

解体現場で出た廃材を「リサイクル名目で海外へ送れば安上がり」と思っていると、違反で3年以下の懲役リスクを負います。
バーゼル条約が生まれたきっかけは、1980年代に相次いだ有害廃棄物の越境不法投棄事件です。代表的なものに「セベソ事件」と「ココ事件」があります。セベソ事件は1976年にイタリアで起きた農薬工場の爆発で、ダイオキシンに汚染された土壌がのちに行方不明となり、1983年にフランスで発見されました。ごみが国境を越えて"消える"という衝撃的な事件です。さらに1988年、ナイジェリアのココ港でイタリアから大量の有害廃棄物が搬入・不法投棄されていたことが判明した「ココ事件」が国際社会に与えた衝撃は計り知れません。
これらの問題を受けてUNEP(国連環境計画)が中心となり議論が始まり、1989年3月22日、スイスのバーゼルで「有害廃棄物の国境を越える移動及びその処分の規制に関するバーゼル条約」が採択されました。
採択から約3年後、1992年5月5日に正式発効しています。
発効から加盟国数は着実に増加し、2024年4月時点で189か国と1機関(EU)が加盟しています。この数字は国連加盟国とほぼ同数に相当し、地球規模の環境条約として確固たる地位を占めています。なお、米国は唯一の主要未加盟国であり、今も署名のみの状態です。
つまり採択が1989年、発効が1992年です。
| 年月 | 出来事 |
|---|---|
| 1976年 | イタリア・セベソで農薬工場爆発(ダイオキシン汚染土壌が後に行方不明) |
| 1988年 | ナイジェリアのココ港に有害廃棄物が不法投棄(ココ事件) |
| 1989年3月22日 | バーゼル条約採択(スイス・バーゼル) |
| 1992年5月5日 | バーゼル条約発効 |
| 1992年 | 日本でバーゼル法(特定有害廃棄物等の輸出入等の規制に関する法律)公布 |
| 1993年12月16日 | 日本がバーゼル条約に正式加盟・国内発効 |
バーゼル条約の採択・発効の流れはここが原則です。
参考:バーゼル条約の成立経緯と概要について、外務省が詳細に公開しています。
バーゼル条約は採択後も時代の変化に対応して改正が続けられています。建設業従事者が特に注目すべきは、2019年以降の3回の大きな改正です。
2019年改正(COP14):汚れた廃プラスチックの規制追加
2019年4月〜5月にスイス・ジュネーブで開催された第14回締約国会議(COP14)で、「汚れたプラスチックごみ」が新たに条約の規制対象に追加されました。これにより2021年1月1日から改正附属書が発効し、汚れた廃プラスチックを輸出する際には相手国の書面による事前同意が必須となりました。
建設現場との関係で言えば、配管工事・内装工事などで発生する廃プラスチック類がこの対象に含まれる可能性があります。改正前、日本は年間約140万トン(2017年実績)の廃プラスチックをアジア各国に輸出していましたが、改正後の2022年には60万トン以下に急減しています。東京ドーム約50杯分の量が国内処理に回ってきたことになります。意外ですね。
2025年1月1日改正(COP15決定):e-wasteの全面規制
2022年6月の第15回締約国会議(COP15)の決定を受け、2025年1月1日から電気・電子機器廃棄物(e-waste)に関する附属書が改正されました。従来、非有害のe-wasteは規制対象外でしたが、この改正によりY49(非有害なe-wasteを含む)が附属書IIに追加され、原則としてすべてのe-wasteの輸出に輸入国の事前同意が必要となりました。
建設業の現場では解体工事の際に照明設備・配電盤・空調制御システムなどの電気機器が大量に発生します。これらはe-wasteに該当する場合があり、海外のリサイクル業者へ転売・輸出するルートを使っている場合は注意が必要です。
| 改正年 | 締約国会議 | 主な変更内容 | 発効日 |
|---|---|---|---|
| 2019年 | COP14 | 汚れた廃プラスチックを規制対象に追加 | 2021年1月1日 |
| 2022年 | COP15 | 非有害e-wasteも規制対象に追加(Y49新設) | 2025年1月1日 |
改正は継続中です。
参考:2025年1月1日施行のe-waste改正附属書の詳細は経済産業省が説明資料を公開しています。
経済産業省|バーゼル条約附属書改正とバーゼル法・廃棄物処理法の施行について(PDF)
「バーゼル条約は有害廃棄物の話だから、うちの現場には関係ない」と考えている方は少なくありません。しかし実際には、建設・解体工事に由来する廃棄物が規制対象に含まれるケースは複数あります。ここが大事なポイントです。
PCB(ポリ塩化ビフェニル)含有廃棄物
1972年以前に建設された建物には、蛍光灯安定器・熱交換器・変圧器などにPCBが使用されていたことがあります。PCBは附属書VIII(A1030)に明記されている有害廃棄物であり、解体時に適切に分別せずに輸出すると即座にバーゼル法違反となります。
鉛・カドミウムを含む廃棄物
古い建物の屋根材・配管・塗料には鉛が含まれている場合があります。これらを含む汚泥や廃棄物は附属書Iの対象経路(Y21:鉛および鉛化合物の廃棄物)に該当します。スクラップ金属として海外業者に売却する場合でも、有害特性が認められる場合はバーゼル法の規制対象になります。
廃プラスチック(建設資材由来)
塩化ビニルパイプ、断熱材のウレタンフォーム、窓サッシのシール材など、建設現場から出る廃プラスチックは2021年の改正以降、汚れた状態での無断輸出が規制されています。附属書II(Y48)および附属書VIII(A3210)の対象に該当する場合があります。
e-waste(電気・電子機器廃棄物)
解体工事で発生する配電盤・ビル管理システム・照明設備・エアコンなどは、2025年1月1日以降すべてのe-wasteが輸出規制の対象となりました。特に「まだ使える部品として転売」するつもりであっても、廃棄物として判断された場合には規制が適用されます。
これらすべてに注意が必要です。
参考:建築物の解体等に伴う有害物質の取り扱いについては国土交通省がパンフレットを公開しています。
国土交通省|建築物の解体等に伴う有害物質等の適切な取扱いパンフレット(PDF)
「税関を通れば問題ない」と思っている事業者は危険です。税関はバーゼル条約・バーゼル法に基づく有害廃棄物の水際取締りを実施しており、輸出段階での発覚だけでなく、輸出後の事後調査でも違反が明らかになることがあります。
バーゼル法違反の罰則は重大です。
無許可輸出や虚偽申請が発覚した場合、3年以下の拘禁刑(旧:懲役)もしくは300万円以下の罰金、またはその両方が科されます(特定有害廃棄物等の輸出入等の規制に関する法律第25条)。さらに不法取引と判断された場合は、輸出者が廃棄物を自費で再輸入する義務も発生します。コンテナ1本の輸送コストだけで数十万円に及ぶことを考えると、金銭的ダメージも甚大です。
また、企業名が公表される「行政処分」のリスクも見逃せません。環境省はバーゼル法の施行状況を毎年公表しており、措置命令・報告徴収の実績を透明化しています。建設会社の名前が公表されれば、発注者からの信頼失墜や受注機会の損失につながります。痛いですね。
では、具体的にどう対応するかです。建設業者が取るべき行動を整理します。
廃棄物の種類を正確に把握することが条件です。
輸出に必要な手続きや申請方法は、経済産業省の輸出手引きで詳細が確認できます。
バーゼル条約の締約国は2024年時点で189か国に上りますが、実は世界最大の廃棄物輸出国の一つである米国はいまだに非締約国です。署名はしているものの批准に至っておらず、これは国際環境条約の中でも異例の状況です。
なぜ米国は加盟しないのでしょうか? 主な理由は「国内産業への影響」への懸念です。米国のリサイクル業界は、再生資源として廃棄物を輸出するビジネスモデルに依存しており、バーゼル条約の厳格な輸出規制が適用されると事業コストが増大するためです。また「有価物(再生資源)か廃棄物か」の判断基準を厳格化することへの抵抗もあります。
この米国非加盟という事実は、建設業者にとって意外な落とし穴になり得ます。「日本国内では許可済みの業者に頼んでいる」「米国系の再生資源業者と取引している」という場合でも、日本から物を輸出する以上はバーゼル法(日本の国内法)が適用されます。輸入国である米国がバーゼル条約非締約国であっても、日本からの輸出時は環境大臣の確認や移動書類の整備が必要です。つまり非加盟国への輸出は原則禁止です。
また、もう一つ見落としがちな点があります。それは「リサイクル目的なら許可なく輸出できる」という誤解です。バーゼル条約は「最終処分」だけでなく「リサイクル作業」も処分作業に含めており、再生目的の輸出であっても手続きは同様に必要です。特に金属スクラップや廃プラスチックをリサイクル名目で輸出する場合に多く見られる誤解であり、実際に税関で差し押さえが発生したケースも存在します。
これは実務でよく起こるミスです。
参考:バーゼル条約の規制対象・仕組み・手続きの詳細は経済産業省のページで確認できます。
経済産業省|バーゼル条約・バーゼル法の規制対象物・仕組み・手続き等