自動火災報知設備配線基準を徹底解説|工事方法と電線種類

自動火災報知設備配線基準を徹底解説|工事方法と電線種類

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自動火災報知設備配線基準

配線工事の重要ポイント
🔌
送り配線の原則

感知器は一筆書きで接続し、断線検出を可能にする

電線種別の選定

P型はAEケーブル、R型はHPケーブルと使い分けが必須

🔧
専用回路の確保

受信機電源はAC100V専用ブレーカーから供給

自動火災報知設備配線の基本構造と電線規格

 

自動火災報知設備の配線には、消防法施行規則により厳格な基準が設けられています。配線に使用する電線は、JIS C 3307に準拠した600Vビニル絶縁電線(IV)やJIS C 3342の600Vビニル絶縁ビニルシースケーブル(VV)が一般的です。導体直径は1.0mm以上、断面積0.75㎟以上が求められます。

 

近年では耐燃性能を持つEM-IE(耐燃性ポリエチレン絶縁電線)やEM-CE(耐燃性架橋ポリエチレンシースケーブル)の採用も増えています。これらは火災時の延焼リスクを低減する重要な役割を担います。屋内配線では隠ぺい配線が原則で、金属管や硬質ビニル管を使用した保護措置が必要です。

 

電線の太さや種類は、感知器から受信機までの距離、接続する機器の電流値によって適切に選定します。配線距離が長い場合には電圧降下を考慮し、より太い電線を選択することで信号の安定性を確保できます。

 

甲南市の自動火災報知設備配線基準(電線種類と太さの詳細基準)

自動火災報知設備配線における送り配線方式の重要性

自動火災報知設備の感知器配線で最も重要な原則が「送り配線」です。これは一筆書きのように感知器を直列に接続する方式で、分岐配線(パラレル配線)は認められていません。送り配線が求められる理由は、断線検出機能にあります。

 

受信機は回路の末端に設置された終端抵抗(通常10kΩ)を常時監視しており、終端抵抗からの信号が途絶えると断線と判断します。もし分岐配線を行うと、一部の配線が断線しても終端抵抗の信号は届くため、断線を検出できません。これは火災発生時に感知器が作動しない重大なリスクとなります。

 

配線方式には2心回しと4心回しがあります。2心回しは白(コモン-)と赤(ライン+)の2本で構成され、新設工事で主に採用されます。4心回しは白・黄・赤・青の4本構成で、既設建物への感知器増設時に施工性が高く、1本のケーブルで行きと戻りの配線が完結します。

 

感知器内部では、プラスとマイナスが接触(短絡)すると火災信号として発報する仕組みです。そのため結線時には、白・赤・白・赤と交互に接続してしまうとプラスマイナスが接触し、常時発報状態になるため注意が必要です。

 

自動火災報知設備の送り配線施工方法(感知器配線の実践的な接続手順)

自動火災報知設備配線におけるP型とR型の違い

自動火災報知設備の配線基準は、受信機のタイプ(P型・R型)によって大きく異なります。P型受信機(Proprietary-type)は、感知器からの信号を警戒区域ごとに共通線で受信する方式です。配線は2本(表示線と共通線)が基本で、どの警戒区域で火災が発生したかを把握できますが、個別の感知器までは特定できません。

 

P型の配線にはAEケーブル(警報用ケーブル)が使用されます。これは耐熱性能を必要としない小勢力回路(使用電圧60V以下)用のケーブルです。P型では配線が断線した場合、その警戒区域の異常として検出され、火災検出と同義とみなされるため、耐熱電線は不要とされています。

 

一方、R型受信機(Record-type)は、各感知器に固有のアドレスを割り当て、デジタル信号で伝送する高度なシステムです。どの感知器が作動したかまで正確に把握でき、ホテルや病院など素早い場所特定が必要な施設に適しています。R型の配線には耐熱性のHPケーブルが必須です。断線すると末端までの全感知器が機能しなくなるため、配線の保護が重要となります。

 

配線本数も異なり、P型は2本が標準ですが、R型は中継器を介したデジタル伝送のため、メーカーによって配線仕様が異なります。大規模建築物ではR型の方が配線数を削減でき、施工コストの面で有利になるケースが多いのです。

 

項目 P型受信機 R型受信機
配線方式 警戒区域ごとに個別配線 デジタル伝送で共通配線
使用電線 AEケーブル(耐熱不要) HPケーブル(耐熱必須)
火災位置 警戒区域単位で表示 感知器個別に特定可能
適用規模 小〜中規模建物向け 大規模・複雑な建物向け
配線本数 2本(表示線・共通線) メーカーにより異なる

P型とR型受信機の詳細比較(配線方式と建物規模による選定基準)

自動火災報知設備配線の電源供給と専用回路基準

自動火災報知設備の受信機へは、AC100Vの専用回路で電源を供給しなければなりません。消防法施行規則では、配電盤または分電盤の階別主開閉器の電源側から分岐し、各極同時に開閉できる開閉器と過電流遮断器(定格遮断電流20A以下)を設置することが義務付けられています。

 

専用回路が求められる理由は、他の機器とのショートによる道連れ故障を防ぐためです。照明やコンセント回路と共有すると、他の機器の故障時に自動火災報知設備も停止してしまう危険があります。分岐点から3m以内にブレーカーを設け、明確に「消防設備専用」と表示することが重要です。

 

既設建物に自動火災報知設備を増設する際、分電盤にブレーカーの空きがない場合があります。その場合はブレーカー増設工事から始める必要があり、電気工事士の資格が必須となります。また、停電時の機能維持のため、受信機には専用バッテリーが内蔵され、通常10分から60分の予備電源容量が確保されています。

 

受信機から各感知器への配線は、DC24Vなどに降圧されて供給されます。この配線は隠ぺい配線を原則とし、VVFケーブルを天井裏や壁内に配線します。受信機設置場所の壁面には配線用の穴を開け、天井裏から落としたチェーンで電線を引き込む工法が一般的です。

 

受信機への電源配線工事の実務手順(専用ブレーカーと隠ぺい配線の施工方法)

自動火災報知設備配線の耐火・耐熱保護基準

消防法施行規則では、自動火災報知設備の非常電源配線について、耐火構造の壁等に埋設するか、これと同等以上の耐熱効果がある方法で保護することを定めています。具体的には、耐火電線の基準(平成9年消防庁告示第10号)に適合する電線の使用が認められています。

 

従来は最大使用電圧600Vの低圧ケーブルが基準でしたが、自動火災報知設備の回路電圧は最大60V程度が主流です。そのため令和3年5月に基準が改正され、最大使用電圧60Vの「小勢力回路用耐火ケーブル」が新たに規格化されました。これにより、実際の使用電圧に適した経済的な配線が可能になっています。

 

P型受信機の感知器配線では、前述の通り断線が火災検出と同義とされるため、一般的なAEケーブルで問題ありません。一方、R型受信機では感知器配線の断線が機能停止につながるため、HPケーブル(耐熱ケーブル)の使用が必須です。受信機本体への電源供給配線は、P型・R型を問わず耐火・耐熱保護が求められます。

 

屋側配線(建物外壁沿いの配線)では、金属管や硬質ビニル管で保護し、支持点間の距離を2m以下にする基準があります。また、自動火災報知設備用ケーブルと電力ケーブルは、0.3m以上(特別高圧では0.6m以上)離隔するか、電磁的遮蔽と耐火性能を有する隔壁を設ける必要があります。

 

小勢力回路用耐火ケーブルの認定基準(令和3年改正の詳細と適用範囲)

自動火災報知設備配線工事における施工資格と点検基準

自動火災報知設備の配線工事は、消防設備士甲種4類の独占業務です。感知器や受信機の設置、配線接続作業は、この資格を持つ者のみが実施できます。加えて、受信機へのAC100V電源引き込み工事には第二種電気工事士以上の資格が必要となります。つまり、自動火災報知設備の一連の工事には、両方の資格を保有する技術者が求められるのです。

 

配線の施工品質は、火災時の確実な作動を左右します。感知器配線では終端抵抗の取り付け忘れが最も多いミスで、これがあると受信機が断線と誤認識します。また、4心配線での色の取り違え、送り配線ではなく分岐配線にしてしまうミス、絶縁不良による誤作動なども頻発するトラブルです。

 

点検では、配線の導通試験、絶縁抵抗測定、電圧測定が実施されます。絶縁測定は一般的に250V~500Vのメガーで行い、感知器を全て外した状態で回路ごとに測定します。導通試験では終端抵抗の10kΩが正しく測定できるか確認します。配線の経年劣化も重要で、感知器本体の更新時期目安が10~15年とされる中、配線も同時期の交換が推奨されます。

 

屋外立体駐車場など過酷な環境では、配線の劣化が早まります。年に数回の非火災報が発生する場合、感知器だけでなく配線の絶縁劣化も疑うべきです。配線専用の表示があり、途中で他の負荷への分岐がないことも点検項目です。

 

自動火災報知設備の配線工事には高度な専門知識と実務経験が要求されます。設計段階での適切な電線選定、施工時の正確な結線、完成後の綿密な試験が、生命と財産を守る設備の信頼性を支えているのです。

 

消防用設備等の配線点検基準(消防庁による点検要領)