

建築の加工で「糸のこ」と言うと、手工具の糸のこ(フレームに細い刃を張るタイプ)と、卓上の糸のこ盤(上下運動する刃に材料を当てるタイプ)の両方が混在します。どちらも“曲線や中抜きが得意”という同じ強みを持ちますが、実務では「材料に合う刃を選べるか」が結果を決めます。糸のこ刃は大別すると木工用・金工用・プラスチック用の3系統で、材料に合わせて刃を替えるのが前提です。
まず木工用は、比較的刃の目(山)が粗めで切粉の逃げが良く、厚みのある材でも進みやすい設計です。金属用(薄金属向け)は刃の目が細かく、特にアルミや真鍮などの薄板を安定して切るために高い山数(細目)が使われます。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/938357acc9697253a07d0f88e15de8a39564b534
プラスチック用は一見すると金属用寄りの目立ちですが、材料が溶けやすい・欠けやすいなど癖があるため、回転数(ストローク)や送りの力も含めて“刃×条件”で決まります(刃だけ良くても焼け・溶けで失敗します)。
参考)新しい塗料
現場で起きがちな失敗は「何でも木工用でいけるだろう」と刃を固定してしまうことです。例えば、樹脂や薄い金属に木工用(粗目)を当てると、噛み込みやバリ、欠けが増えたり、材料が跳ねて寸法が暴れたりします。逆に木材に金属用(細目)を当てると、切粉が詰まりやすく、進まない→押す→焼ける、の流れになりやすいので注意が必要です。jstage.jst+1
糸のこ刃の「山数(刃数)」は、切断面の美しさと切断スピードのトレードオフを支配します。山数が多いほど切断面はきれいになりやすい一方、スピードは落ち、目詰まり・発熱にも注意が必要です。
逆に山数が少ない(粗目)ほど切粉の排出が良く、厚材を速く切れますが、切断面は粗くなりやすく、後工程(ヤスリ・サンド・仕上げ)込みの工数で考える必要があります。
目安として、25.4mmあたりの刃数(山数)とピッチで区分する考え方があり、荒目(例:16山)は木材向き、中目(例:20山)はプラスチック向き、細目(例:40山)は銅・真鍮向き、極細目(例:60山)は貴金属向き、のように整理されます。
建築従事者の実務で役に立つのは「仕上げ面に何を要求するか」を山数に紐づけて考えることです。たとえば、造作材の見付け面で後工程が少ないほど良い場合は、最初から細かめの刃で“削る工程を減らす”ほうが総合的に速いことがあります。逆に下地材・捨て加工なら粗目で速度を優先し、後工程を割り切るほうが合理的です。
さらに、山数だけでなく刃の「幅」「厚み」も効きます。幅が広い刃は直線寄りの安定性が上がる反面、急カーブは苦手になりやすく、幅が狭い刃は曲線に強い代わりに厚材や硬材でよれやすくなります。jstage.jst+1
“線を追う”作業は、刃の種類を変えると別物になります。線が膨らむ、勝手に走る、という症状は手元の技量だけでなく、刃の山数・幅・厚みの組み合わせが原因のことが多いので、まずは刃を疑うのが近道です。
糸のこ刃の“見落とされがちな差”が、アサリと返し刃です。アサリは刃先が左右交互に外へ振られ、刃厚より広い切り溝を作って摩擦を減らす構造で、硬い材や厚い材を切りやすくする方向に働きます。
ただしアサリがあると切り口が粗くなりやすく、バリやケバ立ちが増える要因にもなります。仕上げ工程(研磨・面取り)が前提の加工なら有利ですが、見付け面をきれいに出したい場合は逆効果になることがあります。
一方、アサリ無しは切断面をきれいにしやすい反面、摩擦が増えやすく、厚板で垂直が出にくい・焼けやすいなどの癖が出ます。押し付けで誤魔化そうとすると、焼け・刃の破断・寸法狂いの原因になるため、「送りを軽くして刃を働かせる」方向で調整します。jstage.jst+1
返し刃(リバースティース)は一部の刃が逆向きで、バリを抑えて切断面を改善する狙いがありますが、主に木工用で見られ、金属や樹脂用では基本的に使われないとされています。
意外に重要なのが、返し刃を“材料と用途を無視して流用しない”ことです。返し刃付きで金属や樹脂を切ると跳ね上がりが強くなり、刃が折れて怪我や材料破損につながるリスクがある、という注意点が指摘されています。
建築の現場では「何でも一枚で済ませたい」誘惑が強いですが、糸のこは刃の単価が比較的低いぶん、種類を揃えて交換するほうが安全・品質・時間のどれも得になるケースが多いです。off+1
刃の取り付け形状は、現場での段取り時間を左右します。代表例として、ストレートエンド(ピン無し)はネジで締め付けて固定し、窓抜き(中抜き)では挽き穴が小さくて済むため、細工や精度を求める作業で有利です。
ピンエンド(ピン付き)はピンを引っ掛けて固定する方式で、固定が確実で緩みにくい特徴があり、木工向きとして紹介されることがあります。
ここは“向き不向き”というより「使っている機械・フレームがどちらに対応しているか」が先に来るので、購入前に必ず対応形状を確認してください(買ってから付かないのが一番痛い)。
また、電動の糸のこ盤自体にも種類があり、構造差で振動・騒音・刃への負担が変わります。代表的にはバネ式、カム式(パラレルアーム)、カム式(パラレルリンク)の3種類が紹介され、バネ式はテンションが不安定で刃が折れやすい傾向、カム式系は振動や騒音が少なく刃の負担が減る、と整理されています。
造作・内装の“細かい曲線”を長時間回すなら、振動の少なさは仕上げ精度だけでなく疲労にも直結します。導入検討では本体価格だけでなく、刃の寿命・やり直し工数まで含めて比較すると判断しやすいです。
実務の小技として、刃交換が多い運用(材料が頻繁に変わる、窓抜きが多い)では、テーブル下の交換作業がストレスになります。機種によっては長めのレンチやボールポイントドライバーがあると交換が楽になる、という指摘もあるため、段取り改善として覚えておくと便利です。
検索上位の多くは「木工/金属/プラスチック」や「山数の選び方」で止まりますが、建築従事者の現場では、材料より先に“工程(下地か仕上げか)”が支配する場面が多いはずです。そこで独自視点として、刃の種類を「工程の要求品質」で運用する考え方を提案します。例えば、下地や捨て加工は“速さ優先”で粗目+多少のバリは許容、仕上げ材や見付け面は“後工程を減らす優先”で細目寄り+バリ抑制を狙う、といった整理です。
次に、作業量で“手動と糸のこ盤”を割り切るのが段取り短縮になります。手動糸のこはサッと出して局所加工に強い一方、糸のこ盤は材料側を動かして切るため身体的負担が減り、曲線カットを多くこなす必要があるなら導入が推奨される、という整理がされています。
参考)糸のこ盤のメリットデメリットを解説
つまり「数が少ない特殊形状」は手動で、同形状が連続する・曲線が多いなら糸のこ盤で治具化、というのが現場では効きやすい戦略です。dendokogu-kan+1
最後に、意外と効くのが“刃の消耗を前提にした在庫設計”です。糸のこは材料との相性が悪い刃だと極端に切れなくなるため、現場に「木工(粗〜細)」「金工(薄板用)」「プラスチック」の最低3系統を置き、さらに“よく使う山数を2種類”に絞って回すと、迷いが減って結果的に事故も減ります。
刃の種類が多すぎると逆に混乱しますが、少なすぎると無理な加工が増えて危険になります。建築の現場は“万能一本”が負けやすい領域なので、用途で最低限の種類を揃えるのが堅実です。off+1
切断トラブル(焼け・折れ・バリ)の予防として、回転数(ストローク)もセットで覚えておくと再現性が上がります。例えば、曲線カットで1000〜1300回転が理想的とされ、高速すぎると焼けやラインの膨らみ、低すぎると引っ掛かりや切断面悪化につながる、という説明があります。
刃の種類を変えても症状が残る場合は、回転数と送り(押し付け)を疑うのが次の一手です。
糸のこ刃の山数・ピッチや種類の基礎(表・用語の整理)
参考リンク(山数・ピッチ、アサリ/返し刃、取付形状の解説)
https://diytools1.com/2019/05/21/post-21286/
糸のこ盤の種類(バネ式/カム式)と振動・静音性の違い、使い方と注意点
参考リンク(糸のこ盤の3方式の比較表、使い方・注意点)
https://dendokogu-kan.com/cut/itnb/