
泡消火設備で使用される薬剤は、消防法施行規則に基づいて厳格に分類されています。現在、国家検定に合格した泡消火薬剤は主に3つの種類に大別され、それぞれが異なる消火特性を持っています。
主要な薬剤分類:
これらの薬剤は、水に混合する濃度によって「3%型」と「6%型」に分類されます。3%型は薬剤を水に対して3%の濃度で希釈し、6%型は6%の濃度で希釈して使用します。この濃度設定は、対象となる危険物の種類や火災の規模に応じて選択されます。
薬剤の形態は液状で、使用時まで原液状態で貯蔵保存されます。実際の消火活動では、水または海水で規定の濃度に希釈し、発泡機器によって空気を混入させることで泡として放出されます。
たん白泡消火薬剤は、牛などの動物の蹄や角などのたん白質原料を粉砕細粒化し、アルカリで加水分解した後に中和調整した加水分解たん白質溶液を主成分として製造されています。
外観と組成の特徴:
たん白泡消火薬剤の最大の特徴は、主成分であるたん白質が空気との接触により酸化し、分子連結などの複雑構造を形成することで、非常に固く安定した泡膜を作り出すことです。この特性により、高温環境下でも泡が破壊されにくく、石油貯蔵タンクなどの大規模な油火災に対して優れた消火性能を発揮します。
さらに、フッ素たん白泡消火薬剤という改良版も開発されており、これは従来のたん白泡消火薬剤にフッ素系界面活性剤を添加したものです。この改良により、耐油・耐熱・耐火性が大幅に強化され、油面被覆性能が向上しています。特に石油貯蔵タンクの底部泡注入方式においても、油汚染が少ない特性から効果的に使用されています。
合成界面活性剤泡消火薬剤は、シャンプー原料にも使用される炭化水素系界面活性剤を主成分とする薬剤です。この薬剤の最大の特徴は、発泡倍率によって低発泡(10倍前後)と高発泡(500倍〜1000倍)に分類できることです。
組成と特徴:
日本や欧米各国では、低発泡タイプは泡の耐火・耐熱・耐油性が乏しいという理由から実用されていません。一方、高発泡タイプは少量の薬剤で大量の軽い泡を形成できるため、大空間の消火に極めて有効です。
高発泡の主要用途:
高発泡による消火方法は、大空間を短時間で泡で満たしてしまうという独特な消火原理を採用しています。この方法により、従来の水系消火設備では対応困難な大規模施設での効率的な消火が可能となっています。
水成膜泡消火薬剤は、合成界面活性剤泡消火薬剤の組成に加えて、表面張力を大幅に低下させるフッ素系界面活性剤が添加された高性能薬剤です。この薬剤名が示すように、最大の特徴は液体可燃物表面上に「水成膜」と呼ばれる薄いフィルム状の膜を形成することです。
消火メカニズムの詳細:
フッ素系界面活性剤の表面張力低下能力は極めて強力で、これにより液体可燃物表面上への流動展開性が劇的に改善されます。この特性により、水成膜泡消火薬剤は他の薬剤と比較してより迅速な消火が可能となっています。
水成膜の形成過程では、泡から排液した泡水溶液が液体可燃物表面上に極薄のフィルムを形成し、このフィルムが可燃物の蒸気発生を物理的に抑制します。これは従来の泡消火薬剤にはない独特な消火原理であり、特に石油類火災に対して卓越した効果を発揮します。
近年、泡消火薬剤の選定において重要な考慮事項となっているのが、PFOS(ペルフルオロオクタンスルホン酸)規制の影響です。この規制は環境保護と人体安全性の観点から導入され、消防業界に大きな変化をもたらしています。
PFOS規制の詳細:
PFOS含有泡消火薬剤の一覧表によると、住友スリーエム株式会社製の「ライトウォーターFC」シリーズなど、複数の製品がPFOSを含有していることが確認されています。含有率は製品によって異なり、約1%から約2%の範囲で検出されています。
現在の対応状況:
主要メーカーでは、PFOS規制に対応した新しい薬剤の開発が進んでおり、ヤマトプロテック社などは「PFOS類を含有しない」ことを明確に謳った製品ラインナップを展開しています。これにより、環境安全性を確保しながら従来と同等の消火性能を維持することが可能となっています。
さらに、2018年には毒物及び劇物指定令の改正も行われ、薬剤の安全性基準がより厳格化されています。現在の泡消火薬剤は、これらの新しい規制要件をすべて満たした製品として製造・供給されており、使用者は安心して導入することができます。
薬剤選定時には、消火性能だけでなく環境影響や法規制適合性も重要な判断基準となるため、専門的な知識を持つ業者との十分な相談が不可欠です。特に既存設備の更新時期においては、最新の規制動向を踏まえた適切な薬剤選択が求められています。