

建築従事者が「衛生陶器 メーカー」を選ぶとき、カタログの意匠や価格より先に“規格の前提”を押さえると、施工後トラブルの芽をかなり潰せます。衛生器具(大便器・小便器・洗面器・手洗器・掃除流し)は日本産業規格 JIS A 5207で適用範囲が整理されており、どこまでが規格の対象かを知っておくと、仕様書の読み違いが減ります。例えばJIS A 5207:2019では、対象器具や給水方式の用語(タンク式、洗浄弁式、専用洗浄弁式)も定義されています。これを知っているだけで「同じ便器でも給水方式が違うと前提条件が変わる」ことを、設計者・施主・設備業者間で説明しやすくなります。
さらに見落としがちなのが、規格が“性能”にも踏み込んでいる点です。大便器の洗浄性能は試験で「洗浄面にインキの跡が残ってはならない」とされ、排出性能は代用汚物(紙球や樹脂球)を使って通過や排出数まで条件化されています。現場ではこの試験そのものを行うわけではありませんが、メーカーが「洗浄性能が高い」と言う背景には、こうした試験の思想があると理解できます。つまりメーカー比較の土台は“なんとなくの印象”ではなく、「どんな性能を満たすべきか」の共通言語に置ける、ということです。
参考)JISA5207:2019 衛生器具−便器・洗面器類
意外に効くのが“洗浄水量の区分”の読み方です。JIS A 5207には大便器の洗浄水量区分としてI形(8.5L以下)・II形(6.5L以下)が示されています。現場目線では「節水=良い」で終わりがちですが、排水配管計画・詰まりやすさの懸念・既設配管との相性など、節水は別のリスクも連れてきます。規格本文でも、便器ごとに排水特性が異なるため設置時に洗浄水量や器具平均排水流量を考慮することが望ましい、と注意喚起があります。メーカー選定は、器具単体の価格比較だけでなく、建物側条件と合わせて“成立させる選定”にするのが安全です。
参考リンク(衛生器具の種類区分・性能試験・寸法許容差の根拠)。
JIS A 5207:2019 衛生器具-便器・洗面器類(適用範囲・性能・寸法許容差)
衛生陶器は「焼き物=陶器」である以上、金属加工品のような寸法の一律性は期待できません。JIS A 5207では寸法許容差の考え方が示され、40mm未満は±2mm、40mm以上は±5%(端数切上げ、最大±25mm)とされています。つまり、図面上は同じ“品番”であっても、取合いがシビアな納まりでは吸収代を設計・施工で確保しておく必要があります。ここを理解していないと、「製品の不良だ」「施工が悪い」の押し付け合いになりやすいので、現場代理人としては早めに関係者へ共有しておくと強いです。
また、寸法の落とし穴は“器具の外形”だけではありません。排水芯・排水穴位置、便座取付部、壁排水や床排水の位置関係など、設備の取り合い寸法が連鎖します。JIS A 5207には大便器の主要寸法例がまとめられており、床置床排水や壁排水の推奨寸法・位置関係が示されています。メーカーを跨いで更新する案件(既設撤去→他社製に更新)ほど、この“標準のものさし”を知っていると、現調時点で危ない納まりを予見できます。
そして、建築従事者として地味に効くのが“表示”の考え方です。JIS A 5207では、適合した器具は種類の記号、(樹脂の場合は)材質、製造業者名または略号を施工後も認識できる箇所に消えない方法で表示すべき、としています。引渡し後に「この器具、どの仕様だっけ?」となる場面は意外と多いので、写真管理や竣工図の注記とセットで運用すると保守がラクになります。
メーカー比較で“清掃性”が語られるとき、便器形状(フチなし等)や水流方式に目が行きがちですが、実は陶器表面の釉薬(うわぐすり)設計が同じくらい支配的です。古い資料ですが、日本建築材料協会の解説では、水アカ汚れの析出物としてシリカ(Si)が関係すること、さらに帯電防止(静電気が起きにくい)という方向で汚れ付着を抑える考え方が紹介されています。つまり汚れは「ブラシでこすれば落ちる」だけではなく、材料表面で“付かない・固着しにくい”状態を作るのが一つの戦略です。
同じ解説の中で、もう一つ重要なのが水没部(溜水部)で起きる細菌汚れの説明です。し尿中の栄養分→細菌→尿石や臭い→さらに菌が増える、という悪化サイクルが語られ、対策として釉薬に銀を入れて抗菌性を付与する技術が触れられています。建築の現場では“抗菌=オプション”に見えますが、実運用では清掃頻度を下げたい施設(店舗・事務所・公共)ほど効きます。メーカー選定の段階で「誰が、どの頻度で、どんな洗剤で」清掃するのかを先に決め、その運用に合う表面技術を選ぶと、竣工後のクレームが減ります。
参考)https://www.kenzai.or.jp/past/kouryu/kouryu_19.html
さらに意外なのが、汚れ対策が必ずしも“撥水”ではない点です。資料では、表面を親水化することで水が汚れの下に入り込み、汚れを浮かせて落とす(セルフクリーニング的な発想)も語られています。現場で「水をはじく=汚れにくい」と短絡すると、親水系の技術意図を説明できず、施主が誤解して別製品に流れることもあります。メーカーごとの技術用語は違っても、“親水・帯電・抗菌”という軸で説明すると通りが良くなります。
参考リンク(汚れの原因や親水化・抗菌など表面技術の背景)。
日本建築材料協会:衛生陶器の汚れ(シリカ水アカ、抗菌、親水化の考え方)
便器の選定会議で「このメーカーは節水です」と言うだけでは、プロとして一歩足りません。JIS A 5207では大便器の洗浄水量区分がI形(8.5L以下)・II形(6.5L以下)とされ、さらに洗浄水量の許容差も定めています。つまり節水便器でも、製造業者公称水量に対して許容差があり、現場の給水条件や施工条件が悪いと“カタログ通りの体感”にならない可能性がある、という読み方ができます。
また、規格には洗浄弁使用の場合の試験条件として、給水圧力(流動時)や最大瞬間流量などの前提が書かれています。これを現場に翻訳すると、改修で給水管径やバルブをケチると、便器側の性能を発揮しにくくなる、ということです。メーカーの優劣というより、建物側インフラが“性能の足を引っ張る”構図が起きます。設備改修で便器だけ最新にしても、配管条件が古いままだと満足度が上がらないケースがあるため、メーカー選定と同時に給排水条件を点検するのが定石です。
加えて、現場で説明が難しいのが「節水=詰まりやすい?」という疑問です。規格は直接“詰まりやすさ”を断言してはいませんが、附属書Dで排水特性は便器ごとに異なるため、洗浄水量と器具平均排水流量を考慮して設置するのが望ましい、としています。つまり、節水だけを単独目標にするのではなく、建物用途(来客数・紙量・清掃体制)と排水計画を同時に成立させることが、プロのメーカー比較になります。
検索上位の比較記事は「メーカー別の特徴・価格・人気」で終わりがちですが、建築従事者にとって一番痛いのは“交換・更新工事でハマること”です。そこで独自視点として、メーカー比較を「製品」ではなく「更新プロジェクトの失敗要因」から逆算して整理します。ポイントは、便器・洗面器の選定をする前に、既設条件(排水方向、床排水/壁排水、トラップの状態、給水方式、止水栓位置、コンセント位置)を写真と寸法で固定し、候補メーカーの施工説明書で“現場が吸収できない条件”を先に潰すことです。規格上も、便器の種類には給水方式・設置形態・排水方向の区分があり、ここを外すと収まりが成立しません。
更新でよくある「想定外」を、現場チェックリストとして箇条書きにします(入れ子なし)。
さらに、上司チェックで刺さりやすい“プロっぽい一言”を足します。衛生陶器は「器具の性能」だけでなく「施工後に性能が出る条件」まで含めてメーカーを選ぶのが実務です。JIS A 5207の考え方を借りると、性能は試験条件の上で評価されるため、現場側の条件がズレると、どのメーカーでも不満が出ます。だからこそ、メーカー比較記事を“購入者向けのおすすめ”で終わらせず、更新工事の段取り・取合い・維持管理まで含めて設計するのが、建築従事者向けの記事として価値になります。