越流ダムの仕組みと非越流ダムとの構造的な違い

越流ダムの仕組みと非越流ダムとの構造的な違い

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越流ダムの仕組みと構造・設計の基礎知識

フィルダムで越流が起きると、ダムは数時間で崩壊することがあります。


この記事でわかること
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越流ダムと非越流ダムの違い

堤頂から水を越流させる構造のダムと、堤体外に洪水吐きを持つダムの根本的な違いと、それぞれが採用される理由を解説します。

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洪水吐き・クレストゲートの役割と設計基準

常用・非常用洪水吐きの使い分けや、国土交通省が定める設計洪水位・余裕高の数値的根拠を詳しく説明します。

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減勢工と副ダムの施工ポイント

越流水のエネルギーを安全に消散させる減勢工の形式と、現場で見落としやすい負圧・キャビテーション対策について解説します。


越流ダムとは何か:基本定義と非越流ダムとの違い


ダムは堤体材料や構造形式で多様に分類されますが、洪水時の放流方式という観点でも大きく二種類に分けられます。それが「越流ダム」と「非越流ダム」です。


越流ダム(えつりゅうダム)とは、堤頂部から洪水を越流させるように設計・計画されたダムのことです。固定ダムのうち、堤頂にクレストゲートを取り付けたり、ゲートを設けずに自然越流させたりして水を堤体上部から通過させる構造を持ちます。一方、非越流ダムは堤体とは別の場所に洪水吐きを設け、そこから洪水を放出する形式です。つまり、越流ダムかどうかは「堤体の頂部から水を越えさせるかどうか」が判断基準になります。


この二分類は素材との組み合わせで重要な意味を持ちます。コンクリートダム(重力式・アーチ式など)は堤体自体が水流に対して高い耐性を持つため、越流型の洪水吐きを堤体上に設けることが可能です。重力式コンクリートダムの大部分は越流型洪水吐きを採用しています。


フィルダム(ロックフィルダム・アースダムなど)は全く事情が異なります。土や岩石を積み上げた構造のため、堤体に水が乗り越えると急速に侵食・崩壊が進みます。長野県の技術基準にも「フィルダムにあっては万一の堤体からの越流が致命的な破壊を招くから」と明記されており、設計洪水流量をコンクリートダムの1.2倍に設定するという安全係数が課せられています。これが非越流型を選ぶ本質的な理由です。


つまり構造が基本です。越流を「させてよいか否か」がダム形式選定の根幹に関わることを押さえておきましょう。





























項目 越流ダム 非越流ダム
洪水放流方法 堤頂部から越流させる 堤体外の洪水吐きから放流
主な材料 コンクリート(重力式・アーチ式など) 土・岩石(フィルダム・アースダム)
堤体への越流 設計上許容(構造で耐える) 致命的崩壊につながるため原則禁止
設計洪水流量の安全係数 基準値(200年確率洪水) コンクリートダムの1.2倍


参考:越流ダムと非越流ダムの基本的な定義や分類について
越流ダム(えつりゅうだむ)とは – コトバンク(世界大百科事典)


越流ダムの洪水吐き構造:クレストゲートとゲートレス方式の選択

越流ダムにおいて最も重要な設備が「洪水吐き(こうずいばき)」です。洪水吐きは貯水位が上昇したときに余剰水を安全に下流へ流すための施設で、常用洪水吐きと非常用洪水吐きの2種類に分かれます。


常用洪水吐きはコンジットゲートとも呼ばれ、主として洪水調節に使用するものです。ダムの堤体中段付近に設けられた管路やゲートから放流し、通常の洪水規模に対応します。一方、非常用洪水吐きはクレストゲート(堤頂部ゲート)と呼ばれ、100年に1度程度の異常洪水でダムが満水に達しそうな場合に、常用洪水吐きと併用して作動させます。


注目すべきはゲートの「有無」という設計上の選択です。クレストゲートを持つ方式では、操作員が手動または遠隔でゲートを開閉して放流量をコントロールします。一方、「ゲートレス方式(自然越流式)」は人為的なゲート操作を行わず、水位が越流頂標高を超えると自動的に水が溢れ出す仕組みです。ゲートレスダムは管理人員の確保が困難な小規模ダムや農業用ため池に多く採用されており、今後建設されるダムの主流になりつつあります。


ゲートの有無は設計上の非越流部高さにも影響します。河川管理施設等構造令の規定では、洪水吐きゲートを有するダムは設計洪水位+風波高+0.5mを確保する必要があり、ゲートを有しないダムはゲート操作ミスのリスクがない分、基準が若干緩和されています。ただし、フィルダムは種類を問わず一律に1.0mが上乗せされます。これは条件が厳しいですね。


現場で仕様書をチェックする際は、「クレストゲート付きか、ゲートレスか」「コンクリートダムかフィルダムか」の2点を確認すれば、必要な非越流部高さの計算根拠が見えてきます。



  • 常用洪水吐き(コンジットゲート):通常時の洪水調節用。ダム中段に設置され、設計洪水流量の範囲内で操作する。

  • 非常用洪水吐き(クレストゲート):異常洪水時に常用洪水吐きと併用。堤頂部に設置され、設計洪水流量を超えそうな場合に開放する。

  • オリフィスゲート:堤体中段やや下部に設けられた開口部ゲート。少量放流の微調整に使用。下端水深が25mを超えるものは高圧分類でコンジットゲートと呼ぶ。

  • ゲートレス(自然越流式):人的操作不要の越流方式。水位が越流頂を超えると自動放流。管理簡素化ニーズの高まりで今後の主流となる見込み。


参考:ゲートの種類や役割について詳しく解説されています
絵付きダム用語解説集(放流設備・取水設備)– 滋賀県


越流ダムの設計基準:設計洪水位・余裕高・越流部幅の考え方

越流ダムを設計・施工する上でもっとも重要な数値の一つが「設計洪水位(DWL:Design Water Level)」と「余裕高」です。この二つを正しく理解していないと、堤体高さの計算や洪水吐き幅の設計で重大なミスにつながります。


設計洪水位とは、ダム設計洪水流量(200年に1回程度の洪水流量を基準とする)の流水がダムの洪水吐きを定常流として流下するときの、貯水池の最高水位のことです。現場では「DWL」と略されることが多く、図面上にも明記されます。常時満水位(FWL)やサーチャージ水位(SWL)よりも高い位置にあり、ダム設計上の極限状態を表します。


結論は設計洪水位が基準です。余裕高はこの設計洪水位に上乗せする安全マージンで、風波・地震波浪などを考慮して決まります。コンクリートダムでゲートあり・標準条件の場合、最低でも設計洪水位+1.0m程度の余裕が必要とされています。フィルダムはこれに1.0mが追加されるため、最低でも設計洪水位+2.0m以上が求められます。東京ドームのグラウンドからスタンドの高さが約40mですから、この2mの差は見た目以上に重要な意味を持ちます。


越流部の幅(越流頂幅)についても設計基準があります。流入水路の越流頂以下の水深Wと設計越流水深hの比は「W/h ≧ 1/5」とすることが原則とされています。これを満たさないと流量係数が低下し、越流部が放流能力を十分に発揮できなくなります。また接近流速は毎秒4m以下に抑えることも求められます。接近流速が速すぎると越流頂断面で水面が不安定になり、さらに負圧を生じさせてキャビテーションのリスクが高まるためです。


越流面(コンクリート面)に発生するキャビテーションの許容負圧は-0.029N/mm²程度とされており、これを超えると堤体表面が剥離・損傷します。現場での品質管理においても、越流面のコンクリート表面の平滑性は特に重視すべき項目です。微小な凹凸でも局所的な負圧が発生しやすくなります。







































設計上の基準値 条件 規定値
設計洪水流量 コンクリートダム 200年確率洪水流量
設計洪水流量 フィルダム コンクリートダムの1.2倍
非越流部高さへの加算 フィルダム(全形式) コンクリートダム基準値+1.0m
接近流速 越流式洪水吐き流入部 V ≦ 4m/s
キャビテーション許容負圧 越流面コンクリート -0.029 N/mm²程度
構造物とのクリアランス 越流部橋・巻上機の下端 設計洪水位の越流水面から1.5m以上(越流水深2.5m以下の場合は1.0m以上)


参考:国土交通省が定めるダム設計基準の詳細が確認できます
第2章 ダムの設計(河川砂防技術基準 設計編)– 国土交通省


越流ダムの減勢工と副ダム:施工現場で見落としやすいポイント

越流ダムの放流水は高さのある落差から流れ落ちるため、そのまま下流の河床や堤体基礎に当たると深刻な洗掘(せんくつ)を引き起こします。これを防ぐのが減勢工(げんせいこう)と副ダムの役割です。


減勢工には主に「跳水式(水平水叩き式)」「スキージャンプ式」「自由落下式」の3形式があります。それぞれ地形・地質条件や下流の水位・河川状況によって使い分けられます。


跳水式減勢工は、導流部からの高速流が副ダムによって堰き上げられた静水の中に入り、跳水(水が突然浅くなる現象)によってエネルギーを消散させる方式です。副ダム付き水平水叩き式とも呼ばれ、現代のコンクリートダムで最も一般的な形式です。設計上のポイントは「水叩き上で安定した跳水を形成させること」であり、そのために水叩きは導流部と等幅の長方形断面水路を原則とし、水平湾曲を避けることが求められています。


スキージャンプ式減勢工は、導流部末端を上向きに反らせ、放流水を空中に放出して遠方に落下させる方式です。スキーのジャンプ台に形が似ていることからこう呼ばれています。落下点の下流河床が自然に洗掘されてできる「ウォータークッション」が水のエネルギーを吸収します。設計の原則は「水脈の落下点をダム堤体からできるだけ遠ざけ、水脈を広範囲に拡散させること」です。この形式は下流に一定範囲の未開発地帯がある場合に適しており、自由落下式はアーチ式ダムで用いられることが多いです。


副ダムは減勢工の下流に設けられる小規模なダムです。減勢池の水深を確保して跳水を安定させる役割を持ちます。堤高15m以上になると単独のダムとして登録・活用される場合もあります。これは使えそうです。


施工現場での見落としとして注意が必要なのは、副ダム越流水のエネルギーです。副ダムを越えた水も依然として高いエネルギーを持っており、副ダム下流の河床洗掘が進みやすい箇所です。水叩き末端から副ダムまでの距離と副ダム下流の護床工の設計を確認しておくことが重要です。


また、減勢工導流壁からの越流や減勢工での流況の悪化がフィルダムの堤体の安全に影響を及ぼすケースもあります。フィルダム近傍に減勢工を設ける際は、導流壁の高さ・方向性にも十分な確認が必要です。



  • 🔵 跳水式(水平水叩き式):副ダムで堰上げた水に放流水を突入させてエネルギーを消散。現代ダムで最も多い形式。水叩きは等幅直線が原則。

  • 🔵 スキージャンプ式:放流水を空中に放出し、遠方の河床に落下させる。落下点がダム堤体から十分遠く、拡散が広範囲になるよう設計する。

  • 🔵 自由落下式:アーチダムで多用。越流幅を広くとり、単位幅当たりの放流量を小さくすることで動水圧を軽減する。

  • 🔵 副ダム:減勢工下流に設置。跳水を安定させるために必要な水深を確保する役割を持つ。堤高30m超になる大型副ダムも存在する。


参考:減勢に係る基本的事項と各形式の詳細が記載されています
流水の減勢(1)減勢に係わる基本的事項 – ダム工学会


越流ダムの施工管理で知っておくべき独自視点:越流部コンクリートの品質と長寿命化

一般的なダム施工の解説では設計・構造に焦点が当たりがちですが、建築業従事者として現場を動かす立場で特に意識すべきなのが「越流部コンクリートの品質管理と長寿命化」です。これは検索上位の記事にはほとんど書かれていない現場視点の話です。


越流部(洪水吐き越流頂〜導流部)のコンクリートは、洪水時に高速・高圧の水流にさらされます。その過程で生じやすいのが「キャビテーション損傷」と「摩耗損傷」の2種類です。キャビテーション損傷は先述の通り、負圧によって気泡が発生・崩壊してコンクリート表面をえぐる現象です。摩耗損傷は土砂や砂礫を含んだ流水が越流面を繰り返し削っていく現象です。どちらもコンクリートの表面品質が対策の第一線になります。


施工時に押さえておくべきポイントが3つあります。第一に「越流面の平滑仕上げ精度」です。微細な凹凸・型枠継ぎ目の段差・打継ぎ目のはらみが局所的な負圧を生みます。型枠設計の段階から越流面の平滑性を意識した計画が必要です。第二に「コンクリート配合の選定」です。耐摩耗性を高めるために、越流面には水セメント比を下げた高強度配合を採用するケースが多く、設計図書に「越流面コンクリート f'c=30N/mm²以上」などと別途規定されることがあります。見落とさないことが条件です。第三に「補修タイミングの見極め」です。既設ダムの越流部では、数十年の供用を経て表面剥離・摩耗が進行しているものが多くあります。国土交通省の「ダム用ゲート設備等点検・整備・更新マニュアル」では、定期的なキャビテーション損傷調査が推奨されています。


近年は老朽化したダムの放流設備増強工事(リニューアル)が増加傾向にあります。既設の越流型洪水吐きの越流幅を拡大したり、ゲートを増設したりする改修工事では、既設コンクリートとの打継ぎ処理が特に重要です。打継ぎ面の清掃・レイタンス除去・接着剤塗布の施工順序と養生管理を誤ると、越流水の浸透ルートになりかねません。


また、越流部の改修設計においては、越流頂の断面形状を変更することで放流能力を向上させられる場合があります。従来の「台形越流頂」から「標準越流頂(USBR型)」に変更するだけで流量係数が改善し、必要な越流幅を短縮できた事例も報告されています。工事費低減と治水安全度向上が同時に実現できる設計変更の一例です。


越流ダム関連の改修・補修工事に携わる際は、農林水産省が公表している「農業用ダム機能診断マニュアル(取水放流設備編)」を参照することで、点検・診断・修繕判断の根拠を体系的に確認できます。


参考:農業用ダムの機能診断・維持管理の基準が詳しく記載されています
農業用ダム機能診断マニュアル(取水放流設備編)– 農林水産省




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