

次亜塩素酸カルシウムは、一般的に「さらし粉」や「カルキ」とも呼ばれ、その化学式は Ca(ClO)₂ と表されます 。純粋なものは無色の粉末ですが、市販されている製品は、製造過程に由来する水酸化カルシウム Ca(OH)₂ などを不純物として含むため、白色から灰白色の固体(粉末や顆粒状)をしています 。
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この物質の最も重要な性質の一つは、強力な酸化作用を持つことです。この酸化力が、細菌の細胞膜やウイルスを破壊する殺菌・消毒作用の源となっています 。水に溶けると、次亜塩素酸(HClO)と次亜塩素酸イオン(ClO⁻)を生成し、この次亜塩素酸が特に強い殺菌力を発揮します。
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性質を理解する上で欠かせないのが、その不安定さです。次亜塩素酸カルシウムは熱に対して非常に敏感で、常温では比較的安定していますが、150℃以上に加熱されると急激に分解し、酸素を放出して爆発的に反応することがあります 。また、光(特に紫外線)や湿気によっても徐々に分解が進行します。
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最も注意すべき反応は、酸との接触です。塩酸などの強酸と反応すると、極めて有毒な塩素ガス(Cl₂)を発生させます 。化学反応式は以下の通りです。
[1]Ca(ClO)₂ + 4HCl → CaCl₂ + 2H₂O + 2Cl₂
この反応は非常に危険であり、建設現場などで酸性の洗浄剤と絶対に混ざらないように管理しなければなりません。誤って吸入すると、呼吸器系に深刻なダメージを与え、命に関わる危険があります 。
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さらに、有機物やアンモニア化合物、金属粉などとも激しく反応し、火災や爆発を引き起こす可能性があるため、保管や取り扱いには細心の注意が必要です 。
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こちらの資料では、化学物質としての基本情報がまとめられています。
職場のあんぜんサイト:次亜塩素酸カルシウム
次亜塩素酸カルシウムは、その強力な効果の裏返しとして、多くの危険性をはらんでいます。建設現場のように、様々な物質や機材が混在する環境では、特に厳重な安全管理が求められます。主な危険性と、遵守すべき取り扱い方法を具体的に解説します。
主な危険性 ☠️
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建設現場での安全な取り扱い方法 👷
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厚生労働省が公開しているGHS対応モデルラベルには、危険有害性情報や安全対策が具体的に示されており、取り扱い前の必読資料です。
GHS対応モデルラベル:次亜塩素酸カルシウム
次亜塩素酸カルシウムの最も広く知られた用途は、その強力な殺菌・消毒能力を活かしたものです。プールや公衆浴場の水質管理、水道水の消毒、食品工場の衛生管理など、様々な場面で微生物の繁殖を防ぐために使用されています 。細菌、ウイルス、真菌(カビ)など、広範囲の微生物に対して高い効果を発揮するのが特徴です 。
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一見、建築業界とは縁遠いように思えるかもしれませんが、その特性を理解することで、建設現場の衛生管理や品質管理において、意外な形で有効活用することが可能です。
✨ 建築分野での具体的な活用アイデア ✨
これらの用途は、医療や食品分野での活用事例からヒントを得たものです 。ただし、建築資材への影響も考慮する必要があるため、使用する際は対象物の材質を確認し、低濃度から試すなどの注意が不可欠です。
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消毒剤としてよく比較されるのが、「次亜塩素酸ナトリウム(NaClO)」です。家庭用の塩素系漂白剤の主成分としても知られ、液体で供給されることが一般的です。名前は似ていますが、性質や取り扱い方法、適した用途が異なります。現場の状況に応じて適切に使い分けるために、その違いを正確に理解しておくことが重要です。
以下に、両者の主な違いをまとめました。
| 項目 | 次亜塩素酸カルシウム | 次亜塩素酸ナトリウム |
|---|---|---|
| 化学式 | Ca(ClO)₂ | NaClO |
| 形状 | 固体(白色の粉末・顆粒) | 液体(淡黄色の水溶液) |
| 安定性 | 比較的安定しており、長期保管に向いている。 | 不安定で、紫外線や熱で分解しやすい。長期保管には不向き 。 |
| pH | 水に溶かすと弱アルカリ性を示す。 | 強アルカリ性を示す。皮膚への刺激がより強い。 |
| 取り扱い | 固体の計量が必要。粉じんの吸入に注意が必要。 | 液体のため希釈が容易で、ポンプでの自動注入などに適している 。 |
| 溶解性 | 水に溶けるが、不純物(水酸化カルシウム等)が沈殿することがある。 | 水に完全に溶解する。 |
| 主な用途 | プールのショック処理、粉末のまま使用する場面、長期備蓄用。 | 水道水の消毒、食品工場のライン洗浄、家庭用漂白剤 。 |
使い分けのポイント
長期間の備蓄や、電源がない場所での使用、粉末のまま散布したい場合などは、安定性の高い次亜塩素酸カルシウムが有利です。一方、水道水のように連続的に一定濃度で注入する場合や、正確な濃度管理が求められる場面では、希釈が容易な次亜塩素酸ナトリウムの方が管理しやすいと言えるでしょう 。
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次亜塩素酸カルシウムは便利な消毒剤ですが、建築材料であるコンクリートや金属に対して、長期的には劣化を促進する要因となり得るため、その影響を理解しておくことは極めて重要です。特に、構造物の耐久性に関わる部分への使用には注意が必要です。
金属への影響:腐食の促進
次亜塩素酸カルシウムは強力な酸化剤であり、金属の酸化、すなわち腐食(サビ)を著しく促進します。鉄、アルミニウム、ステンレス鋼でさえも、高濃度の次亜塩素酸塩に長期間さらされると腐食する可能性があります 。
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コンクリートへの影響:塩素イオンの浸透
コンクリート自体は強アルカリ性のため、ある程度の耐薬品性を持っています。しかし、次亜塩素酸カルシウムに含まれる「塩素イオン(Cl⁻)」が、長期的にはコンクリート構造にとって大きな脅威となります。
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したがって、構造体コンクリートに次亜塩素酸カルシウムを直接、繰り返し使用することは、構造物の寿命を縮めるリスクを伴います。特に、塩害が問題となる沿岸部の構造物と同様の劣化メカニズムを促進してしまうため、使用は表面的なカビ取りなどに限定し、構造体内部に浸透しないように注意深く適用する必要があります。
コンクリート中の鉄筋腐食における塩素イオンの影響については、専門的な研究報告で詳しく解説されています。
コンクリート構造物における鉄筋腐食と塩害に関する研究

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