

建築や土木の現場で活躍する施工管理技士や職人の皆さんにとって、高校化学で習った「酸化数」は遠い昔の記憶かもしれません。しかし、実はこの酸化数の概念は、現場で発生する「金属の錆(腐食)」や「コンクリートの中性化」、「電池の仕組み」を理解する上で非常に重要な基礎知識となります。特に一級・二級施工管理技士の試験などでも化学の知識が問われることがありますが、酸化数のルールさえ覚えてしまえば、複雑な化学反応式もパズルのように解くことが可能です 。ここでは、現場で使える知識として、酸化数の求め方を基礎から応用まで徹底的に解説します。
参考)酸化数(求め方・ルール・例外・例題・一覧・演習問題)
まず、酸化数とは何かという定義から確認しましょう。酸化数とは、ある物質中の原子が「どれくらい電子を受け取っているか(あるいは失っているか)」を整数で表した数値のことです。化学反応、特に酸化還元反応において、電子の移動を追跡するための「目印」のようなものだと考えてください 。
参考)酸化数の8つの原則と2つの例外|酸化・還元の程度の求め方
酸化数を求めるためのルールは非常にシンプルで、基本的には以下の3つの原則を優先順位の高い順に適用するだけで、ほとんどの物質の酸化数を決定できます。
[4][5]
[4]
[5][3]
これらの基本ルールに加えて、計算の基準となる「相棒」の数字を覚える必要があります。これだけは暗記が必要ですが、数は多くありません。
| 原子 | 酸化数 | 備考 |
|---|---|---|
| 水素(H) | +1 | ほとんどの化合物で適用 |
| 酸素(O) | -2 | ほとんどの化合物で適用 |
| アルカリ金属(Na, Kなど) | +1 | 周期表の1族 |
| 2族元素(Mg, Caなど) | +2 | 周期表の2族 |
この表の数字は、現場の安全規則のように「基本的には絶対」と考えて差し支えありませんが、後述する特定の条件下でのみ例外が発生します。まずは「水素は+1、酸素は-2」という大原則を頭に叩き込みましょう 。これにより、未知の原子の酸化数を方程式のように導き出すことができます。
参考)酸化数の求め方!定義から丁寧に│受験メモ
では、実際に化合物や単体の酸化数をどのように計算するのか、具体的な手順を見ていきましょう。現場でよく扱う物質を例に挙げます。計算の手順は、「分かっている数字を当てはめて、分からないものをXとする」という代数計算です。
例題1:赤錆の主成分である酸化鉄(III)(Fe₂O₃)中の鉄(Fe)の酸化数は?
(X × 2) + (-2 × 3) = 02X - 6 = 0 となり、2X = 6、つまり X = +3 となります。したがって、赤錆に含まれる鉄の酸化数は「+3」であることがわかります。このように、酸素の酸化数を基準にして逆算するのが基本テクニックです 。
参考)酸化数の計算方法|長岡校
例題2:硫酸(H₂SO₄)中の硫黄(S)の酸化数は?
この物質はバッテリー液や洗浄剤として馴染みがあるかもしれません。
(+1 × 2) + (X × 1) + (-2 × 4) = 02 + X - 8 = 0X - 6 = 0 なので、X = +6 です。このように、複雑に見える化合物でも、水素と酸素の数字が決まっていれば、残りの元素の酸化数は自動的に決まります。これを一覧表のように整理しておくと、現場での材料管理や危険物取扱の勉強にも役立ちます。
参考リンク:酸化数の詳しい計算一覧と演習問題(化学のグルメ)
リンク先では、さらに多様な化学物質の酸化数一覧や、高校化学レベルの詳細な演習問題が掲載されており、基礎固めに最適です。
基本ルールにはいくつかの例外が存在します。建築現場において特に注意が必要な例外パターンは、漂白剤や洗浄剤、殺菌剤として使われる「過酸化水素(H₂O₂)」です。
通常、酸素(O)の酸化数は「-2」と教わりますが、過酸化水素の場合だけは異なります。
[8][1]
なぜこのような例外が起きるのでしょうか。少し専門的になりますが、これは構造式に関係しています。過酸化水素は「H-O-O-H」という構造をしており、酸素原子同士がつながっています。同じ原子同士の結合では電子の偏りがないため、この部分での酸化数のカウントが通常と異なるのです。計算上も、水素(H)の「+1」を優先し、(+1 × 2) + (2 × X) = 0 を解くと、酸素(X)は「-1」になります 。
もう一つの例外:金属の水素化物
通常、水素(H)の酸化数は「+1」ですが、ナトリウム(Na)やカルシウム(Ca)などの金属と直接結合している場合(水素化ナトリウム NaH など)は、水素の酸化数が「-1」になります。これは金属の方が電子を放出しやすいため、相対的に水素が電子を受け取る側(マイナス)になるからです 。
覚え方のコツとしては、以下のように整理しましょう。
| 優先順位 | ルール | 具体例 |
|---|---|---|
| 1位 | アルカリ金属は+1、2族は+2 | NaHのNaは+1 |
| 2位 | 水素は+1 | H₂OのHは+1 |
| 3位 | 酸素は-2 | H₂OのOは-2 |
この優先順位を守れば、NaHの場合、「Naが+1(優先1位)」なので、合計を0にするために「Hは-1」にならざるを得ない、と判断できます。H₂O₂の場合も、「Hが+1(優先2位)」なので、「Oは-1」になると導けます。つまり、例外を丸暗記するよりも「優先順位」を覚える方が、応用が効くため簡単です 。
参考)【高校化学】酸化数の求め方とルールをわかりやすく徹底解説!酸…
ここからは、検索上位の記事にはあまり書かれていない、建築・建設従事者ならではの視点で酸化数を活用しましょう。それは「錆(さび)」と「腐食」のメカニズム解明です。
鉄が錆びる現象は、まさに酸化還元反応です。現場で見る錆には「赤錆」と「黒錆」がありますが、これらは酸化数が異なります。
[9][10]
[11][12]
異種金属接触腐食(ガルバニック腐食)の恐怖
建築設備や外装で最も注意すべきなのが、異なる金属が接触した部分で起きる腐食です。例えば、アルミサッシ(Al)をステンレス(SUS)のビスで固定し、そこに雨水(電解質)がかかるとどうなるでしょうか。
化学的には、イオン化傾向の大きい(溶けやすい)金属が酸化され、陽イオンになります。
一方、相手側のステンレス表面では、水中の溶存酸素が電子を受け取る還元反応が起きます。
この電子のやり取りにおいて、酸化数が増える側(アルミ)が一方的に腐食してボロボロになります。これを防ぐために、絶縁ワッシャーを挟んで電気的な移動(酸化還元反応)を遮断するのです 。現場での「絶縁処理」は、まさに酸化数の変化を止める作業そのものです。
参考)https://www.takenaka.co.jp/takenaka_e/services/research/pdf/no64_2008/papers/03_R030.pdf
参考リンク:建築設備配管系における異種金属接触腐食と対策(竹中工務店技術研究所)
この論文では、実際の建築設備における異種金属接触腐食のメカニズムや、溶存酸素の影響について専門的なデータとともに解説されており、施工管理の実務において非常に参考になります。
また、コンクリートの「中性化」も化学反応です。強アルカリ性の水酸化カルシウム(Ca(OH)₂)が、空気中の二酸化炭素(CO₂)と反応して炭酸カルシウム(CaCO₃)に変化します。この反応自体ではカルシウムの酸化数は+2のままで変わりませんが、pH環境が変化することで鉄筋表面の不動態皮膜(酸化皮膜)が破壊され、鉄筋の酸化(腐食)が始まるトリガーとなります 。
参考)中性化
最後に、より実践的な演習問題を通じて、酸化数の変化を見抜く力を養いましょう。現場で起こる現象を化学式でイメージできるようになると、トラブルの原因究明能力が格段に上がります。
演習課題:鉄筋の腐食反応
鉄(Fe)が水と酸素により水酸化鉄(II)(Fe(OH)₂)になる反応を見てみましょう。
反応式(簡略化): 2Fe + O₂ + 2H₂O → 2Fe(OH)₂
この反応における各原子の酸化数の変化を追ってください。
この演習からわかることは、鉄筋が「酸化される」とき、必ず空気中の酸素が「還元されている」ということです。つまり、錆を防ぐには、鉄をコーティングするか、酸素(または水)を遮断すれば、この酸化数の変化(反応)を物理的に止められるという理屈になります 。
参考)錆発生のメカニズム
もう一つ、現場で使う「次亜塩素酸ナトリウム(NaClO)」などの漂白・カビ取り剤も見てみましょう。
NaClO中の塩素(Cl)の酸化数はいくつでしょうか?
1 + X + (-2) = 0X - 1 = 0 より、X = +1通常、塩化物イオン(Cl⁻)などは-1ですが、強力な酸化力を持つ次亜塩素酸の中では、塩素は無理やり+1の状態にさせられています。この不安定な状態から安定した状態に戻ろうとするエネルギーが、カビの細胞を破壊(酸化)する力として働いているのです。
このように、酸化数の計算は机上の空論ではなく、現場にある材料の性質や危険性を理解するための強力なツールとなります。「水素は+1、酸素は-2、単体は0」。この基本さえ押さえておけば、現場で見かける多くの化学現象を説明できるはずです。

研磨剤入りポリッシュワックスを使用したヘビータイプのゴルフアイアンのクリーニングは、数分で酸化を除去し、安全な家庭用研磨剤を使用できます。