

溶出試験だけ行っても、含有量試験が未実施なら法令違反になります。
土壌含有量試験と土壌溶出量試験は、どちらも土壌汚染対策法に基づく試験ですが、想定するリスクのシナリオがまったく異なります。この違いを混同したまま現場を進める建設業従事者は少なくありません。
土壌溶出量試験は、土壌が雨水や地下水に触れたとき、有害物質がどの程度水中に溶け出すかを測定します。溶媒には精製水を使い、土壌と水を重量体積比10%で混合して6時間振とうし、溶出液1Lあたりの濃度(mg/L)を算出します。つまり、地下水を通じて間接的に体内に取り込むケースを想定した試験です。
一方、土壌含有量試験は「人が土を直接口にするリスク」を想定しています。塩酸(1mol/L)と土壌を重量体積比3%で混合して2時間振とうし、乾燥土壌1kgあたりに含まれる有害物質の重量(mg/kg)を算出します。胃酸に近い環境を人工的に再現しているため、溶出試験より厳しい抽出条件になっています。
含有試験が溶出試験より高い数値を示す傾向があります。これは溶媒の違いによるもので、酸は水より重金属を溶かしやすいからです。この数値の違いが、基準超過・非超過の境界線に影響することもあります。
建設現場での重要ポイントは、第二種特定有害物質(重金属等9物質)では、溶出試験と含有量試験の両方が義務づけられているという点です。溶出試験だけ実施して「問題なし」と判断するのは誤りで、含有量試験が未実施のままでは調査完結にならず、法令上の問題が生じます。
対象となる9項目は、カドミウム、六価クロム、シアン化合物、水銀およびその化合物、セレン、鉛、砒素、フッ素、ホウ素です。それぞれに異なる測定方法が環境省告示第19号別表で指定されています。
参考:環境省「土壌含有量調査に係る測定方法を定める件(環境省告示第19号)」
https://www.env.go.jp/hourei/06/000029.html
試験手順を正確に理解しておくことは、建設業従事者にとって調査結果を正しく評価するためにも欠かせません。手順の背景を知らずに外注だけに任せていると、報告書の内容を読み解けず、現場判断を誤るリスクがあります。
試験は環境省告示第19号の付表に従って行われます。まずサンプリングですが、採取した土壌はポリエチレン製容器など、測定対象物質が吸着・溶出しない容器に保存します。採取後は直ちに試験を行うことが原則で、やむを得ず保存する場合は暗所に置き、できるだけ速やかに試験します。これが基本です。
試料の作製段階では、採取した土壌を風乾し、木片や中小礫を除いたあと、非金属製の2mmふるいを通過させて均一に混合します。サイズを統一することで、分析精度を高める狙いがあります。
検液の作成は物質の種類によって手順が分かれます。カドミウム、水銀、セレン、鉛、砒素、フッ素、ホウ素の7物質については、試料6g以上を量り取り、塩酸(1mol/L)と純水を調整した溶媒を加えて重量体積比3%とし、室温・常圧下で振とう機を用いて2時間連続して振とうします。振とう条件は1分間あたり約200回、振とう幅は4〜5cmと厳密に規定されています。
振とう後は10〜30分静置し、必要に応じて遠心分離したうえで、孔径0.45μmのメンブランフィルターでろ過してろ液を検液とします。六価クロムについては炭酸ナトリウムと炭酸水素ナトリウムを含む緩衝溶液が溶媒となり、手順が一部異なります。シアン化合物については蒸留操作が必要で、専用の蒸留装置を使った作業が求められます。
最終的に、乾燥重量換算が必要です。試料の重量と105℃で4時間乾燥後の重量を比較して水分量を求め、測定結果を乾燥土壌1kgあたりの含有量(mg/kg)に換算して、土壌含有量基準と照合します。
建設業の現場担当者が把握しておくべきポイントは、「試料は採取直後の状態を保つこと」と「溶媒条件が物質ごとに異なること」の2点です。この2点を守れば間違いありません。
土壌含有量基準は、土壌1kgあたりの有害物質含有量(mg/kg)で表されます。主な物質の基準値を以下に示します。
| 物質名 | 含有量基準(mg/kg) | 代表的な汚染源 |
|---|---|---|
| カドミウム | 45 | 精錬所跡、めっき工場跡 |
| 鉛 | 150 | ガソリンスタンド跡、塗料製造跡 |
| 砒素 | 150 | 農薬工場跡、半導体製造跡 |
| フッ素 | 4,000 | ガラス・半導体製造跡 |
| ホウ素 | 4,000 | ガラス製造跡 |
| 六価クロム | 250 | メッキ工場跡、皮革工場跡 |
| 水銀(総水銀) | 15 | 化学工場跡 |
| セレン | 150 | 化学工場跡 |
基準超過が判明した場合、まず都道府県知事等への報告と対策の実施が求められます。対策の選択肢は主に2つです。
ひとつは「掘削除去」。汚染土壌を重機で掘り起こし、許可を受けた処分場へ搬出して良質土で埋め戻す方法です。費用は掘削・運搬・処分を合わせて1m³あたり3〜5万円が目安とされています。面積100m²、深さ1mの汚染であれば、300万〜500万円という試算になります。このくらいの規模は建設現場では珍しくありません。
もうひとつは「封じ込め・遮断」。含有量基準超過の場合、汚染土壌を直接摂取できない状態にすれば健康リスクを回避できる、という考え方に基づきます。盛土や舗装によって汚染土壌と人の接触を物理的に遮断する方法で、掘削除去に比べてコストを抑えられる場合があります。ただし、あくまで管理型の対策であり、土地の転用や将来的な掘削工事が制限される点に注意が必要です。
建設工事で注意すべきケースとして、「自然由来の重金属」があります。もともと地質由来で砒素や鉛が高濃度に存在する地域は、特に日本の山岳地域や鉱山周辺で多く報告されています。このような土地では、人為的な汚染がなくても含有量基準を超えることがあります。2011年改正で自然由来の汚染も土壌汚染対策法の規制対象に加わったため、建設工事前の地歴調査の重要性がいっそう高まりました。
含有量基準の超過が工事中に発覚した場合は、工事の一時中断が求められることもあります。痛いですね。着工前の段階で調査を完了させておくことが、工期・コストの両面でリスク回避につながります。
参考:環境省「土壌汚染対策法に基づく指定基準(土壌含有量基準等)」
https://www.env.go.jp/water/dojo/law.html
含有量試験の結果の信頼性は、サンプリングの正確さに大きく依存します。分析機関が優秀でも、採取の段階でミスがあれば結果は信用できません。これが現場で見落とされがちなポイントです。
土壌汚染対策法における標準的なサンプリング手順は「5地点均等混合法」です。30m格子内に設定した5地点から土壌を採取し、それぞれを等量で混合して1つの試料とします。重要なのは、含有量試験のための採取深度です。表層から5cmまでの土壌と、5〜50cmまでの土壌を別々に採取して、重量比に従い混合します。
表層5cmの土壌は、直接摂取リスクが高い部分として特に重みをつけて扱われます。建設業従事者の中には「深さ50cmまで均一に採れば良い」と思い込んでいる方がいますが、それは誤りです。表層5cmと残りの45cmを分けて採取し、所定の比率で混合する手順を守る必要があります。
採取地点の選定についても注意が必要です。30m格子内の5地点は調査実施者が任意で選べますが、岩盤や構造物など物理的に採取できない場所は除外できます。ただし、その判断の記録を残すことが求められます。調査後のトレーサビリティのためにも、地点選定の根拠を文書化しておくことが大切です。
採取した土壌の保管にも細かいルールがあります。ポリエチレン製容器など、対象物質を吸着・溶出させない容器を使うこと、そして試験は採取後できるだけ速やかに行うことが原則です。特に揮発性の高い有機系物質を含む可能性がある場合は、試料が変質しないよう温度管理も求められます。
建設現場での現実的な対応として、採取はできるかぎり掘削着工前、少なくとも工事で表土が乱れる前に行うことが推奨されます。工事進行中に採取したサンプルは、汚染土の混入や攪拌によって本来の状態を反映しない可能性があるためです。
参考:日本建設業連合会「汚染土壌の適正処理について」
https://www.nikkenren.com/kankyou/recycle/pdf/osendojyou.pdf
土壌含有量試験の実施義務は、土地の所有者だけでなく、条件によって建設業者・施工業者にも関わってきます。「土地所有者の問題」と切り離して考えると、後になってから思わぬ責任を問われるケースがあります。
土壌汚染対策法第4条では、3,000m²以上(一部条例では900m²以上)の土地の形質変更を行う際は、着手30日前までに都道府県知事への届出が義務付けられています。この届出を忘れたり、虚偽の内容で届出をしたりすると、3か月以下の懲役または30万円以下の罰金という罰則が定められています。
さらに重い罰則もあります。調査命令に違反した場合は、1年以下の懲役または100万円以下の罰金(土壌汚染対策法第65条)です。「知らなかった」では済まない法的リスクです。
実務的なリスクとして、土地の売買契約後に汚染が発覚した場合の損害賠償問題があります。建設会社が請け負った工事で掘削中に汚染土壌が見つかった場合、契約条件や過去の地歴調査の実施状況によっては、請求合戦に発展することもあります。工事スケジュールの大幅な遅延に加え、追加の調査費用・対策工事費用が発生することは避けられません。つまり、早めに調査が原則です。
建設業者として現実的に取れる対策は3つあります。
まず、契約前の段階で土地の地歴調査(フェーズⅠ調査)を確認することです。有害物質使用特定施設の跡地、工場跡地、クリーニング店跡地、ガソリンスタンド跡地はリスクが高い土地に分類されます。
次に、工事着工前に土壌汚染状況調査(フェーズⅡ調査)を実施し、含有量試験を含む全項目を確認することです。第二種特定有害物質の対象地では、溶出試験だけでなく含有量試験も必ず実施します。
そして、調査を外注する場合は環境省の指定調査機関に依頼することです。指定調査機関は法令に基づいた調査技術管理者を配置し、調査結果の法的有効性が担保されます。資格を持つ機関かどうかを事前に環境省のリストで確認するひと手間が、後の紛争リスクを大幅に下げます。
自然由来の重金属については、建設発生土として場外搬出する場合にも土壌含有量基準の確認が必要です。国土交通省の「建設工事における自然由来重金属等含有岩石・土壌への対応マニュアル(2023年版)」では、公共工事における対応の枠組みが詳細に示されており、民間工事でも参考にできます。
参考:国土交通省「建設工事における自然由来重金属等含有岩石・土壌への対応マニュアル(2023年版)」
https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/region/recycle/d11pdf/recyclehou/manual/shizenyurai2023.pdf