

アルコール事業法は、酒税法とは異なり、工業用に使用されるアルコールが酒類(お酒)として不正に流用されることを防ぎつつ、産業用に安価で安定的な供給を図ることを目的とした法律です。建設業界においても、塗装の洗浄、溶剤、あるいは特殊な清掃業務などで高濃度のアルコールを使用するケースがありますが、この法律が適用される「アルコール」の定義を正確に理解している事業者は意外と多くありません。[1][2]
まず、この法律で規制対象となる「アルコール」とは、アルコール分が90度(90%)以上のエチルアルコールのことを指します。ドラッグストアで市販されている消毒用アルコール(70%〜80%程度)や、燃料用としてメタノールが混入されているものは、この法律の許可対象外となる場合がほとんどです。しかし、業務用の洗浄剤や試薬として「無水エタノール(99.5%)」などを一斗缶やドラムで購入する場合は、まさにこの法律のど真ん中の対象となります。
参考)アルコール事業法とは?初心者にもわかりやすく解説|アルコール…
許可申請の区分は大きく分けて以下の2つを理解しておく必要があります。
建設現場や工場で「とにかく安く仕入れたい」と考えて安易に一般アルコール(未変性・90度以上)に手を出してしまうと、後から「許可を取っていなかった」として無許可使用の違法状態になるリスクがあります。自社が使用しようとしている溶剤のスペック(成分表)を確認し、エタノール90%以上である場合は、必ず購入前に「これはアルコール事業法の許可が必要な品目か?」を販売店に確認してください。
参考リンク:経済産業省|アルコール事業法に基づく許可申請を検討されている方へ(許可制度の概要とメリット・デメリットの比較表が掲載されています)
実際に「一般アルコール」を使用するメリット(コスト削減)が管理コストを上回ると判断した場合、許可申請を行うことになります。申請は、使用する場所(工場や保管所)を管轄する**経済産業局**に対して行います。申請から許可が下りるまでの標準処理期間は通常1〜2ヶ月程度かかるため、プロジェクト開始直前に慌てて申請しても間に合いません。[6]
申請に必要な主な書類とプロセスは以下の通りです。
審査のポイントは、「確実に工業用として使用され、不正に飲用・転売される恐れがないか」という点です。そのため、審査官から「使用量が事業規模に対して過大ではないか」「保管場所のセキュリティは万全か」といった質問を受けることになります。また、申請時には**登録免許税(9万円)**が必要になる点も予算に組み込んでおく必要があります。
許可取得後も、「申請した用途以外」に使うことは厳禁です。例えば「洗浄用」として許可を受けたアルコールを、現場の判断で勝手に「燃料」として使ったり、他の事業者に「貸してあげる(譲渡)」ことは法律違反となります。特に建設現場では、協力会社間での資材の貸し借りが日常的に行われますが、許可を受けたアルコールを無許可の他社に渡すことは、懲役や罰金を含む重い罰則の対象となるため、現場監督への周知徹底が不可欠です。
参考リンク:経済産業省|アルコール事業法手続きマニュアル・様式等(申請書のダウンロードや記載例、オンライン申請の手順が確認できます)
許可を取得した事業者にとって、最大の負担であり、かつ最も重要な義務が「帳簿(法定帳簿)の記録」です。アルコール事業法では、アルコールの動きを正確に把握するため、**毎日**の受入・払出・使用量を記録し、その帳簿を**5年間保存**することが義務付けられています。[8][1]
建設業や現場作業において、この「毎日の記録」は非常にハードルが高い業務です。しかし、経済産業省の立入検査(数年に一度行われます)では、必ずこの帳簿と在庫の整合性がチェックされます。帳簿に記載すべき必須事項は以下の通りです。youtube
「今日は忙しいからまとめて週末に書こう」という運用は、立入検査で指摘される典型的な不備です。特に注意が必要なのが、**自然減耗(揮発)**の扱いです。アルコールは揮発性が高いため、タンクや一斗缶で保管しているだけでも微量に減っていきます。帳簿上の計算在庫と、実在庫(棚卸し在庫)には必ずズレが生じます。このズレを無視して帳簿をつけ続けると、ある日突然「在庫がないのに帳簿上はあることになっている(=横流しを疑われる)」という事態になります。定期的に実在庫を確認し、その差分を「減耗量」として帳簿に記録して補正処理を行うことが、適切な管理のコツです。
参考)https://dl.ndl.go.jp/view/prepareDownload?itemId=info%3Andljp%2Fpid%2F1285921amp;contentNo=1
また、帳簿は紙である必要はなく、Excelなどの電子データでも認められますが、訂正履歴が残る形や、即座に出力できる状態にしておくことが望ましいです。現場事務所ごとに管理者が異なる場合は、統一したフォーマットを用意し、「誰が書いても同じになる」仕組みを作らなければ、5年間の継続は不可能です。
参考リンク:経済産業省|アルコール使用の手引き(帳簿の具体的な記載例や、減耗の処理方法が詳細に解説されています)
建設業や製造現場特有の課題として、「保管場所のセキュリティ」があります。アルコール事業法の手引きでは、アルコールの保管場所に対して「鍵のかかる堅固な設備」などを求めています。これは、内部犯行による持ち出しや、外部からの盗難による「不正飲用」や「犯罪利用」を防ぐためです。
現場でよくある失敗例として、以下のようなケースが挙げられます。
また、アルコールは**消防法上の危険物(第四類アルコール類)**にも該当します。アルコール事業法の許可を取ったからといって、消防法の規制が免除されるわけではありません。指定数量(400リットル)以上を保管する場合は、消防法に基づく許可も別途必要になります。80リットル以上400リットル未満の場合でも、市町村条例による「少量危険物」の届出が必要です。アルコール事業法の申請時に提出するレイアウト図は、消防法の基準も満たしている必要がありますので、管轄の消防署との協議も並行して行う必要があります。
最後に、検索上位のマニュアルにはあまり書かれていない、経営的な視点からの「独自のアドバイス」を記します。それは、**「あえて許可を取らない」という選択肢**です。
ここまで解説した通り、一般アルコール(許可品)を使用するには、申請手数料、毎日の帳簿付け、定期報告、立入検査対応、保管設備のセキュリティ強化など、見えない「管理コスト」が膨大にかかります。これに対し、特定アルコール(加算額入り・無許可品)は、リッターあたりの単価は高いですが、これらの管理業務が一切不要です。
建設業や中小規模の現場において、年間の使用量が数ドラム缶程度であれば、許可取得によるコスト削減効果よりも、事務員や現場監督の人件費(管理コスト)の方が高くつくケースが多々あります。「アルコール事業法の手引き」を読むと、許可を取ることが前提のように感じられますが、手引きを熟読した結果、「あ、うちは特定アルコールでいいや」と判断することも、賢い経営判断の一つです。
特に建設業界では、「アルコール検知器の使用義務化(道路交通法)」の話題と混同されがちですが、あちらは「ドライバーの飲酒チェック」の話であり、本記事の「工業用アルコールの管理」とは全く別の法律です。現場の安全衛生担当者は、この2つを明確に区別し、もし現場で高濃度の洗浄用アルコールを使うなら、道路交通法ではなく「アルコール事業法」と「消防法」のコンプライアンスが問われているのだと認識してください。
参考)建設業許可申請なら【KiND行政書士事務所:東京】76,00…
コストメリットだけで飛びつかず、自社の事務処理能力と現場の管理レベルを天秤にかけ、最適なアルコール調達方法を選択することが、法令順守と利益確保の両立につながります。

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