
鉄鋼業と製鉄業は、鉄の製造工程においてカバーする範囲が異なります。製鉄業は、鉄鉱石やコークス、石灰石などの原料を高炉で溶かして銑鉄を取り出す作業、すなわち製銑工程のみを指す業態です。一方、鉄鋼業は製銑業、製鋼業、圧延・加工業の3部門を含む総合的な業態を意味し、鉄鉱石から最終的な鋼材製品までの一連の工程全体を指します。
参考)製鉄業と鉄鋼業の違いを教えてください! - Clearnot…
製鉄業が担う製銑工程では、高炉で鉄鉱石を溶かして銑鉄(炭素含有量約4%の鉄)を製造します。この銑鉄は硬いものの脆いという性質を持ち、そのままでは建築資材として使用できません。製鉄業は「溶けた鉄を扱う」段階に特化した業態であり、高炉という巨大な設備を24時間稼働させ続けることが特徴です。
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鉄鋼業はより広範な概念で、製銑だけでなく、銑鉄を堅くて強い鋼に加工する製鋼工程、さらに鋼を圧延して各種鋼材を作る圧延・加工工程までを含みます。転炉を中心に鋼を作る製鋼業、鋼を圧延して鋼材をつくる圧延・加工業の3部門を一貫して行う製鉄所を「銑鋼一貫製鉄所」と呼び、これが鉄鋼業の中心となっています。
参考)てっこうぎょう【鉄鋼業】
現代では、製鉄業という用語も鉄鋼業と同じ意味で使われることが多く、両者の区別は曖昧になっています。特に大手の製鉄所では、高炉から最終製品までを一貫して生産する体制が主流であるため、「○○製鉄株式会社」という社名でも実質的には鉄鋼業全体を担っています。
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鉄鋼業の製造工程は、製銑・製鋼・圧延の3段階で構成され、それぞれが重要な役割を果たしています。製銑工程では、焼結、コークス製造、高炉操業の3つの工程が含まれます。高炉は製鉄所のシンボル的存在で、高さ100メートルを超える巨大な設備であり、内部容積が5000立方メートルを超える超大型高炉も存在します。
参考)製銑工程
高炉の内部では、炉頂からコークスと鉄鉱石が交互に投入され、下部にある羽口から約1,000℃〜1,200℃の熱風が吹き込まれます。コークスは熱風や酸素と反応して一酸化炭素や水素などのガスを発生させ、このガスが上昇しながら鉄鉱石を溶かし、酸素を奪い取る還元反応が起こります。炉内温度は2,000℃近くに達し、還元された鉄は溶解状態で高炉下部へと流れ落ちていきます。
参考)製造工程と商品
高炉で製造された銑鉄には約4%の炭素が含まれており、そのままでは脆くて構造材料として使用できません。そこで製鋼工程では、転炉を使用して銑鉄から炭素や不純物を除去する作業が行われます。転炉内の銑鉄に高純度の酸素を吹き付けると、炭素、珪素、マンガンなどが燃焼し、わずか20分以内で銑鉄は鋼へと転換されます。この工程により、粘りがあり構造材料として信頼性の高い鋼が得られます。
参考)【高炉・転炉・電炉】製鋼業界の3つの炉の違いと仕組み |パー…
高炉による製鉄の利点は、製造過程で発生する一酸化炭素を燃焼させて火力発電を行い、製鉄所の電気をまかなえることです。しかし、炭素が融解鉄に大量に溶け込むため不純物の割合が高くなることや、温暖化ガス排出量が多いというデメリットもあります。日本国内では新日鐵住金(現・日本製鉄)や神戸製鋼などが高炉を保有しています。
圧延加工は、回転するロールの間に金属を通して圧力で伸ばす塑性加工法であり、鉄鋼業における最終工程として重要な役割を果たします。金属はロールとの摩擦抵抗によって回転ロールに引き込まれ、所定の形状に成形されます。圧延でつくられる鋼材には大きく分けて「帯鋼(おびこう)」と「条鋼(じょうこう)」の2種類があります。
参考)圧延とは?圧延加工でつくられる鋼材と圧延工程・機械の種類
帯鋼とは、スラブ(鋼片)を薄く伸ばした板状の圧延品で、コイル状に巻き取られたものは「コイル材」と呼ばれます。薄いものでは長さがおよそ1000メートルにもなり、自動車のボディーや家電製品などに使用されます。高温で圧延された帯鋼は表面に黒いスケール(酸化膜)が付着するため「黒皮材」と呼ばれ、常温で圧延されたものは表面が綺麗で光沢があるため「みがき帯鋼」や「ミガキ材」と呼ばれます。
条鋼は丸棒状のバー材や、断面がH形やL形になった板状ではない圧延品を指します。特にH形鋼、山形鋼(Lアングル)、溝形鋼(チャンネル)、I形鋼、T形鋼などは、建築資材や土木資材として幅広く使用されます。これらの形鋼は形状が複雑なため、複数の圧延工程を経て製造されます。建築構造用鋼材は、建物の構造信頼性を向上させるために鋼種を適正に使い分けることが重要です。
参考)建築構造用鋼材の特徴|建築|製品情報|JFEスチール
圧延には熱間圧延と冷間圧延があり、それぞれ特徴が異なります。熱間圧延は材料の金属を900℃〜1,200℃に加熱してやわらかくし、加工しやすい状態で圧延する方法です。赤熱した金属が圧延される様子は製鉄所の特徴的な光景となっています。一方、冷間圧延は常温で行われ、より精密な寸法精度と表面品質が求められる製品に使用されます。
参考)https://jp.meviy.misumi-ec.com/info/ja/howto/metal-machining/30701/
鉄鋼業界は製造方法の違いにより「高炉メーカー」と「電炉メーカー」の2つに大別され、それぞれ異なる事業特性を持っています。高炉メーカーは鉄鉱石を主原料として、製銑・製鋼・圧延の3工程をもち、高炉銑→転炉・電気炉鋼→圧延鋼材の順序で鉄鋼の大規模一貫生産を行う企業です。日本製鉄、JFEスチール、神戸製鋼所などが代表的な高炉メーカーとして知られています。
参考)鉄鋼業
高炉プロセスの特徴は、鉄鉱石を主原料とした大規模生産が可能な点にあります。高炉は一度稼働を開始すると停止できないため、通常は24時間体制で人間が3交代で作業を行います。製品価格はトン当たり7万円から12万円程度で、大量生産により効率的な製造が可能です。しかし、設備投資が巨額になることや、温室効果ガスの排出量が多いことが課題となっています。
参考)鉄鋼業の特色や世界的粗鋼生産企業|鉄は国家なり - 企業クリ…
電炉メーカーは鉄スクラップを主原料として、電気炉で鉄を溶かして鋼材を製造する企業です。共英製鋼、トピー工業、中部鋼鈑などが代表的な電炉メーカーです。電炉プロセスの利点は、主原料が鉄スクラップのため資源を有効活用できる点、比較的小ロット多品種の生産に適している点、そして高炉に比べて設備費や消費エネルギーが少ない点です。環境保護やリサイクルの観点から、資源循環型社会を支える重要な役割を担っています。
参考)共英製鋼とは
電炉メーカーのデメリットとしては、使用するエネルギーが電気のため、電気料金値上げなど外的要因でコストが左右されやすい点が挙げられます。また、スクラップに含まれる不純物が原因で、電気炉製の鋼鉄は加工性に劣ると言われることもあります。近年は、カーボンニュートラル実現に向けて、日本製鉄やJFEスチール、神戸製鋼所などの大手3社が従来の高炉を使った製造の一部を電炉に置き換える動きを見せています。
参考)変わる鉄鋼業 高炉から電炉への転換を模索:日経ビジネス電子版
鉄鋼業は「産業の米」と呼ばれ、建築土木、自動車、産業機械、電気機器などの製造に欠かせない素材を供給する日本の基幹産業です。製造業GDPの2割を占め、鉄鋼業だけで22万人の雇用を支える重要な産業として、日本経済全体を左右する存在となっています。建築業界においては、鉄道、橋梁、建物など社会インフラの構築に不可欠な材料を提供しており、あらゆる産業と密接に関わり合っています。
参考)https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/meeting/wg/2210_02human/221124/human04_010401.pdf
鉄鋼業の特徴は、その多様性と影響力の大きさにあります。鉄鋼製品は土木・建築、自動車、電気機械、造船など供給先が多岐にわたり、最も重要な金属材料として位置づけられています。このため鉄鋼業は一国の経済を左右する基幹産業と言え、工場が立地する地域経済の牽引役も担っています。明治期の八幡製鉄所から連綿と続く歴史を持つ日本の鉄鋼業は、欧米からの技術導入、消化、新たな技術開発を通じて発展を遂げてきました。
参考)文明の礎「鉄鋼業」href="https://steelcan.jp/sca/v14_2/" target="_blank">https://steelcan.jp/sca/v14_2/amp;#8211; 社会発展を支える鉄、進化す…
建築業界で使用される鋼材は、鉄鋼業の製造工程を経て供給されます。銑鉄1トンを生産するためには、鉄鉱石のほか石炭、石灰石などの原料やエネルギーが多く使われます。製造された鋼材は自動車、建設、造船、家電、インフラといった広範な分野で活用され、産業全体を支える役割を担っています。鉄鋼業は製造業の基盤として、建築業界の発展を支え続けているのです。
参考)https://www.jisf.or.jp/knowledge/mini/index.html
近年は脱炭素社会への移行や資源制約への対応が課題となり、鉄鋼業界では技術革新力やサステナビリティへの意識が求められる局面にあります。環境負荷低減や効率性を追求し、社会的要請に応じた変化を遂げながら、鉄鋼業は今後も建築業界をはじめとする各産業の発展を支え続けていくでしょう。建築業従事者にとって、鋼材の製造工程や鉄鋼業の特性を理解することは、適切な材料選定や施工計画の立案に役立つ重要な知識となります。
参考)【業界研究】鉄鋼業界とは|鉄鋼メーカーの将来性や仕事内容、向…
日本鉄鋼連盟では鉄鋼に関する詳しい知識を提供しています。
鉄鋼の一口知識 - 日本鉄鋼連盟
高炉と電炉の技術的な違いについて詳しく知りたい方は以下を参照してください。
【高炉・転炉・電炉】製鋼業界の3つの炉の違いと仕組み
日本製鉄の製銑工程について詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。