

カップを上にしたまま逆さ吹きすると、塗料が約30秒でノズル詰まりを起こします。
重力式スプレーガンは、本体上部に塗料カップを取り付け、重力によって塗料をノズルへ自然落下させる仕組みのスプレーガンです。カップ容量は一般的に400〜600mlが多く、建築塗装の現場では中〜小面積の仕上げ塗りや部分補修に広く使われています。
吸い上げ式(サイフォン式)と比べると、塗料の供給が安定しており、少量の塗料でも最後まで使い切りやすいという特長があります。吸い上げ式は塗料が底部にあるカップから空気圧で引き上げられるため、残量が少なくなると霧化が不安定になりがちです。重力式はその点で安定性が高く、特に仕上げ塗りや色替えが多い作業に向いています。
構造上の特徴として、カップが上部にあるため取り回しに制限がある点は理解しておく必要があります。天井面や壁の上部など、ガンを傾ける角度が大きくなる場面では塗料の流れが乱れることがあります。これが注意点です。
ノズルは口径によって用途が分かれており、一般的には以下の目安が使われています。
口径の選択を間違えると、塗料が霧化しきれずに「ブツ」と呼ばれる粒が残ったり、逆に薄すぎて垂れが生じたりします。ノズル口径の選択が基本です。
建築現場でよく使われるメーカーとしては、明治機械製作所(Meiji)、アネスト岩田、デビルビス(DeVilbiss)などがあり、それぞれプロ向けモデルから汎用モデルまで幅広くラインナップされています。
塗料の希釈率はスプレーガン使いにとって最も重要な設定の一つです。希釈率が適正でないと、どれだけガンの操作が上手くても仕上がりは安定しません。結論は希釈率の管理が全てです。
一般的な水性塗料の希釈率は10〜20%が目安ですが、溶剤系塗料では5〜15%程度が多く、塗料メーカーの技術資料に従うことが最優先です。現場では「ザン流し」と呼ばれるフォードカップ(Ford Cup)による粘度測定が使われており、フォードカップ#4で20〜30秒が標準的な吐出粘度の目安とされています。この測定なしに目分量で希釈するのはリスクがあります。
吐出量の調整はガン後部のニードル調整ノブで行います。ノブを時計回りに締めると吐出量が減り、反時計回りに緩めると増えます。一般的な外壁塗装では中程度の開度(ノブを2〜3回転緩めた状態)から試し吹きをして調整するのが実践的な方法です。
エア圧は0.2〜0.4MPa(メガパスカル)の範囲で使用するケースが多く、エア圧が高すぎると塗料が飛び散ってロスが増え、低すぎると霧化が粗くなります。コンプレッサーの出力に余裕がない現場では、この調整が特にシビアになります。
試し吹きは必ず廃材や段ボールで行い、霧の形状(スプレーパターン)が縦長の楕円形に均一に広がっているかを確認します。パターンが「8の字」になっていたり片側が濃くなっている場合は、エア圧か吐出量の再調整が必要です。これは使えそうです。
スプレーガン操作で最も習得に時間がかかるのが、距離・角度・移動速度の3要素を同時に一定に保つことです。この3点セットが基本です。
ガンと塗装面の距離は15〜25cmが基本とされています。15cmよりも近づくと塗料が厚くなりすぎて垂れやすくなり、25cmを超えると霧が塗装面に届く前に乾燥が始まり、ブツや肌荒れの原因になります。距離感は最初のうちは定規で確認しながら慣れていくと感覚が身につきます。
角度は塗装面に対して常に直角(90°)を維持することが鉄則です。ガンを弧を描くように動かすと、中央は近く端は遠くなるため、一枚の塗膜の中で膜厚が不均一になります。ガンは手首ではなく腕全体を平行移動させる動作を意識してください。
移動速度は毎秒25〜35cm程度が目安です。これはA4用紙(縦297mm)の長さを約1秒で通過するスピードをイメージすると分かりやすいでしょう。速すぎると膜厚が薄くなりすぎ、遅すぎると垂れます。
ストロークのオーバーラップは50%が基本です。つまり、1本前のスプレーパターンの幅の半分に次のストロークを重ねることで、均一な膜厚を実現できます。このオーバーラップを忘れると縞模様になります。厳しいところですね。
ガンの引き金(トリガー)は、ストロークの開始前に引き、ストロークが終わった後に放すのが正しい操作です。塗装面の上でトリガーを引き始めると、動き出しの部分だけ厚く塗料がたまる「端ダマ」が発生します。
スプレーガンのトラブルの大多数は洗浄不足から発生します。特に溶剤系塗料を使用した場合、使用後に洗浄せずに放置すると数時間でノズル内部に塗料が固着し、分解清掃が必要な状態になります。洗浄は当日中が原則です。
洗浄の手順は以下の流れが基本です。
特に注意が必要なのはノズルの清掃です。金属製のワイヤーブラシや針でノズル穴を直接こするのは厳禁で、穴が広がって霧化性能が低下します。柔らかい真鍮製ブラシか、溶剤への浸け置きで塗料を溶かして除去するのが正しい方法です。
定期メンテナンスとして、週1回以上の使用頻度であればパッキン類(ニードルパッキン・カップジョイントのOリング)の状態確認を月1回程度実施することが推奨されます。パッキンが劣化するとエア漏れや液漏れが発生し、安定した塗装品質が維持できなくなります。
パッキンの交換は部品代500〜2,000円程度で対応できますが、放置してニードルやボディへのダメージに発展すると修理費が1万〜3万円を超えることもあります。早めの対処が条件です。
洗浄に使うガン洗浄機(ガンウォッシャー)を導入している現場では、洗浄時間が手洗いの約1/3に短縮されるというデータもあり、複数本のガンを管理する職人には費用対効果の高いアイテムです。
愛知県産業技術研究所:スプレーガンの適正管理と塗装品質に関する技術資料(外部リンク)
実際の建築塗装現場では、教科書通りにセッティングしても様々なトラブルが発生します。原因を素早く特定して対処できるかどうかが、プロとそうでない人の分かれ目です。
最もよく発生するトラブルとその原因を整理すると、次のようになります。
「ゆず肌」になったときに多くの職人が最初にやりがちな対処は「塗料を薄める」ことですが、実際にはエア圧の見直しや距離の調整が先です。いきなり希釈率を変えると、今度は垂れやすくなるという別のトラブルを引き起こすことがあります。これが実は意外な落とし穴です。
白化トラブルは湿度が70%を超えた日に溶剤系塗料を吹き付けると発生しやすく、特に梅雨時期の現場では注意が必要です。対策としてはリターダー(乾燥遅延剤)の添加や、作業時間帯の見直し(湿度が比較的低い午前中に塗装作業を集中させる等)が有効です。
塗料の濾過を省いたことでブツが多発し、手直し作業に半日以上かかるケースは現場でよく耳にします。塗料は必ず100〜200メッシュのストレーナー(濾し網)でカップに入れる前に濾過することが大切で、この1手間が仕上がりの品質を大きく左右します。100〜200メッシュのストレーナーは1枚数十円と安価なので、使い捨て感覚で活用するのが現実的です。これは使えそうです。
現場での応急処置として、ノズルの部分詰まりによるパターン偏りが起きた場合は、まずノズルキャップを外して溶剤に5〜10分浸け置きするだけで解消するケースが多いです。分解の前にまずこの方法を試すと時間のロスを減らせます。
明治機械製作所:スプレーガンの技術情報・塗装トラブルシューティングページ(外部リンク)