281人が負傷しました。
参考)https://www.nikkei.com/article/DGXLASDG23H6A_T21C15A0CR8000/

特に注目すべきは、相手が前方不注意により反対車線に突破して対向車と正面衝突した「もらい事故」で死亡した人が28人にのぼることです。この数字は、どれだけ注意深く運転していても、対向車の動向によって命を落とす可能性があることを示しています。​
対面通行区間での死亡事故率は4車線区間と比較して明らかに高く、対向車線への飛び出し事故は全体の死亡事故の約7割を占めるという報告もあります。縁石など簡単な仕切りでは車線突破を防ぐことができず、一度事故が発生すると重大事故になりやすい構造的な問題が指摘されています。​
建設業従事者にとって、こうした対面通行区間での工事作業は特に危険性が高く、規制内に進入した車両によって作業員が死亡する重大事故も実際に発生しています。工事規制箇所での衝突事故は年々増加傾向にあり、2020年の704件から2022年には1457件へと倍増しており、現場での安全対策の重要性が増しています。
参考)https://www.driveplaza.com/safetydrive/regulation_accident/

対面通行高速道路のワイヤーロープ式防護柵の効果

対面通行区間の正面衝突事故を防ぐため、国土交通省は2018年から本格的にワイヤーロープ式防護柵の設置を開始しました。従来のラバーポールでは対向車線への飛び出しを防げなかったことから、より強固な防護策として開発された安全対策です。
参考)https://trafficnews.jp/post/88287

ワイヤーロープの最大のメリットは、断面幅を占有しないため設計基準に抵触せず、既存の暫定2車線区間に比較的容易に設置できる点にあります。大型車が突っ込んでも車両をしっかり捕捉して対向車を守る構造となっており、その効果は実証データで明確に示されています。
参考)https://news.yahoo.co.jp/articles/48e5f2d6b6bf8edd18df2874bb08fd508906ab03?page=3

国土交通省の「高速道路の正面衝突事故防止対策に関する技術検討委員会」の資料によると、ワイヤーロープ設置区間では2016年に対向車線への飛び出し事故が71件発生していたのが、設置後は4件(2017年度1件、2018年度3件)へ激減し、死亡事故は7件からゼロになりました。​
2017年から2023年3月末までの期間でワイヤーロープ設置区間約776kmを調査したところ、事故総計3716件のうち対向車線へ飛び出した事故はわずか10件(死亡事故なし)にとどまっており、「高い飛び出し防止効果を発揮している」と評価されています。ワイヤーロープへの接触事故自体は551件発生していますが、その大部分でワイヤーロープが車両を補足して対向車線への飛び出しを防いでいます。​

対面通行高速道路のリニューアル工事と対面通行規制

高速道路のリニューアル工事では、大規模な対面通行規制が実施されることが一般的です。特に開通から50年近くが経過している比較的古い区間で、床版の取替え工事が進められており、舗装を剥がして行う作業のため、車両を通行させながらの工事は困難という理由から対面通行規制が採用されます。
参考)https://trafficnews.jp/post/119712

対面通行規制とは、同方向に2車線以上ある道路で片側の車線を走行できないようにし、残ったもう片側の車線で対面通行させる規制形態です。片側2車線を対面運用する大規模な工事や災害復旧工事で運用され、規制手前では事前に車線規制が設置されます。
参考)https://www.c-nexco.co.jp/safety/traffic_restrictions/

2022年6月には、東北道で福島県から青森県までの間に6区間、北陸道では滋賀県から富山県までの9区間、中国道では岡山県から山口県までの8区間で同時に対面通行規制工事が実施されるなど、全国各地で大規模なリニューアル工事が展開されています。基本的にお盆などの繁忙期は工事を行わず、積雪の時期までに終わらせるため、ゴールデンウイークが終わってから一斉に工事が始まる傾向があります。​
建設業従事者にとって重要なのは、対面通行規制区間では交通の流れが悪くなる恐れがあるため、安全運転はもちろん、工事規制箇所での作業時は特に規制内進入事故に注意が必要です。工事規制箇所手前約1kmから工事規制標識が設置され、仮設情報板等により規制情報が周知されますが、規制先端部への衝突や接触事故が多発しており、作業員の安全確保が最優先課題となります。
参考)https://www.e-nexco.co.jp/renewal/sasson_2022/8_10/assets/images/leaflet.pdf

対面通行高速道路の4車線化計画と建設業への影響

国土交通省は2019年9月に、暫定2車線区間のうち大きな課題がある区間を「優先整備区間(約880km)」として選定し、順次4車線化する事業に取り組んでいます。2024年3月には全国11か所、延長計56.5kmの区間を2024年度中に新たに着手することが発表され、事業費は約3560億円が見込まれています。
参考)https://kurukura.jp/article/33889-20240313-30/

4車線化事業の主な目的は、速度低下の解消、事故防止、災害時の早期の交通機能確保にあります。暫定2車線区間は中央分離帯がないため正面衝突などによる死亡事故が多発しており、追い越しもできないことから並行する一般道より流れが悪くなることもあり、このような問題を改善すべく高速道路の4車線化事業が進められています。
参考)https://corp.w-nexco.co.jp/corporate/plan/download/pdfs/w-nexco_report21_p09-10.pdf

建設業従事者にとって、4車線化事業は大規模で長期的なプロジェクトとなるため、施工技術や安全管理の高度化が求められます。暫定2車線から4車線への改築工事では、既存の交通を維持しながら工事を進める必要があり、対面通行規制などの高度な交通管理技術が不可欠です。
参考)https://www.mlit.go.jp/report/press/road01_hh_001769.html

一方で、4車線化事業には時間を要することから、対面通行区間の当面の緊急対策としてワイヤーロープ等の設置が継続されます。有料道路の土工部・中小橋梁の計850kmのうち、ワイヤーロープ設置可能な776kmは2023年8月までに設置完了しており、延長約5000kmに達する全国の暫定2車線の高規格道路全体からすればまだ道半ばですが、安全性の向上は確実に進んでいます。
参考)https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/001390308.pdf

建設業界では、今後も対面通行区間での工事需要が継続的に発生すると予想され、安全対策技術の向上と作業員の安全教育が重要な課題となります。特に対面通行規制区間での施工では、対向車両との相対速度が高いため、規制器材の適切な配置と視認性の確保、作業員の退避スペースの確保など、通常の工事以上に慎重な安全管理が求められます。
参考)https://hokuriku.c-nexco.co.jp/hr1-2025/construction/

参考リンク:国土交通省による高速道路の正面衝突事故防止対策に関する技術検討委員会の情報
https://www.mlit.go.jp/road/ir/ir-council/front_accident/index.html
参考リンク:暫定2車線区間のワイヤーロープの効果に関する詳細情報
https://trafficnews.jp/post/88287
参考リンク:NEXCO中日本の工事規制箇所通行時の安全走行ガイド
https://www.c-nexco.co.jp/safety/traffic_restrictions/