

溶栓(ようせん)は、可溶栓(かようせん)または安全栓とも呼ばれる安全装置で、建物の高圧ガス設備や冷凍冷蔵設備に取り付けられています。青銅、黄銅、砲金などの金属で作られた栓の中央部に、鉛やスズなどの融点の低い金属(可溶合金)が封入された構造となっています。不動産の設備管理において、この溶栓は火災や設備の異常稼働による温度上昇を感知し、自動的に高圧ガスや冷媒を逃がすことで爆発を防ぐ重要な役割を担っています。
参考)https://www.weblio.jp/content/%E6%BA%B6%E6%A0%93
建物設備に異常が発生し温度が上昇すると、可溶合金が溶解して穴が開き、内部の高圧ガスが外部に放出されます。この際、ガスが通り抜ける音で人間に異常を知らせる機能も持っています。シンプルな構造でありながら、長い実績を持つこの安全装置は、1803年にリチャード・トレビシックがボイラーの爆発事故を受けて発明したもので、200年以上の歴史があります。
参考)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8F%AF%E6%BA%B6%E6%A0%93
不動産従事者が管理する商業ビルやテナントビル、倉庫などでは、空調設備や冷凍冷蔵設備に溶栓が設置されているケースが多く、定期的な点検と適切な保守管理が法令で義務付けられています。特に飲食店テナントを持つビルや食品倉庫では、冷凍設備の安全管理が不可欠です。
参考)https://www.khk.or.jp/Portals/0/resources/activities/incident_investigation/hpg_incident/pdf/2009-045.pdf
溶栓の本体部分は、青銅、黄銅、砲金といった耐久性の高い金属で製作され、全長にわたって先細になった貫通孔が設けられています。この貫通孔の内径は用途に応じて1mmから6mmまで様々で、長さも6mmから40mmまで設計されています。不動産設備で一般的に使用される溶栓は、貫通孔の内径が4mm、ネジ部の外径が11mm、長さが28mm程度の黄銅製部材が標準的です。
参考)https://patents.google.com/patent/JP2011202874A/ja
貫通孔を封止する可溶合金は、スズ(Sn)、インジウム(In)、ビスマス(Bi)、アンチモン(Sb)、ニッケル(Ni)、ゲルマニウム(Ge)などの低融点金属の合金で構成されています。具体的な組成例として、19%スズ-36%インジウム-42.45%ビスマス-2%アンチモン-0.5%ニッケル-0.05%ゲルマニウムという配合が使用されています。この可溶合金は100℃以下で溶解する必要があり、一般的には75℃以下の温度で作動するよう設計されています。
参考)https://www.e-aircon.jp/abouts/words/%E5%8F%AF%E6%BA%B6%E6%A0%93.html
ネジ部には通常、国際標準規格に準拠したネジ山が切られており、設備への取り付けや交換が容易になっています。また、封止部分には腐食を防ぐためのフラックスが塗布されることもあり、長期間の使用に耐える工夫がなされています。不動産の設備管理においては、建物の冷凍能力や設備の種類に応じて、適切な仕様の溶栓を選定することが重要です。
参考)https://www.senjusp.com/fusible-plug
溶栓は主にボイラー設備、冷凍冷蔵設備、空調設備、高圧ガス貯蔵容器に取り付けられます。不動産管理の観点から特に重要なのは、冷凍能力20トン以上の冷凍設備に係るコイル型凝縮器には、安全弁または溶栓の取り付けが法令で義務付けられている点です。また、内容積500リットル未満のフルオロカーボン用シェル型凝縮器、受液器、蒸発器にも溶栓の使用が認められています。
参考)https://www.khk.or.jp/Portals/0/resources/publications_library/periodical/dl/refrigeinfo_34.pdf
取り付け位置については、溶栓が冷媒ガスの温度を正確に検知できる場所であることが重要で、圧縮機または発生器の高温吐出ガスに直接影響されない位置に設置しなければなりません。蒸気機関車のボイラーでは火室の上部に取り付けられるように、建物のボイラー設備でも水位低下による空焚きを検知できる位置に配置されます。冷凍設備では凝縮器や液溜(受液器)の側壁に取り付けられることが一般的です。
参考)https://fukuhokyou.com/wp-content/uploads/2021/03/reitohoankiseikankeireijikijyun.pdf
商業ビルやテナントビルの管理では、地下機械室や屋上の空調機械室、冷凍倉庫のコンプレッサー室などに設置された溶栓の位置を正確に把握しておく必要があります。特に複数の圧縮機を持つ大型冷凍設備では、冷媒系統ごとに溶栓が設置されているため、設備図面と現場の照合が重要です。溶栓の設置位置が不適切だと、異常を正確に検知できず安全装置として機能しない危険性があります。
参考)https://www.pref.shiga.lg.jp/file/attachment/45661.pdf
溶栓の保守管理において最も重要なのは、定期的な点検と適切な交換時期の判断です。アメリカ国立標準技術研究所の調査によると、使用中に溶栓に水垢が付着したり腐食したりすると、融点が上昇して必要な時に作動しなくなる危険性があります。実際の事例では、融点が1,100度を超えた溶栓も報告されており、これでは安全装置として全く機能しません。
現在のアメリカ合衆国の標準では、500時間の使用ごとに溶栓を交換することが指定されています。イギリスでは機器の種類や使用圧力に応じて、30日から60日程度の使用期間が認められています。日本の不動産設備管理においては、冷凍能力や設備の規模に応じて定期点検の頻度が法令で定められており、圧縮機の定格出力が7.5kW以上の冷蔵・冷凍機器では年1回以上の点検が義務付けられています。
参考)https://www.meti.go.jp/policy/safety_security/industrial_safety/law/files/261003-2.pdf
点検項目としては、溶栓の外観検査(腐食、変形、損傷の有無)、取り付け状態の確認、周辺設備の温度測定などが含まれます。また、冷媒漏えい事故の事例では、溶栓ジョイント部のOリング劣化による冷媒漏えいも報告されており、溶栓本体だけでなく接続部品の点検も重要です。不動産従事者は、設備の法定点検記録を適切に保管し、溶栓の交換履歴を管理することで、建物の安全性を確保し、入居者やテナントへの責任を果たすことができます。
参考)https://www.jraia.or.jp/books/pdf/chilling_all.pdf
実際の溶栓関連事故事例を分析することは、不動産設備管理のリスクマネジメントにおいて極めて重要です。2009年に神奈川県厚木市で発生した事故では、空冷式ヒートポンプチラーの配管と可溶栓ジョイント部から冷媒(フルオロカーボン22)が75kg漏えいする事態が発生しました。この事故では、配管の腐食と可溶栓ジョイント部のOリング劣化が原因とされ、人的被害はなかったものの、設備の長期使用による劣化が重大な事故につながる可能性を示しています。
容器が火炎に包まれるような火災時には、溶栓付近の温度が105℃を超える状態が続くと溶栓が作動し、高圧ガスや冷媒が火炎とともに吹き出すため、二次災害の危険性が高まります。このような事態を防ぐため、不動産の防災計画では、機械室や設備室の消火設備の適切な配置と定期点検、火災発生時の初動対応マニュアルの整備が不可欠です。
参考)http://www.nikko-a.co.jp/c2h2.pdf
意外と知られていないリスクとして、溶栓が正常に作動した後の対応があります。1830年代の実験では、溶栓作動後にボイラーへ冷水を急激に注入すると圧力が急上昇し爆発する危険性が指摘されていましたが、その後の研究で冷水注入はむしろ安全であることが実証されました。不動産設備の緊急対応マニュアルでは、溶栓作動時の正しい措置として、設備の停止、換気の確保、専門業者への連絡、そして状況に応じた適切な対応を明記しておくことが重要です。また、溶栓は一度作動すると交換が必要となるため、予備部品の確保と迅速な交換体制の構築も設備管理者の責務といえます。
参考)https://ja.lxheattransfer.com/info/safety-relief-devices-for-pressure-vessels-75791024.html
冷凍設備の保守管理に関する詳細情報は以下の公式ガイドラインで確認できます。
日本冷凍空調工業会「チリングユニットの保守・点検ガイドライン」
高圧ガス保安法に基づく溶栓の基準については以下を参照してください。