陽極酸化皮膜とアルミの処理の違いや塗装の特徴と種類

陽極酸化皮膜とアルミの処理の違いや塗装の特徴と種類

記事内に広告を含む場合があります。
陽極酸化皮膜とアルミの基礎
🛡️
アルマイトの正体

電気化学的に生成される酸化アルミニウム層で、硬度と耐食性が飛躍的に向上します。

📏
JIS規格と膜厚

使用環境に応じてAA10やA1などの等級があり、適切な厚さ選定が寿命を左右します。

🎨
複合皮膜の強み

陽極酸化皮膜の上に塗装を施すことで、耐候性と意匠性を両立させています。

陽極酸化皮膜とアルミ

建築現場において、サッシやカーテンウォール、外装パネルなどのアルミ建材を選定する際、「陽極酸化皮膜(アルマイト)」という言葉を避けて通ることはできません。しかし、その生成メカニズムや塗装との違い、具体的なJIS規格の数値について、詳細に説明できる人は意外と少ないのではないでしょうか。
この記事では、建築従事者が知っておくべき陽極酸化皮膜の全貌を、専門的な視点から徹底的に解説します。単なる表面処理の知識にとどまらず、建材の寿命を延ばすための選定基準や、現場でのトラブルを防ぐためのメンテナンス知識まで網羅しています。

陽極酸化皮膜とアルミのアルマイト処理の仕組み

 

「陽極酸化皮膜」と「アルマイト」は、実質的に同じものを指しますが、工学的な正式名称が陽極酸化皮膜であり、商標から一般化した通称がアルマイトです。この処理は、単にアルミの表面に何かを塗る「塗装」や「メッキ」とは根本的に異なります。
最も大きな違いは、**「素地そのものを変化させて保護層を作る」**という点です。


  • 成長の方向性: メッキが素地の上に異種金属を積み上げるのに対し、陽極酸化皮膜はアルミ素地を浸食しながら内側へと成長すると同時に、外側にも成長します。つまり、元のアルミ表面よりも皮膜の厚さ分だけ寸法が増加するわけではなく、素地が酸化物に置き換わるイメージです。

  • 多孔質層(ポーラス層): 生成された皮膜には、肉眼では見えない無数の微細な孔(ポア)が開いています。これを「多孔質層」と呼びます。この孔は、直径が数十ナノメートルという極小の世界ですが、この孔があることで染料を吸着させて着色(カラーアルマイト)することが可能になります。

  • バリヤー層: 多孔質層の最下部、アルミ素地と接する部分には、孔のない薄く緻密な層が存在します。これを「バリヤー層」と呼び、腐食因子が素地に到達するのを防ぐ最後の砦となります。

建築用アルマイトでは、この多孔質層の孔を塞ぐ**「封孔処理(ふうこうしょり)」**が極めて重要です。沸騰水や酢酸ニッケル溶液などで処理を行い、孔の中で水和反応を起こして体積を膨張させ、孔を物理的に塞ぎます。この封孔処理が不十分だと、孔の中に汚れや酸性雨成分が入り込み、内部から腐食が進行してしまいます。
また、陽極酸化皮膜の主成分は酸化アルミニウム(Al₂O₃)であり、これはルビーやサファイアと同じ化学組成を持ちます。そのため、アルミの素地(硬度Hv20~150程度)に比べて、皮膜はHv200~600程度と非常に硬く、耐摩耗性に優れているのも大きな特徴です。
一般社団法人日本アルミニウム協会:アルミニウムの表面処理の基礎知識
※上記リンクには、陽極酸化処理の化学的なメカニズムや封孔処理の図解が詳しく掲載されており、基礎理解に役立ちます。

陽極酸化皮膜とアルミのJIS規格の種類と厚さ

建築図面や特記仕様書でよく目にする「JIS H 8601」や「JIS H 8602」といった規格番号。これらは陽極酸化皮膜の品質を担保するための重要な基準です。特に膜厚(皮膜の厚さ)は、建材の耐久年数(寿命)に直結するパラメータです。
JIS H 8601(アルミニウム及びアルミニウム合金の陽極酸化皮膜)
この規格は、陽極酸化皮膜単体の性能を規定しています。膜厚によって等級が分けられており、用途によって使い分けられます。


  • AA6(平均膜厚6µm以上): 主に室内用建具やインテリア部品に使用されます。屋外での過酷な環境には不向きです。

  • AA10(平均膜厚10µm以上): 一般的な屋外用アルミ建材の標準的な仕様です。

  • AA15(平均膜厚15µm以上): 海岸部に近い地域や、工業地帯など、腐食環境が厳しい場所で推奨されます。

  • AA20以上: 重塩害地域や、極めて高い耐久性が求められる特殊な用途で使用されます。

建築現場では、これに加えて**JIS H 8602(アルミニウム及びアルミニウム合金の陽極酸化塗装複合皮膜)**が頻繁に参照されます。これは、陽極酸化皮膜の上にさらに塗装(クリア塗装など)を施した「複合皮膜」に関する規格です。
JIS H 8602の等級(種類)

種類 陽極酸化皮膜の厚さ 塗膜の厚さ 適用環境の目安
A1 5µm 以上 10µm 以上 一般環境(田園、住宅地など)
A2 9µm 以上 7µm 以上 準工業地域、準塩害地域など
B 6µm 以上 16µm 以上 工業地域、海浜地域など耐候性が必要な場所
C 随時指定 随時指定 特殊な環境、重塩害対策など


ここで注意すべき意外な事実は、**「膜厚が厚ければ厚いほど良いわけではない」**という点です。
確かに耐食性は向上しますが、皮膜が厚くなると「柔軟性」が失われます。アルミ材と酸化皮膜では熱膨張係数が異なるため、環境温度の変化や火災時の熱によって、厚すぎる皮膜には「クラック(ひび割れ)」が発生しやすくなります。このクラックから腐食因子が侵入することもあるため、設置環境の温度変化も考慮した適切なグレード選定が必要です。
JIS H 8602:2010 規格詳細(KIKAKURUI.COM)
※上記リンクは、複合皮膜の性能試験方法や耐食性試験(キャス試験など)の具体的な数値基準を確認するのに適しています。

陽極酸化皮膜とアルミ塗装の複合皮膜の耐食性

現代の建築用アルミサッシの多くは、単なるアルマイト仕上げではなく、「陽極酸化塗装複合皮膜」が採用されています。これは、アルマイト処理を行った直後に、電着塗装(ED塗装)などで樹脂塗膜を形成する技術です。
なぜ、わざわざ二重の処理を行うのでしょうか?それぞれの弱点を補完し合うためです。


  1. アルマイトの弱点: 硬いが脆い。酸性雨やアルカリ成分に弱く、長期的な暴露で「白粉化(チョーキング)」しやすい。

  2. 塗装の弱点: 素地との密着性が課題になることがある。塗膜に傷がつくと、そこからアルミ素地の腐食(糸状腐食など)が広がりやすい。

複合皮膜のシナジー効果
まず、陽極酸化皮膜が「アンカー効果」を発揮します。先述した多孔質層の微細な孔に塗料が入り込むことで、物理的に強力な密着力を生み出します。これにより、塗膜剥離のリスクが劇的に減少します。
そして、表面の樹脂塗膜(アクリル樹脂やウレタン樹脂など)が、酸性雨や紫外線から下地のアルマイト層をガードします。万が一、表面の塗膜に傷がついても、下には硬いアルマイト層があるため、素地まで傷が到達しにくく、腐食の進行を食い止めることができます。
耐食性の比較
沿岸部などの塩害地域における実証実験では、単体のアルマイト(AA15)よりも、複合皮膜(種類B:アルマイト6µm+塗装16µm)の方が、圧倒的に錆の発生率が低いというデータがあります。
特に、「艶消し(マット)仕上げ」の複合皮膜は、電着塗装時の樹脂のコントロールによって実現されており、高級感のある意匠性と高い耐候性を両立できるため、ビル建築のファサードで主流となっています。
ただし、施工時の取り扱いには注意が必要です。複合皮膜は強固ですが、切断加工を行った「小口(こぐち)」部分は素地が露出しています。ここからの腐食を防ぐため、施工時には小口防錆処理(タッチアップなど)を確実に行うことが、カタログスペック通りの性能を発揮させる鍵となります。

陽極酸化皮膜のアルミ劣化とメンテナンス

ここは多くの建築関係者が見落としがちな、しかし極めて重要な「独自視点」のトピックです。
「アルミは錆びない」「アルマイトはメンテナンスフリー」というのは、大きな誤解です。
陽極酸化皮膜は、適切なメンテナンスを行わないと、独特のメカニズムで劣化し、美観を損なうだけでなく、構造的な寿命を縮めることさえあります。
劣化のメカニズム:点食(ピッティング)
最も一般的な劣化は「点食」です。大気中の塵埃、鉄粉、海塩粒子、排気ガス(硫黄酸化物窒素酸化物)などが皮膜表面に付着し、雨水や湿気によって電解質溶液となります。
特に、封孔処理が完璧であっても、汚れが長期間堆積すると、その汚れの下で局部電池が形成されます。これにより、皮膜が集中的に攻撃され、針で突いたような小さな穴(ピット)が開きます。
一度点食が始まると、そこから生成される腐食生成物が体積膨張を起こし、周囲の皮膜や塗膜を押し上げて破壊する「発泡現象」や「塗膜浮き」につながります。
劣化のメカニズム:白粉化(チョーキング)
これは主に紫外線による劣化です。塗装の樹脂成分が分解されて粉状になる現象ですが、アルマイト単体の場合でも、酸性雨の影響で皮膜表面が溶解し、荒れて白っぽく見えることがあります。これを放置すると、皮膜厚が減少し、最終的には素地が露出します。
やってはいけないメンテナンス
劣化を防ぐための清掃において、絶対に避けるべきなのが**「酸性・アルカリ性洗剤の使用」**です。
陽極酸化皮膜(酸化アルミニウム)は「両性酸化物」であり、酸にもアルカリにも溶解します。
例えば、タイルの酸洗いの飛沫がサッシに付着したり、強力なアルカリ性のカビ取り剤が付着したりすると、一瞬で皮膜が溶解し、白いシミ(腐食痕)になります。これは補修が極めて困難です。
推奨されるメンテナンス頻度(JALACA推奨)


  • 第1種(海岸地帯・工業地帯): 1年に3~4回以上

  • 第2種(田園地帯・住宅地): 1年に1~2回以上

  • 第3種(内陸部・雨がかりの少ない場所): 定期的な水拭きが必要(※雨がかからない場所こそ、汚れが洗い流されずに堆積するため、実は腐食リスクが高い)

特に、「軒下」や「庇(ひさし)の下」など、雨が当たらない部分は要注意です。「雨が当たらないから錆びにくい」のではなく、**「雨による自然洗浄効果が期待できないため、塩分や酸性成分が濃縮され続ける」**危険地帯なのです。
建築のプロとして、施主に対して「定期的な水洗いの重要性」を啓蒙することは、建物の資産価値を守るために不可欠なアドバイスと言えるでしょう。
一般社団法人軽金属製品協会(JALACA)
※メンテナンス頻度の詳細なガイドラインや、劣化診断の基準に関する資料が公開されています。

 

 


鍛造ワイドトレッドスペーサー 2枚組 4H-114.3/100-P1.25-15mm 内径67.1mm PCD変換スペーサー 高品質 陽極酸化皮膜処理 熱鍛造成型 ボルト電機資材株式会社鋼材SCM435使用 (黒)