
凍結融解作用は、コンクリート中の水分が凍結する際に約9%の体積膨張を起こし、周囲がコンクリートで拘束されているため大きな膨張圧を生じさせる現象です。この膨張圧がコンクリートの引張強度に達すると、ひび割れや表面剥離が発生します。
参考)https://www.takehara-baseman.co.jp/t_data/pdf/AE%E6%B8%9B%E6%B0%B4%E5%89%A4.pdf
寒冷地だけでなく、気温が氷点下になる可能性がある地域では起こりうる現象であり、実際に四国地方の山間部でも凍結融解作用による損傷が確認されています。ひび割れが生じた箇所はコンクリート内部に水が浸透しやすくなり、外部から浸透した水分が次の凍結で更に大きな膨張圧を発生させ、損傷を拡大させる悪循環に陥ります。
参考)凍結融解作用によるコンクリートのひび割れ
凍結融解の繰り返しを受けることで、コンクリートは圧縮応力下における応力-ひずみ関係も変化し、構造物全体の力学特性に影響を及ぼします。
参考)凍結融解作用により劣化したコンクリートの圧縮応力下における応…
AE剤(空気連行剤:Air Entraining Agent)は、コンクリート中に微細で独立した多数の空気泡を均一に連行させる界面活性剤の一種です。主な成分はシャンプーにも使用される界面活性剤であり、コンクリートの表面を滑りやすくする効果があります。
参考)AE剤を用いたコンクリートの特徴【建築士試験】|ゼロ所長【ゼ…
AE剤を使用する最大の目的は、凍結融解に対する抵抗性の向上とワーカビリティーの向上です。連行された微細な空気泡が、水の凍結による膨張圧を吸収する「クッションの役割」を果たすことで、コンクリートのひび割れや剥離を防ぎ、耐久性を著しく向上させます。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/coj1963/8/3/8_7/_pdf
さらに、空気泡がボールベアリングのような作用となり、コンクリートの内部摩擦を低減させ、流動性や作業性を改善します。これにより、コンクリートの打込み作業や締め固め作業が容易になり、ポンプ圧送性も向上するとともに、材料分離抵抗性も高まります。
参考)033_【AE剤の添加目的】効果とメカニズムを徹底解説!コン…
AE剤の凍害予防メカニズムについて詳しく解説された資料(竹原基盤)
コンクリートの凍結融解抵抗性を確保するためには、適切な空気の連行が必要です。寒中コンクリートや凍害のおそれのある場合は、AE剤等を使用し、空気量を4.5~5.5%とすることが推奨されています。
参考)井澤式 建築士試験 比較暗記法 No.289(コンクリート中…
しかし、硬化コンクリートにおいては空気量だけではなく、気泡と気泡の間の距離を示す気泡間隔係数が凍害に対する抵抗性に大きな影響を及ぼします。一般的に、気泡間隔係数を200~250μm以下とすることが奨励されており、この値が小さいほど凍結融解に対する抵抗性は向上します。
参考)https://chuken.co.jp/wordpress/wp-content/uploads/2022/09/005_concrete-05.pdf
管理項目 | 推奨値 | 測定方法 |
---|---|---|
空気量 | 4.5~5.5% | JIS A 1128(空気室圧力方法) |
気泡間隔係数 | 200~250μm以下 | ASTM C 457(リニアトラバース法) |
耐久性指数 | 85%以上 | 凍結融解試験(相対動弾性係数) |
フレッシュコンクリートの空気量測定にはワシントン型エアメータを用いた空気室圧力方法が一般的に使用されますが、硬化コンクリートの気泡間隔係数測定にはリニアトラバース法による顕微鏡測定が必要となります。
AE剤の添加量は各メーカーの製品仕様により異なりますが、一般的にはセメント質量に対して1.0wt%程度が標準使用量とされています。高性能AE減水剤の場合は、結合材に対して1.5%(質量)が標準的な添加量となります。
参考)AE剤とは?1分でわかる意味、効果、添加量、減水剤との関係
セメント量に対してAE剤を多くすると、空気量が増加しワーカビリティが改善されますが、空気量が過大になるとコンクリート強度が低下するため注意が必要です。AE剤は空気泡を混入するのでコンクリートの圧縮強度は低下しますが、水を減らす分コンクリートの圧縮強度を高めることも可能です。
また、空気量が改善する分、単位水量を減らすことも重要なポイントです。空気量調整剤を使用する場合は、試験練りであらかじめ200~500倍程度に希釈して使用することが推奨されています。
参考)https://www.yamaso-chem.co.jp/wp/wp-content/uploads/2019/11/4863fd3222694eda4cfc4a6aa39ebba1.pdf
コンクリート用化学混和剤の詳細な技術解説(日本コンクリート工学会)
凍害劣化の進行を防ぐためには、補修・補強など適切な対策をとる必要があり、一般に外部からの水分侵入の抑制、劣化した部分の除去、補修材の被覆による断面修復が行われます。
参考)https://data.jci-net.or.jp/data_pdf/35/035-01-1147.pdf
補修方法として、ウォータージェット処理により劣化面を深く除去した供試体は、処理を行っていないもしくは除去深さの浅い供試体に比べ、再劣化しにくいことが確認されています。補修材としては、無収縮モルタル、ポリマーセメントモルタル、高性能繊維補強セメント複合材料(HPFRCC)などが使用されます。
母材コンクリートが凍害を受けていない供試体は、凍害を受けた供試体に比べ、補修処理後の再劣化の程度が小さいため、早期の補修対応が重要となります。ひび割れの補修工法は、ひび割れの発生によって損なわれたコンクリート構造物の防水性、耐久性を向上させる目的で実施されます。
参考)コンクリートのひび割れの原因と補修方法
コンクリートの強度は水セメント比で決まるといわれており、建築用コンクリートの水セメント比は50%から65%と定められています。水セメント比を小さくすることで、中性化(コンクリートの耐久性)の進行を著しく遅らせることができます。
参考)https://ishikawa-ex.com/block/mizusemento-zairyou.html
水が多いほど練り混ぜしやすく型枠にも打ち込みやすい半面、コンクリートの強度は低下します。現場で加水(水を加える)をすると水セメント比が変わってしまうため、コンクリートの強度が低下し、工場で正確に練り上げられたコンクリートでも、定められた配合でなくなるためJIS規格を通らなくなります。
参考)辛口コラム№3 『コンクリートの水セメント比についての素朴な…
水セメント比を適切に管理することで得られる効果は以下の通りです。
促進劣化試験の結果から耐凍害性を有すると判定された配合に関しては、10年間の過酷な屋外環境でも劣化は確認されませんでした。また、凍結融解による劣化には供試体の含水状態の違いが大きく影響し、促進劣化試験はかなり過酷な試験方法であり、安全側の評価になることが確認されています。
参考)https://www.pwrc.or.jp/thesis_shouroku/thesis_pdf/2104-P024-027_katahira.pdf