

つや有り仕上げ塗料を語るとき、まず整理したいのが「つやの段階」です。一般的に現場で扱われるのは、つや有り(全つや)・7分つや・5分つや(半つや)・3分つや・つや消しのように、段階で考えるやり方です。つや有りは鏡面に近い反射感が出やすく、7分つやは派手さを少し抑え、5分つやは意匠と機能の中間、3分つや〜つや消しは落ち着いた質感に寄ります。
つやの選択は、単なる好みではなく「見え方のクセ」を管理する選択でもあります。つや有りは光を強く反射するため、壁面のわずかな歪み、パテの厚み差、ペーパー目、ローラーのつなぎ目などが“陰影”として浮きやすいです。逆に、つやを落とすほど乱反射が増えて下地の粗が目立ちにくくなりますが、その代わり塗膜表面が微細凹凸になりやすく、汚れが残りやすい側面も出ます(特に手垢・皮脂・排気系の黒ずみ)。
つや有り仕上げ塗料を選ぶ現場で、仕上がりを読みやすくする実務的な目安を挙げます。
・人の手が触れる(手摺周り、扉まわり、トイレ周辺など):つや有り〜5分つやで清掃性を確保しやすい
・面が広く、下地が新しくフラット:つや有りで高級感・清潔感を出しやすい
・改修で下地が荒れている、補修跡が多い:5分〜3分つやで“粗を拾いすぎない”設計が安全
なお「メーカーによって7分つや等がJIS規格外になる場合がある」という注意点もあり、材料選定ではカタログ表記だけでなく、仕様書・製品規格の取り扱いを現場で一度確認した方が事故が減ります。
つや有り仕上げ塗料の強みは、塗膜表面が比較的平滑・緻密になりやすいことです。その結果、汚れが付着しても拭き取りやすく、日常清掃の難易度が下がります。また、つや有りは一般に耐候性・耐久性の面でも有利になりやすいと説明されることが多く、外装・付帯部で「長持ち」を重視する場合に選ばれやすいです。
一方、デメリットははっきりしています。つや有りは“下地の出来がそのまま表に出る”ため、素地調整が甘い現場ほど仕上がりクレームにつながりやすいです。特に側光(窓から斜めに入る光、廊下のライン照明、夕方の低い日差しなど)では、微小な段差が全部出ます。
汚れと耐久性を現場視点で言い換えるなら、「つや有り=保守性が上がるが、施工の誤差管理が難しくなる」です。対策はシンプルで、下地調整の工程と検査を前倒しします。
・パテ〜研磨の段階で側光を当てて確認する(照明を“仕上げ目線”で使う)
・塗り始め前に、壁面の凹凸・補修跡を写真で残し、施主や監督と共有する
・“つやで隠れる”期待を捨て、つや有りほど「下地の品質」を契約品質として押さえる
ここで意外と盲点なのが、つや有りは「清掃しやすい」一方で、清掃傷(拭き傷・擦り傷)が光の条件で見えやすいことです。特に濃色・中間色のつや有りは、乾拭きや硬いスポンジで微細な傷が“つやムラ”のように見える場合があります。日常清掃の運用(柔らかいクロス、適切な洗剤、乾拭きの圧)まで、引き渡し時に一言添えるだけでクレーム予防になります。
つや有り仕上げ塗料で最も差が出るのは、塗料そのものより「下地調整」と「塗り方の再現性」です。つや有りは表面がフラットに仕上がりやすい分、わずかな不連続(パテ痩せ、ヘラ跡、ピンホール、巣穴、旧塗膜の段差)も“強調表示”されます。
施工ムラの代表例は、ローラー目の継ぎ、塗布量不足、希釈・粘度のバラつき、乾燥条件差(通風・日射・温度)による艶引けです。艶引けは「同じ材料なのに部分的に艶が落ちる」現象として現れ、原因が複数絡むため厄介です。ここは“現場で制御できる変数”に分解して潰すのが現実的です。
・塗布量:メーカー規定の使用量に近づける(不足は艶引け・色ムラの温床)
・面の取り方:一面内で止め継ぎを作らない(どうしても必要なら見切り位置を設計で作る)
・希釈管理:バケツごとの希釈率を統一し、途中で職人判断で変えない
・乾燥管理:直射日光・強風で表面だけ急乾燥すると艶が不安定になりやすいので、養生や時間帯調整を検討する
さらに、つや有りは「下塗りとの相性・吸い込み」の影響を受けやすいです。吸い込みムラがあると、上塗りの樹脂分が場所によって引っ張られ、結果として艶の出方が変わります。ここは、シーラーや下塗材で吸い込みを止め、下地を均一にしてから上塗りで艶を作る、という順番を崩さないことが大事です。
参考:つやの段階・機能性(汚れにくさ、下地のアラの出方)の考え方
https://nurikae-no1.jp/blog/36217/
建築の内装・付帯部で「つや有り仕上げ塗料」を具体化する際、仕様書記号として理解しておくと便利なのが、つや有り合成樹脂エマルションペイント(EP-G)です。EP-Gは、水で希釈できる水溶性塗料として扱われ、コンクリート・石膏ボードなどの下地に用いられるほか、内装の鉄部・木部にも使われることがある、と整理されています。つやを付与することで耐水性や耐候性が向上する、という説明もあり、内外装の条件次第で選択肢に入り得ます。
ただし、どこでも万能に使えるわけではありません。屋外の雨掛かり部で長期耐候性を狙うなら、別系統(より耐候性を重視した仕様)と比較して、初期コストと更新周期(ランニング)で判断する設計が必要になります。実務では「外部でも軒裏など雨が直接当たりにくい場所で使うことが多い」といった使い分けが語られています。
つやの出し方も設計要素です。内装壁は“テカりすぎ”が空間の落ち着きを壊す場合があるため、3分つや、軽い水掛かりがある場所は5分つや、といった運用例が示されます。ここは施主の好みよりも、照明計画(グレア)と清掃頻度(運用)で答えが変わりやすいので、設計・監督・施工で早めに共有するとトラブルが減ります。
参考:EP-Gの適用下地、メリットデメリット、外部での扱い方、仕様書との関係
https://kenzai-chishiki.com/ep-gpainting/
つや有り仕上げ塗料は「塗って終わり」ではなく、検査と手直しの設計まで含めて品質が決まります。検索上位の一般論では“艶ありは汚れにくい/下地が目立つ”で止まりがちですが、現場で効くのは“どのタイミングで、どの光で、何を合否にするか”です。
まず検査光です。昼間の自然光だけで検査すると見落としが増えます。側光(斜め光)を意図的に作ると、パテ波・研磨ムラ・ローラー継ぎが露骨に出ます。検査のコツは、仕上げ直後ではなく、乾燥後に角度を変えて見ることです。乾燥で艶が落ち着き、ムラが“出揃う”からです。
次に手直しの設計です。つや有りは部分補修が“つや差”として残りやすく、補修跡が見えるとクレームになります。そこで、最初から「手直しが必要になったらどこまで塗り直すか」を決めておくと、現場判断で泥沼化しません。
・基本は“面”で直す(点で直すほど艶差が出る)
・見切りや入隅など、自然な切れ目を利用して補修境界を作る
・補修の塗り方(ローラー種類、希釈、塗布量、塗り方向)を本施工と揃える
最後に、施主説明の独自ポイントです。つや有りは高級感が出る反面、光の反射で「見る角度により表情が変わる」仕上げです。つまり、同じ壁でも時間帯で見え方が変わります。ここを引き渡し前に短く説明しておくと、“夕方だけムラに見える”のような感覚クレームを技術説明で回避できます。施工品質を上げるだけでなく、期待値のすり合わせも品質管理の一部です。