地盤液状化対策の効果的手法と建築実用ガイド

地盤液状化対策の効果的手法と建築実用ガイド

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地盤液状化対策

地盤液状化対策の全体像
🔧
締固め工法

サンドコンパクション工法による地盤密度向上

排水工法

グラベルドレーンによる過剰間隙水圧の消散

🧱
固結工法

格子状改良による地盤のせん断変形抑制

地盤液状化対策の基本原理と工法選択

液状化現象は、飽和した緩い砂地盤が非排水状態で地震動を受け、負のダイレタンシーにより過剰間隙水圧が上昇することで発生します。この現象を防ぐためには、以下の5つの発生要因のうち少なくとも1つを取り除く必要があります:
📊 液状化発生の5要因

  • ① 緩い砂地盤
  • ② 飽和状態
  • ③ 砂地盤(粒状体)
  • ④ 非排水状態
  • ⑤ 繰り返しせん断力の作用

これらの要因に対応する主要な対策工法は、締固め工法固結工法排水工法の3つに分類され、日本の液状化対策工事では締固め工法が最も多く採用されています。
締固め工法(密度増大)
振動や圧入により砂粒子間の間隙を小さくし、密な地盤を形成。サンドコンパクションパイル工法が代表的で、全体の工事件数と改良体積において最大の割合を占めています。

 

固結工法(せん断変形抑制)
セメント系固化材により地盤を固化改良。格子状深層混合処理工法(TOFT工法)では、地盤を格子状に改良することでせん断変形を抑止し、過剰間隙水圧の発生を抑制します。

 

排水工法(間隙水圧消散)
高透水性のドレーン材を設置し、地震時の過剰間隙水圧上昇を抑制。グラベルドレーン工法が代表例で、砕石による柱状体を一定間隔で造成します。

地盤液状化対策における新築建築物の工法詳細

新築建築物の液状化対策では、建物規模と地盤条件に応じて最適な工法を選択することが重要です。小規模建築物では、コストパフォーマンスを重視した表層改良から支持力確保を目的とした杭工法まで幅広い選択肢があります。

 

🏗️ 浅層混合処理工法(表層地盤改良)
基礎スラブまたは基礎フーチング直下2m以浅の地盤にセメント系固化材を混合し、支持力の増加と沈下量の低減を図ります。地下水位より下の液状化層を3m程度盤状に固化することで、不動沈下の抑制効果も期待できます。施工深度が浅く、比較的安価で実施可能な工法です。
🔩 深層混合処理工法(柱状地盤改良)
水で溶いたセメント系固化材を地上で撹拌し、地盤に柱状の構造体を築造します。軟弱地盤に効果的で、深い地層の改良が必要な場合に適用されます。建物の沈下や傾きを防ぎ、長期的な安定性を確保できます。
⚙️ 小口径杭工法
固い地盤まで杭(RC杭・鋼管杭)を打ち込み、建物の沈下を低減させる工法です。液状化層を貫通して非液状化層まで到達させることで、建物の支持力を確保します。新築だけでなく、既存建物にも適用可能な柔軟性があります。
CDP工法(コンパクションドライブパイル)
地盤に貫入したケーシング(パイプ)から砕石を投入し、土へ押し込むことで締め固める工法です。砂地盤の密度を向上させ、液状化抵抗を高めることができます。

地盤液状化対策における既存建築物の対応技術

既存建築物の液状化対策は、建物を解体せずに居ながら施工できる技術の発達により、実現可能性が大幅に向上しています。特に都市部の密集地や稼働中の施設では、これらの技術が重要な役割を果たしています。

 

🎯 圧入締固め工法
建物直下の地盤に層状にモルタルを圧入し、地盤を圧縮して密度を高める方法です。短期間での実施が可能で、建物の運用を停止することなく対策を講じることができます。既存建物の荷重による応力状態を考慮した設計により、効果的な改良が期待できます。
💧 薬液注入工法
基礎下へグラウトや薬液等を注入し、支持力の増加と沈下量の低減を図る工法です。大規模な建物に適しており、建物の沈下を軽減できます。地盤内の水分量を減らしつつ、土粒子の動きを制限することで液状化の危険性を大幅に低下させます。
🔄 三次元ボーリング技術
建物から離れた場所に機械を配置し、目的の建物の下の地盤を強化する革新的な技術です。地中の障害物を避けながら何度でも曲がりながら建物の下まで掘り進められる「三次元ボーリング」により、稼働中の工場や運営中の建物を停止することなく「居ながら施工」が可能です。
⚡ 制振アンダーピニング工法
建物を建てた後でも、支持層まで杭を打ちこむことで地盤の負荷を下げて液状化現象を抑制できる工法です。ジャッキアップ技術と組み合わせることで、既に傾いた建物の修正も同時に行えます。

地盤液状化対策における地下水位制御と排水システム

地下水位の制御は、液状化対策の中でも即効性が高く、近年採用事例が増えている工法です。千葉市美浜地区や大阪・神戸地域など、実際の都市部での適用実績も豊富で、行政主導の大規模対策としても注目されています。
🌊 地下水位低下工法の原理
液状化は地下水で飽和された砂地盤で発生するため、地下水位を人工的に低下させることで液状化層の飽和度を下げ、液状化の発生を根本的に防ぐ手法です。井戸を掘削してポンプにより地下水をくみ上げることで、非液状化層厚H1を増加させ、液状化被害の可能性を軽減します。
⚙️ 恒久的排水システムの構築
地下水位低下工法では、継続的な排水が必要となるため、信頼性の高いポンプシステムと維持管理体制の構築が重要です。大阪・神戸地域では、表層より沖積砂層が緩く堆積し、地下水位も高いため、地震時の液状化リスクが高い地域での実証実績があります。
🔧 グラベルドレーン工法との併用効果
地下水位低下工法と併せて、グラベルドレーン工法を適用することで、より確実な液状化対策が実現できます。高透水性のドレーン材により地震時の過剰間隙水圧の上昇を抑制し、地下水位制御との相乗効果で安定した地盤状態を維持します。
⚠️ 課題と対策
地下水位低下工法の主な課題は、水を抜いた際の地盤沈下の発生とポンプの維持管理費です。対策として、段階的な地下水位低下や地盤変位モニタリングシステムの導入、効率的なポンプシステムの採用により、これらのリスクを最小化する必要があります。
千葉市美浜地区における液状化抑止対策では、効果的な地下水位低下による実証事例が報告されており、都市部での実用性が確認されています。

地盤液状化対策における革新的技術とバイオエンジニアリング

近年、環境負荷の低減と持続可能性を重視した液状化対策技術が注目を集めています。従来の化学的固化材に代わるバイオテクノロジーの活用や、部分飽和技術など、次世代の対策工法が実用段階に入っています。

 

🦠 微生物による地盤改良(MICP工法)
微生物誘導炭酸カルシウム沈殿(MICP:Microbial Induced Calcite Precipitation)技術は、微生物の代謝活動を利用して地盤中に炭酸カルシウムを析出させ、土粒子を結合させる革新的な手法です。この工法は環境に優しく、従来のセメント系固化材と比較して環境負荷が大幅に削減されます。
インドネシアYIAでの実証実験では、0.5m×0.5mの試験槽で30日間の処理により、砂地盤の一軸圧縮強度が顕著に向上することが確認されています。特に海岸地域では、地下水の塩分濃度が微生物活動に与える影響も考慮した設計が重要です。
🫧 誘導部分飽和技術(IPS)
Induced Partial Saturation(IPS)は、地盤中に微細な気泡を注入することで飽和度を下げ、液状化を防ぐ最も有望な技術の一つです。従来の対策技術と比較して、建設コストが低く、周辺インフラへの影響や環境への負荷が少ないという利点があります。
この技術の機械的原理は、間隙水圧の上昇を気泡の圧縮により吸収することで、有効応力の減少を防ぐことです。気泡の注入により地盤の体積圧縮性が増加し、地震時の繰り返しせん断に対する抵抗性が向上します。

 

🌱 繊維補強土による液状化軽減
ファイバー補強土技術は、地盤中に繊維材料を混合することで、液状化時の地盤変形を制御する手法です。この技術は予防的アプローチとしてリスク管理に有効で、大規模な地盤変形や側方流動を防ぐことができます。
繊維材料の種類と配合比率を最適化することで、地震時の土の挙動を改善し、構造物への被害を軽減します。特に、液状化による側方変位の抑制効果が高く評価されています。

 

🪵 木材を活用した環境配慮型対策
ログパイル工法は、木材杭を用いた持続可能で費用対効果の高い液状化対策として注目されています。日本では土層全体への貫入を目指すのが一般的ですが、経済性を考慮した浅層改良でも、地盤-改良-構造物システムの地震時挙動を大幅に改善できることが実証されています。
この工法は環境に優しく、材料調達の持続可能性も高い特徴があります。特に、完全な土層貫入が経済的に困難な深い改良が必要な場合でも、浅層改良により液状化による沈下量の低減効果が期待できます。

 

これらの革新的技術は、従来工法の課題である高い建設コスト、周辺インフラへの影響、環境負荷を解決する可能性を持っており、今後の液状化対策の主流となることが予想されます。

 

河川堤防の液状化対策における最新の手引きでは、これらの新技術の適用指針も更新されており、実務への展開が加速しています。
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