

配合比を「だいたい」で合わせると、翌日に床塗装が固まらず全面やり直しになります。
エポキシ当量(Epoxy Equivalent、略称EE)とは、エポキシ基を1当量含む樹脂の質量のことで、単位は「g/eq(グラム毎当量)」で表します。英語では "Weight Per Epoxide" を略してWPEと記載されているカタログも多く、どちらも同じ意味です。
具体的にイメージするなら、分子量380のエポキシ樹脂1分子にエポキシ基が2個ついていれば、エポキシ当量は 380÷2=190 g/eq となります。名前に「当量」とある通り、分子量を感応基(エポキシ基)の数で割った値です。つまりエポキシ当量が小さいほど、同じ質量の中に多くの反応点が詰まっていることになります。
この数値はエポキシ樹脂の種類ごとに異なります。たとえば建築塗料や防水材でよく使われるビスフェノールA型液状エポキシ樹脂(三菱ケミカルjER828)では、エポキシ当量は184〜194 g/eq 程度です。一方、固形タイプのエポキシ樹脂になると、当量値は900〜3000 g/eq 前後まで大きくなります。数値の差がそのまま「分子の長さ・柔軟性・架橋密度」の違いに直結します。
つまり重要なのは、エポキシ当量は「この樹脂を何グラム使えばエポキシ基が1mol分になるか」を示した指標だということです。
| エポキシ樹脂の種類 | エポキシ当量の目安(g/eq) | 状態・用途例 |
|---|---|---|
| ビスフェノールA型 液状(例:jER828) | 184〜194 | 床塗装・接着・防錆塗料 |
| ビスフェノールA型 半固形(例:jER1001) | 450〜500 | 粉体塗料・上塗り塗料 |
| ビスフェノールA型 固形(例:jER1007) | 1750〜2200 | 缶内面塗料・電気絶縁 |
エポキシ当量の数値が大きいと架橋密度は低くなり、硬化物は柔軟性が増す反面、強度・耐薬品性は下がります。数値が小さいほど網目が細かく硬い硬化物になります。これが原則です。
参考:エポキシ当量の測定方法はJIS K7236(ISO 3001準拠)で規定されており、過塩素酸酢酸溶液による滴定法が標準です。
JIS K7236:2009 エポキシ樹脂のエポキシ当量の求め方(kikakurui.com)
エポキシ当量の実務的な使い方は、硬化剤との配合重量比を計算することです。ここを間違えると硬化物の品質が確実に劣化します。
計算の基本的な考え方はシンプルです。エポキシ樹脂のエポキシ基(結合の手)と、硬化剤の活性水素(別名アミン当量・活性水素当量)が同数になるように重量を合わせます。この状態を「当量配合」と呼びます。
具体例を挙げます。エポキシ当量190 g/eq の樹脂と、活性水素当量80 g/eq の硬化剤を使う場合、配合重量比は次のようになります。
エポキシ基と活性水素が等モルで反応するため、この比率が理論上の最適値です。当量配合が基本です。
ただし現場でよく目にするのが「phr(per hundred resin)」という表示方法です。これは「標準エポキシ樹脂(エポキシ当量190の液状ビスフェノールA型)100 gに対する硬化剤の配合グラム数」を意味します。たとえば「標準配合量30 phr」なら、標準エポキシ100gに対して硬化剤を30g混ぜろ、という意味です。
問題が起きやすいのは、この標準配合量(phr)を、当量の異なる別の樹脂にそのまま使い回したときです。違いますね。エポキシ当量が470 g/eq の固形タイプの樹脂に、標準エポキシ用の80 phr をそのまま使えば、硬化剤が大幅に過剰になります。正しくは次の計算式で補正が必要です。
補正後の配合量(phr)= 標準配合量 × 標準エポキシの当量(190)÷ 使用エポキシの当量
例:80 phr × 190 ÷ 474 = 約32 phr
この計算を省くと、過剰な感応基がそのまま未反応で残り、塗膜が柔らかくなる・耐蝕性が落ちる・表面がべたつくといったトラブルに直結します。
参考:配合比計算の実践的な解説と当量配合の考え方について詳しく解説されています。
エポキシ当量の数値は、単なるカタログスペックではありません。硬化後の塗膜・接着層・防水層の物理的な強さに直結する設計パラメータです。意外ですね。
エポキシ当量が小さいほど、単位体積あたりのエポキシ基の密度が高くなります。架橋密度が高まり、硬化物は「高強度・高硬度・耐薬品性大」になる代わりに、脆くなる傾向があります。逆にエポキシ当量が大きい(主剤分子が長い)と、網目の間隔が広くなり、硬化物はたわみやすく柔軟になります。
建築の床塗装や防水で使うエポキシ塗料に「適度な可撓性(たわみ性)」が求められる理由はここにあります。エポキシ当量が低すぎる樹脂を使うと、コンクリートの微小な動きに追従できず、塗膜が割れるリスクがあります。
実際の建築塗料では、この問題を解決するために硬化剤側も調整されています。活性水素当量が低い(例:当量15)の低分子アミンで硬化させると脆い塗膜になるため、活性水素当量500前後のポリアミド樹脂が使われるのが一般的です。この組み合わせにより、柔軟性と強度のバランスが取れた塗膜ができます。
この組み合わせを知らずに「エポキシ当量190の標準品でいいだろう」と単純に選ぶと、施工環境や用途によっては期待した耐久性が出ない可能性があります。注意に越したことはありません。
参考:塗料用樹脂の当量配合とポリアミド樹脂の関係について、実験的な検証を交えた詳しい解説があります。
5-5 塗料用樹脂のはなし(2) エポキシ樹脂(モノタロウ)
現場でエポキシ当量を確認するもっとも確実な方法は、使用する樹脂のカタログまたはTDS(テクニカルデータシート)を参照することです。カタログには必ずエポキシ当量(またはWPE)が記載されており、自分で計算しなくても数値を取得できます。これが基本です。
ここで見落としやすいのが、ロット間の微妙な当量のばらつきです。JIS K7236によるエポキシ当量の測定では、室間再現精度(SR)が液状タイプで約1.2、固形タイプで約6〜8という標準偏差が報告されています。製品ロットによって±数十の振れが出ることもあるため、精密な用途では受け入れ検査時に自前でエポキシ当量を滴定確認することも選択肢です。
建築現場で特に注意すべき実務ポイントをまとめます。
冬場の硬化不良は特にリスクが高い問題です。5℃以下では固まらない・3日経っても塗膜が柔らかい・シンナーで希釈した結果さらに乾燥が遅れる、という悪循環が起きやすいです。痛いですね。対策としては、冬季硬化剤への切替、工事時期の調整、温風ヒーターによる雰囲気温度管理が有効です。
参考:冬場の二液形エポキシ樹脂塗料で実際に起きた硬化不良の事例と対処法が詳しく紹介されています。
エポキシ当量の知識は「樹脂を使いこなすための読解力」です。カタログの当量数値を眺めるだけでなく、用途に対して当量値が妥当かどうか判断できると、現場での材料選定の精度が格段に上がります。
建築現場でよく使われるエポキシ系材料を当量の観点から整理すると、大きく3つのゾーンに分けられます。
まず低当量ゾーン(150〜250 g/eq)は液状タイプの代表で、主にプライマー・床仕上げ材・防水材の下地注入に使われます。エポキシ基の密度が高く反応性も高いため、コンクリートへの浸透・接着に優れます。ただし硬化剤との組み合わせを誤ると脆い塗膜になりやすく、特に冬場の低温下での硬化管理が厳しいのが特徴です。
次に中当量ゾーン(400〜700 g/eq)は半固形タイプで、溶剤型塗料や防錆プライマーに多く使われます。適度な柔軟性と耐薬品性のバランスがよく、金属下地の防食塗装や橋梁・鉄骨の防錆系で採用されます。これは使えそうです。
そして高当量ゾーン(1000 g/eq 以上)は固形タイプで、粉体塗料・電着塗料などに使われます。常温では固体のため、建築現場で溶剤なしでそのまま使うことはほぼありません。
見落とされがちな点として、同じ「エポキシ塗料」でも当量が異なれば全くの別物という認識が現場では薄いことがあります。製品が変わったのに「エポキシだから同じ配合でいい」と判断するケースは注意が必要です。
また、エポキシ当量と合わせて参照したい指標としてエポキシ指数(EI)があります。EIはエポキシ樹脂1kgに含まれるエポキシ基の当量数(単位:eq/kg)を表し、EIはエポキシ当量の逆数を1000倍したものです(EI=1000÷EE)。ヨーロッパ向けのデータシートではEIで記載されていることがあり、両方の表記に慣れておくと海外製品を扱う際にも役立ちます。
| 建築用途 | エポキシ当量の目安 | 選定のポイント |
|---|---|---|
| コンクリートひび割れ注入・プライマー | 180〜200 g/eq | 浸透性重視。低粘度品を選ぶ。 |
| 床塗装・トップコート | 180〜230 g/eq | 硬化剤をポリアミド系で柔軟性確保。 |
| 防錆・防食塗料(鉄骨・鋼材) | 450〜600 g/eq | 耐食性と可撓性のバランスを重視。 |
| 粉体塗料(焼付塗装) | 700〜1000 g/eq 以上 | 高温焼付型。溶剤型とは別物と認識。 |
材料を正しく選ぶための知識として、エポキシ当量の数値を単に暗記するより、「なぜその数値が求められているか」を理解する方が実務ではずっと役立ちます。カタログを見る目が変われば、それが品質管理の精度向上につながり、硬化不良による手直しコスト・工期遅延のリスクを大きく下げることができます。
参考:エポキシ樹脂の種類と特性、用途についての基礎知識がコンパクトにまとまっています。
3分でわかる エポキシ樹脂の基礎知識(engineer-education.com)