
下水道法における特定施設とは、人の健康を害するおそれのあるものや生活環境に害をもたらすおそれのある物質を含んだ水を排出する施設として、法令によって特別に指定された施設のことです。この特定施設は大きく分けて2種類あり、水質汚濁防止法に規定する特定施設と、ダイオキシン類対策特別措置法に規定する水質基準対象施設が該当します。
参考)特定施設
水質汚濁防止法に基づく特定施設は全74種類あり、鉱業や畜産業から製造業、飲食店、病院、洗濯業まで幅広い業種の施設が指定されています。具体的には、畜産食料品製造業の原料処理施設や洗浄施設、飲料製造業の湯煮施設、金属製品製造業の焼入れ施設、飲食店のちゅう房施設(総床面積420平方メートル以上)、病院の入浴施設(病床数300以上)などが含まれます。建築業に直接関係する施設としては、セメント製品製造業の水養生施設や生コンクリート製造業のバッチャープラント、砕石業の水洗式破砕施設などが該当します。
参考)https://www.water-kawaguchi.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/001/597/tokutei_itiran_72021714.pdf
ダイオキシン類対策特別措置法に基づく特定施設は19種類で、廃棄物焼却炉から発生するガスを処理する廃ガス洗浄施設や湿式集じん施設、下水道終末処理施設などが指定されています。これらの施設を設置する工場や事業場は特定事業場と呼ばれ、実際に下水道への排出がない場合でも届出の義務や水質規制の対象となります。
参考)特定施設と除害施設の届出について/橿原市公式ホームページ
特定施設を設置する場合、工事着手の60日前までに届出を提出する必要があります。この60日間は下水道法において、特定施設の設置や構造等変更に関する届出の受理から実際の工事開始までの審査期間として定められており、この期間中は工事に着手することができません。
参考)https://www.city.osaka.lg.jp/kensetsu/cmsfiles/contents/0000007/7329/r6gesuinotebiki.pdf
届出に必要な書類は、特定施設設置届出書(様式第六)を正本2部、副本1部の計3部提出するのが一般的です。届出書には、事業場の名所・所在地、特定施設の種類・数量、使用する原料や製品の種類と量、排水処理施設の概要などを記載します。また、工場・事業場の平面図、特定施設や除害施設の概要図などの添付書類も必要です。
参考)特定施設を設置される事業場のみなさまへ/守口市ホームページ
特定施設の構造や規模を変更する場合も、変更工事着手の60日前までに「特定施設の構造等変更届出書(様式第八)」の提出が必要です。その他、氏名や住所の変更時には「氏名変更等届出書(様式第十)」、施設を廃止する際には「特定施設廃止届出書(様式第十一)」、事業承継時には「承継届出書(様式第十二)」の提出が求められます。届出を怠ると処罰の対象となるため、建築業においても現場で該当施設を扱う際には十分な注意が必要です。
特定施設と除害施設は異なる概念です。特定施設が汚水を排出する可能性のある施設を指すのに対し、除害施設は排出される汚水や廃液を処理して下水道の排除基準を守るための処理施設を指します。
参考)特定施設・除害施設 - 上下水道 - 高崎市公式ホームページ
除害施設の設置は、特定事業場であるか否かに関わらず、事業場から排出される排水が下水道排除基準を超過する場合に必要となります。下水道排除基準には健康項目(カドミウム、シアン、有機燐化合物、鉛、六価クロムなど26項目の有害物質)と生活環境項目(pH、BOD、SS、ノルマルヘキサン抽出物質など)があり、これらの基準値を超える排水を流すことは禁止されています。
参考)特定施設、除害施設等の届出に関する書類/門真市
建築現場においても、生コンクリートプラントや水洗式破砕施設を使用する場合、排水中のpH値が高くなる傾向があるため、中和槽などの除害施設の設置が必要になることがあります。除害施設を設置した場合は、「除害施設等維持管理報告書」の提出が求められ、適切な維持管理が義務付けられます。基準違反に対しては改善命令や排水停止命令が発令され、下水道法や各自治体の下水道条例により処罰されることもあります。
除害施設の設置基準は各自治体の下水道条例で定められており、処理能力や構造について具体的な要件が示されています。建築業者は工事計画段階から排水処理計画を立て、必要に応じて除害施設を設置する必要があります。
参考)工場や事業場の水質規制|大阪府八尾市公式ホームページ
下水道法の規定に違反した場合、厳格な罰則が適用されます。届出義務違反や基準違反に対しては、6月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金が科せられ、過失による違反の場合でも3月以下の拘禁刑または20万円以下の罰金が課されます。
参考)神戸市:工場・事業場への指導
下水道管理者は、排水基準に違反した特定事業場に対して改善命令や特定施設の使用停止命令、下水の排除停止命令を発令する権限を持っています。改善命令が出された場合、事業者は指定された期限内に排水処理設備の改善や除害施設の設置を行わなければなりません。命令に従わない場合は、さらに重い罰則が適用される可能性があります。
有害物質を含む排水を下水道に排出したことによる事故が発生した場合、応急の措置が義務付けられており、この措置命令に違反した場合も罰則が適用されます。事故発生時にはまず電話で第一報を入れることが重要で、各自治体の下水道管理部署に速やかに連絡する必要があります。
参考)https://www.town.satosho.okayama.jp/uploaded/attachment/2178.pdf
建築現場では、特定施設に該当する設備を使用する際、事前の届出を確実に行うとともに、排水基準を遵守するための管理体制を整えることが不可欠です。違反による罰則だけでなく、工事の中断や企業の信用失墜につながる可能性もあるため、法令遵守は経営上のリスク管理としても重要です。
下水道法に関する詳細な基準や届出様式は各自治体の下水道局ウェブサイトで確認できます。
建築業において特定施設に該当する可能性が高いのは、生コンクリート製造業のバッチャープラント、セメント製品製造業の水養生施設や成型機、砕石業や砂利採取業の水洗式破砕施設・水洗式分別施設です。現場で仮設のコンクリートプラントを設置する場合や、砕石・砂利の洗浄工程を伴う場合は、特定施設に該当するため届出が必須となります。
実務対応として重要なのは、工事計画段階での確認です。設計段階で使用する設備が特定施設に該当するかを確認し、該当する場合は工事着手の60日以上前に届出を行う必要があります。届出の遅れは工事スケジュールの遅延につながるため、早期の確認と手続きが求められます。
参考)下水道法に基づく特定施設の届出等について|宝塚市公式ホームペ…
排水処理についても、建築現場特有の注意点があります。コンクリートを扱う現場では、洗浄水のpH値が高くなりやすく、そのまま下水道に流すと基準違反となります。そのため、中和処理を行う除害施設の設置や、適切な排水処理計画の立案が必要です。小規模な現場でも、排水基準を超える可能性がある場合は除害施設の設置義務があることを認識しておく必要があります。
💡 実務のポイント
各自治体によって届出様式や細かい運用が異なる場合があるため、工事を行う地域の下水道管理部署に事前相談することも有効です。特に大規模プロジェクトや複数の特定施設を設置する場合は、早めに自治体との協議を行い、適切な排水処理計画を立てることが工事の円滑な進行につながります。
水質汚濁防止法と下水道法の関係について詳しく知りたい方は、環境省の関連資料も参考になります。