硫黄酸化物化学式とSOxの燃焼や環境への影響と違い

硫黄酸化物化学式とSOxの燃焼や環境への影響と違い

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硫黄酸化物の化学式とは

硫黄酸化物(SOx)の基礎知識
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基本の化学式

主に二酸化硫黄(SO₂)と三酸化硫黄(SO₃)の総称。燃焼によりSとOが結合して発生する。

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建設現場との関連

重機のディーゼル排ガスや、コンクリート構造物を劣化させる酸性雨の原因物質となる。

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環境への影響

水と反応して硫酸(H₂SO₄)となり、強力な腐食作用を持つ酸性雨を降らせる。

硫黄酸化物(Sulfur Oxides)は、一般的に「ソックス(SOx)」と呼ばれ、建設業や製造業の現場管理において避けて通れない環境汚染物質の一つです。化学的には、硫黄(S)原子と酸素(O)原子が結合した化合物の総称を指します。建設現場で稼働する重機の燃料である軽油や、火力発電所で燃焼される石炭や重油には、不純物として「硫黄分」が含まれています。これがエンジンの内部やボイラー炉内での高温燃焼時に空気中の酸素と激しく反応し、ガス状の物質として排出されるのが硫黄酸化物の正体です。
化学式としては、主に以下の2種類が代表的です。


  • 二酸化硫黄(SO₂):刺激臭のある無色の気体。

  • 三酸化硫黄(SO₃):反応性が高く、空気中の水分と反応して白煙を生じる物質。

これらは単に空気を汚すだけでなく、建設構造物の寿命を縮める「酸性雨」の直接的な原因となります。また、人体においては呼吸器系への深刻な健康被害を引き起こすため、大気汚染防止法などの厳しい法規制の対象となっています。現場監督や技術者にとって、SOxの化学的性質を理解することは、環境対策や構造物の品質管理を行う上で非常に重要です。
国立環境研究所の環境技術解説では、排煙脱硫技術の基礎としてSOxの除去メカニズムが詳説されており、化学反応の理解に役立ちます。
国立環境研究所:排煙脱硫技術 - 環境技術解説

硫黄酸化物の化学式であるSO2とSO3の生成の仕組みと違い

 

硫黄酸化物が生成されるメカニズムは、単純な酸化反応に基づいています。建設機械のエンジンや工場のボイラーなど、化石燃料が燃焼する場所では、燃料中に含まれる硫黄(S)が空気中の酸素(O₂)と結合します。
まず、一次反応として生成されるのが「二酸化硫黄(SO₂)」です。化学反応式は非常にシンプルです。


  • S + O₂ → SO₂

この反応は、燃料中の硫黄分が燃える際に必ず発生します。排出される硫黄酸化物の大部分(95%以上といわれます)はこのSO₂の形態をとっています。SO₂は水に溶けやすく、強い刺激臭を持つ気体で、亜硫酸ガスとも呼ばれます。
しかし、燃焼条件や触媒の存在下、あるいは大気中に放出された後、SO₂はさらに酸化されることがあります。ここで生成されるのが「三酸化硫黄(SO₃)」です。


  • 2SO₂ + O₂ → 2SO₃

この反応により、酸素原子がもう一つ結合し、SO₃となります。SO₂とSO₃の決定的な違いは、その反応性と状態にあります。SO₂は比較的安定した気体ですが、SO₃は極めて吸湿性が高く、水分を見つけると瞬時に反応して硫酸ミスト(霧状の硫酸)に変化しようとする性質があります。
建設現場のボイラー設備などで、排ガス温度が低下した際に配管が腐食する「低温腐食」という現象がありますが、これは排ガス中のSO₃が結露した水分と反応し、高濃度の硫酸となって金属を溶かすことが原因です。つまり、化学式の「O」が一つ増えるだけで、設備に対する攻撃性が格段に増すのです。
化学の視点から物質の性質を解説している「映像授業のTry IT」では、硫黄化合物の製法や性質について分かりやすく説明されています。
映像授業のTry IT:【高校化学】硫黄化合物の性質と製法

硫黄酸化物が引き起こす酸性雨の化学式と環境への影響

建設構造物にとって天敵ともいえる「酸性雨」。その主犯格である硫黄酸化物が、どのようにして雨を酸に変えるのか、その化学プロセスを詳述します。
大気中に放出されたSO₂やSO₃は、雲の中の水分や雨粒(H₂O)と出会うことで、化学反応を起こし酸性物質へと変化します。


  1. 亜硫酸の生成
    まず、二酸化硫黄(SO₂)が水に溶けると、亜硫酸(H₂SO₃)になります。


    • SO₂ + H₂O → H₂SO₃


  2. 硫酸の生成
    さらに、大気中のオゾンや過酸化水素などの酸化剤の影響、あるいはSO₃が直接水と反応することで、より強力な酸である硫酸(H₂SO₄)が生成されます。


    • SO₃ + H₂O → H₂SO₄

この「H₂SO₄」という化学式は、工業用バッテリー液などにも使われる強酸性液体そのものです。これが雨水に溶け込むことで、雨のpH(水素イオン濃度指数)が低下します。通常、雨は二酸化炭素が溶け込んでいるためpH5.6程度の弱酸性を示しますが、硫酸が混じることでpH4台やそれ以下になることがあります。これが酸性雨です。
建設業における影響は甚大です。


  • 金属の腐食:鉄骨や足場、屋根材(亜鉛メッキ鋼板など)が酸と反応し、サビ(酸化鉄など)の進行が劇的に早まります。

  • 石材の劣化:大理石や石灰岩(炭酸カルシウム成分)で作られた建造物は、硫酸と反応して溶解したり、表面がボロボロになったりします。

環境省が子供向けに解説しているページですが、酸性雨のメカニズムと硫黄酸化物の関係が図解入りで簡潔にまとまっており、大枠を理解するのに適しています。
環境再生保全機構:排出物質 硫黄酸化物(SOx)と酸性雨

建設現場の重機燃料の燃焼と硫黄酸化物の化学式の関係

建設現場で稼働するバックホウ、ブルドーザー、ダンプトラックなどの重機は、そのほとんどがディーゼルエンジンを搭載しており、軽油を燃料としています。なぜガソリンではなく軽油なのか、そしてなぜそこに硫黄酸化物の問題が絡むのか、化学的な視点で掘り下げます。
原油から精製される軽油には、もともと硫黄分が含まれています。硫黄化合物は、燃料ポンプの潤滑性を高める効果がある一方で、燃焼すると前述の化学反応(S + O₂ → SO₂)により確実にSOxを排出します。
かつては「硫黄分が多いほどエンジンの調子が良い」と言われた時代もありましたが、環境規制の強化により状況は一変しました。特定特殊自動車排出ガス規制(オフロード法)などにより、建設機械からの排ガス規制が厳格化され、燃料となる軽油自体も「サルファーフリー(低硫黄)」化が進められました。
現在の日本国内で流通している軽油は、硫黄分が10ppm(0.001%)以下に抑えられています。これは脱硫プラントにおいて、水素化脱硫という化学プロセスを経て実現されています。


  • R-S-R'(有機硫黄化合物) + 2H₂ → R-H + R'-H + H₂S

精製過程で水素(H₂)を反応させ、硫黄分を硫化水素(H₂S)というガスの形で燃料から引き抜きます。この事前の化学処理によって、現場の重機が燃料を燃やしても、排出されるSO₂の絶対量を減らすことに成功しています。しかし、ゼロになったわけではありません。大規模な造成工事やトンネル工事など、多数の重機が閉鎖的な空間で稼働する場合、わずかな濃度のSOxでも蓄積すれば作業員の健康リスク(気管支炎など)に繋がります。
IPROSの製造業向け解説記事では、石油・ガス業界における硫黄酸化物の扱いや、SOx規制の背景となる専門知識が詳しく解説されています。
IPROS:【専門知識解説】石油・ガス業における「硫黄酸化物」とは

硫黄酸化物の化学式から読み解くコンクリート劣化への意外な影響

建設従事者にとって最も衝撃的かつ重要な事実は、**「硫黄酸化物はコンクリートを化学的に破壊する」**ということです。これは単なる酸性雨による表面の浸食(中性化)とは異なる、「硫酸塩劣化(サルフェートアタック)」と呼ばれる恐ろしい現象です。
コンクリートが硬化する際、セメント中の成分が水と反応して「水酸化カルシウム Ca(OH)₂」が生成されます。これがコンクリートのアルカリ性を保ち、内部の鉄筋をサビから守っています。しかし、ここに硫黄酸化物が由来の硫酸(H₂SO₄)が浸透すると、次のような化学反応が起きます。


  1. 石膏の生成


    • Ca(OH)₂ + H₂SO₄ → CaSO₄・2H₂O(二水石膏) + 2H₂O
      水酸化カルシウムが硫酸と反応し、石膏(せっこう)に変化します。この化学式上の変化で恐ろしいのは、反応生成物である石膏は、元の水酸化カルシウムよりも体積が2倍以上に膨張するという点です。


  2. エトリンガイトの生成
    さらに、この石膏がセメント中のアルミン酸カルシウムと反応すると、「エトリンガイト」という針状結晶の鉱物を生成します。これもまた、著しい体積膨張を伴います。

コンクリートの内部でこれらの化学反応が起きると、内部から押し広げるような凄まじい膨張圧が発生します。その結果、コンクリートに亀裂が入り、表面がボロボロに剥がれ落ち、最終的には泥のような状態になって崩壊します。
この現象は、下水道施設や温泉地帯、そして大気汚染の激しい工業地帯のコンクリート構造物で顕著に見られます。「コンクリートは石だから化学変化しない」という思い込みは危険です。SOxという化学式の中に隠された硫黄(S)原子が、カルシウム(Ca)と結びつくことで、構造物の寿命を物理的に破壊する力を持っているのです。
土木学会の論文では、硫酸がセメント硬化体に作用した際の劣化進行プロセスが研究されており、実環境での劣化メカニズムを知るための貴重な資料となります。
土木学会論文集:硫酸が作用するセメント硬化体の劣化進行に関する研究

硫黄酸化物の化学式に基づく脱硫技術と除去の仕組み

SOxの被害を防ぐため、建設プラントや発電所では「排煙脱硫装置」が設置されています。ここで採用されている技術の多くは、化学反応を巧みに利用した「石灰石膏法」と呼ばれるものです。
このプロセスは、建設資材としてもおなじみの「石灰(炭酸カルシウム)」を使って、有害なSOxを無害な(あるいは有用な)物質に変えてしまう魔法のような技術です。
化学反応のステップ:


  1. 吸収工程
    排ガス中の二酸化硫黄(SO₂)を、石灰石(CaCO₃)のスラリー(水と混ぜた泥状の液体)に接触させます。


    • SO₂ + CaCO₃ + 1/2H₂O → CaSO₃・1/2H₂O(亜硫酸カルシウム) + CO₂
      ここで、SO₂は亜硫酸カルシウムという固体としてキャッチされます。


  2. 酸化工程
    次に、これに空気を吹き込んで酸化させます。


    • CaSO₃・1/2H₂O + 1/2O₂ + 3/2H₂O → CaSO₄・2H₂O(二水石膏)

最終的な生成物の化学式を見てください。「CaSO₄・2H₂O」。これは、建設現場で内装材として使われる「石膏ボード」の原料そのものです。つまり、汚染物質である硫黄酸化物を化学反応によって封じ込め、逆に建設資源としてリサイクルしているのです。
この化学システムの理解は、プラント建設に関わる施工管理技士にとって必須の知識です。巨大な脱硫塔の中で行われているのは、精密な化学式のバランスの上に成り立つ反応制御であり、スラリーの濃度管理やpH管理がシステムの性能を左右します。
日立評論の技術資料では、実際の脱硫システムにおける化学反応プロセスと、副生される石膏の回収について詳細なフローが解説されています。
日立評論:脱硫システム - 石灰石膏法の化学プロセス

 

 


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