耐油性プラスチックで建築資材選定と種類と用途

耐油性プラスチックで建築資材選定と種類と用途

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耐油性プラスチックの選定と用途

この記事のポイント
🏗️
建築資材としての耐油性プラスチック

配管、防水シート、シール材など建築現場で活躍する耐油性プラスチックの基礎知識

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素材ごとの特性比較

PPS、PEEK、ナイロンなど各プラスチック素材の耐油性と建築用途への適合性

最適な選定基準

使用環境、コスト、耐久性を考慮した材料選定のポイントと注意事項

耐油性プラスチックの主要な種類と特徴

 

耐油性プラスチックは、油脂類との接触によって膨潤や化学分解、強度低下が起こりにくい性質を持つ素材です。建築や不動産業界では、機械室の配管部品、防水シート、シール材、塗料など様々な用途で使用されています。
参考)https://injection-fuchu.com/column/2024/

代表的な耐油性プラスチックには以下の種類があります。

 

スーパーエンプラ系素材

  • PPS(ポリフェニレンサルファイド):連続使用温度220℃で、酸・アルカリ・油に対して極めて高い耐性を持つ素材です。剛直な芳香環構造が油分子の侵入を物理的にブロックし、最高レベルの耐油性を実現しています。

    参考)https://injection-fuchu.com/cms/wp-content/uploads/2025/02/4cdca63122aa489bb6384aae82e38f86.pdf

  • PEEK(ポリエーテルエーテルケトン):連続使用温度250℃で、濃硫酸以外のほぼすべての薬品に耐える最高クラスの耐薬品性を持ちます。高温環境下でも物性低下が極めて少なく、半導体製造装置や自動車部品に使用されます。

    参考)https://mecha-basic.com/peek/

汎用エンプラ系素材

フッ素樹脂系素材

  • PTFE(ポリテトラフルオロエチレン):テフロンとして知られ、耐油性・耐化学薬品性・耐高温性に優れます。滑りやすい特性から摩擦軽減が必要な部品に適していますが、加工が難しくコストが高いという課題があります。​

建築業界では、これらの素材の特性を理解し、使用環境に応じて最適な材料を選定することが重要です。
参考)https://mi-tas.co.jp/news/%E3%80%90%E3%83%97%E3%83%AD%E3%81%8C%E8%A7%A3%E8%AA%AC%E3%80%91%E8%A3%BD%E5%93%81%E9%96%8B%E7%99%BA%E3%81%A7%E5%A4%B1%E6%95%97%E3%81%97%E3%81%AA%E3%81%84%E3%83%97%E3%83%A9%E3%82%B9%E3%83%81%E3%83%83/

耐油性プラスチックの建築資材への応用例

建築・インフラ業界における耐油性プラスチックの具体的な活用事例は多岐にわたります。
参考)https://nihon-polymer.co.jp/2023/10/27/4640/

防水シートと塗料
フッ素樹脂は屋根や外壁の防水機能を高める防水シートとして使用されます。耐水性や耐候性に優れているため長期間の使用が可能で、メンテナンスコストの削減に貢献します。また、フッ素樹脂塗料は大規模建造物の表面保護に活用され、防水性や耐候性を高める効果があります。​
配管システム
塩ビ(PVC)は耐薬品性・耐久性・耐候性・耐油性に優れ、日用品から建築物まで幅広い場面で使用されています。上下水道管、継手、雨樋などの配管部材として、安価で加工性が高いことから広く採用されています。PETは耐油性・耐薬品性に優れており、カバー等の建築部材にも使用されます。
参考)https://www.yumoto.jp/material/pet/

シール材と継ぎ目材
橋梁や道路の継ぎ目にはフッ素樹脂シール材が使用されます。耐熱性や耐薬品性に優れているため、熱が加わる環境下でも安定した性能を発揮します。​
機械室部品
建物の機械室では、潤滑油や作動油に接触する部品に耐油性プラスチックが必要です。ポンプのインペラ、軸受部品、油圧シリンダーのパッキンなどには、PPSやPEEKなどの高性能素材が使用されます。これらの素材は高温の油環境下でも長期的な耐性を維持します。​
建築資材として耐油性プラスチックを選定する際は、使用環境の温度、接触する油の種類、必要な耐久年数を考慮する必要があります。​

耐油性プラスチックの選定基準と注意点

建築プロジェクトで耐油性プラスチックを選定する際には、複数の要素を総合的に評価する必要があります。​
使用環境の確認
まず、部品が使用される環境を詳しく確認します。使用温度、湿度、油の種類、接触時間などが重要な判断基準です。例えば高温環境で使用される場合には、耐熱性と耐油性の両方を持つPPSやPEEKなどの素材が必要になります。​
機械的特性の評価
求められる機械的特性を確認します。建築資材では耐摩耗性、弾力性、強度などが重要な要素となります。使用する部品がどのような荷重やストレスにさらされるかを理解し、それに対応する素材を選ぶことが重要です。​
コストパフォーマンスの検討
素材選定においては、初期コストだけでなく長期的な運用コストも考慮する必要があります。PEEKは最高性能を誇りますが高価です。一方、ナイロンやポリプロピレンは比較的安価で良好な耐油性を持つため、コストバランスの観点から選択されることが多くあります。
参考)https://www.kda1969.com/materials/pla_mate_peek.htm

設計上の注意点
材料選定だけでなく、設計段階での配慮も重要です。応力集中を徹底的に排除する形状設計、ウェルドラインの強度低下を考慮した設計が必要です。特に油環境下ではウェルドライン部分の強度が著しく低下するため、重要な応力がかかる箇所にウェルドラインが来ないような設計が不可欠です。​
耐油性プラスチックの選定では、必要な性能を満たしつつ、効率的なコストで調達できる素材を選ぶことが重要です。新しい素材を導入する場合は、実際の使用環境を再現した試験を実施して信頼性を確認することが推奨されます。​

耐油性プラスチックの劣化メカニズムと対策

耐油性プラスチックが劣化する主なメカニズムを理解することは、適切な材料選定と長期的な信頼性確保に不可欠です。​
物理的膨潤(Swelling)
非極性の油分子が非晶性樹脂の分子鎖の隙間に侵入し、分子間力を弱めて素材を膨らませる現象です。これにより寸法変化や強度低下が発生します。結晶性が高いPPSやPEEKは、緻密な分子構造により油分子の侵入を物理的にブロックするため、膨潤に対する耐性が高くなります。​
化学的分解(Chemical Degradation)
油や添加剤がプラスチックのポリマー鎖と化学反応を起こし、分子鎖を切断する現象です。特にエステル系合成油は、同じくエステル結合を持つPCやPBTといったプラスチックを加水分解により攻撃します。建築機械室で使用される作動油の種類によっては、この化学的分解のリスクを考慮する必要があります。​
環境応力割れ(ESC)
部品にかかる応力と特定の液体が同時に作用することで、材質本来の強度より低い応力で亀裂が生じる現象です。これは突然の破壊につながる最も危険な劣化モードとされています。界面活性剤を含む水溶性切削油は、ESCを強力に誘発する要因となります。​
劣化対策の実践的アプローチ
アニーリング処理による残留応力の解放が効果的な対策です。成形後の部品をガラス転移点以下の温度で熱処理することで、成形時に内部に発生した残留応力を大幅に低減できます。これによりESCに対する耐性を劇的に向上させることができ、特に精密な建築部品には必須の工程となります。​
油脂による劣化を防ぐには、使用される油脂の正体(基油、添加剤、pHなど)を正確に把握し、耐油性・耐熱性・コストの複雑なトレードオフを考慮した最適な材料選定が必要です。​

耐油性プラスチックと環境性能の両立

現代の建築業界では、耐油性プラスチックの性能だけでなく、環境への配慮も重要な選定基準となっています。

 

リサイクル可能な素材の活用
PET(ポリエチレンテレフタレート)は耐油性・耐薬品性に優れた素材であり、リサイクル可能という環境面でのメリットも持っています。廃棄PETをリサイクルした高耐久舗装材「リペットペーブ」は、PETボトル等のリサイクルに貢献しながら、アスファルト舗装の耐久性を向上させる事例です。
参考)https://www.nippo-c.co.jp/tech_info/general/SG02038_g.html

持続可能な生産への取り組み
環境負荷を低減するためのリサイクル可能な素材やバイオベースのポリマーが注目されています。これらの新技術は耐油性だけでなく、持続可能な建築生産にも寄与するため、今後ますます重要性が増すと考えられます。​
長寿命化によるコスト削減
耐油性に優れた高性能プラスチックを使用することで、部品の交換頻度を減らし、建物のライフサイクル全体でのメンテナンスコストを削減できます。これは経済性と環境性能の両立につながります。​
最新技術の動向
ナノテクノロジーを活用したコーティング技術や、新しい高分子材料の研究が進行中です。これにより、より軽量で強靭な素材が開発されつつあります。建築業界においても、これらの先端技術を取り入れた耐油性プラスチックの応用が期待されています。​
不動産業界では、建物の長期的な資産価値を維持するために、初期投資だけでなくライフサイクルコスト全体を考慮した材料選定が求められています。耐油性プラスチックの適切な選定は、建物の耐久性向上とメンテナンスコスト削減の両面で重要な役割を果たします。