

JIS A1453の試験を「合格さえすれば床材の寿命は安心」と思っているなら、実際の施工後に10年以内でクレームが発生するリスクがあります。
テーバー摩耗試験は、材料表面の耐摩耗性を定量的に評価するための試験方法です。「テーバー」という名前は、この試験機を開発したアメリカのTaber Industries社に由来しています。建築の現場では、床材・塗膜・化粧板など、日常的に摩擦を受ける材料の品質管理や選定において欠かせない試験となっています。
試験の基本的な仕組みはレコード盤のような円盤(回転盤)に試験片を固定し、その上に2個の摩耗輪を載せて一定荷重をかけながら回転させるというものです。摩耗輪が試験片の表面を同心円状にこすり続けることで、材料のすり減りを再現します。試験前後の質量差(摩耗量)や厚さの変化、外観の変化を測定することで、その材料がどれだけ摩耗に耐えられるかを数値として評価できます。
建築業の現場でよく聞かれる「耐摩耗性が高い」という言葉は、まさにこの試験で確認される性能を指します。一人が一回歩行したときの床への負荷はわずかですが、オフィスや商業施設のように何年もかけて多くの人に踏まれ続けた床は確実にすり減っていきます。テーバー摩耗試験はそうした実際の使用環境を数値化・比較できる唯一の手段のひとつです。
建材試験センターの公式資料によれば、建築材料の摩耗試験はJISだけで数十種類が存在し、テーバー方式はそのなかでも広く採用されている方法です。つまり多くの床材規格や認証評価の土台になっています。
建材試験センター(公式)による摩耗試験の種類と解説はこちら。
Part3 摩耗試験|建材試験センター【公式】 - note
建築業に携わる方が最も頻繁に目にするテーバー摩耗試験のJIS規格は、大きく2つあります。JIS A 1453「建築材料及び建築構成部分の摩耗試験方法(研磨紙法)」とJIS K 7204「プラスチック-摩耗輪による摩耗試験方法」です。
この2つは見た目が非常に似ていて、装置の基本構成はほぼ同じです。しかし、摩耗させる手段が根本的に異なります。JIS A 1453はゴム輪の表面にアルミナ質の研磨紙(P180相当)を巻き付けたものを摩耗輪として使用します。一方、JIS K 7204は「CS-10」「CS-17」などと呼ばれる砥石素材の摩耗輪(研削砥石)を直接試験片に接触させます。
以下の表で2規格の主な違いを整理します。
| 比較項目 | JIS A 1453 | JIS K 7204 |
|---|---|---|
| 摩耗手段 | 研磨紙(アルミナP180) | 砥石摩耗輪(CS-10、CS-17等) |
| 主な対象材料 | 建築材料・建築構成部分(床材、壁材等) | プラスチック全般、床仕上げ材(塗膜含む) |
| 試験荷重 | 2.75N(1類)または5.20N(2類) | 2.45N、4.9N、9.8Nから選択 |
| 回転速度 | 60±2rpm | 60±2rpm または 72±2rpm |
| 研磨紙交換 | 500回転ごとに必須 | 摩耗輪の種類による |
| 受託試験料金目安 | 約79,200円/500回転(建築総合試験所) | 約92,400円/500回転(建築総合試験所) |
試験条件の選択肢が多いのはJIS K 7204の特徴です。摩耗輪の種類と荷重の組み合わせが多岐にわたるため、試験条件がわからない状態で発注すると、異なる結果が出て材料間の比較が意味をなさなくなります。つまり条件指定が命です。
また、フローリングのJAS(日本農林規格)における摩耗試験では、JIS A 1453と同様の装置が採用されており、「500回転後に表面材料が残り、100回転当たりの摩耗減量が0.15g以下」という具体的な数値基準が定められています。建築工事の材料仕様書を作成する際にも、この数値を目安として活用することができます。
JIS A 1453の規格全文(kikakurui.com)はこちらで参照できます。
JISA1453:2015 建築材料及び建築構成部分の摩耗試験方法(研磨紙法)
テーバー摩耗試験の試験手順を正しく理解していないと、結果の信頼性が大きく損なわれます。これは重要なポイントです。
まず試験片は直径約120mmの円形に切り出し、中央に約6mmの穴をあけます。試験前には温度20±5℃・相対湿度65±20%の環境で24時間以上の状態調整が必要です。
その後の試験手順は以下の流れになります。
見落としがちな落とし穴が、研磨紙の品質管理です。JIS A 1453では、研磨紙の品質を「亜鉛標準板(テーバーS-34または同等品)を500回転摩耗させたときの減量が130±20mg」という基準で検定することが規定されています。つまり研磨紙のロットによって摩耗力にバラつきがあり、基準外のものを使用すると試験結果が正確でなくなります。研磨紙は必ず検定済みのものを使用するのが原則です。
また研磨紙はデシケーター(炭酸カリウム飽和溶液入り、温度20±2℃)で24時間以上のコンディショニングが必要です。湿度管理なしで保管していた研磨紙を使うのはダメです。摩耗力が変わってしまいます。
テーバー摩耗試験が建築現場でどのように使われるか、具体的な数値基準を見ていきます。数値を知ることで、材料選定や仕様書作成の精度が格段に上がります。
公共建築改修工事標準仕様書(国土交通省)では、床仕上げ材(塗り床など)の摩耗質量の基準として「200mg以下」という数値が定められています(JIS K 7204準拠、摩耗輪CS-17・荷重2000g・1000回転)。ハガキ(約2.5g)の重さを単位に換算すると、200mgはその約1/12.5の重さです。これほど微小な質量変化を精密に測定しているのが、テーバー摩耗試験のポイントです。
フローリング(JAS)の摩耗A試験では、「500回転後に表面材料が残っており基材が現れないこと、かつ100回転当たりの摩耗減量が0.15g=150mg以下」が合格条件です。JAS認定を受けたフローリングには、この試験をクリアした製品だけが使われています。
以下に用途別の代表的な基準をまとめます。
| 床材種別 | 適用規格 | 試験条件(摩耗輪・荷重・回転数) | 合格基準(摩耗量) |
|---|---|---|---|
| フローリング(JAS) | JAS 木-2(摩耗A試験) | JAS指定摩耗輪・500回転 | 100回転あたり0.15g以下、かつ基材露出なし |
| 塗り床・床仕上げ材 | JIS K 7204 | CS-17・2000g・1000回転 | 200mg以下 |
| 建築材料一般(研磨紙法) | JIS A 1453 | 研磨紙(P180)・2類5.20N | 製品規格に依存(規定なければ500回転か1000回転で計測) |
| 高圧化粧板 | JIS K 6902 | ゴム輪(研磨紙)・4.9N | 製品グレードにより異なる |
数値だけが合格基準ではない点にも注意が必要です。外観の変化(模様の切れ・下地の露出・色層の消失)が試験途中に見られた場合は、質量変化の数値が基準内であっても不合格となる場合があります。デザイン性を重視する床材では、この外観評価が特に重要になります。
国土交通省「公共建築改修工事標準仕様書(建築工事編)」でも摩耗質量200mg以下の基準が確認できます。
公共建築改修工事標準仕様書(建築工事編)- 国土交通省
試験結果の数値を正しく「読む力」こそが、建築業従事者に求められる実務的なスキルです。これは使えそうです。
テーバー摩耗試験の報告書には「摩耗量○○mg」という数値が記載されますが、この数値だけを見て床材の優劣を判断するのは危険なケースがあります。たとえば、同じ200mgという摩耗量でも、試験の回転数が500回転か1000回転かで意味が全く変わります。また、試験に使用した摩耗輪の種類(CS-10かCS-17か)や荷重(2.45NかCS-17 2000gか)によっても結果は大幅に異なります。試験条件が揃っていない数値の比較は無意味です。
実務での重要な判断軸として、以下の3点を押さえておくとよいでしょう。
もう一点、現場では見過ごされがちな視点があります。それは「同じ床材でも施工環境の湿度・温度によって摩耗挙動が変わる」という事実です。JIS A 1453では試験片の状態調整を温度20±5℃・相対湿度65±20%で行うことが定められています。これは実際の施工後の環境とは異なる場合があり、特に湿気の多い地下階や厨房などの床材選定においては、試験値と実性能の乖離が生じやすい点を理解しておく必要があります。
さらに、建材試験センター(公益財団法人)のレポートでは、テーバー摩耗試験はフローリングのJAS規格の摩耗試験にも採用されており、プラスチック・ゴム・布・紙など幅広い材料の耐久性評価に応用されていると指摘されています。一見「床専用の試験」と思われがちですが、実は塗料(JIS K 5600-5-8/5-9)や路面標示塗料(JIS K 5665)、化粧板(JIS K 6902)まで多岐にわたる材料の品質評価に使われています。建築業の仕事の中でテーバー摩耗試験が関係する場面は、床だけではないということです。
試験結果の正しい読み方に迷ったときは、受託試験を行った機関の担当技術者に「どの条件で試験したか」「他材料との条件を合わせた比較ができるか」を確認するのが最も確実な方法です。一回の確認で後のクレームリスクが大幅に下がります。
建材試験センター(公式)の試験依頼・相談窓口(摩耗試験含む)はこちら。
Part3 摩耗試験 | 建材試験センター 公式サイト