

住宅用火災警報器の設置は、消防法第9条の2により全住宅に義務付けられており、市町村の火災予防条例によって具体的な設置基準が定められています。新築住宅は平成18年6月1日から、既存住宅は平成23年(2011年)までに設置が義務化されました。不動産従事者として顧客へ正確な情報を提供するため、設置基準の詳細を理解しておく必要があります。
参考)https://www.tfd.metro.tokyo.lg.jp/lfe/kasai/jyuukeiki/p1_3.html
就寝に使用する部屋すべてに住宅用火災警報器の設置が義務付けられています。これは、住宅火災による死者の約6割が逃げ遅れによるものであり、特に就寝時間帯の死者数が起きている時間帯よりも多いという統計データに基づいています。子供部屋や老人の居室であっても、就寝に使われている場合は設置対象となります。ただし、来客用の寝室は対象外です。
参考)https://nakajitsu.com/column/52150p/
寝室への設置が最優先となる理由は、火災発生時に五感による察知が困難な就寝中の状態において、早期発見が生死を分けるためです。実際の奏功事例として、2階で就寝中の居住者が階段の警報器の鳴動に気づき避難できたケースや、寝たばこで布団が発煙した際に警報音で目覚めて大事に至らなかった事例が報告されています。
参考)https://www.city.chiba.jp/shobo/yobo/yobo/torikaeru.html
寝室がある階の階段上部への設置が義務付けられています。これは階段室が火災による煙の集まりやすい場所であるとともに、2階以上で就寝している方にとってほとんど唯一の避難経路となるためです。ただし、1階など屋外に直接避難できる出口がある階の階段は設置不要です。
参考)https://www.cdedirect.co.jp/media/c4-safety/c41-alarm/1704/
3階建て住宅の場合、設置基準はより複雑になります。1階のみに寝室がある建物では3階の階段にも設置が必要で、逆に3階に寝室がある建物では1階の階段にも設置が求められます。さらに、7平方メートル(四畳半)以上の居室が5以上ある階には、廊下または階段への設置義務が発生します。この基準は、広い廊下で有毒ガスが充満するリスクに対応するためのものです。
参考)https://www.city.imabari.ehime.jp/shoubou/keihouki/4.html
住宅用火災警報器には煙式(光電式)と熱式(定温式)の2種類があり、設置場所によって使い分けが必要です。消防法令で寝室や階段に設置が義務付けられているのは煙式であり、これは火災の初期段階から発生する煙を検出できるため、早期発見に優れています。
参考)https://www.secom.co.jp/jukeiki/select.html
台所については市町村条例により義務または推奨が異なりますが、煙式または熱式の選択が可能です。東京都では全居室に煙式の設置が義務付けられていますが、台所で魚を焼く際など火災以外の煙を感知して警報が出る場合は熱式の使用が認められています。煙式の方が熱式よりも火災を早く感知できるため、東京消防庁では台所にも煙式の設置を推奨しています。
参考)https://www.fire-city.kurume.fukuoka.jp/kasaiyobou/jyumin/keihouki/entry-200.html
煙式の中にも光電式とイオン化式がありますが、イオン化式は放射線源を用いており、7平方メートル以上の居室が5以上ある階の廊下部分にしか設置できず、廃棄時に特別な処理が必要です。そのため一般的には光電式の煙式警報器が推奨されます。
東京消防庁の公式サイトでは、住宅用火災警報器の設置場所と種類の詳細な説明が掲載されています
住宅用火災警報器の取付位置は、煙や熱をすばやくキャッチできる場所として、天井または壁面に設置することが基本です。天井に取り付ける場合、壁または梁から60センチメートル以上(熱式の場合は40センチメートル以上)離れた天井の中央付近に取り付けます。これは、壁や梁の近くでは空気の対流が妨げられ、煙や熱の感知が遅れる可能性があるためです。
参考)https://www.nohmi.co.jp/jukeiki01/user/installation/position.html
壁面に取り付ける場合は、天井から15センチメートル以上50センチメートル以内の位置に警報器の中心がくるように設置します。さらに、エアコンの吹き出し口や換気口などの空気吹出口から1.5メートル以上離れた位置に設置する必要があります。これは、空気の流れによって煙が警報器に到達しにくくなることを防ぐためです。
参考)https://www.kaho.or.jp/pages/keiho2/page-keiho2-03-05.html
ダイニングキッチン(DK、LDK)などで台所と居室の仕切りがない場合、10平方メートル以下の台所であれば台所部分への設置を省略できますが、この場合は居室の警報器を台所に近い位置に取り付ける必要があります。30平方メートル以上の台所の壁に取り付ける場合は、煙式の住宅用火災警報器が必須です。
取り付けてはいけない場所として、屋外、ホコリが立ちやすい場所、油煙が直接かかる場所、結露しやすい場所が挙げられており、0℃から40℃の温度範囲内で結露しない場所に取り付ける必要があります。
能美防災株式会社の公式サイトでは、取付位置の図解付き詳細説明が提供されています
住宅用火災警報器は設置から10年を目安に本体ごと交換することが推奨されています。これは、電子部品の劣化や電池切れなどで火災を感知しなくなる可能性があるためです。アメリカの調査では、設置後8から10年経過した警報器のうち正常に動作したのは1/3のみで、1/3は動作せず、残り1/3は取り外されていたという驚くべき結果が報告されています。不作動原因の47%が電池切れ、18%が電池外れ、35%が物理的故障でした。
参考)https://www.secom.co.jp/jukeiki/limit.html
定期的な点検として、最低でも年に2回の動作確認と年に1回の清掃が推奨されています。点検方法は機種によって異なりますが、点検ボタンを押すか点検ひもを引っぱることで、「ピーピーピー 火事です」などのメッセージまたは火災警報が鳴ります。音がならなかった場合は電池切れや故障が考えられるため、電池や機器本体の交換が必要です。
参考)https://www.pref.fukui.lg.jp/doc/012643/syoubou/juukeiki-ijikanri.html
清掃については、ホコリやクモの巣などの異物が感知部および周辺に付着している場合、掃除機で取り除く必要があります。異物が付着したまま使用すると火災の感知が遅くなったり感知できない場合があるほか、誤作動の原因にもなります。不動産取引の際には、設置年月を確認し、10年を超えている場合は交換を提案することで、顧客の安全と満足度向上につながります。
参考)https://www.nohmi.co.jp/jukeiki01/user/maintenance/explanation/check.html
住宅用火災警報器の設置を怠った場合でも、罰則は設けられていません。これは、「住宅」という居住者の自己責任による管理が前提となっているためです。ただし、新築住宅を建設する際には、建築確認申請の時点から住宅用火災警報器の設置が義務づけられており、事業者(不動産会社など)が設置内容を記載する必要があります。
参考)https://iqrafudosan.com/channel/fire-alarm
既存住宅については設置の届出は不要ですが、全国の設置率は2023年6月時点で84.3%にとどまり、義務付けられた全箇所に設置している世帯は67.2%に過ぎません。罰則がないことが未設置の一因となっているため、不動産売買の際には自治体の条例通りの箇所に設置されているかどうかの確認が重要です。
自動火災報知設備が延べ床面積500平方メートル以上の共同住宅で原則設置義務となっているため、ほとんどのマンションでは新たに住宅用火災警報器を設置する必要はありません。ただし、共用部分の廊下のみに設置されている場合や、高層階などの一部の住宅のみに設置されている場合は、自動火災報知設備等が設置されていない住宅部分に住宅用火災警報器の設置が必要です。
住宅用火災警報器が設置されている場合、設置されていない場合と比べて死者数と損害額が半減し、焼損床面積は約6割減少するという効果が消防庁の分析で明らかになっています。アメリカでは住宅用火災警報器の普及率が90%を超えた結果、火災による死者数がピーク時から半減しました。罰則の有無にかかわらず、不動産従事者として顧客の生命と財産を守るため、適切な設置と維持管理を推奨する姿勢が求められます。
総務省消防庁の住宅用火災警報器Q&Aページでは、設置基準や効果についての公式情報が詳しく掲載されています