

カチオンシーラー材は、下塗り(下地処理)で使う「シーラー」の一種で、下地と上塗りの密着性を上げるために選定されます。特に外壁のモルタルやコンクリート、ALC、サイディングボード、けい酸カルシウム板、石膏ボードなど幅広い素材に適用される製品が流通しており、現場では「適用範囲が広い下塗り」として使われがちです。
一方で“何にでも効く万能接着剤”ではなく、下地状態(粉化・脆弱層・含水)と、上塗りの溶剤強度(強溶剤かどうか)まで含めて成立する材料です。
カチオンの狙いは、下地側が負(マイナス)電荷を帯びやすいという考え方を前提に、正(プラス)側の特性を持たせた下塗りで電気的に引き合うことで密着を稼ぐ、という説明が一般的です。実務では理屈よりも「旧塗膜や無機質下地で密着が欲しい」「吸い込みムラを止めたい」「下地調整後の表面をまとめたい」という目的で使われます。
ただし、カチオン系は材料同士の相性(混合・接触)でトラブルを起こしやすいので、施工者の段取り力が品質に直結します。
参考:製品の基本仕様(適用素材、希釈率、使用量、乾燥時間)を確認する部分
https://www.nipponpaint.co.jp/products/building/159/
カチオンシーラー材は、現場での効き方を大雑把に分けると「浸透型」と「造膜型」という考え方で整理されます。浸透型は下地内部に入り込み、吸い込みを抑えながら表層をまとめる方向に働き、造膜型は表面に膜を作って上塗りの土台を作るイメージです。
ここを曖昧にしたまま選ぶと、「吸い込みは止まったけど密着が弱い」「表面が膜だらけで追従しない」「上塗りが乗る前に下塗りが引っ張られる」など、狙いと結果がズレます。
浸透型で見落とされやすいのは、下地が“脆弱層”を含む場合です。脆弱層(粉化・レイタンス・浮き気味の旧塗膜)が残ったままだと、浸透しているように見えても、実は「弱い層を固めた気になっているだけ」で、最終的には弱い層ごと剥がれる原因になります。したがって浸透型の前提は、ケレンや高圧洗浄で“剥がれるべきものを先に落としておく”ことです。
造膜型で失敗しやすいのは、過剰塗布です。シーラーは上塗りの接着土台ですが、厚く塗るほど良いわけではありません。むしろ塗りムラや溜まりができると、乾燥遅れや上塗りの肌不良(ゆず肌・ムラ)を誘発しやすく、上塗りの性能以前に「下塗りの出来」が外観を壊します。
製品ごとの想定使用量(kg/㎡)を基準に、“吸い込みが強いなら増し塗り(2回に分ける)”という発想で安全側に寄せるのが現場的です。
参考:浸透型の標準施工仕様(所要量0.05~0.2kg/㎡、次工程間隔など)を確認する部分
https://www.aica.co.jp/volume/00014/imag/file0013/t010000001219.pdf
施工は「下地調整 → 下塗り(カチオンシーラー材) → 乾燥 → 上塗り」という順序ですが、カチオンシーラー材は“塗る前の準備”の比重が高い材料です。下地に脆弱層がある場合はサンダーや皮スキ等で除去し、塵・ほこり・汚れは高圧水洗などで除去して乾燥させる、という仕様が明記されている例もあります。
現場では「見た目がきれい」よりも「付着阻害因子が残っていない」が最優先で、チョーキング粉は特に残りやすいので要注意です。
使用量・希釈・乾燥時間はメーカー値が基本線になります。例えば水性カチオンシーラーの例では、はけ・ウールローラーで希釈率0~10%、使用量0.12~0.16kg/㎡/回という設定が示され、塗り重ね乾燥は23℃で4時間以上とされています。寒い時期ほど乾燥は伸び、5~10℃帯では塗り重ね6時間以上という目安も出ています。
「乾いて見える」だけで上塗りを急ぐと、閉じ込められた水分や溶剤が膨れ・しわ・密着不良の呼び水になるので、工程管理(乾燥待ち)を“材料の一部”として扱うべきです。
使用量の考え方で意外に効くのは、㎡当たりkgを“缶当たりの塗布面積”に変換して段取りすることです。例えば使用量0.12kg/㎡で15kg缶なら約125㎡が目安、といった情報が出ていると、現場の塗りすぎ(=膜厚過多)や、逆に塗り足りない(=吸い込み止め不足)を発見しやすくなります。
ローラーの種類(ウールかスポンジか)や、粗面の程度で実消費は変わるため、材料手配は“余裕を見つつ、過剰塗布しない”という二律背反の管理になります。
カチオンシーラー材のトラブルで、施工者が一番ハマりやすいのが「ゲル化」と「上塗り相性」です。カチオン系は他の塗料と混合するとゲル化するため混合は絶対に避ける、さらにハケ・ローラーなど用具の共用も避ける、という注意が複数の製品資料で繰り返し書かれています。
現場で起きるのは、前工程で使った用具に“別塗料が微量残っていた”ケースで、塗り始めてから突然ダマが出たり、粘りが出て伸びなくなり、そのまま塗膜欠陥になります。
上塗り相性は、特に溶剤の強さで事故ります。カチオンシーラーを使うと、上塗りに強溶剤型塗料が使えない(または推奨されない)という注意が一般に見られ、メーカーFAQでも「推奨できない組み合わせ」がある旨が示されています。
現場目線では「同じメーカーの組み合わせ(仕様書)に寄せる」「どうしても跨ぐなら、密着テストを段取りに入れる」の2択が安全です。
失敗パターンは、次のように整理すると再発防止しやすくなります。
✅ よくある失敗
🛠️ 現場で効く対策
参考:塗料の組み合わせで膨れ・しわ等が起こり得る(推奨できない組み合わせがある)という注意の部分
https://www.nipponpaint.co.jp/support/faq/6/
検索上位で「塗り方」「種類」「密着性」の話は多い一方、実務で差がつくのは“塗る前の数値条件を、どこまで守るか”です。例えば製品資料の中には、塗替え仕様として「下地はよく乾燥させ、含水率10%以下、pH10以下」といった条件を明記しているものがあります。
ここを軽視すると、表面は乾いて見えても内部水分が残り、上塗り後に膨れ・密着不良・白華(エフロ)助長など、後から説明しづらい不具合に繋がります。
意外と知られていないのは、「含水率」や「pH」は、現場で“測らないと議論が終わらない”タイプの条件だという点です。雨後・洗浄後・日陰面・北面・寒冷期など、乾燥の読み違いが起きる場面は多く、職人の勘だけで押し切ると工程短縮にはなっても品質が落ちます。
測定器がない現場でも、少なくとも乾燥日数の確保、結露しやすい時間帯の回避、通風確保、同一面内で条件が違う場所(庇下と雨掛かり等)を分けて判断する、といった“観察→仮説→確認”の流れを作ると事故率が下がります。
さらに、カチオンシーラー材は「下地がアルカリだから耐アルカリ性が必要」という単純な話だけでなく、上塗り側の樹脂・溶剤・乾燥機構とも相互作用します。だからこそ、仕様書どおりに“下地条件を整えた上で、規定量を守って、規定時間乾かす”という当たり前が最強の品質管理になります。
最後に、現場での説得材料としては、メーカーが提示している含水率・pH条件、所要量、工程間隔を「朝礼で共有できる紙1枚」に落とし込むと、担当者が変わっても品質が安定します。
参考:含水率10%以下・pH10以下など、下地条件と工程間隔(3時間以上等)の根拠になる部分
https://www.aica.co.jp/volume/00014/imag/file0013/t010000001219.pdf