塩素酸の化学式はなぜHClO3?構造式と性質・危険性から用途まで解説

塩素酸の化学式はなぜHClO3?構造式と性質・危険性から用途まで解説

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塩素酸の化学式がなぜそうなるのか

この記事でわかること
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化学式の謎

塩素酸の化学式がHClO3である理由と、その構造をわかりやすく解説します。

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酸化数と命名法

塩素原子の酸化数が+5になる仕組みと、それが名前にどう影響するかを学びます。

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性質と危険性

塩素酸が持つ酸化力や不安定性、そして取り扱う上での注意点を詳しく紹介します。

塩素酸の化学式(HClO3)と構造式のなぜ

 

塩素酸の化学式がHClO3と表されるのには、その分子の成り立ちに理由があります。塩素酸は、塩素のオキソ酸の一種で、中心に塩素原子(Cl)が1つ、そしてその周りに酸素原子(O)が3つと水素原子(H)が1つ結合した構造をしています 。[1]
より詳しく見ていきましょう。

     

  • 中心の塩素原子: 塩素原子が分子の中心に位置します。
  •  

  • 酸素原子との結合: 3つの酸素原子のうち、2つは塩素原子と二重結合で、残りの1つは単結合で結びついています。
  •  

  • 水素原子の結合: 水素原子は、塩素原子と単結合している酸素原子に結合しています。これにより、ヒドロキシ基(-OH)を形成しています 。
  • [2]

この構造により、塩素原子は合計で5つの価電子を結合に使用することになります。結果として、化学式はH、Cl、Oがそれぞれ1つ、1つ、3つ含まれる形、つまりHClO3となるのです。
この構造式を理解することで、なぜ化学式がHClO3になるのか、という疑問が根本から解決されます。原子の配置やつながり方が、そのまま化学式に反映されているのです。

塩素酸の酸化数と命名法の謎

塩素酸の「塩素酸」という名前は、その化学的な性質、特に中心にある塩素原子の「酸化数」と密接に関係しています。酸化数とは、原子がどれだけ酸化されているか(電子を失っているか)を示す指標です。
塩素酸(HClO3)において、各原子の酸化数は以下のようになります。

     

  • 水素(H): +1
  •  

  • 酸素(O): -2

化合物全体の電荷は0なので、塩素(Cl)の酸化数をxとすると、以下の式が成り立ちます。
(+1) + (x) + (-2) × 3 = 0
これを解くと、x = +5 となり、塩素酸における塩素原子の酸化数は+5であることがわかります 。[3]
実は、塩素は様々な酸化数を取ることができるため、「塩素のオキソ酸」には複数の種類が存在します。それらを区別するために、酸化数に基づいた命名法が用いられているのです 。
参考)https://nomenclator.la.coocan.jp/chem/text/binary.htm

 

以下の表は、塩素のオキソ酸の種類と塩素の酸化数をまとめたものです。

名称 化学式 塩素の酸化数
次亜塩素酸 HClO +1
亜塩素酸 HClO2 +3
塩素酸 HClO3 +5
過塩素酸 HClO4 +7


この表からわかるように、「塩素酸」は酸化数が+5の状態を基準として名付けられています。それよりも酸化数が小さいものには「亜」や「次亜」がつき、大きいものには「過」がつくというルールがあるのです 。この命名規則を理解することで、化学式の違いと名前の関係性が明確になります。[5]
より詳しい命名法については、以下の参考リンクが役立ちます。
国際純正・応用化学連合(IUPAC)の命名法について解説されており、酸化数の計算方法やローマ数字での表記法などを学べます。
二元型命名法

塩素酸の性質と危険性、そしてその反応

塩素酸(HClO3)は、その化学構造から特有の性質と危険性を持ち合わせています。取り扱いには十分な注意が必要です。
主な性質:

     

  • 強い酸化力: 塩素酸は非常に強い酸化剤です。他の物質から電子を奪い、自身は還元される力が強いことを意味します。この性質は、塩素のオキソ酸の中でも過塩素酸に次いで強いものです 。
  • [3]

     

  • 不安定性: 塩素酸は熱力学的に不安定な物質で、濃度の高い水溶液は特に不安定です。加熱や光によって分解しやすく、時には爆発的に反応することもあります。30%を超える濃度の溶液は、不均化反応を起こして、より安定な過塩素酸と二酸化塩素などを生成します 。
  • [1]

     

  • 酸性: 水に溶けると水素イオン(H+)を放出するため、強い酸性を示します。

危険性:
その強い酸化力と不安定性から、塩素酸およびその塩(塩素酸ナトリウム、塩素酸カリウムなど)は、消防法における危険物第1類(酸化性固体)に指定されています 。
[6]

     

  • 🔥 火災・爆発の危険: 可燃物や有機物、金属粉などと混合すると、わずかな衝撃や摩擦、加熱によって激しく反応し、火災や爆発を引き起こす危険があります。
  •  

  • 🤢 有毒ガスの発生: 酸と反応したり、加熱により分解したりすると、有毒で腐食性のある塩素ガス(Cl2)を発生する恐れがあります 。
  • [7]

     

  • 皮膚や粘膜への影響: 腐食性があり、皮膚や目、呼吸器系の粘膜に触れると炎症や損傷を引き起こす可能性があります 。
  • [7]

代表的な反応:
塩素酸は、その強い酸化力を活かして様々な化学反応に利用されますが、その不安定さゆえに制御が難しい側面もあります。例えば、塩素酸カリウム(KClO3)に濃硫酸を滴下すると、二酸化塩素(ClO2)という爆発性の気体が発生します。

 

塩素酸塩の危険性に関する詳細は、以下の化学物質等安全データシート(SDS)で確認できます。
塩素酸ナトリウムの具体的な危険有害性情報や、混触危険物質、火災時の注意点などが記載されています。
塩素酸ナトリウム SDS

塩素酸と他の塩素のオキソ酸との違い

塩素酸を理解する上で、他の塩素のオキソ酸との違いを知ることは非常に重要です。これらは名前が似ていて混同しやすいため、それぞれの特徴を比較してみましょう。
主な塩素のオキソ酸は以下の4つです 。
参考)【塩素のオキソ酸】次亜塩素酸・亜塩素酸・塩素酸・過塩素酸の違…

     

  • 次亜塩素酸 (HClO)
  •  

  • 亜塩素酸 (HClO2)
  •  

  • 塩素酸 (HClO3)
  •  

  • 過塩素酸 (HClO4)

これらの最大の違いは、分子に含まれる酸素原子の数です。酸素の数が増えるにつれて、化学的な性質である「酸性の強さ」と「酸化力の強さ」が変化します。


性質の比較表
| | 次亜塩素酸 (HClO) | 亜塩素酸 (HClO2) | 塩素酸 (HClO3) | 過塩素酸 (HClO4) |
| :--- | :--- | :--- | :--- | :--- |
| 化学式 | HClO | HClO2 | HClO3 | HClO4 |
| 塩素の酸化数 | +1 | +3 | +5 | +7 |
| 酸性の強さ | 弱い ◀ | | | ▶ 強い |
| 酸化力の強さ | 強い ▶ | | | ◀ 弱い |


酸性の強さ:
酸素原子の数が多いほど、中心の塩素原子の電子が酸素に強く引き寄せられます。その結果、O-H結合の電子も酸素側に偏り、水素イオン(H+)が電離しやすくなるため、酸性が強くなります 。したがって、酸性の強さは以下の順になります。[3]
過塩素酸 > 塩素酸 > 亜塩素酸 > 次亜塩素酸
酸化力の強さ:
酸化力は、他の物質から電子を奪う力の強さです。一般的に、酸化数が高いほど酸化力は強くなる傾向にありますが、塩素のオキソ酸の場合は逆になります。これは、酸素原子が多いほど、イオンとして存在する状態(例: ClO4⁻)が安定し、わざわざ電子を奪って分解しようとしなくなるためです 。そのため、酸化力の強さは以下の順になります。​
次亜塩素酸 > 亜塩素酸 > 塩素酸 > 過塩素酸
このように、酸素原子が一つ違うだけで、性質が大きく異なることがわかります。特に、家庭用の漂白剤などに使われる次亜塩素酸ナトリウムと塩素酸は、名前は似ていますが全く異なる性質を持つため、混同しないように注意が必要です 。
参考)「次亜塩素酸水溶液」と「次亜塩素酸ナトリウム水溶液」の違い

【独自視点】建築現場における塩素酸の意外な用途と注意点

「塩素酸」そのものが建築現場で直接使われることは、その危険性の高さからほとんどありません。しかし、「塩素」を含む化合物、特に次亜塩素酸系の薬剤は、建築物衛生法に関連する様々な場面で重要な役割を担っています 。[9]
意外な用途:雑用水の消毒
現代の建築物、特に大規模な施設では、雨水や井戸水をろ過してトイレの洗浄水や植栽への散水、清掃用水などの「雑用水」として再利用するシステムが導入されています。この雑用水は、人が直接飲むわけではありませんが、衛生的に保つ必要があります。
建築物における衛生的環境の確保に関する法律(通称:建築物衛生法)では、このような雑用水を供給する場合、衛生上必要な措置として塩素消毒が義務付けられているのです 。
[9]

     

  • 💧 消毒の目的: レジオネラ属菌などの細菌の繁殖を防ぎ、公衆衛生を保つために行われます。
  •  

  • 使用される薬剤: 実際には、取り扱いが比較的安全で安定している次亜塩素酸ナトリウム(液体)や、次亜塩素酸カルシウム(固体、さらし粉など)が主に使用されます 。これらは有効塩素を放出して消毒効果を発揮します。
  • [10][9]

つまり、塩素酸(HClO3)とは異なりますが、同じ塩素系の化合物が、建物の水循環システムという見えないところで活躍しているのです。
現場での注意点:混ぜるな危険!
建築現場や建物のメンテナンスでは、様々な洗浄剤や薬剤が使われます。ここで最も注意すべきは、塩素系薬剤と酸性タイプの製品を混ぜることです。

     

  • 有毒ガス発生: 塩素系の漂白剤や消毒剤(次亜塩素酸ナトリウムなど)が、酸性の洗浄剤(塩酸を含むトイレ用洗剤など)と混ざると、化学反応を起こして極めて有毒な塩素ガス(Cl2)が発生します 。
  • [8][7]

     

  • ⚠️ 事故のリスク: この事故は、清掃作業中などに発生しやすく、吸い込むと呼吸器に深刻なダメージを与え、最悪の場合、命に関わります。製品のラベルにある「まぜるな危険」の表示は、この化学反応を防ぐための重要な警告です。

このように、化学式や性質を正しく理解することは、建築従事者が安全に作業を進める上でも非常に重要です。塩素酸という物質を学ぶことをきっかけに、現場で扱う様々な化学物質への理解を深めることが、事故を未然に防ぐ第一歩となります。

 

 


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