貧酸素水塊の釣りを攻略!東京湾の青潮とシーバス対策

貧酸素水塊の釣りを攻略!東京湾の青潮とシーバス対策

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貧酸素水塊での釣り

貧酸素水塊と青潮の発生メカニズム

 

夏の東京湾において、アングラーを悩ませる最大の要因であり、同時に建設業界とも浅からぬ縁を持つ現象、それが貧酸素水塊です。私たち建設従事者が現場で「換気」や「空気の流れ」を重要視するように、海の世界でも酸素の循環は生命線となります。しかし、夏場になるとこの循環が遮断され、海底に「死の部屋」が形成されてしまいます。このメカニズムを正しく理解することが、釣果への第一歩となります。
まず、貧酸素水塊がどのように発生するかを物理的な視点で解説します。夏の強い日差しによって海面付近の水温が急上昇すると、比重の軽い暖かい水が表層に留まり、冷たく重い底層の水と混ざり合わなくなる「成層現象」が起きます。これは建築で言えば、断熱材によって完全に上下の空間が分断されたような状態です。この時、海底付近ではプランクトンの死骸などの有機物が堆積し、バクテリアがその分解のために酸素を大量に消費します。表層からの酸素供給が絶たれた密閉空間で、バクテリアだけが酸素を使い続けるため、底層の溶存酸素濃度は限りなくゼロに近づきます。これが貧酸素水塊の正体です。
さらに、この貧酸素水塊が「青潮」へと変貌する過程には、風という外力が関わっています。東京湾では、北東からの風が強く吹くと、表層の暖かい海水が沖へと流されます。その失われた表層水を補うために、海底に溜まっていた貧酸素水塊が湧き上がる「湧昇流」が発生します。この時、貧酸素水塊に含まれる硫化水素が海面付近の酸素と反応し、コロイド状の硫黄粒子となって青白く白濁します。これが青潮です。見た目は美しい青色ですが、その実態は硫化物の毒性を含んだ酸欠の水であり、魚にとっては猛毒ガスが充満した現場のようなものです。このメカニズムを知ることで、風向きや気温の変化から、「いつ、どこで」この現象が起こるかを予測することが可能になります。
千葉県水産総合研究センター 貧酸素水塊分布予測システム
参考リンク:千葉県が公開している予測システムで、東京湾の貧酸素水塊の分布状況や今後の予測を確認でき、釣行計画に役立ちます。

夏の東京湾でシーバスを釣る対策

夏の東京湾は、シーバスフィッシングにおいて最も過酷なシーズンの一つと言われますが、貧酸素水塊の挙動を逆手に取ることで、独占的な釣果を叩き出すことも可能です。建設現場で危険区域を避けて作業エリアを確保するように、海の中の「安全地帯」を見つけ出すことが対策の鍵となります。貧酸素水塊が底層に広がっている時、シーバスは酸素を求めて移動しますが、その行動パターンは非常に論理的です。
まず、基本的な対策として「レンジ(水深)」の意識を劇的に変える必要があります。普段、シーバスは海底のストラクチャーやブレイクラインについていることが多いですが、貧酸素水塊が発生している状況下では、底層はまさにデッドゾーンです。魚は酸素が豊富な表層付近、あるいは水深1メートル以浅のシャローエリアに浮いています。このため、使用するルアーはトップウォーターや、潜行深度の浅いフローティングミノー、サブサーフェス系のルアーに限定されます。バイブレーションなどで不用意にボトムを攻めることは、酸素のない地獄へルアーを送り込むだけであり、魚からの反応は得られません。
次に重要なのがエリア選択です。貧酸素水塊は潮の流れが滞る閉鎖的な湾奥部で特に発達します。したがって、対策としては「潮通しの良いエリア」や「河川からの淡水流入があるエリア」を選ぶことが鉄則です。特に河川の流れ込みは、新しい酸素を運んでくる供給源であり、酸素を求めるシーバスが密集する避難所となります。ただし、注意が必要なのは、淡水は海水よりも比重が軽いため、表層を滑るように流れるという点です。下の層には依然として貧酸素の海水が残っている「二重構造」になっていることが多く、ここでも表層攻略が重要になります。
また、青潮が発生して海面が白濁している状況では、シーバスの視界も極端に悪くなっています。このような状況下では、視覚的なアピールよりも「波動」によるアピールが有効です。ラトル入りのルアーや、水を強く押すタイプのウェイクベイトを使用し、魚の側線に訴えかけるようなアプローチが効果的です。カラーに関しては、白濁した水中でシルエットが際立つ黒や、膨張色であるチャート系、そして化学反応を連想させるような青潮の中で意外と実績が高いのが、ゴールド系のフラッシングカラーです。硫化物の影響で水色が変化しているため、普段の澄み潮とは全く異なるカラーローテーションが求められます。
東京湾・羽田周辺域における貧酸素水塊の挙動について
参考リンク:東京湾の羽田周辺における貧酸素水塊の移動や消滅のメカニズムが詳細に解説されており、風向きによる変化を学ぶのに適しています。

苦潮を回避するポイント選定の対策

「苦潮」とは、青潮が接岸し、魚介類が酸欠や硫化水素の毒性で死滅したり、苦しんで逃げ惑ったりする状態を指す、釣り人にとっての通称でもあります。この苦潮が直撃しているポイントでは、魚は生きることに精一杯で、餌を捕食する余裕などありません。したがって、ポイント選定における最大の対策は、苦潮の影響を受けていない、あるいは影響が軽微なエリアを地図と風向きから割り出す「リスクアセスメント」にあります。
まず避けるべきは、北東の風が数日続いた後の、風下にあたる湾奥の港湾部です。表層の海水が沖へ流され、底層の貧酸素水が湧き上がってきている可能性が極めて高いからです。逆に狙い目となるのは、風上にあたるエリアや、外洋に面して潮の入れ替わりが激しい堤防の先端、そして水深が極端に浅い干潟(シャローフラット)です。特に水深が2~3メートル以浅のシャローエリアは、風や波の影響で底まで水が撹拌されやすく、酸素が供給されやすい環境にあります。建設現場で言えば、換気の行き届いた開放的な作業スペースのようなものです。
また、意外なポイントとして「垂直護岸の際(キワ)」に注目してください。苦潮が発生すると、遊泳力の低いカニやエビ、ハゼなどの底生生物は、酸欠の海底から逃れるために、壁や岸壁をよじ登って水面付近まで避難してきます。これを狙ってシーバスやクロダイも壁際ギリギリの表層に集まってくる現象が起きます。普段は沖のブレイクを回遊している魚も、この時ばかりは足元の壁際数センチに定位しています。この状況では、キャストして広範囲を探るのではなく、テクトロ(歩きながらルアーを引く釣法)や、岸壁ジギング(ただし表層のみ)が爆発的な威力を発揮します。
さらに、ポイント選定においては「水の色」と「臭い」という五感をフル活用した現場確認が欠かせません。水が白っぽく濁り、腐卵臭(硫黄の臭い)がする場合は、そのポイントは既に死んでいます。硫化水素は魚の呼吸機能を麻痺させるため、どんなに魚影が見えても(酸欠で浮いている魚など)、口を使うことはまずありません。そのような場所は見切りをつけ、水の色が黒っぽく澄んでいる場所や、通常の緑色をしている場所まで大きく移動する決断力が必要です。車や自転車でのランガンを前提とし、一つの場所に固執しない機動力が、苦潮攻略の要となります。
東京湾で『青潮』が発生 混同しがちな「赤潮」とは全く異なる存在?
参考リンク:青潮と赤潮の違いや、青潮が生物に与える具体的なダメージについて分かりやすく解説されており、フィールドでの判断基準になります。

溶存酸素と魚の移動パターン

魚が水中でどこに位置し、どのように動くかを決定づける要因として、水温やベイトの有無以上に絶対的な条件となるのが「溶存酸素量」です。私たち人間が酸素のない部屋には一秒たりとも留まれないのと同様に、魚にとっても酸素濃度は生存に直結するパラメータです。建設図面で配管や空調ダクトの配置を確認するように、海の中の「酸素の分布図」を頭に描くことができれば、魚の移動パターンは手に取るように分かります。
一般的に、魚類が正常に活動するために必要な溶存酸素濃度(DO値)は、3mg/L以上と言われています。これが2mg/Lを下回ると摂餌活動が停止し、1mg/L以下では死滅の危険性が高まります。貧酸素水塊の中は多くの場合、この致死レベルの濃度になっています。そのため、魚の移動パターンは「水平方向」と「垂直方向」の二つの軸で考える必要があります。
垂直方向の移動に関しては、先述の通り、底層の貧酸素帯を避けて表層へと浮上します。しかし、単に浮くだけではありません。重要なのは「躍層(やくそう)」と呼ばれる、酸素のある層とない層の境界線です。魚はこの境界線ギリギリ、酸素が確保できる最も深いレンジにサスペンドする傾向があります。なぜなら、鳥などの空からの捕食者を避けるため、可能な限り深く潜りたいという本能があるからです。この「酸素がギリギリ存在する限界深度」を見極め、その層を正確にルアーを通すことが、この時期の釣りの核心と言えます。
水平方向の移動に関しては、魚はより酸素の多い水を求めて移動します。具体的には、潮通しの良いミオ筋(船の通り道など深く掘れている場所)自体は貧酸素になりやすいですが、その周辺の「かけ上がり」や、潮が当たる側の斜面に魚は移動します。また、風が強く吹いた場合、風表(風が当たっている岸)には波による撹拌作用で酸素が溶け込みやすくなるため、魚が接岸してくるパターンが多く見られます。逆に、無風でベタ凪の日は酸素供給がないため、魚は沖の潮目や、少しでも流れのある橋脚周りなどにピンポイントで固まる傾向が強くなります。
特筆すべきは、貧酸素状態から回復した直後の魚の動きです。風向きが変わるなどして新しい海水が流入し、溶存酸素値が回復し始めると、それまで活性が下がっていた魚が一気に捕食モードに入ることがあります。これを「荒食い」と呼ぶことがありますが、まさに酸素という生命エネルギーが充填された瞬間の爆発力です。溶存酸素の数値をリアルタイムで知ることは難しいですが、風向きの変化や潮の動きを見て、水質の好転を予測し、そのタイミングに合わせてポイントに入ることができれば、他のアングラーが諦めて帰った後に大釣りを演じることも夢ではありません。
貧酸素水塊の形成および貧酸素の生物影響に関する文献調査
参考リンク:溶存酸素濃度が魚の行動や生存に与える影響について、具体的な数値データを基に詳細に分析された学術的な資料です。

浚渫窪地の構造と底層の死水域

最後に、私たち建設従事者だからこそ理解しやすい、少し専門的かつ独自な視点から貧酸素水塊を攻略します。それは「浚渫窪地(しゅんせつくぼち)」という海底構造の存在です。これは、かつて埋め立て用の土砂を採取するために海底を掘削し、そのまま埋め戻されずに放置された巨大な穴のことを指します。東京湾や大阪湾などの埋立地周辺には、こうした人工的な「海底の落とし穴」が無数に点在しています。
構造的に見ると、この浚渫窪地は周囲よりも深く、お椀のような形状をしています。建設現場の水溜まりを想像してみてください。一度水が溜まると自然には排水されず、澱んでいくのと同様に、この窪地には比重の重い海水が滞留しやすく、海流による水の入れ替えが極めて起こりにくい「閉鎖空間」となっています。その結果、夏場にはここが真っ先に貧酸素化し、さらに硫化水素が高濃度で蓄積される「毒ガスタンク」と化します。
一般の釣り人は、海図や魚探を見て「水深がある場所=大物が潜むポイント」と判断しがちです。通常のシーズンであれば、確かに深場は魚の隠れ家となります。しかし、貧酸素水塊が発生する夏場において、この浚渫窪地の底を攻めることは致命的なミスとなります。そこは魚がいる場所ではなく、誤って迷い込んだ魚が死滅し、硫黄還元細菌が繁殖するだけの死の世界だからです。
建設業の視点で言えば、これは「構造上の欠陥」とも言える地形です。この欠陥を把握することで、逆に魚の居場所を絞り込むことができます。つまり、浚渫窪地の「中」ではなく、その「縁(エッジ)」を狙うのです。窪地から溢れ出した悪い水と、周囲の健康な水が接する境界線、あるいは窪地を取り囲む浅場の平場。魚はこの危険地帯のギリギリ外側に、避難するように溜まっています。
Web上の無料の海図や、行政が公開している環境調査資料などを見れば、この浚渫窪地の位置はある程度特定できます。自分のホームポイントの近くに、過去の工事で掘られた穴がないかを確認してみてください。もしあれば、夏場はその穴の真上や底層を徹底的に避け、その周囲のカケアガリやトップレンジを攻める。このように「海底の施工不良箇所」を避けて安全なルート(ポイント)を選定することこそが、建設的思考を持つアングラーだけの特権的な攻略法となるのです。
東京湾において活動するNPO等の市民団体へのアンケート(窪地埋め戻し関連)
参考リンク:国土交通省の資料で、東京湾の窪地が貧酸素水塊の温床となっている現状や、その位置関係を把握するためのヒントが含まれています。

貧酸素水塊攻略の要点まとめ
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青潮と貧酸素の仕組み

夏場の成層とバクテリアによる酸素消費が原因。北東風による湧昇で青潮化し、硫化水素が発生する。

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タナとエリアの選定

底層は死の領域。表層レンジや水深の浅いシャロー、酸素供給のある河口域や風表を狙うのが鉄則。

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浚渫窪地のリスク回避

人工的な海底の穴は貧酸素の温床。構造的な欠陥箇所として位置を把握し、夏場はその底を避けて攻める。

 

 


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