濃硫酸の化学式と性質や危険性と希硫酸の違いと作り方

濃硫酸の化学式と性質や危険性と希硫酸の違いと作り方

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濃硫酸の化学式

濃硫酸の基礎知識と危険性
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化学式と基本性質

化学式はH₂SO₄。無色で粘り気のある重い液体で、不揮発性と吸湿性を持つ強力な酸です。

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取り扱いの絶対ルール

水に濃硫酸を加えるのが鉄則。「水」を「硫酸」に入れると突沸し、爆発的に飛散する危険があります。

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緊急時の対応

皮膚に付着したら、まずは大量の流水で洗い流すことが最優先。中和剤の使用は発熱のリスクがあります。

濃硫酸の化学式は $H_2SO_4$ で表されます 。
参考)硫酸(りゅうさん)の意味や定義 わかりやすく解説 Webli…

この化学式が示す通り、水素原子(H)2個、硫黄原子(S)1個、酸素原子(O)4個から構成される無機化合物です。分子量は約98.08であり、CAS登録番号は7664-93-9です。一般的に「硫酸」と呼ばれる場合でも、その濃度によって性質が大きく異なるため、化学的および工業的には濃度約90%以上のものを「濃硫酸」、それ未満のものを「希硫酸」と明確に区別して呼びます 。
参考)硫酸(リュウサン)とは? 意味や使い方 - コトバンク

濃硫酸は、常温常圧下では無色透明で、油のような独特の粘り気を持つ液体として存在します 。水と比較すると比重が約1.84と非常に重く、同じ体積の水と比べると倍近い重さを感じることが特徴です。この「重くて粘り気がある」という物理的性質は、配管内での滞留や、漏洩時の広がりにくさ(しかし除去のしにくさ)に繋がるため、建築設備のメンテナンスや化学プラントの設計において重要な考慮事項となります。​
また、濃硫酸は「不揮発性」という性質を持っています。これは塩酸や硝酸のように常温でガスを発生させて揮発していく性質とは対照的であり、加熱しない限り蒸発しにくいという特徴です。しかし、加熱された濃硫酸は強力な酸化作用を発揮し、多くの金属を溶かすため、取り扱いには細心の注意が必要です。

濃硫酸の化学式と性質と危険性

 

濃硫酸が持つ化学式 $H_2SO_4$ に基づく性質は、極めて特異的かつ危険性の高いものです。まず理解すべきは、その強力な「吸湿性」と「脱水作用」です。濃硫酸は空気中の水分を猛烈な勢いで吸収する性質があり、蓋を開けておくだけで空気中の水分を取り込み、徐々に濃度が下がって希硫酸へと変化していきます 。
参考)https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/0626.html

この吸湿性は単に湿気を吸うだけでなく、有機化合物から水素と酸素を水($H_2O$)の形で強制的に奪い取る「脱水作用」として現れます。例えば、砂糖(スクロース:$C_{12}H_{22}O_{11}$)に濃硫酸をかけると、砂糖に含まれる水素と酸素が水として引き抜かれ、残った炭素(C)だけが黒い炭の塊として盛り上がる実験は有名です 。この反応は激しい発熱を伴います。
参考)https://researchmap.jp/naomi_unakami/misc/42619247/attachment_file.pdf

人体にとってもこの性質は致命的です。皮膚や衣服に付着すると、単なる酸による化学熱傷(やけど)だけでなく、細胞内の水分が奪われることによる組織の炭化・壊死を引き起こします 。これが「劇物」として指定され、厳重な管理が求められる最大の理由です。
参考)硫酸 - Wikipedia


  • 粘性(粘り気): 分子間で水素結合が強く働いているため、水あめのような高い粘度を持ちます。

  • 沸点: 約290℃(98%硫酸の場合)と非常に高く、加熱濃縮が可能です。

  • 溶解熱: 水に溶ける際に莫大な熱エネルギーを放出します。

参考:職場のあんぜんサイト:化学物質:硫酸 - 厚生労働省 (安全データシートや危険有害性情報)

濃硫酸と希硫酸の違いと作り方で水を混ぜる注意点

建築現場や工場でのメンテナンス業務において、「濃硫酸」と「希硫酸」は全く別の物質として認識する必要があります。化学式は同じ $H_2SO_4$ ですが、その挙動は対照的です。

特徴 濃硫酸(濃度90%以上) 希硫酸(濃度90%未満)
主な性質 脱水作用、吸湿性、酸化作用 強酸性、イオン化
電離度 ほとんど電離していない 水中でほぼ完全に電離 ($H^+, SO_4^{2-}$)
金属への反応 イオン化傾向に関わらず加熱で反応 水素よりイオン化傾向が大きい金属を溶かす
危険性 皮膚の炭化、発熱、爆発的飛散 酸による腐食、水素ガスの発生


【絶対禁止事項】水に濃硫酸を注ぐこと
希硫酸を作る(希釈する)際の手順は、命に関わる重要なルールがあります。それは**「必ず多量の水の中に、濃硫酸を少しずつ注ぐ」**ということです 。
参考)希硫酸をつくる際、「水に濃硫酸を加える」と教科書にあります。…
youtube​
もし逆に、「濃硫酸が入った容器に水を注ぐ」とどうなるでしょうか?


  1. 水は濃硫酸よりも軽いため、混ざり合わずに濃硫酸の表面に浮きます 。​

  2. 接触面で急激な水和反応が起こり、莫大な溶解熱が発生します。

  3. その熱で水が一瞬にして沸騰(突沸)し、熱湯となった酸混じりの水が爆発的に周囲へ飛び散ります。

これは実験室だけでなく、洗浄液の調整現場などで誤って行い、作業員が重度の熱傷を負う事故が後を絶ちません。建築現場での酸洗い作業などで希釈が必要な場合は、必ず保護メガネと耐酸手袋を着用し、撹拌しながらゆっくりと酸を水へ投入してください 。
参考)非金属元素と化合物の性質

濃硫酸の脱水作用と酸化作用と腐食の仕組み

濃硫酸の「脱水作用」と「酸化作用」は、化学プラントや配管設備などの資材選定において極めて重要な要素です。
脱水作用のメカニズム
濃硫酸分子は水分子との親和性が非常に高く、水和イオンを作る際に安定化しようとします。この力が強いため、本来水を含んでいない化合物からも、水素原子(H)と酸素原子(O)を2:1の比率で引き剥がしてしまいます。
建築資材で言えば、木材や綿(セルロース)、紙などがこの作用を受けやすく、付着するとボロボロに炭化して強度が失われます。防護服の選定においても、綿素材の作業着は濃硫酸が付着すると穴が開いてしまうため、ポリエステルや専用の耐酸性素材が必須となります。
熱濃硫酸の酸化作用
濃硫酸を加熱すると「熱濃硫酸」となり、強力な酸化剤として振る舞います 。常温の希硫酸には溶けない銅(Cu)や銀(Ag)などのイオン化傾向の小さい金属であっても、熱濃硫酸はこれらを酸化して溶かし、二酸化硫黄($SO_2$)という有毒ガスを発生させます 。
参考)化学反応式を書く際に濃硫酸を書く場合と、矢印の上に書く場合の…

Cu+2H2SO4CuSO4+2H2O+SO2Cu + 2H_2SO_4 \rightarrow CuSO_4 + 2H_2O + SO_2Cu+2H2SO4→CuSO4+2H2O+SO2
この反応は、金属配管の腐食事故の原因となることがあります。特に、配管内で滞留した濃硫酸が外部からの熱や反応熱で高温になった場合、想定外の速度で配管減肉(腐食による厚みの減少)が進行し、漏洩トラブルに繋がります。
参考:SDS 濃硫酸 - 高杉製薬株式会社 (物理的及び化学的性質、有害性の詳細)

濃硫酸が皮膚に付着した時の応急処置と取り扱い

現場で最も恐れるべき事態は、濃硫酸の人体への暴露です。もし作業中に濃硫酸が皮膚や衣服に付着した場合、その初動対応が生死や後遺症の有無を分けます。
応急処置の鉄則


  1. 直ちに大量の水で洗い流す 。​


    • 「水と反応して発熱するから洗ってはいけない」という誤解がありますが、付着した酸を皮膚上に留める方がはるかに危険です。大量の流水(シャワーやホース)で、熱が発生してもそれを冷却・除去できるほどの水量で一気に洗い流します。


  2. 無理に衣服を脱がない


    • 衣類が皮膚に張り付いている場合、無理に脱ごうとすると皮膚ごと剥がれてしまう可能性があります。衣類の上からでも大量の水をかけ続け、十分に洗ってから医師の処置を待ちます。


  3. 中和剤は即座に使わない


    • 「酸だからアルカリで中和」というのは、皮膚上では推奨されません。中和反応熱(中和熱)が患部で発生し、熱傷を悪化させる恐れがあるためです。まずは水による物理的な除去と冷却が最優先です。

保管と取り扱い
建築現場や資材置き場で保管する場合、法的な規制(消防法や毒劇法)に従う必要があります。


  • 保管場所: 直射日光を避け、通気性の良い冷暗所に保管します。床面は耐酸性のある素材(コンクリートに耐酸塗装など)である必要があります。

  • 容器: ポリエチレン容器やガラス瓶が使われますが、破損防止のため二重容器にすることが望ましいです。金属容器は腐食のリスクがあるため、専用品以外は避けます。

  • 掲示: 「医薬用外劇物」の表示が必要です 。​

濃硫酸による建築資材の腐食と産業廃棄物の処理

建築業界において、濃硫酸は「意図して使う資材」であると同時に、「防ぐべき腐食因子」でもあります。特にコンクリートや金属への影響は甚大です。
コンクリートへの腐食(硫酸塩腐食)
下水処理施設や化学プラントの床などでは、嫌気性細菌によって硫化水素が発生し、それが酸化されて硫酸が生成されることがあります。この硫酸がコンクリート中の水酸化カルシウムと反応し、石膏(硫酸カルシウム)を生成します 。
参考)NC東京ベイ株式会社

Ca(OH)2+H2SO4CaSO4+2H2OCa(OH)_2 + H_2SO_4 \rightarrow CaSO_4 + 2H_2OCa(OH)2+H2SO4→CaSO4+2H2O
さらに、この石膏がアルミン酸塩と反応してエトリンガイトという針状結晶を生成します。この反応は体積膨張を伴うため、コンクリート内部から激しいひび割れや破壊を引き起こします。これを防ぐため、耐硫酸性セメントやエポキシ樹脂ライニングなどの防食工事が不可欠となります。
産業廃棄物としての処理
使用済みの硫酸(廃硫酸)は、pH2.0以下の強酸性廃液となることが多く、特別管理産業廃棄物(腐食性廃酸)に該当します 。
参考)硫酸の処理方法、産業廃棄物のコンサルタントから解説!|硫酸|…

これをそのまま下水に流すことは法律で厳しく禁じられています。


  • 中和処理: 消石灰(水酸化カルシウム)や苛性ソーダ(水酸化ナトリウム)を用いて中和し、pHを基準値内に調整してから処理します。ただし、濃硫酸を直接中和槽に入れると爆発的な反応が起きるため、必ず希釈してから中和工程へ送る必要があります。

  • マニフェスト管理: 処理を委託する場合は、適切な許可を持つ処理業者に委託し、マニフェスト(産業廃棄物管理票)を発行して最終処分まで追跡管理する義務があります 。​

建築現場の洗浄作業で出た少量の廃液であっても、不法投棄や不適切な排水は重い刑事罰の対象となるため、現場監督者は処理フローを事前に計画しておく必要があります。
参考:硫酸の処理方法、産業廃棄物のコンサルタントから解説! - 丸商株式会社

 

 


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